21 / 42
1-20
しおりを挟む
「探しモノがあるんです。探しモノはきっと悪魔が持っている。そもそも悪魔たちは人間の欲から生まれるんです。だから大きな戦争とか人の感情が高ぶる時が一番生み出しやすいんです。———自分が必要だと思った人や物を無意識に取り込んでその空間に閉じ込めようする。ほら、昔話にも『ゼニフの秘密の扉』っていう本があるじゃないですか。」
「…あれが?」
「そう、いつしかかわいい童話に変えられましたが、協会なんかにはそのまま残っているのもありますよ。」
仮面野郎はそういった。
ゼニフってあのゼニフ?あんな御伽噺がこれと同じというなら確かにそれは一大事だ。『ゼニフの秘密の扉』は古くからある子供向けの本だ。どこにでもあるようなごく普通の話で、なんも不思議なところはない。
「でもあれのどこが同じなんだ?あれは爺さんが大切なものをカバンに詰め込んでなくさないっていうだけじゃ?悪魔なんてみじんも出てこない。」
「違うよ?もしかして絵本しか読んだことないんじゃないですか?」
「違う?」
仮面野郎は「ああ」と言って頷くと語り始めた。
老人ゼニフは孤独だった。若いころに妻は死に、厄災で大事に育てていた娘を失った。
ゼニフは自分の大切な人を奪うこの世界に絶望した。
しかし幸いにもゼニフは周りの人間に恵まれていた。周りの人からの懸命な支援があってゼニフは絶望の淵から立ち直ることに成功したのだった。そこでゼニフはふと気づいた。
大切なものはなくならないように、しまっておけばいいじゃないかと。だからこの世に復讐するでもなく、大事なものは奪われない自分の空間にしまおうと大切なものをすべてしまったのだった。
そんなある日のことだった。ゼニフはいつものように妻の好きだったもの、娘の好きだったものをしまっていた。でもふとした瞬間に手を止めると、つぶやいたのだった。
「僕はどうしてここで一人でかき集めているんだろう?アンシアとわが娘セルディ―にも見せなくては」
ゼニフは愛しい妻と娘を探し始めた。
立ち直ったと思っていたゼニフは、やはり心の奥底で愛しい存在を諦められなかったのだ。
もうすでにこの世からいなくなってしまったという事実を忘れて、探し回った。
その時ゼニフに目の前を横切った子供の姿が目に入った。それは自分に良くしてくれた友人の孫であったが、柔らかそうな金髪が娘にそっくりだった。
「……見つけた。」
ゼニフはその子供を抱き上げると、自分の空間へと放り込んだのだった。
その日の晩ゼニフは友人から娘の場所を聞かれるが、「知らない」と答える。
本当に娘だと思い込むゼニフには心当たりがなかった。その時開いたゼニフの空間から声が漏れた。
彼の、友人の愛する孫の声だった。
ゼニフは、その瞬間何を思ったのか「じゃあお前も俺の宝物に入れてやる」というと友人を空間に入れた。
明け方、一人の商人が通りがかった。いつもならこの時間ににぎわうはずの市場に誰もいなくて、いつの間にか無人の町になってしまった。
「————というのが本当に話。つまり俺が言いたいのは一夜にしてクピディダスの呪いにかかった人間が街を滅ぼしたということです。」
しらなかった。幼いころから知ってるはずなのに、そんな物語があったなんて考えたことがなかった。
「なので、この空間でのんきに生活していたあなたが絶対に主だと思っていましたが…。実際の洞窟だと言い張る変な人しかいなくて、今に至ります。」
仮面野郎はこちらに視線を向けるとあろうことか本人に同意を求めてきた。
「いやそうするなら、仮面野郎だって十分に怪しい」
「…か、仮面野郎?僕のことですか?」
(あ。さっきからずっとそう呼んでいたから)
ユウリは咄嗟に口に封をした。態度の差が激しいこの男に少し不機嫌になりながらも、さすがに悪い呼び名だったなと思った。そうして下手くそな話題の替え方をする。
「———ま、まあそのことは置いといてさ、あんたはここをエイデン将軍の庭だって言っていたけどどうしてそうなるんだ?」
「僕もそのことが気になっていました。本来同じ空間にいるものは所有者の意思で同じ景色にいるはず。しかしそうではないということは、あなたがその影響を受けていないということで、…あなたは高位魔術師だったんですか?」
「……いや?俺はただの剣士だが?」
(…俺が高位魔術師?なことはあるわけないだろ。)
両親はれっきとした冒険者だったし、ユウリは魔法で生活を良くするくらいのことしかしたことがない。そもそも高位っていうのはシュウみたいな器用な奴のことを言うんだ、と心の中で思った。
「そうなのか…そうなるとますます奇妙だな。俺は人の空間を移動できるからこの景色が見えるけど、そうじゃない人は何なんだ?」
そういうと悩むしぐさなのか右手を握りしめ、手を仮面の中心部に置くと一定のリズムで刻み始めた。一向に説明がつけられない状況にユウリもよくわからないけど異例の事態なんだなーと理解する。
「それより、お前は名前なんていう?今さっきから、心の声が漏れそうで仕方がない。」
「実際に漏れていましたけどね、—僕のことはハルと呼んでください。」
「ハルか、了解した、俺はユウリだ」
ハルはおどろいたように仮面の奥の瞳を見開くと、声を上げた。
「………ユウリ?…やはりあなたはユウリなのですか?」
突然、ハルはユウリの肩をつかんだ。
「ん?どっかで会った?」
いきなり驚いたようにするから、どこかで偶然会ったことがあるのかもしれない、とユウリは振り向いた。それにしても、どっかであったとして、その仮面では、顔なんてわからない。
あまり重く考えすぎず、ハルを見るも全く心当たりがなかった。
「…いや、こっちの勘違いという可能性もあるので、」
ハルはそのまま黙り込むと、ユウリがつけていた火の近くに寄った。
「…あれが?」
「そう、いつしかかわいい童話に変えられましたが、協会なんかにはそのまま残っているのもありますよ。」
仮面野郎はそういった。
ゼニフってあのゼニフ?あんな御伽噺がこれと同じというなら確かにそれは一大事だ。『ゼニフの秘密の扉』は古くからある子供向けの本だ。どこにでもあるようなごく普通の話で、なんも不思議なところはない。
「でもあれのどこが同じなんだ?あれは爺さんが大切なものをカバンに詰め込んでなくさないっていうだけじゃ?悪魔なんてみじんも出てこない。」
「違うよ?もしかして絵本しか読んだことないんじゃないですか?」
「違う?」
仮面野郎は「ああ」と言って頷くと語り始めた。
老人ゼニフは孤独だった。若いころに妻は死に、厄災で大事に育てていた娘を失った。
ゼニフは自分の大切な人を奪うこの世界に絶望した。
しかし幸いにもゼニフは周りの人間に恵まれていた。周りの人からの懸命な支援があってゼニフは絶望の淵から立ち直ることに成功したのだった。そこでゼニフはふと気づいた。
大切なものはなくならないように、しまっておけばいいじゃないかと。だからこの世に復讐するでもなく、大事なものは奪われない自分の空間にしまおうと大切なものをすべてしまったのだった。
そんなある日のことだった。ゼニフはいつものように妻の好きだったもの、娘の好きだったものをしまっていた。でもふとした瞬間に手を止めると、つぶやいたのだった。
「僕はどうしてここで一人でかき集めているんだろう?アンシアとわが娘セルディ―にも見せなくては」
ゼニフは愛しい妻と娘を探し始めた。
立ち直ったと思っていたゼニフは、やはり心の奥底で愛しい存在を諦められなかったのだ。
もうすでにこの世からいなくなってしまったという事実を忘れて、探し回った。
その時ゼニフに目の前を横切った子供の姿が目に入った。それは自分に良くしてくれた友人の孫であったが、柔らかそうな金髪が娘にそっくりだった。
「……見つけた。」
ゼニフはその子供を抱き上げると、自分の空間へと放り込んだのだった。
その日の晩ゼニフは友人から娘の場所を聞かれるが、「知らない」と答える。
本当に娘だと思い込むゼニフには心当たりがなかった。その時開いたゼニフの空間から声が漏れた。
彼の、友人の愛する孫の声だった。
ゼニフは、その瞬間何を思ったのか「じゃあお前も俺の宝物に入れてやる」というと友人を空間に入れた。
明け方、一人の商人が通りがかった。いつもならこの時間ににぎわうはずの市場に誰もいなくて、いつの間にか無人の町になってしまった。
「————というのが本当に話。つまり俺が言いたいのは一夜にしてクピディダスの呪いにかかった人間が街を滅ぼしたということです。」
しらなかった。幼いころから知ってるはずなのに、そんな物語があったなんて考えたことがなかった。
「なので、この空間でのんきに生活していたあなたが絶対に主だと思っていましたが…。実際の洞窟だと言い張る変な人しかいなくて、今に至ります。」
仮面野郎はこちらに視線を向けるとあろうことか本人に同意を求めてきた。
「いやそうするなら、仮面野郎だって十分に怪しい」
「…か、仮面野郎?僕のことですか?」
(あ。さっきからずっとそう呼んでいたから)
ユウリは咄嗟に口に封をした。態度の差が激しいこの男に少し不機嫌になりながらも、さすがに悪い呼び名だったなと思った。そうして下手くそな話題の替え方をする。
「———ま、まあそのことは置いといてさ、あんたはここをエイデン将軍の庭だって言っていたけどどうしてそうなるんだ?」
「僕もそのことが気になっていました。本来同じ空間にいるものは所有者の意思で同じ景色にいるはず。しかしそうではないということは、あなたがその影響を受けていないということで、…あなたは高位魔術師だったんですか?」
「……いや?俺はただの剣士だが?」
(…俺が高位魔術師?なことはあるわけないだろ。)
両親はれっきとした冒険者だったし、ユウリは魔法で生活を良くするくらいのことしかしたことがない。そもそも高位っていうのはシュウみたいな器用な奴のことを言うんだ、と心の中で思った。
「そうなのか…そうなるとますます奇妙だな。俺は人の空間を移動できるからこの景色が見えるけど、そうじゃない人は何なんだ?」
そういうと悩むしぐさなのか右手を握りしめ、手を仮面の中心部に置くと一定のリズムで刻み始めた。一向に説明がつけられない状況にユウリもよくわからないけど異例の事態なんだなーと理解する。
「それより、お前は名前なんていう?今さっきから、心の声が漏れそうで仕方がない。」
「実際に漏れていましたけどね、—僕のことはハルと呼んでください。」
「ハルか、了解した、俺はユウリだ」
ハルはおどろいたように仮面の奥の瞳を見開くと、声を上げた。
「………ユウリ?…やはりあなたはユウリなのですか?」
突然、ハルはユウリの肩をつかんだ。
「ん?どっかで会った?」
いきなり驚いたようにするから、どこかで偶然会ったことがあるのかもしれない、とユウリは振り向いた。それにしても、どっかであったとして、その仮面では、顔なんてわからない。
あまり重く考えすぎず、ハルを見るも全く心当たりがなかった。
「…いや、こっちの勘違いという可能性もあるので、」
ハルはそのまま黙り込むと、ユウリがつけていた火の近くに寄った。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる