最強の1年1組、理不尽スキル「椅子召喚」で異世界無双する。微妙なスキルしか無い担任の私は「気持ち悪っ!」連発しながら子供たちを守り抜きます!

加藤伊織

文字の大きさ
38 / 51

38 人生初牢獄、そして大脱出

しおりを挟む
「さやかちゃん! 絶対助けるからね! 暴れたりしないで、おとなしくしてて!」
「せんせー! せんせぇー!!」
 
 私が縄を掛けられて連行されるのを見て、さやかちゃんは必死にこちらに手を伸ばして大泣きしてしまった。それをクリスさんが必死に抱き留めている。
 ああ、これはさやかちゃんのトラウマになってしまったかもしれない。悪い事をしてしまった……。鋼メンタルの真澄ちゃんとかを連れてくるべきだったか……。でも最悪あの子はここで私が断念した大立ち周りをする可能性があった。それは、とても危険。

 さやかちゃんは恐らく手荒な扱いはされないだろう。強すぎる剣は切っ先が自分に向いたときが恐ろしいのだ。
 だから国王は、子供たちを懐柔しようとするに違いない。


 そして――。
 お父さん、お母さん。私は人生で初めて牢獄に入れられています。
 石壁! 石床! 鉄格子! 窓無し! うん、お見事!!
 
 私のさっきの態度から、「改心しました、協力します」なんて言っても毛先ほども信じてもらえないだろうから、相手を騙す事は考えない方がいいな。

 看守が見ていない隙を突いて、鉄格子を力尽くでねじ曲げようとしてみた。
 クリスさんをお姫様抱っこできるなら、このくらい曲がるかと思ったんだけど……。残念ながら、変形はさせられたけど私が通れるほどの隙間は作れなかった。
 しかも鉄格子が曲げられている事に気付かれて、警戒が強化されてしまった!

 しおしおと私は狭い牢獄の隅で膝を抱えた。看守から見たら私は「素手で鉄格子を曲げる怪力女」なので、槍を向けられて「おかしな事は考えるなよ」と言われる威嚇まで付いた。

 どうしよう。
 子供たちが逃げられた事を祈るしかできない。
 私は、何をしたらいいんだろう。

 ………………寝るか。だいたいこういう時には体力温存がいいと相場が決まってる。
 石造りの牢獄で寝るなんて機会、今後の人生でもないだろうし。

 私は固い石の床の上にごろりと寝そべった。
 うん、凄く体が痛い。防災頭巾の床が恋しいなあ。

 ――そんな事を思っていたとき。
 ドゴォン! と物凄い音がして、床に振動が響いてきた。


 慌てて飛び起きた私が考えたのは、子供たちの事。だって、こんな強固な建物を揺るがす衝撃なんて、椅子くらいしか考えられない!

 さやかちゃんが暴れてるのか? あんまり暴挙にでるタイプじゃないと思ってたけど。
 でも聖那せいなちゃんの「虫だけは絶対殺す」という豹変っぷりもあるから、予測しきれない。

 私が何もできずに鉄格子を掴んでおろおろしていると、遠くから子供のギャン泣きと破壊音が聞こえてきた。それは徐々に近づいてきて、思わず鉄格子を握る手のひらに汗を掻いてしまう。

「せんせー! せんせーどこ! せんせーのところへ連れてって! うわぁーん!」

 さやかちゃんのギャン泣きと、それに続く破壊音。時折聞こえる男性の悲鳴。
 それが近づいてくるところから察するに、さやかちゃんは本人はそういうつもりはないかもしれないけど誰かを脅してここへ案内させているみたい。

 そして、私が目にしたものは、椅子を振り回しまくってそこいらの壁を壊しまくっているさやかちゃんと、それに怯えながら背中を丸めて私の元に先導しているひとりの騎士だった。チェインメイルの上に赤いチュニックを着ているから、多分近衛騎士のひとりだろう。

「何をしている! 子供をここに連れてくるなんて」
 看守は慌て、近衛騎士はさやかちゃんが振り回す椅子を避けるのに精一杯で、「ヒィ」と小さく悲鳴を上げている。
  
「さ、さやかちゃん、椅子は壁を殴るものじゃないよ!? 先生ここにいるから、怪我とかしてないから大丈夫だよ!」
「せんせー!? うえーん! 怖かったよぉー!」

 私が声を掛けると、さやかちゃんはやっと私の存在に気付いて椅子を放り出した。それがたまたま壁に当たって、そこに派手に穴が開く。男性ふたりの悲鳴が綺麗にシンクロした。

「ごめんね、怖い思いさせて」
 鉄格子越しに手を伸ばすと、さやかちゃんがそこに飛び込んでくる。視界の隅では、近衛騎士と看守が足をもつれさせながら逃げていっていた。

「さやかちゃんひとりで、おじさんを脅かしてここまできたの?」
「ひっく……うん。クリスさんもどっか行っちゃったし、ぐすっ……なんか大きいお部屋に入れられたんだけど、怖かったから、椅子で壁を壊して逃げてきたの……」

 そうして話している間にも、轟音と振動が響く。――ということは、これはさやかちゃんの仕業ではない。
 じゃあ、誰が?

「ミカコさん! サヤカ! ここにいますか!?」
「クリスさん!?」

 聞き慣れた声にこんなに安堵した事はない。階段を駆け下りてきたのは銀色のチェインメイルに身を包んだ茶色い髪の騎士で、彼の姿を見た途端思わず涙が滲んだ。

「無事なようですね! サヤカ、この鉄格子をなんとかできますか?」
「や、やってみる。椅子召喚」

 さやかちゃんは再び椅子を出すと、それを持って鉄格子をぶん殴った。ぐにゃり、と飴細工の様にあっさり鉄格子が曲がる。その隙間から差し出されたクリスさんの手を取って、私は牢から脱出した。

「ありがとう、さやかちゃん、クリスさん。……でも、これが知られたらクリスさんが処罰されるのでは?」

 私が心配なのはその点だ。クリスさんは一瞬苦い表情を浮かべたが、私に向かって微笑んで見せる。

「我々騎士は王と国に剣を捧げた身。ですが、受けた恩を仇で返すほど愚かにはなりたくありません。さあ、行きましょう。今頃我々騎士団と子供たちが茶番を演じていますから」
「茶番?」
「ええ、子供たちに手出しは出来ないと、あれで知らしめることができるはず」
「もしかして、あの音はやはり子供たちが?」
「レティシアがミカコさんの危機にいち早く気付いたのです。そして子供たちを都市の外へ逃がし、数人を王城へと案内しました。私はすぐそれに合流する事ができ、立てた作戦がこれです」

 また轟音と共に城が揺れる。埃とか砂とかがパラパラと降ってきて、結構怖い。私はまだ泣き止めないでいるさやかちゃんを抱き上げて必死にクリスさんの後に続いた。
 

 巨大な椅子が突然出現して、城の外壁を破壊している。
 周囲には悲鳴が満ちて、人々が逃げ惑っていた。
  その光景に思わず息を呑むと、クリスさんがにこりと笑った。

「大丈夫です。人がいない場所を狙って派手に壊す様にと教えました」

 こういう時のクリスさんの顔、凄くレティシアさんに似ている……。さすが双子だ。
 私が妙なところに感心していると、遠くで聞き覚えのある声が叫んでいた。

「椅子、召喚ッ!!」

 ガチ怒りモードの友仁ともひとくんが、巨大椅子を出して城を破壊している。こ、これは城が揺れて当然だ。
 友仁くんの他にはかえでちゃんと俊弥しゆんやくん。大人の間を走り回って攪乱している。AGI素早さトップ2のふたりを捕まえられる大人などいるわけなく。
 そして――。

「椅子召喚、八門遁甲はちもんとんこうの陣!」

 一翔かずとくんの声が響いて、城の中庭を埋めるほどの、巨大な八門遁甲の椅子が現れた。そこに踏み込んでしまった騎士たちは、中で方向を見失ってぐるぐるとしている。

「何故だー! 何故出られない!!」
 殊更に大声で叫んでいるのはジェフリーさんだ。そうか、最初に出会ったトロル戦で、クリスさんは八門遁甲の椅子を見ていたんだった!
 確かにこれならお互い傷つけあうこともなく、私たちは逃げることが出来る。

「うっ、だんだん目が回ってきた……うえっ」
 ハリーさんがふらふらとしてばたりと倒れた。中にはハリーさんの様に回りすぎて酔ってしまった人もいるようだけど……。それを敢えて大声で言っているので、事情を知らない王宮の騎士は椅子に近寄ることすらためらっているようだった。


 あまりの阿鼻叫喚に私が呆然と状況を見ていると、クリスさんが私の背を押した。
 
「ミカコさん、そして子供たちよ、どうかご無事で。元の世界に帰れることを祈っています」
 最初はあまりにもどぎまぎしたイケメン騎士の笑顔。最後にそれを私に向けると、クリスさんは私たちに先へと進むように促し、自分も八門遁甲の椅子に入っていった。

 
「みんな、ごめんね! 来てくれてありがとう!」
 私が自慢の大声で叫ぶと、4人の子供たちは一目散に私に向かって駆けてきた。

「せんせー!」
 さやかちゃんを抱いたまま、飛びついてきた俊弥くんを受け止める。そして、一目散に私たちは城壁の外を目指して駆け出す。

 策士一翔くんは、逃げながらも周到に椅子をばらまいておく事を忘れなかった。これ、城の大惨事を見た人には結構恐怖だろうな。
 
 
 城壁の側まで行ったら、城壁も崩れていた。きっとこれも子供たちの仕業だろう。恐らく、人を遠ざけるためとかのレティシアさんの策。その証拠に、そこに立っていたはずの番人はいない。
 そして、レティシアさんが切迫した表情でそこで私たちを待っていた。

「ミカコさん! 無事!?」
「レティさん! ありがとうございます! おかげで助かりました!」
「『視えた』のよ。あなたが捕らわれるところが。だから子供たちはすぐに外へ逃がしました。一直線に進んだところで待つようにと言ってあるわ」
「一生恩に着ます!」
「それは私もよ。あまり話をしている猶予はないけれど……教会と国とは別の組織だから、必ず総大司教猊下からあなたたちの支持を奪い取ってくるわ! とにかくオルミアへ向かって。必ず、教会があなたたちを支援します!」

 走れ、とレティシアさんが大きく手を振る。
 それに頭を下げ、私と子供たちはフロードルを後にして他の子供たちと合流すべくひたすら前を向いて走った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

処理中です...