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夏の章
10
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「ただいま。シロくんおかえり」
「おかえり。ただいま」
篤宏が帰宅したのは30分ほど経った頃だった。玄関が開いていることで真珠の来訪に気付いた篤宏は、ただいまと声を掛けた。お互いにただいまという妙な挨拶を交わしながら、笑い合う。
真珠がおかえりと篤宏を迎えるのは初めてだったが、それはここが本当に自分の
家のように思える魔法の言葉だった。
真珠がいつにも増して機嫌良く笑っているのに気付いた篤宏が、首を傾げながらいいことあった? と尋ねた。
「篤宏、川へ行こう」
「川?」
「来る途中でカヨさんにスイカをもらった。冷蔵庫に入らないし、風呂に水を溜めるのももったいないから、川で冷やしてる」
せき立てるように篤宏の手を引くと、篤宏は目を丸くした後に、眩しげに目を細めて笑った。
「凄いね、シロくん。田舎暮らしが慣れてきた。川でスイカを冷やしてるんだ! 僕も一度やってみたかったんだよね!」
声を立てて笑いながら、ふたりで小川まで競争するように走った。いざ顔を合わせたら、やはり気まずさなど欠片もなかった。
石をネットの上に置いて重し代わりにして、川の流れで冷やしているスイカは、まるで映画の中のような光景で、自分がこんなことをする日がくるなんて思いもしなかった。
それが、無性に楽しい。まるで、子供に戻って夏休みを送っているような気すらした。
スイカはまだ十分に冷えていなかったので、後でもう一度取りに来ることにして、真珠は篤宏と並んで家に戻った。
ここに来るときにはスイカのことで頭がいっぱいになっていて注意して見ていなかったが、家の前に咲いているひまわりがほとんど花びらを散らしてうなだれているのに今更気付いた。
ひまわりは花の大きさだけでも真珠の顔より大きく、高さは篤宏の身長ほどもある。ミニひまわりならともかく、これだけ大きな花が枯れかかっているのは酷く目立つ。
「このひまわり、片付けないのか?」
何かにつけて格好をつけたがる篤宏にしては珍しいと、真珠は疑問に思ったことをそのまま尋ねた。
「ああ、このひまわりは、ちゃんと種ができるまでこのままにしておくんだよ」
「来年も植えるため?」
「ううん、種は食用。天日干しで乾燥させてから、外側の殻を割って食べる」
「……ひまわりの種は、売ってるやつなら食べたことがあるが……」
まさかこれが食用だとは思わなかった。真珠は驚いて切れ長の目を最大限に丸くし、篤宏はそれを見て遠慮なく笑った。
「くくっ、それ、シロくんの驚いたときの顔。僕好きだなあ」
「……言ってろ」
「一見クールな君が驚いてるって言うのが、凄く楽しいんだよ。初めてこの村を案内したときからね。
カボチャの種もスイカの種も、きちんと熟しているのなら食べるよ。スイカなんか、実全体より種の方が栄養があるくらいだからね。軽く乾燥させてから炒って、ちょっと塩を振って食べる。ビールにも合うし、クルミとかピーナッツを食べる感覚とあんまり変わらないかな。やっぱりナッツだからね」
「スイカの種も!?」
「僕が初めて食べたのは東京時代だよ。中国茶のお店で。あっちではポピュラーなお茶請けだそうだし、君も案外知らないで食べてるのかもしれないよ。ミックスナッツとかだと、全部の種類をわからないで食べてる人もいるからね」
「ナッツ……そう言われると、確かに」
母が現役モデルだった頃に、真顔で「これはお菓子じゃない」と言いながらナッツを摘まんでいたことを思い出した。
真珠自身はさして好き嫌いがあるわけでもなく、栄養管理を過剰にする必要がないタイプだが、同じ事務所の女性モデルがナッツのダイエット効果についてインタビューされていた誌面もちらっと見た覚えがあった。
「そうか、種だから栄養が豊富なのは当たり前なんだな」
真珠が呟くと、自力で問題を解いた生徒を見る教師のように満足げに篤宏はうなずいた。
「おかえり。ただいま」
篤宏が帰宅したのは30分ほど経った頃だった。玄関が開いていることで真珠の来訪に気付いた篤宏は、ただいまと声を掛けた。お互いにただいまという妙な挨拶を交わしながら、笑い合う。
真珠がおかえりと篤宏を迎えるのは初めてだったが、それはここが本当に自分の
家のように思える魔法の言葉だった。
真珠がいつにも増して機嫌良く笑っているのに気付いた篤宏が、首を傾げながらいいことあった? と尋ねた。
「篤宏、川へ行こう」
「川?」
「来る途中でカヨさんにスイカをもらった。冷蔵庫に入らないし、風呂に水を溜めるのももったいないから、川で冷やしてる」
せき立てるように篤宏の手を引くと、篤宏は目を丸くした後に、眩しげに目を細めて笑った。
「凄いね、シロくん。田舎暮らしが慣れてきた。川でスイカを冷やしてるんだ! 僕も一度やってみたかったんだよね!」
声を立てて笑いながら、ふたりで小川まで競争するように走った。いざ顔を合わせたら、やはり気まずさなど欠片もなかった。
石をネットの上に置いて重し代わりにして、川の流れで冷やしているスイカは、まるで映画の中のような光景で、自分がこんなことをする日がくるなんて思いもしなかった。
それが、無性に楽しい。まるで、子供に戻って夏休みを送っているような気すらした。
スイカはまだ十分に冷えていなかったので、後でもう一度取りに来ることにして、真珠は篤宏と並んで家に戻った。
ここに来るときにはスイカのことで頭がいっぱいになっていて注意して見ていなかったが、家の前に咲いているひまわりがほとんど花びらを散らしてうなだれているのに今更気付いた。
ひまわりは花の大きさだけでも真珠の顔より大きく、高さは篤宏の身長ほどもある。ミニひまわりならともかく、これだけ大きな花が枯れかかっているのは酷く目立つ。
「このひまわり、片付けないのか?」
何かにつけて格好をつけたがる篤宏にしては珍しいと、真珠は疑問に思ったことをそのまま尋ねた。
「ああ、このひまわりは、ちゃんと種ができるまでこのままにしておくんだよ」
「来年も植えるため?」
「ううん、種は食用。天日干しで乾燥させてから、外側の殻を割って食べる」
「……ひまわりの種は、売ってるやつなら食べたことがあるが……」
まさかこれが食用だとは思わなかった。真珠は驚いて切れ長の目を最大限に丸くし、篤宏はそれを見て遠慮なく笑った。
「くくっ、それ、シロくんの驚いたときの顔。僕好きだなあ」
「……言ってろ」
「一見クールな君が驚いてるって言うのが、凄く楽しいんだよ。初めてこの村を案内したときからね。
カボチャの種もスイカの種も、きちんと熟しているのなら食べるよ。スイカなんか、実全体より種の方が栄養があるくらいだからね。軽く乾燥させてから炒って、ちょっと塩を振って食べる。ビールにも合うし、クルミとかピーナッツを食べる感覚とあんまり変わらないかな。やっぱりナッツだからね」
「スイカの種も!?」
「僕が初めて食べたのは東京時代だよ。中国茶のお店で。あっちではポピュラーなお茶請けだそうだし、君も案外知らないで食べてるのかもしれないよ。ミックスナッツとかだと、全部の種類をわからないで食べてる人もいるからね」
「ナッツ……そう言われると、確かに」
母が現役モデルだった頃に、真顔で「これはお菓子じゃない」と言いながらナッツを摘まんでいたことを思い出した。
真珠自身はさして好き嫌いがあるわけでもなく、栄養管理を過剰にする必要がないタイプだが、同じ事務所の女性モデルがナッツのダイエット効果についてインタビューされていた誌面もちらっと見た覚えがあった。
「そうか、種だから栄養が豊富なのは当たり前なんだな」
真珠が呟くと、自力で問題を解いた生徒を見る教師のように満足げに篤宏はうなずいた。
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