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夏の章
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真珠が次に村に来ることができたのは、夏の盛りの頃だった。篤宏とキスをしてしまってから2ヶ月以上の間が空いてしまったが、前に別れるときに気まずい様子もなかったし、真珠はあまり篤宏との関係については心配していない。
バスを降りると、どこか覚えのある声が遠くで聞こえた。誰の声だったかと記憶を辿りながら、真珠はまさか自分が呼ばれているとは気付かなかった。
「シロちゃーん! シロちゃんってば! こっちだ!」
声はかなりの大声で、さらに近づいてくる。周りにはバスの運転手以外に誰もいない。運転手が怪訝な顔をしてこちらを見ているので、真珠はやっと「シロちゃん」が自分のことだと気付いた。
辺りを改めて見渡すと、明るい花柄のスカーフが見えた。微妙な小走りでこちらに向かって大きく手を振りながら叫んでいる姿には間違いなく見覚えがある。
「……カヨさん」
頭にスカーフを巻いて、日焼けした顔をくしゃくしゃにしながら笑う老女はカヨだった。
急いで真珠が駆け寄ると、カヨは膝を押さえてはあはあと息をしながらその場で立ち止まった。
「はぁー、やっぱり走るのはきついなあ。シロちゃん、久しぶり! ああ、でもオラはテレビでも雑誌でもシロちゃんを見てたから、あんまり久しぶりの感じがしないわ。あはははは!」
田舎のおおらかさを体現したようなカヨの笑い声は、真珠にも懐かしかった。東京にいる自分よりもずっと素直になれるのを感じながら、真珠は挨拶を返した。
「お久しぶりです」
「うんうん、元気にしてたかい? ちゃんと食べてる? テレビも出てるモデルさんって忙しいんだろ? あのテレビを見てから村中皆シロちゃんを応援してるんだよ。最初に泊まるの断ったアサコさんは皆にぶーぶー言われてたさ! あーっはっはっは、あの人気難しいからなあ、いい気味だ! でもあっちゃんのところさ泊まったのは、きっと一番良かったなあ」
「おかげで、今でもこうやって来てます」
「嬉しいことだよお。シロちゃんがたまに来るって、あっちゃんから聞いてるよ。あっちゃんがシロくんシロくんって言うもんだから、いつの間にか皆シロちゃんって呼ぶようになっちゃったんだわ。雑誌もね、あっちゃんが持ってきて見せてくれるのさ。シロちゃんがこんなにお仕事してるって。モデルさんって凄いんだねえ。ここで見るシロちゃんと全然違うよ。
なんて言ったっけ、あのだらだらした服」
「だらだら……ストリート系?」
カヨとの会話で頭を悩ませながらも、最近自分がファッション誌で着た服の中で「だらだら」と言えそうなものをなんとか真珠は拾い出した。カヨは大きなアクションでうなずいてみせる。
「そうそう、そんなの! シロちゃんもちょい悪みたいな顔になってて」
「ちょい悪……」
「あっちゃんもイケメンだけど、シロちゃんだってそうそういないイケメンだって思い知ったわ。こんな田舎で眼福だ」
マシンガンのような勢いのカヨのおしゃべりがそこで一段落した。勢いには押されるが、この村で明るい調子の彼女が喋っていると、都会で感じるような鬱陶しさはなかった。
「あっちゃんのところさ行くんだろ? ちょっとうちに寄ってスイカ持って行きな。ひとりじゃ無理でもふたりなら食べれるでしょ」
カヨと一緒にバス停から篤宏の家とは反対方向へと歩く。怒濤のように続くカヨのおしゃべりに時折相槌を打っているうちに、バス停ひとつ分の距離を歩ききっていた。
カヨの家の玄関は、案の定施錠されていなかった。
彼女いわく、「泥棒が入ったりしないか隣近所で見張ってるようなもんだし、村の中でそんなことをする人がいたら村八分になる」ということだった。
そう言われると、田舎のコミュニティの力というものは恐ろしい。篤宏が以前言っていた、狭い中で付き合ったり別れたりするのは気まずくなるというのもうなずける。
バスを降りると、どこか覚えのある声が遠くで聞こえた。誰の声だったかと記憶を辿りながら、真珠はまさか自分が呼ばれているとは気付かなかった。
「シロちゃーん! シロちゃんってば! こっちだ!」
声はかなりの大声で、さらに近づいてくる。周りにはバスの運転手以外に誰もいない。運転手が怪訝な顔をしてこちらを見ているので、真珠はやっと「シロちゃん」が自分のことだと気付いた。
辺りを改めて見渡すと、明るい花柄のスカーフが見えた。微妙な小走りでこちらに向かって大きく手を振りながら叫んでいる姿には間違いなく見覚えがある。
「……カヨさん」
頭にスカーフを巻いて、日焼けした顔をくしゃくしゃにしながら笑う老女はカヨだった。
急いで真珠が駆け寄ると、カヨは膝を押さえてはあはあと息をしながらその場で立ち止まった。
「はぁー、やっぱり走るのはきついなあ。シロちゃん、久しぶり! ああ、でもオラはテレビでも雑誌でもシロちゃんを見てたから、あんまり久しぶりの感じがしないわ。あはははは!」
田舎のおおらかさを体現したようなカヨの笑い声は、真珠にも懐かしかった。東京にいる自分よりもずっと素直になれるのを感じながら、真珠は挨拶を返した。
「お久しぶりです」
「うんうん、元気にしてたかい? ちゃんと食べてる? テレビも出てるモデルさんって忙しいんだろ? あのテレビを見てから村中皆シロちゃんを応援してるんだよ。最初に泊まるの断ったアサコさんは皆にぶーぶー言われてたさ! あーっはっはっは、あの人気難しいからなあ、いい気味だ! でもあっちゃんのところさ泊まったのは、きっと一番良かったなあ」
「おかげで、今でもこうやって来てます」
「嬉しいことだよお。シロちゃんがたまに来るって、あっちゃんから聞いてるよ。あっちゃんがシロくんシロくんって言うもんだから、いつの間にか皆シロちゃんって呼ぶようになっちゃったんだわ。雑誌もね、あっちゃんが持ってきて見せてくれるのさ。シロちゃんがこんなにお仕事してるって。モデルさんって凄いんだねえ。ここで見るシロちゃんと全然違うよ。
なんて言ったっけ、あのだらだらした服」
「だらだら……ストリート系?」
カヨとの会話で頭を悩ませながらも、最近自分がファッション誌で着た服の中で「だらだら」と言えそうなものをなんとか真珠は拾い出した。カヨは大きなアクションでうなずいてみせる。
「そうそう、そんなの! シロちゃんもちょい悪みたいな顔になってて」
「ちょい悪……」
「あっちゃんもイケメンだけど、シロちゃんだってそうそういないイケメンだって思い知ったわ。こんな田舎で眼福だ」
マシンガンのような勢いのカヨのおしゃべりがそこで一段落した。勢いには押されるが、この村で明るい調子の彼女が喋っていると、都会で感じるような鬱陶しさはなかった。
「あっちゃんのところさ行くんだろ? ちょっとうちに寄ってスイカ持って行きな。ひとりじゃ無理でもふたりなら食べれるでしょ」
カヨと一緒にバス停から篤宏の家とは反対方向へと歩く。怒濤のように続くカヨのおしゃべりに時折相槌を打っているうちに、バス停ひとつ分の距離を歩ききっていた。
カヨの家の玄関は、案の定施錠されていなかった。
彼女いわく、「泥棒が入ったりしないか隣近所で見張ってるようなもんだし、村の中でそんなことをする人がいたら村八分になる」ということだった。
そう言われると、田舎のコミュニティの力というものは恐ろしい。篤宏が以前言っていた、狭い中で付き合ったり別れたりするのは気まずくなるというのもうなずける。
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