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春の章
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「あっ、ちょっと待ってて」
急に篤宏が自転車を停めた。何事かと真珠が訝しんでいると、買い物袋の中から小さなカッターを持ち出して、篤宏は道路脇の草むらに入り込んでいく。
「見ててもいいか?」
「どうぞ」
真珠に続いてカメラマンも草むらに踏み込んできた。篤宏は腰を屈めて、地面からほんの少し上の場所で、掴んだ茎をカッターですぱりと切り取った。大きな葉がついたそれを真珠に見せて、悪戯っぽい表情を浮かべてみせる。
「これ、なーんだ」
緑色の茎の切り口は瑞々しく、大きな葉は尖ったところのないハート型のようだ。
根元から2センチほどを残して斜めに切り取られた茎は、さすがに真珠にも見覚えがあった。
「……蕗、だな」
「正解」
そのまま蕗を真珠に手渡すと、篤宏は辺りに生えている蕗を更に何本か刈り取っていく。
最後に葉を落としてそれを別の袋に入れると、いかにも柔らかそうな蕗がカゴの一番上に乗った。
「まだ結構柔らかいんだけど、さすがにカッターがないと切れないんだよねえ。皮が固いから」
「えっ、まさか、このためにカッターを持ち歩いてるのか!?」
「そうだよ。……ああ、この辺の人は蕗をお店で買ったりしないから。こうして、そこら辺に生えてるのが食べ頃だなーと思ったら勝手に採るんだ」
「はぁ……」
色々驚いてきたのに、まだ驚かされるとは。とうとう適当な言葉すら出てこなくなってしまった。半端に開いた口で固まっていると、篤宏のすらりとした手が伸びてきて、頬をつつく。
我に返って口を閉じる真珠は、カメラに今のやりとりがしっかりと映っていたのを自覚し、かっと頬を赤くした。
「格好いいのが台無しだよ。そんなに驚いた?」
「……驚いた。想像もつかなかった。俺のしてきた生活と違いすぎる」
「ははは、そうかもね。僕はまあ……想像したこともなかった、って程じゃなかった。予想通り大変なことは大変で、噂には聞いていたけど本当だった、ってことが多かったかな」
「あんたは多分、俺より遥かに物知りだろうしな」
「同い年ならそこは比較対象になるかもしれないけど、僕は君より大分年上だからね」
「確かに」
頭を撫でようとする篤宏の手を払いつつ、しかめっ面になった真珠を見て篤宏が堪えきれずに噴き出す。
カメラが回っているのに、篤宏はそれを気にする様子がなかった。どっちが芸能人か、これでは全くわからない。
篤宏の歳は聞いていないが、一回りは離れていないように見える。
果たしてあと10年経ったときに、知識の面だけでも篤宏のようになれるかと自問した。
興味の方向性が違うせいもあるのかもしれないが、真珠には篤宏のように知識を蓄えた将来の自分が想像できない。人当たりに関しては全く無理だとはっきり言えるが、彼のようにそれまでと違う環境に順応できるようにもとても思えなかった。
目の前にいる篤宏は、あまり他人に興味を抱かない真珠にとって、珍しく興味深く思える人物だった。
急に篤宏が自転車を停めた。何事かと真珠が訝しんでいると、買い物袋の中から小さなカッターを持ち出して、篤宏は道路脇の草むらに入り込んでいく。
「見ててもいいか?」
「どうぞ」
真珠に続いてカメラマンも草むらに踏み込んできた。篤宏は腰を屈めて、地面からほんの少し上の場所で、掴んだ茎をカッターですぱりと切り取った。大きな葉がついたそれを真珠に見せて、悪戯っぽい表情を浮かべてみせる。
「これ、なーんだ」
緑色の茎の切り口は瑞々しく、大きな葉は尖ったところのないハート型のようだ。
根元から2センチほどを残して斜めに切り取られた茎は、さすがに真珠にも見覚えがあった。
「……蕗、だな」
「正解」
そのまま蕗を真珠に手渡すと、篤宏は辺りに生えている蕗を更に何本か刈り取っていく。
最後に葉を落としてそれを別の袋に入れると、いかにも柔らかそうな蕗がカゴの一番上に乗った。
「まだ結構柔らかいんだけど、さすがにカッターがないと切れないんだよねえ。皮が固いから」
「えっ、まさか、このためにカッターを持ち歩いてるのか!?」
「そうだよ。……ああ、この辺の人は蕗をお店で買ったりしないから。こうして、そこら辺に生えてるのが食べ頃だなーと思ったら勝手に採るんだ」
「はぁ……」
色々驚いてきたのに、まだ驚かされるとは。とうとう適当な言葉すら出てこなくなってしまった。半端に開いた口で固まっていると、篤宏のすらりとした手が伸びてきて、頬をつつく。
我に返って口を閉じる真珠は、カメラに今のやりとりがしっかりと映っていたのを自覚し、かっと頬を赤くした。
「格好いいのが台無しだよ。そんなに驚いた?」
「……驚いた。想像もつかなかった。俺のしてきた生活と違いすぎる」
「ははは、そうかもね。僕はまあ……想像したこともなかった、って程じゃなかった。予想通り大変なことは大変で、噂には聞いていたけど本当だった、ってことが多かったかな」
「あんたは多分、俺より遥かに物知りだろうしな」
「同い年ならそこは比較対象になるかもしれないけど、僕は君より大分年上だからね」
「確かに」
頭を撫でようとする篤宏の手を払いつつ、しかめっ面になった真珠を見て篤宏が堪えきれずに噴き出す。
カメラが回っているのに、篤宏はそれを気にする様子がなかった。どっちが芸能人か、これでは全くわからない。
篤宏の歳は聞いていないが、一回りは離れていないように見える。
果たしてあと10年経ったときに、知識の面だけでも篤宏のようになれるかと自問した。
興味の方向性が違うせいもあるのかもしれないが、真珠には篤宏のように知識を蓄えた将来の自分が想像できない。人当たりに関しては全く無理だとはっきり言えるが、彼のようにそれまでと違う環境に順応できるようにもとても思えなかった。
目の前にいる篤宏は、あまり他人に興味を抱かない真珠にとって、珍しく興味深く思える人物だった。
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