エイデン~一度死んだ俺はもう一度世界を旅する~

咲夜

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花の香りが幾度かユウリの鼻にたどり着く。そうしているうちに鼻がこの匂いに慣れてきた。相変わらず、人を落ち着かせる効果でもあるのか、なんだかほっとするその匂いに安らぎを感じていると、ふと、ここに飛ばされる直前を思い出した。

(そういえば、ジュナファーさんのところで香った匂いとこの空間のにおいが似ている気がする)

ユウリはそんなことを考えながら、少し鼻を動かした。
ジュナファーの家で香った花のにおいのもとはどこだっただろうか。ジュナファーの家で確かに香ったエイデンのにおい。しかし目視ではエイデンはどこにも見当たらなくて、匂いを辿ってここに来た。
もしかしなくとも、ユウリがこの空間に連れてこられたことを考えれば、何らかの原因でこの空間への道が開けてしまったということではないのか。ユウリは一気にそのことの重要さに気づけた気がして、血の気が引く。

「———もしかして、この状況ってかなりヤバい状況…?」

「わかったんですか?」

ハルトは腕組みをしながら、踊りたようにこちらを振り向いた。
ユウリはすぐに考えればわかるようなことなのに、思考を放棄した自分に少しばかし嫌気がさしながらも、これからのことを考えた。
ハルがこの光景を見せたということは先の言葉通り少なからず、こちらに協力を求めているということだ。

「あれが見えますか?」

ハルが指で示した先には三人の子供たちが庭で遊んでいるのが見えた。

「人だ。」

ユウリはそう疑問を投げかける。そこには将軍の庭で普通に遊んでいる子供だった。

「あれは、…確かに人ですね」

「…俺と同じ?」

「似たようなものかもしれません。あなたは突然だったのかもしれませんが、あの子たちはここに閉じ込めた人のことを知って言うかもしれませんね。」

近くまで足を進めてもその子たちはこっちに気づきもしない。
なにやら、おままごとでもしているみたいで、「今日の晩御飯はどうしましょう、あなた」とか「そんなのも決めていないのかっ」っていう言い合いをしている。きっと彼女たちの親は旦那さんのほうが強いのだろう、そんなことを思い浮かべると、ユウリはその様子に鼻から笑いがこぼれた。

「君たちはここでなにをしているの?」

ハルは本当に近くまで寄ってしゃがみ込むと、その女の子たちの顔を覗き込んだ。女の子たちの陰に影に隠れていた男の子はいきなり現れた人物に驚いたようで、大きく間を見開いたまま体を固まらせる。気づいていない人に対してそんなに距離を詰めてから話しかけるなんて、怖い以外の何物でもないよなとユウリは思った。

「うわー、かっこいいお兄さん‼いつからそこにいらっしゃるましたの?」

髪を二つに結んだ女の子が固まったままの男の子を腕で勢いよく押しのけると、つたないお嬢様言葉でハルを出迎えた。

ユウリはさらっとかっこいいと述べた女の子に目をやった。仮面をかぶっている状態だから、本来の顔がわかるはずもないのだが、この女の子は仮面の下がイケメンだと信じているようだ。

「ハルっていうんだ。君たちはいつからここで遊んでいるの?」

「うーん、今日の朝からだよ。」

「今日の朝からか…。そっかありがとう。——もうそろそろお昼の時間じゃない?おうちに帰らなくていいの?」

ハルは薄っぺらの笑みを浮かべて三人の子供たちとおしゃべりをする。どうやらそのままおうちに連れて行ってもらう作戦をとるようだ。ユウリはその様子を後ろからずっと見ていると、ひとりずっと黙っていた女の子がユウリの服を引っ張った。その女の子はほかの二人とは違って顔の表情が少ないようだった。
まるで自分みたいだとユウリは思いながら、どうしたのかとハルを見習ってしゃがみこんだ。目を合わせると、その女の子の顔が思ったよりも白くって、体調が悪そうだった。

「…っわ、わたし、たちずっとここにいるの。ここはどこ?」

ユウリは目を大きく見開くと、どうすればいいかわからなくって、オロオロする。

「…え、」

「わたしたちぃ、ずっとここにいるの!ここはどこぉ!おかあさんとおとうさんは何処にいるの‼」

「おとうさぁん、おかあさぁん!うわぁあ」

指示かそうに見えたのに、全くそうではなかったらしい。けたたましい泣き声に思わず、眉にしわを寄せる。すると途端に糸が切れたように男の子も泣き始めて、一番元気だった女の子も涙を流し始めた。周りが一気にうるさくなって、穏やかな空気に耳を劈くような声が響いた。

一番戸惑ったのはユウリだと思われた。誰かに泣かれるほど、人とかかわりを持ったことなんて数えるくらいだし、小さい子供たちの泣き止ませ方なんて、微塵も知らない。

「え、ええ。ど、どうしよう。どうすればいい?」

ユウリは状況がよくわからなくて、咄嗟にハルを振り向いた。ハルは笑みを固定したまま固まってしまっていて、ユウリよりも少し青ざめた表情をしていた。
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