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ディル②
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「父上!」
「何だ?」
凍りつくような目で国王──親父が俺を見た。
「本当にトゥーレ伯が──父上の命を狙ったと?」
「残念だが本当だ。儂は確かにこの耳できいたのだ……それがなによりの証拠である」
既にトゥーレ伯爵は地下牢に連行されていった。
いつも陽気なワルツを奏でている楽士どもはその手を止め、招待客たちも息を潜めて俺達親子の成り行きを見つめている。
ニヤニヤと国王の後ろから進み出てきたのは、貧相な顔にアゴ髭を生やした小男。
大臣のズルターン。
暗い野心に燃えるこの男。
今回の一件はこいつが後ろで糸を引いているのは誰が見ても明らかだったが、証拠はない。
「おや、王子」
寒気のするような甲高い声の持ち主を俺はギロリと睨んだ。
出来ることならこの場で斬り捨ててしまいたい。が、息子といえど証拠がなく、憶測の状態でそれを行ってその行為を許す王ではない。
「そういえば、ディル殿下とトゥーレ嬢との婚約はどういたしますか?」
わざとらしく咳払いしながらズルターンは王の前に進み出た。
「ふむ。罪人の娘と婚約──」
「ご心配なく」
俺は王の言葉を強引に遮った。
「トゥーレ嬢とは偶然、先刻婚約破棄いたしました」
「なんと──」
俺の答えにズルターンは苦々しい表情をみせた。
やっぱりか。
罪人の娘とデキているとか俺にイチャモンをつけるつもりだったのが透けてみえるぜ。
「なぜだ? お前があの娘と婚約したいと推してきた話であろう?」
国王は無表情に言った。
「あの娘──リアン嬢は俺の大事なものを侮辱した上、それを奪っていきました。よって、国外に追放してやりました」
「大事なもの?」
キラリ、とズルターンの瞳が光る。
「はい──私のとても大事なものでございます……」
「ふむ。ディル──勝手なことを」
「申し訳ありません」
俺は神妙に王に頭を下げた。
ここが勝負だ。頑張れ、俺。
床を見つめながら、歯をくいしばる。
アイツを早くこの国から逃がさなければ──。
時間稼ぎでも何でもするぜ。
「そんな大事なものを盗られたのに追放されたのか! 王、それならばなおのこと、罪人の娘は早く捕らえなければ……」
「まぁ、良い」
抑揚のない声で国王は言った。
「ズルターン、おそらくディルの言う大事なものはお前が考えているような金目のものではない──お前にはわからぬだろうな」
「はっ……」
ホッ。
こっちの思惑通り、勘違いしてくれたぜ──。まぁ、俺の大事なものをリアンが持っていることは間違いないからな。
俺は嘘は言ってない。
「トゥーレの娘はもうディルが処分をしたものとする。小娘一人、無駄に兵を差し向けるものでもあるまい」
王に言われてズルターンは悔しそうな顔をして引き下がった。
俺はホッと胸を撫で下ろすと大広間を退出した。
大広間から、遠慮がちに楽団がワルツを奏で出す。
舞踏会が再開されたようだ。
「けっ! 舞踏会なんかやってる場合かよ──」
俺は天井の吹き抜け窓を見上げた。
だいぶ陽が傾いてきている。
よし、あとはリアン──!
頼むから早く国境を抜けてくれよ!
……祈るように俺は夕陽を見つめた。
「何だ?」
凍りつくような目で国王──親父が俺を見た。
「本当にトゥーレ伯が──父上の命を狙ったと?」
「残念だが本当だ。儂は確かにこの耳できいたのだ……それがなによりの証拠である」
既にトゥーレ伯爵は地下牢に連行されていった。
いつも陽気なワルツを奏でている楽士どもはその手を止め、招待客たちも息を潜めて俺達親子の成り行きを見つめている。
ニヤニヤと国王の後ろから進み出てきたのは、貧相な顔にアゴ髭を生やした小男。
大臣のズルターン。
暗い野心に燃えるこの男。
今回の一件はこいつが後ろで糸を引いているのは誰が見ても明らかだったが、証拠はない。
「おや、王子」
寒気のするような甲高い声の持ち主を俺はギロリと睨んだ。
出来ることならこの場で斬り捨ててしまいたい。が、息子といえど証拠がなく、憶測の状態でそれを行ってその行為を許す王ではない。
「そういえば、ディル殿下とトゥーレ嬢との婚約はどういたしますか?」
わざとらしく咳払いしながらズルターンは王の前に進み出た。
「ふむ。罪人の娘と婚約──」
「ご心配なく」
俺は王の言葉を強引に遮った。
「トゥーレ嬢とは偶然、先刻婚約破棄いたしました」
「なんと──」
俺の答えにズルターンは苦々しい表情をみせた。
やっぱりか。
罪人の娘とデキているとか俺にイチャモンをつけるつもりだったのが透けてみえるぜ。
「なぜだ? お前があの娘と婚約したいと推してきた話であろう?」
国王は無表情に言った。
「あの娘──リアン嬢は俺の大事なものを侮辱した上、それを奪っていきました。よって、国外に追放してやりました」
「大事なもの?」
キラリ、とズルターンの瞳が光る。
「はい──私のとても大事なものでございます……」
「ふむ。ディル──勝手なことを」
「申し訳ありません」
俺は神妙に王に頭を下げた。
ここが勝負だ。頑張れ、俺。
床を見つめながら、歯をくいしばる。
アイツを早くこの国から逃がさなければ──。
時間稼ぎでも何でもするぜ。
「そんな大事なものを盗られたのに追放されたのか! 王、それならばなおのこと、罪人の娘は早く捕らえなければ……」
「まぁ、良い」
抑揚のない声で国王は言った。
「ズルターン、おそらくディルの言う大事なものはお前が考えているような金目のものではない──お前にはわからぬだろうな」
「はっ……」
ホッ。
こっちの思惑通り、勘違いしてくれたぜ──。まぁ、俺の大事なものをリアンが持っていることは間違いないからな。
俺は嘘は言ってない。
「トゥーレの娘はもうディルが処分をしたものとする。小娘一人、無駄に兵を差し向けるものでもあるまい」
王に言われてズルターンは悔しそうな顔をして引き下がった。
俺はホッと胸を撫で下ろすと大広間を退出した。
大広間から、遠慮がちに楽団がワルツを奏で出す。
舞踏会が再開されたようだ。
「けっ! 舞踏会なんかやってる場合かよ──」
俺は天井の吹き抜け窓を見上げた。
だいぶ陽が傾いてきている。
よし、あとはリアン──!
頼むから早く国境を抜けてくれよ!
……祈るように俺は夕陽を見つめた。
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