婚約破棄して国外追放されましたが、王子が追っかけてきます。

胡蝶

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リアン⑥

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「……っ! ぐ、ぐぁぁぁっ! き、貴様っ!」
  私の目の前でいきなり、ディルの姿をしたモノが頭を抱えてうずくまった。

「従え──! な、何をするっ!」
  不気味な叫び声とともにディルの背中からゆらり、と黒い影が弾きとばされる。

「かはっ! はぁっ! はぁ───」
  肩で息をしながら、青い顔をしたディルは剣を杖にして立ち上がった。

  弾き飛ばされた禍々しい煙のような黒い影は球体になって膨れ上がる。
「何故だ! なぜ、人間ごときが──我の支配から逃れられたのだ!?」
  球体の中心部から鋭い赤光がディル目がけて放たれた。

  ガキィン!!

  が、それはディルの胸前で見えない壁のようなものに瞬時に跳ね返される。

「……ふぅ、流石だな。ナンシー」
 ディルは私を庇うように影の前に立ちふさがった。

「フニャア!」
  得意気なナンシーの返答が背後から聞こえる。

「おのれ! やはり──いまいましい妖精猫が邪魔立てしおって……!」
黒い影が怒りの炎に暗く燃え上がる。

「……バーカ! お前なんかに大人しく跳ばされるわけないわ!」
  空中から、ポン! と現れたナンシーは毛繕いをしながら挑発的に言った。
「お前がディルから離れる隙を狙ってたに決まってるじゃない」
「クッ──あと少しだったのに!」


「大丈夫か? リアン……」
「──うん」
  そう訊ねるディルの横顔が私には何だかやたらとカッコ良く見えて。

  不覚にとドキン! とときめいてしまった。
  
  まぁ──吊り橋効果というやつよね?
  もしくはピンチを助けられたお姫様がろくに知らない男にヨロヨロしちゃうアレよ、アレ。

「……あんた、何乗っ取られちゃってるのよ!  カッコ悪!」
  少し赤くなった頬の照れ隠しもあって私はそっぽを向いた。

「ハハハ──相変わらず可愛くねぇな。俺も大変だったんだぞ? あいつに乗っ取られたふりをして、本当に乗っ取られちまった時は焦ったが……ナンシーの力を借りてだが、ギリギリのところで追い出せて良かったぜ」
  乾いた笑いをあげながら、ディルは油断なく剣を構え直す。

「おのれ! こうなったらそこの聖女もろともここで息の根を止めてやるわ!」
  黒い闇色の球体から膨らみ、黒い触手のようなものが雨のように私たちに向かって襲いかかってきたのだった。
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