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裏手に回って匂いを探す。
レンガ造りの家は近くで見れば見るほど丈夫そうな作りで、年月を感じさせなかった。この辺りは十年前の戦争で戦場と化したはず。この家もあのころから考えれば、ようく立て直したものだ。逆に立て直したにしては、当時をそのまま再現したようにきれいすぎて、戻ってきたかのようだった。
それにしても、しばらく歩いているが、ユウリは一向に香りの根源にたどり着くことが出来ないでいた。
馬小屋の脇も牛小屋の脇も確かに匂っているのに、それは微かにしかない。確実に匂いのほうへ近づいているはずなのにたどり着けない、つまり方向感覚でもくるってしまったのかもしれない。
ユウリは自分の冒険者レベルにあきれた。
「こっちのほうからエイデンのにおいがするのに。」
エイデンはユウリの好きな花だった。
将軍の庭はエイデンの花が咲き誇るとてもきれいな場所だった。10年前に戦場となり咲き乱れていたエイデンは跡形もなく消え去った。それから十年だ。街の片隅に咲くエイデンはあっても、なぜか十年たっても将軍の庭にエイデンが再び咲くことがない。
花が咲き始めたと思ったんだが、勘違いか。
「やっぱ気のせいだったか。」
すこし肩を落として、元来た道を戻る。
探し回る間も腹の時計は鳴り響いていた。ユウリは少し肩を落としてきた道を戻った。一歩後ろを振り返れば、もうすでにユウリはエイデンの匂いを辿るよりも家からのにおいしか感じなくなった。
ちょうど昼の準備が出来たみたいだ。ユウリは匂いからそう推測する。
外から中の様子をうかがうと、ユウリの思っていた通りおいしそうなものが用意されているのが見えた。シュウはジュナファーの手伝いをしていて、今さっきのようにジュナファーを無視していなくて良かったとほっとする。
すると中からシュウがユウリに気づいてこちらに手を振ってくる。何がそんなにうれしいのか、紫の瞳が細めて笑ったのをユウリは鼻先で笑ってやった。
——————その時だった。
「…っ」
一歩踏み出したのを合図にでもしたのか、突然壁から何かが伸びてきた。
あまりの近さにユウリは咄嗟に地面をけって、距離を取る。
それはまるで腕のようで、実際に腕みたいに動き回ってなにかを探している。
(……気持ち悪い。新種の魔物か何かなのか?)
とにかくわからぬものに手を出すべきではないと勘が告げる。だからもう少し距離を取るため一歩足を引いた。
しかしユウリがしっかりと距離をとる前に背中で何かが引っ付いて、上半身の自由が奪われたのだった。
「っ…」
(背中にも手が伸びていたのか)
そのまま吸い込まれるように壁に体を引っ張られると、自分の体も浮くみたいなる。壁から生えている手を避けるようにして、これ以上引きずりこまれないように抵抗する。何せ、泥のように溶けた壁の中に引っ張られるなんて聞いたことがない。そもそも壁を抜けたら、ジュナファーの家に入れるはずだが、その先が見えるということはこの腕も空間魔法か何かで現れたものだろう。
「——っ、思ってたよりも、ちからが強い」
体が浮いているようで、というのは本当だったようだ。ユウリは必死に手足を動かすものの地面に足が届かに高さに引き上げられ、本当に抵抗することが出来なくなった。
ズブズブと壁に沈んでいくのを感じながら、すかさず悪態をついた。
(チッ、なんだこいつ。何が目的なんだ。)
そういえば、と悪態をついてから思い出す。一人でどうにかする前に大声で助けを求めればよかった。だってユウリは今一人じゃなかったのに。
ユウリの顔が壁に埋まるその時にキラッと日あるものが見えた。
「…宝石?腕輪…か?くっそ——」
———————
「…ユウリ?」
なにやら外でユウリの声が開き超えた気がして、ユウリの顔が見えた窓に顔を向けた。特に変わった様子のない風景を見て、今さっきのユウリの顔を思い出した。
「ふっ」
今さっきのユウリの顔は絶対に俺が、ジュナファーに従っているのに安堵した顔だった。そして笑ったシュウに安心した顔。ユウリの顔を思い出すとシュウはにやけるのが止められなくて、口から笑いが漏れた。
(ユウリは分かりやすくて、本当に……。)
シュウは顔を崩しながら相棒のことを考えると、表情そのままの流れで言葉にならない気持ちを高ぶらせた。
レンガ造りの家は近くで見れば見るほど丈夫そうな作りで、年月を感じさせなかった。この辺りは十年前の戦争で戦場と化したはず。この家もあのころから考えれば、ようく立て直したものだ。逆に立て直したにしては、当時をそのまま再現したようにきれいすぎて、戻ってきたかのようだった。
それにしても、しばらく歩いているが、ユウリは一向に香りの根源にたどり着くことが出来ないでいた。
馬小屋の脇も牛小屋の脇も確かに匂っているのに、それは微かにしかない。確実に匂いのほうへ近づいているはずなのにたどり着けない、つまり方向感覚でもくるってしまったのかもしれない。
ユウリは自分の冒険者レベルにあきれた。
「こっちのほうからエイデンのにおいがするのに。」
エイデンはユウリの好きな花だった。
将軍の庭はエイデンの花が咲き誇るとてもきれいな場所だった。10年前に戦場となり咲き乱れていたエイデンは跡形もなく消え去った。それから十年だ。街の片隅に咲くエイデンはあっても、なぜか十年たっても将軍の庭にエイデンが再び咲くことがない。
花が咲き始めたと思ったんだが、勘違いか。
「やっぱ気のせいだったか。」
すこし肩を落として、元来た道を戻る。
探し回る間も腹の時計は鳴り響いていた。ユウリは少し肩を落としてきた道を戻った。一歩後ろを振り返れば、もうすでにユウリはエイデンの匂いを辿るよりも家からのにおいしか感じなくなった。
ちょうど昼の準備が出来たみたいだ。ユウリは匂いからそう推測する。
外から中の様子をうかがうと、ユウリの思っていた通りおいしそうなものが用意されているのが見えた。シュウはジュナファーの手伝いをしていて、今さっきのようにジュナファーを無視していなくて良かったとほっとする。
すると中からシュウがユウリに気づいてこちらに手を振ってくる。何がそんなにうれしいのか、紫の瞳が細めて笑ったのをユウリは鼻先で笑ってやった。
——————その時だった。
「…っ」
一歩踏み出したのを合図にでもしたのか、突然壁から何かが伸びてきた。
あまりの近さにユウリは咄嗟に地面をけって、距離を取る。
それはまるで腕のようで、実際に腕みたいに動き回ってなにかを探している。
(……気持ち悪い。新種の魔物か何かなのか?)
とにかくわからぬものに手を出すべきではないと勘が告げる。だからもう少し距離を取るため一歩足を引いた。
しかしユウリがしっかりと距離をとる前に背中で何かが引っ付いて、上半身の自由が奪われたのだった。
「っ…」
(背中にも手が伸びていたのか)
そのまま吸い込まれるように壁に体を引っ張られると、自分の体も浮くみたいなる。壁から生えている手を避けるようにして、これ以上引きずりこまれないように抵抗する。何せ、泥のように溶けた壁の中に引っ張られるなんて聞いたことがない。そもそも壁を抜けたら、ジュナファーの家に入れるはずだが、その先が見えるということはこの腕も空間魔法か何かで現れたものだろう。
「——っ、思ってたよりも、ちからが強い」
体が浮いているようで、というのは本当だったようだ。ユウリは必死に手足を動かすものの地面に足が届かに高さに引き上げられ、本当に抵抗することが出来なくなった。
ズブズブと壁に沈んでいくのを感じながら、すかさず悪態をついた。
(チッ、なんだこいつ。何が目的なんだ。)
そういえば、と悪態をついてから思い出す。一人でどうにかする前に大声で助けを求めればよかった。だってユウリは今一人じゃなかったのに。
ユウリの顔が壁に埋まるその時にキラッと日あるものが見えた。
「…宝石?腕輪…か?くっそ——」
———————
「…ユウリ?」
なにやら外でユウリの声が開き超えた気がして、ユウリの顔が見えた窓に顔を向けた。特に変わった様子のない風景を見て、今さっきのユウリの顔を思い出した。
「ふっ」
今さっきのユウリの顔は絶対に俺が、ジュナファーに従っているのに安堵した顔だった。そして笑ったシュウに安心した顔。ユウリの顔を思い出すとシュウはにやけるのが止められなくて、口から笑いが漏れた。
(ユウリは分かりやすくて、本当に……。)
シュウは顔を崩しながら相棒のことを考えると、表情そのままの流れで言葉にならない気持ちを高ぶらせた。
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