23 / 42
1-22
しおりを挟む
花の香りが幾度かユウリの鼻にたどり着く。そうしているうちに鼻がこの匂いに慣れてきた。相変わらず、人を落ち着かせる効果でもあるのか、なんだかほっとするその匂いに安らぎを感じていると、ふと、ここに飛ばされる直前を思い出した。
(そういえば、ジュナファーさんのところで香った匂いとこの空間のにおいが似ている気がする)
ユウリはそんなことを考えながら、少し鼻を動かした。
ジュナファーの家で香った花のにおいのもとはどこだっただろうか。ジュナファーの家で確かに香ったエイデンのにおい。しかし目視ではエイデンはどこにも見当たらなくて、匂いを辿ってここに来た。
もしかしなくとも、ユウリがこの空間に連れてこられたことを考えれば、何らかの原因でこの空間への道が開けてしまったということではないのか。ユウリは一気にそのことの重要さに気づけた気がして、血の気が引く。
「———もしかして、この状況ってかなりヤバい状況…?」
「わかったんですか?」
ハルトは腕組みをしながら、踊りたようにこちらを振り向いた。
ユウリはすぐに考えればわかるようなことなのに、思考を放棄した自分に少しばかし嫌気がさしながらも、これからのことを考えた。
ハルがこの光景を見せたということは先の言葉通り少なからず、こちらに協力を求めているということだ。
「あれが見えますか?」
ハルが指で示した先には三人の子供たちが庭で遊んでいるのが見えた。
「人だ。」
ユウリはそう疑問を投げかける。そこには将軍の庭で普通に遊んでいる子供だった。
「あれは、…確かに人ですね」
「…俺と同じ?」
「似たようなものかもしれません。あなたは突然だったのかもしれませんが、あの子たちはここに閉じ込めた人のことを知って言うかもしれませんね。」
近くまで足を進めてもその子たちはこっちに気づきもしない。
なにやら、おままごとでもしているみたいで、「今日の晩御飯はどうしましょう、あなた」とか「そんなのも決めていないのかっ」っていう言い合いをしている。きっと彼女たちの親は旦那さんのほうが強いのだろう、そんなことを思い浮かべると、ユウリはその様子に鼻から笑いがこぼれた。
「君たちはここでなにをしているの?」
ハルは本当に近くまで寄ってしゃがみ込むと、その女の子たちの顔を覗き込んだ。女の子たちの陰に影に隠れていた男の子はいきなり現れた人物に驚いたようで、大きく間を見開いたまま体を固まらせる。気づいていない人に対してそんなに距離を詰めてから話しかけるなんて、怖い以外の何物でもないよなとユウリは思った。
「うわー、かっこいいお兄さん‼いつからそこにいらっしゃるましたの?」
髪を二つに結んだ女の子が固まったままの男の子を腕で勢いよく押しのけると、つたないお嬢様言葉でハルを出迎えた。
ユウリはさらっとかっこいいと述べた女の子に目をやった。仮面をかぶっている状態だから、本来の顔がわかるはずもないのだが、この女の子は仮面の下がイケメンだと信じているようだ。
「ハルっていうんだ。君たちはいつからここで遊んでいるの?」
「うーん、今日の朝からだよ。」
「今日の朝からか…。そっかありがとう。——もうそろそろお昼の時間じゃない?おうちに帰らなくていいの?」
ハルは薄っぺらの笑みを浮かべて三人の子供たちとおしゃべりをする。どうやらそのままおうちに連れて行ってもらう作戦をとるようだ。ユウリはその様子を後ろからずっと見ていると、ひとりずっと黙っていた女の子がユウリの服を引っ張った。その女の子はほかの二人とは違って顔の表情が少ないようだった。
まるで自分みたいだとユウリは思いながら、どうしたのかとハルを見習ってしゃがみこんだ。目を合わせると、その女の子の顔が思ったよりも白くって、体調が悪そうだった。
「…っわ、わたし、たちずっとここにいるの。ここはどこ?」
ユウリは目を大きく見開くと、どうすればいいかわからなくって、オロオロする。
「…え、」
「わたしたちぃ、ずっとここにいるの!ここはどこぉ!おかあさんとおとうさんは何処にいるの‼」
「おとうさぁん、おかあさぁん!うわぁあ」
指示かそうに見えたのに、全くそうではなかったらしい。けたたましい泣き声に思わず、眉にしわを寄せる。すると途端に糸が切れたように男の子も泣き始めて、一番元気だった女の子も涙を流し始めた。周りが一気にうるさくなって、穏やかな空気に耳を劈くような声が響いた。
一番戸惑ったのはユウリだと思われた。誰かに泣かれるほど、人とかかわりを持ったことなんて数えるくらいだし、小さい子供たちの泣き止ませ方なんて、微塵も知らない。
「え、ええ。ど、どうしよう。どうすればいい?」
ユウリは状況がよくわからなくて、咄嗟にハルを振り向いた。ハルは笑みを固定したまま固まってしまっていて、ユウリよりも少し青ざめた表情をしていた。
(そういえば、ジュナファーさんのところで香った匂いとこの空間のにおいが似ている気がする)
ユウリはそんなことを考えながら、少し鼻を動かした。
ジュナファーの家で香った花のにおいのもとはどこだっただろうか。ジュナファーの家で確かに香ったエイデンのにおい。しかし目視ではエイデンはどこにも見当たらなくて、匂いを辿ってここに来た。
もしかしなくとも、ユウリがこの空間に連れてこられたことを考えれば、何らかの原因でこの空間への道が開けてしまったということではないのか。ユウリは一気にそのことの重要さに気づけた気がして、血の気が引く。
「———もしかして、この状況ってかなりヤバい状況…?」
「わかったんですか?」
ハルトは腕組みをしながら、踊りたようにこちらを振り向いた。
ユウリはすぐに考えればわかるようなことなのに、思考を放棄した自分に少しばかし嫌気がさしながらも、これからのことを考えた。
ハルがこの光景を見せたということは先の言葉通り少なからず、こちらに協力を求めているということだ。
「あれが見えますか?」
ハルが指で示した先には三人の子供たちが庭で遊んでいるのが見えた。
「人だ。」
ユウリはそう疑問を投げかける。そこには将軍の庭で普通に遊んでいる子供だった。
「あれは、…確かに人ですね」
「…俺と同じ?」
「似たようなものかもしれません。あなたは突然だったのかもしれませんが、あの子たちはここに閉じ込めた人のことを知って言うかもしれませんね。」
近くまで足を進めてもその子たちはこっちに気づきもしない。
なにやら、おままごとでもしているみたいで、「今日の晩御飯はどうしましょう、あなた」とか「そんなのも決めていないのかっ」っていう言い合いをしている。きっと彼女たちの親は旦那さんのほうが強いのだろう、そんなことを思い浮かべると、ユウリはその様子に鼻から笑いがこぼれた。
「君たちはここでなにをしているの?」
ハルは本当に近くまで寄ってしゃがみ込むと、その女の子たちの顔を覗き込んだ。女の子たちの陰に影に隠れていた男の子はいきなり現れた人物に驚いたようで、大きく間を見開いたまま体を固まらせる。気づいていない人に対してそんなに距離を詰めてから話しかけるなんて、怖い以外の何物でもないよなとユウリは思った。
「うわー、かっこいいお兄さん‼いつからそこにいらっしゃるましたの?」
髪を二つに結んだ女の子が固まったままの男の子を腕で勢いよく押しのけると、つたないお嬢様言葉でハルを出迎えた。
ユウリはさらっとかっこいいと述べた女の子に目をやった。仮面をかぶっている状態だから、本来の顔がわかるはずもないのだが、この女の子は仮面の下がイケメンだと信じているようだ。
「ハルっていうんだ。君たちはいつからここで遊んでいるの?」
「うーん、今日の朝からだよ。」
「今日の朝からか…。そっかありがとう。——もうそろそろお昼の時間じゃない?おうちに帰らなくていいの?」
ハルは薄っぺらの笑みを浮かべて三人の子供たちとおしゃべりをする。どうやらそのままおうちに連れて行ってもらう作戦をとるようだ。ユウリはその様子を後ろからずっと見ていると、ひとりずっと黙っていた女の子がユウリの服を引っ張った。その女の子はほかの二人とは違って顔の表情が少ないようだった。
まるで自分みたいだとユウリは思いながら、どうしたのかとハルを見習ってしゃがみこんだ。目を合わせると、その女の子の顔が思ったよりも白くって、体調が悪そうだった。
「…っわ、わたし、たちずっとここにいるの。ここはどこ?」
ユウリは目を大きく見開くと、どうすればいいかわからなくって、オロオロする。
「…え、」
「わたしたちぃ、ずっとここにいるの!ここはどこぉ!おかあさんとおとうさんは何処にいるの‼」
「おとうさぁん、おかあさぁん!うわぁあ」
指示かそうに見えたのに、全くそうではなかったらしい。けたたましい泣き声に思わず、眉にしわを寄せる。すると途端に糸が切れたように男の子も泣き始めて、一番元気だった女の子も涙を流し始めた。周りが一気にうるさくなって、穏やかな空気に耳を劈くような声が響いた。
一番戸惑ったのはユウリだと思われた。誰かに泣かれるほど、人とかかわりを持ったことなんて数えるくらいだし、小さい子供たちの泣き止ませ方なんて、微塵も知らない。
「え、ええ。ど、どうしよう。どうすればいい?」
ユウリは状況がよくわからなくて、咄嗟にハルを振り向いた。ハルは笑みを固定したまま固まってしまっていて、ユウリよりも少し青ざめた表情をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる