婚約破棄して国外追放されましたが、王子が追っかけてきます。

胡蝶

文字の大きさ
11 / 12

???①

しおりを挟む
「クククク──」
  扉が派手な音を立てて開き、通路に低い笑い声が響き渡る。

  現れたのはマント姿の覆面男。
  彼は闇を背にポーズをとって高らかに声を張り上げた。

「この国から逃げようとしてもムダだ! お前はここから逃げることはできぬのだ!」
  リアンの足元で痙攣するようにナンシーがガタガタと震えている。
「ナンシー!?」
 リアンはナンシーに心配そうな視線を向けた。

「──フニャアッ!」
  妖精猫は何かに抗うように地面に爪を立てていたが、いきなりフッとかき消えた。

「ちょっと! ナンシーに何したのよ?」
「いいじゃないか。二人きりだ──なぁ、リアン?」
  リアンは近づいてくる目の前の覆面男をキッと睨みつけた。
「あんて、返答によっては許さないわよ! 早くナンシーを返して」

「ふ──ハハハハ! いつものようにちょっと城にもどってもらっただけじゃないか。何て言う顔をしてるんだよ、リアン」
  突如、覆面男は何かに耐えかねたように身体を折り曲げて笑い出した。

「……?」
「俺だよ、リアン」
  男はククククと笑いながら、覆面をとって言った。

「ディル!」
  覆面の下から現れたのは──リアンには見慣れた幼馴染みの整った顔。

「驚いたか? リアン」
  覆面をクルクル回しながらおどけてディルは言った。
「驚くに決まってるでしょ?」
  警戒しつつ、リアンは言った。

「どうした? リアン──」
  ディルはつとリアンのそばによってきて、その肩を引き寄せようとした。

  リアンはその手をするりとかわす。

「リアン?」
「ねぇ──」
「ん?」
「──ねぇ。貴方は誰?」
  リアンは初めて見るかのような視線をディルに向けた。


「何だ? じゃあ、リアン。俺は誰だと言うんだ?」
「さぁ──ディルじゃない、邪悪な何かかまではわかるんだけど。そこからは名乗ってもらわないとわかるわけないでしょ?」

「ハーハッハッハ。なるほど。さすが転生者の聖女だ──こうもあっさり見破られるとは思わなんだ」
  冷ややかに唇を歪めると、ディルは言った。

「やっぱり!」
  リアンは息をのんで目の前のディル──の姿をしたモノを見つめた。

「あんなに懐いていたナンシーが貴方を見た時に寄っていかなかった。それがディルでない何よりの証拠よ」
「あぁ、あの忌々しいネコか。力を封じて次元の狭間に放り出してやったのに、生意気なことだ──」
  ディルの形をしたモノはせせら笑った。

「茶番は終わりだ。聖女リアン。ここで死んでもらおうか──」
  腰の剣をディルの顔をしたモノは、リアンに突きつけた。     
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「身分が違う」って言ったのはそっちでしょ?今さら泣いても遅いです

ほーみ
恋愛
 「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」  その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。  ──王都の学園で、私は彼と出会った。  彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。  貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

正妻の座を奪い取った公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹のソフィアは姉から婚約者を奪うことに成功した。もう一つのサイドストーリー。

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...