【完結】一泊、泊めてください

加藤伊織

文字の大きさ
13 / 51
春の章

13

しおりを挟む
 ぱっと見ただけでは部屋数まではわからないが、明らかにかつては一家族が住んでいたのだろうという大きさだし、あり得ないほど広い庭もある。その庭の大部分は畑になっていて、それを世話するのにどのくらいの手間が掛かるのかも真珠にはわからなかった。

「……凄い。古いけど立派な家だな」
「僕ひとりにはもったいないくらい大きい家だろう?」

 真珠が率直に家を褒めると、篤宏の表情はぱっと明るくなった。しかし、そわそわと家の周りを見渡しながら呟いた真珠の一言に、さすがの篤宏も驚かされたようだ。

「まさか、あんたが言ってた古くて不便を掛けるって、ガスも電気も通ってないとか、キッチンが竈とか……」
「さすがにそれはないよ! ガスと電気の通ってない家の光熱費ってなんだい? プロパンだけどちゃんとガス使ってるし、ほら、そこの電信柱から電線入ってるだろう? 部分的にはリフォームも入ってるからね。全部が全部100年前のものじゃないから」

 実態を知らないが故の真珠の飛んだ発想によほど驚いたのか、篤宏は慌てた様子で言い募る。
 真珠が少しきょとんとした顔で振り返ると、お互いの驚いた顔が見合わせられた。
一瞬の空白の後に、ふたりは揃って笑い出していた。

 引き戸の玄関が重い音を立てて開き、背の高い篤宏は少し頭を傾けてそこをくぐる。招き入れられた玄関は土間になっていて、その先には艶のある深い色をした板間が続いていた。

 もしかしたら建てられた当初はそこも土間で、竃があったのかもしれない。今はそこは少し古いながらもガスコンロが据え付けられた、小綺麗なキッチンだった。

「お邪魔します」
「どうぞ。荷物はそっちに置いて。買ってきたものを片付けちゃうから、ちょっと休んでて」

 襖が開け放されて部屋同士が続いている家の中は、外から見るよりも遙かに広々として見えた。ダークカラーで統一された家具や家電は柔らかな色の壁や畳と対照的で、アクセントになっている。
 広いせいで物は少なく見えてすっきりしていた。

「凄い柱だ」

 居間にある柱は建築に詳しくない真珠でも、一目でこれが大黒柱という物だとわかるほどだ。他の見えている柱よりも格段に太く、木目が美しかった。

「この大黒柱は五寸柱なんだ。他の柱は四寸。僕もここで初めて見たくらい立派だよ。柱も太いけど、この家は梁も太くて頑丈にできてるんだって。人が住まなくなると家は駄目になってしまう物だけど、古くても骨組みがきちんとしていたから、この家は他の空き家ほど傷んでなかったみたいだ。それでも板間なんかは酷くざらざらだったけどね」
「本当に広いな。何部屋くらいあるんだ?」
「和室が4部屋と、お風呂とトイレとキッチンだね。一番奥の部屋はちょっと離れてるから、書斎にしてるんだ。格好いいだろう?」
「ああ、格好いいな」

 書斎が格好いいという感覚は真珠にはあまり無いので、適当な相槌を打った。篤宏はすぐそれに気付いたらしく、冷蔵庫を閉めると呆れた声を投げかけてくる。

「あれっ、その真珠くんの言い方は、別になんとも思ってないね?」
「さっきから気になっていたんだが、俺も呼び捨てでいい」
「うーん、呼び捨てってされるのはいいけど、するのは苦手なんだよね。そうだなあ……じゃあ、ちょっと寄って、シロくん」

 思いもよらない篤宏の呼び方に、真珠は思いっきり顔をしかめてみせた。シロくんとはまた、まるで犬か猫のような呼ばれ方ではないか。

「そんな呼び方をされたことはない」

 不本意だと言外に含めて篤宏に強い視線を送ると、牛乳瓶を持った青年は何故かとても嬉しそうに満面の笑顔を向けてきた。

「そうなんだ! じゃあ僕が初めてだね!」
「なんだそれは。そんなことで喜ぶのか、あんたは」
「ああ、嬉しいね。さて、シロくん、少し手伝ってもらおうかな」

 うきうきと腕まくりをする篤宏は楽しげで、真珠が抗議しても全く聞き入れてくれそうにはない。
 真珠は諦めてひとつため息を吐くと、立ちあがって篤宏の立つキッチンへと向かった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

幼き改革者、皇孫降臨 〜三歳にして朝廷を震わせる〜

由香
キャラ文芸
瑞栄王朝の皇孫・凌曜は、わずか三歳。 泣かず、騒がず、ただ静かに周囲を見つめる幼子だった。 しかしその「無邪気な疑問」は、後宮の不正を暴き、腐敗した朝廷を揺るがしていく。 皇帝である祖父の絶対的な溺愛と後ろ盾のもと、血を流すことなく失脚者を生み、国の歪みを正していく凌曜。 やがて反改革派の最後の抵抗を越え、彼は“決める者”ではなく、“問い続ける存在”として朝廷に立つ。 これは、剣も権謀も持たぬ幼き改革者が、「なぜ?」という一言で国を変えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...