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春の章
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自分はプロだ、という意識を持って仕事をしてきたのは確かだが、何をもってしてプロと呼ぶのかと言われると、自分が目指しているところは何かを深く考えざるを得なかった。
少しの間、真剣な顔で自分の内側を探り続けていた真珠は、ひとつの答えを見つけて慎重に言葉を紡いだ。
「プロ……プロは、自分に任された仕事を全うするってことじゃないかと俺は思う」
「なるほど、確かにそうだね。君にとってはプロってそういうことなのか。……僕にとってのプロっていうのはね、その仕事で食べていってるかどうかってことなんだ。例えば、インディーズでどんなに有名なバンドでも、アルバイトとか他に生計を立てる術を持っていたら、それはプロじゃない。メジャーデビューしてるかどうかじゃなくてね。古い言い方をするなら、ペンと原稿用紙だけで食べていける稼ぎをだしてこそ、プロの小説家ってことかな」
篤宏の言葉は、彼がここに住んでいるということと繋がっていた。先ほどの言葉が腑に落ちて、真珠は篤宏の言葉の続きを待つ。
箸を茶碗の上に置いた篤宏は、真珠の眼差しで言わんとしていることが伝わったのだとわかったのだろう。少し表情を緩めると、再びゆっくりと話し始めた。
「僕の考え方は古いかもしれない。でもやっぱり、技術的なものとかどれだけ本が売れたかと言うこととは別に、精神的なものでね。僕は作家として稼ぎ出したお金だけでどうしてもやっていきたかった。親は僕が作家として一本でやっていくことは反対して、仕事をしながら執筆を続けろと勧めてきた。それももちろんやろうと思えばできたよ。僕の勤めていた会社では、業務に支障のない範囲なら副業は認められていたから。
だけど、出版社の主催してる新人賞を受賞して、受賞作の出版が決まったとき、僕は会社を辞めた。この道で生きていくと決めたから、自分で退路は断った。賞金と印税と、会社員の時に貯めたお金だけで生活していたけど、収入は少なかったからそれはどんどん減っていくばかりでね。家賃だけで1年に100万近く消えるのが馬鹿らしくて、とにかく出て行くお金を減らさないといけないと思った。
僕もどこか頭の中で、色々な物が溢れていて、打ち合わせなんかもしやすい東京に住み続けるべき、っていうような変なプライドがあった。でも、プロであり続けたいというプライドの方が勝ったんだ。実家からは勘当同然になったけど、それは後悔してない。
でも、ひとつだけ、後悔してることがある」
篤宏は一度言葉を切った。室内にいるスタッフに向けて、微妙な表情で尋ねる。
「僕は、格好いいかな? 外見の話だけど」
「格好いいです。凄く」
即答したディレクターにありがとうと言った篤宏は、どこか寂しげだ。
「変な自慢に聞こえたらごめん。僕は外見だけは昔からいつも褒められててね。受賞作が出版された時、何件かインタビューしたいって申し出があった。僕はその時、正直言って浮かれていたんだ。新人賞を取って、作家として注目を浴びる。それはまさに僕の夢見ていたものだったから」。
夢見ていたといいながら、篤宏は自嘲的な笑みを浮かべていた。
「だけど、最初に取材に来たのは女性誌で、インタビューのためにやってきたライターも僕の本を読んでいるようなそぶりは全然なかった。聞かれたのは趣味や、学生時代していたスポーツのことや、スタイルを維持するために何をしているか。あとは恋愛観とかね。凄く嫌な予感がしたよ。
印刷前に送られてきたゲラを見て、僕は頭を殴られたようにショックを受けた。今でも覚えてるんだ。有名新人賞でデビューした注目のイケメン作家に直撃! ってね。中身は僕が危惧した通りに、僕の作家としての面は全然取り上げられていなくて、まるで芸能人にしているようなインタビューが続いていて……。僕は、この記事の掲載をやめて欲しいと頼んだけども、もう間に合わないと言われてそれは通らなかった。僕を侮辱しているような言葉があるわけでもなかったから、さすがにそのために出版差し止めを願うこともできなかったよ。
外見にばかり注目されて、作家としての僕を見てもらえない。それは僕を打ちのめした。
だから、それ以降の取材の申し込みは全部キャンセルした」
思いがけない篤宏の過去に、真珠は空気の薄い場所にいるような息苦しさを味わっていた。
少しの間、真剣な顔で自分の内側を探り続けていた真珠は、ひとつの答えを見つけて慎重に言葉を紡いだ。
「プロ……プロは、自分に任された仕事を全うするってことじゃないかと俺は思う」
「なるほど、確かにそうだね。君にとってはプロってそういうことなのか。……僕にとってのプロっていうのはね、その仕事で食べていってるかどうかってことなんだ。例えば、インディーズでどんなに有名なバンドでも、アルバイトとか他に生計を立てる術を持っていたら、それはプロじゃない。メジャーデビューしてるかどうかじゃなくてね。古い言い方をするなら、ペンと原稿用紙だけで食べていける稼ぎをだしてこそ、プロの小説家ってことかな」
篤宏の言葉は、彼がここに住んでいるということと繋がっていた。先ほどの言葉が腑に落ちて、真珠は篤宏の言葉の続きを待つ。
箸を茶碗の上に置いた篤宏は、真珠の眼差しで言わんとしていることが伝わったのだとわかったのだろう。少し表情を緩めると、再びゆっくりと話し始めた。
「僕の考え方は古いかもしれない。でもやっぱり、技術的なものとかどれだけ本が売れたかと言うこととは別に、精神的なものでね。僕は作家として稼ぎ出したお金だけでどうしてもやっていきたかった。親は僕が作家として一本でやっていくことは反対して、仕事をしながら執筆を続けろと勧めてきた。それももちろんやろうと思えばできたよ。僕の勤めていた会社では、業務に支障のない範囲なら副業は認められていたから。
だけど、出版社の主催してる新人賞を受賞して、受賞作の出版が決まったとき、僕は会社を辞めた。この道で生きていくと決めたから、自分で退路は断った。賞金と印税と、会社員の時に貯めたお金だけで生活していたけど、収入は少なかったからそれはどんどん減っていくばかりでね。家賃だけで1年に100万近く消えるのが馬鹿らしくて、とにかく出て行くお金を減らさないといけないと思った。
僕もどこか頭の中で、色々な物が溢れていて、打ち合わせなんかもしやすい東京に住み続けるべき、っていうような変なプライドがあった。でも、プロであり続けたいというプライドの方が勝ったんだ。実家からは勘当同然になったけど、それは後悔してない。
でも、ひとつだけ、後悔してることがある」
篤宏は一度言葉を切った。室内にいるスタッフに向けて、微妙な表情で尋ねる。
「僕は、格好いいかな? 外見の話だけど」
「格好いいです。凄く」
即答したディレクターにありがとうと言った篤宏は、どこか寂しげだ。
「変な自慢に聞こえたらごめん。僕は外見だけは昔からいつも褒められててね。受賞作が出版された時、何件かインタビューしたいって申し出があった。僕はその時、正直言って浮かれていたんだ。新人賞を取って、作家として注目を浴びる。それはまさに僕の夢見ていたものだったから」。
夢見ていたといいながら、篤宏は自嘲的な笑みを浮かべていた。
「だけど、最初に取材に来たのは女性誌で、インタビューのためにやってきたライターも僕の本を読んでいるようなそぶりは全然なかった。聞かれたのは趣味や、学生時代していたスポーツのことや、スタイルを維持するために何をしているか。あとは恋愛観とかね。凄く嫌な予感がしたよ。
印刷前に送られてきたゲラを見て、僕は頭を殴られたようにショックを受けた。今でも覚えてるんだ。有名新人賞でデビューした注目のイケメン作家に直撃! ってね。中身は僕が危惧した通りに、僕の作家としての面は全然取り上げられていなくて、まるで芸能人にしているようなインタビューが続いていて……。僕は、この記事の掲載をやめて欲しいと頼んだけども、もう間に合わないと言われてそれは通らなかった。僕を侮辱しているような言葉があるわけでもなかったから、さすがにそのために出版差し止めを願うこともできなかったよ。
外見にばかり注目されて、作家としての僕を見てもらえない。それは僕を打ちのめした。
だから、それ以降の取材の申し込みは全部キャンセルした」
思いがけない篤宏の過去に、真珠は空気の薄い場所にいるような息苦しさを味わっていた。
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