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春の章
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「悪いねえ」
落胆する真珠がよほど不憫そうに見えたのか、老女が声のトーンを少しだけ和らげた。
「この辺で、人が集まるところとか、若い人がいるところとか……」
せめて少しでも情報を、と尋ねる真珠に、老女が真珠が歩いてきた方向を示してみせる。
「あっちに20分くらい歩くと、村の駅っていうスーパーがあるから、そこに行ってみたらいいよ」
「村の、駅?」
「道の駅みたいなもんさー。皆買い物するときは、あそこに行くもんだから」
「行ってみます! ありがとうございました」
勢いよく深々と頭を下げる真珠に、もう一度老婆が手を振った。先ほどの否定の意を込めた身振りではなく、照れ隠しのようだ。
「なんも、そんな頭下げんでもいいわあ。力になれんで悪いねえ」
「……ありがとうございます」
田舎の老人に対しての認識を修正しつつ、真珠はもう一度改めてお辞儀をしてから頭を上げた。
目の先には、今歩いてきた道がある。徒歩20分ということは、初めから逆方向へ歩くことを選んでいたら今頃はそこへ辿り着いていたのだろう。
けれど、きっと真珠には必要な回り道だった。
言葉が足りなくても、真珠の真摯さはきっと彼女に伝わった。それが真珠にはわかる。
第一村人との出会いは、見事に当たって砕けた。
けれど、砕けて散った破片は陽光を受けてきらきらとしていて、次はきっとうまくいく、次がダメでもその次はきっと、と真珠を励ましてくれていた。
目的地があるだけで、ただ歩くということに対しての意識はがらりと変わる。
この村のメインストリートは、間違いなく今真珠が歩いているセンターラインすらない少々でこぼこした道路で、その道沿いにあるという村の駅は村民の生活を支えていると想像するに難くない。
きっちりと前を見据えて、ランウェイでの時のように姿勢正しく歩く。自然に歩が早まってきて、二十分も掛かることもなくその建物は真珠の前に姿を現した。
陽光をたっぷりと取り入れられる側面がぐるりとガラス張りの建物は、見るからに新しい。
村の駅と聞いて想像したものより遙かに大きく、期待感に胸が弾む。店の周りにはきちんと整えられた花壇があり、駐車場も整備されている。
停まっている車は3台ほどだが、中に人がいるのは間違いない。
入り口のドアを押して中へ入り、真珠は店内を見渡した。スーパーと言うよりは、名前が示している通りに道の駅にイメージが近い。いや、どちらかと言えば農産物直売所か。
置いてあるのは野菜が主らしい。店内には思ったよりも人がおらず、買い物カゴを持った青年がひとり、野菜を吟味しているところだった。
彼を目にした瞬間、真珠の心臓が跳ねた。
青年の印象は、あまりにも鮮烈だ。
少し離れた場所から、顔の全てが見えたわけでもない。やや傾けた顔には長めの前髪がさらりと垂れている。
それなのに、生身の人間と一瞬思えないような彼の造作の良さは、容姿に自信のある幾多の同業者を見てきた真珠ですら驚かされた。
青年が野菜を手にとっている様は、ここが田舎の農産物直売所ではなく海外のマルシェかという錯覚を起こさせる。
色白の手が白いシャツから伸びていて、アーモンド型の目やすっきりとした鼻梁は全てが完璧な配置にある。透明感のあるその美貌は、AIが作った画像を立体にしたかのようにすら見えて、恐ろしくこの場にそぐわなかった。
あまりにそれが絵になりすぎていて、真珠は思わず他にカメラはないかと探した。他番組の収録でたまたま場所が重なっただけで、同業者なのではという疑問が胸を占めている。
「行って、氷坂くん」
興奮気味なディレクターの指示に真珠は我に返った。彼に話しかけなければ。彼が本当にここの住人だという可能性もあるのだから。
落胆する真珠がよほど不憫そうに見えたのか、老女が声のトーンを少しだけ和らげた。
「この辺で、人が集まるところとか、若い人がいるところとか……」
せめて少しでも情報を、と尋ねる真珠に、老女が真珠が歩いてきた方向を示してみせる。
「あっちに20分くらい歩くと、村の駅っていうスーパーがあるから、そこに行ってみたらいいよ」
「村の、駅?」
「道の駅みたいなもんさー。皆買い物するときは、あそこに行くもんだから」
「行ってみます! ありがとうございました」
勢いよく深々と頭を下げる真珠に、もう一度老婆が手を振った。先ほどの否定の意を込めた身振りではなく、照れ隠しのようだ。
「なんも、そんな頭下げんでもいいわあ。力になれんで悪いねえ」
「……ありがとうございます」
田舎の老人に対しての認識を修正しつつ、真珠はもう一度改めてお辞儀をしてから頭を上げた。
目の先には、今歩いてきた道がある。徒歩20分ということは、初めから逆方向へ歩くことを選んでいたら今頃はそこへ辿り着いていたのだろう。
けれど、きっと真珠には必要な回り道だった。
言葉が足りなくても、真珠の真摯さはきっと彼女に伝わった。それが真珠にはわかる。
第一村人との出会いは、見事に当たって砕けた。
けれど、砕けて散った破片は陽光を受けてきらきらとしていて、次はきっとうまくいく、次がダメでもその次はきっと、と真珠を励ましてくれていた。
目的地があるだけで、ただ歩くということに対しての意識はがらりと変わる。
この村のメインストリートは、間違いなく今真珠が歩いているセンターラインすらない少々でこぼこした道路で、その道沿いにあるという村の駅は村民の生活を支えていると想像するに難くない。
きっちりと前を見据えて、ランウェイでの時のように姿勢正しく歩く。自然に歩が早まってきて、二十分も掛かることもなくその建物は真珠の前に姿を現した。
陽光をたっぷりと取り入れられる側面がぐるりとガラス張りの建物は、見るからに新しい。
村の駅と聞いて想像したものより遙かに大きく、期待感に胸が弾む。店の周りにはきちんと整えられた花壇があり、駐車場も整備されている。
停まっている車は3台ほどだが、中に人がいるのは間違いない。
入り口のドアを押して中へ入り、真珠は店内を見渡した。スーパーと言うよりは、名前が示している通りに道の駅にイメージが近い。いや、どちらかと言えば農産物直売所か。
置いてあるのは野菜が主らしい。店内には思ったよりも人がおらず、買い物カゴを持った青年がひとり、野菜を吟味しているところだった。
彼を目にした瞬間、真珠の心臓が跳ねた。
青年の印象は、あまりにも鮮烈だ。
少し離れた場所から、顔の全てが見えたわけでもない。やや傾けた顔には長めの前髪がさらりと垂れている。
それなのに、生身の人間と一瞬思えないような彼の造作の良さは、容姿に自信のある幾多の同業者を見てきた真珠ですら驚かされた。
青年が野菜を手にとっている様は、ここが田舎の農産物直売所ではなく海外のマルシェかという錯覚を起こさせる。
色白の手が白いシャツから伸びていて、アーモンド型の目やすっきりとした鼻梁は全てが完璧な配置にある。透明感のあるその美貌は、AIが作った画像を立体にしたかのようにすら見えて、恐ろしくこの場にそぐわなかった。
あまりにそれが絵になりすぎていて、真珠は思わず他にカメラはないかと探した。他番組の収録でたまたま場所が重なっただけで、同業者なのではという疑問が胸を占めている。
「行って、氷坂くん」
興奮気味なディレクターの指示に真珠は我に返った。彼に話しかけなければ。彼が本当にここの住人だという可能性もあるのだから。
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