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春の章
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歩み寄る真珠に気付いたのか、青年がふと顔を上げた。
互いに目が合ったとはっきりわかった。青年は真珠の姿をその目に捉えて、驚きを隠すことなく目を見開いている。
「え、カメラ? これ本物? 何かの撮影かな?」
若干うろたえ気味の彼の声は、彼が同業者ではないと如実に語っていた。ならば、買い物をしている以上、この近辺に住んでいる可能性は高い。
真珠は青年の前に立つと、彼の目を真っ直ぐ見つめた。やはり目が合っている。彼は真珠を見て驚いた様子だったが、忌避しているような雰囲気はない。
「突然すみません、『一泊、泊めてください』という番組なんですが、この辺に住んでる方ですか?」
「ああ、その番組知ってるよ。こんなところまで来るんだ! それでカメラ……もしかして、今僕映ってる?」
「映ってます。……それで、今晩泊めてもらえるところを探してるんですが、一泊、泊めてもらえないでしょうか」
真珠は単刀直入にずばりと切り込んだ。世間話をして仲を深めてから、などという芸当は真珠にはできない。断られるなら早めに断られた方がいいと、自棄気味な思いも若干ある。
カメラを向けられた青年は真珠の勢いに更に驚いたようだが、すぐににこりと破顔した。
「わ、僕映っちゃってるんだ……びっくりだなあ。ええと、一晩民泊するってアレだよね。オッケー、いいよ」
「俺は氷坂真珠と……は? あんた今、オッケーと言ったか?」
自己紹介を畳みかけようとした真珠は、青年があっさりと宿泊を許した展開についていけずに、つい素で喋ってしまっていた。
「氷坂真珠くん。何度か見たことあるなあ。モデルさんだよね。僕は榊原篤宏。こ
の村の端っこの方に住んでいるしがない小説家さ。古い家で不便を掛けるかもしれないけど、それでもいいなら、どうぞ泊まっていって」
今度は真珠が呆然とする番だった。黙っていたときには水晶の彫刻のように見えた青年は、笑うと予想外に言葉が優しく、柔らかい雰囲気を纏っている。
差し出された手を見て、困惑しながら真珠は彼の手に自分の手を重ねた。
「よ、よろしくお願いします」
ただの握手だ。しかし、真珠の手を握る篤宏の手は厚く、しっかりとしている。安心していいよと、その手から伝わってくる何かがあった。
「よろしく。僕のことは篤宏でいいよ。村の人は皆あっちゃんって呼ぶね。それと、喋りにくそうな堅苦しい言葉はやめて欲しいな。同じ釜の飯を食べるんだしね」
いつもなら、うっとうしいと思うかもしれない。しかし篤宏の言葉には押しつけがましさはなく、初対面だというのに話しづらさもない。
救世主がいた、と真珠は思った。
冗談ではなく、篤宏が光り輝いて見えた。
互いに目が合ったとはっきりわかった。青年は真珠の姿をその目に捉えて、驚きを隠すことなく目を見開いている。
「え、カメラ? これ本物? 何かの撮影かな?」
若干うろたえ気味の彼の声は、彼が同業者ではないと如実に語っていた。ならば、買い物をしている以上、この近辺に住んでいる可能性は高い。
真珠は青年の前に立つと、彼の目を真っ直ぐ見つめた。やはり目が合っている。彼は真珠を見て驚いた様子だったが、忌避しているような雰囲気はない。
「突然すみません、『一泊、泊めてください』という番組なんですが、この辺に住んでる方ですか?」
「ああ、その番組知ってるよ。こんなところまで来るんだ! それでカメラ……もしかして、今僕映ってる?」
「映ってます。……それで、今晩泊めてもらえるところを探してるんですが、一泊、泊めてもらえないでしょうか」
真珠は単刀直入にずばりと切り込んだ。世間話をして仲を深めてから、などという芸当は真珠にはできない。断られるなら早めに断られた方がいいと、自棄気味な思いも若干ある。
カメラを向けられた青年は真珠の勢いに更に驚いたようだが、すぐににこりと破顔した。
「わ、僕映っちゃってるんだ……びっくりだなあ。ええと、一晩民泊するってアレだよね。オッケー、いいよ」
「俺は氷坂真珠と……は? あんた今、オッケーと言ったか?」
自己紹介を畳みかけようとした真珠は、青年があっさりと宿泊を許した展開についていけずに、つい素で喋ってしまっていた。
「氷坂真珠くん。何度か見たことあるなあ。モデルさんだよね。僕は榊原篤宏。こ
の村の端っこの方に住んでいるしがない小説家さ。古い家で不便を掛けるかもしれないけど、それでもいいなら、どうぞ泊まっていって」
今度は真珠が呆然とする番だった。黙っていたときには水晶の彫刻のように見えた青年は、笑うと予想外に言葉が優しく、柔らかい雰囲気を纏っている。
差し出された手を見て、困惑しながら真珠は彼の手に自分の手を重ねた。
「よ、よろしくお願いします」
ただの握手だ。しかし、真珠の手を握る篤宏の手は厚く、しっかりとしている。安心していいよと、その手から伝わってくる何かがあった。
「よろしく。僕のことは篤宏でいいよ。村の人は皆あっちゃんって呼ぶね。それと、喋りにくそうな堅苦しい言葉はやめて欲しいな。同じ釜の飯を食べるんだしね」
いつもなら、うっとうしいと思うかもしれない。しかし篤宏の言葉には押しつけがましさはなく、初対面だというのに話しづらさもない。
救世主がいた、と真珠は思った。
冗談ではなく、篤宏が光り輝いて見えた。
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