30 / 42
1-29
しおりを挟む
「あ、おかーさん!」
ユウリが焦って大剣を押しとどめるその瞬間に、あろうことかジュリィが嬉しそうにその女性に笑いかけた。焦っていたことがまるで嘘みたいだ。腕の肘から先が泥のようになっていて、いかにももう人間ではないその人に屈託もなく笑う。ジュリィたちはもしかしたらそのことにでさえ気づいていないのかもしれない。
「——お母さんって彼女はジュリィのお母さんなの?」
ハルがそういうと、ジュリィは嬉しそうに頷いた。その女性は少しふっくらとしていて、茶色い髪と目元からジュリィの母親だということが伝わる。
淡い珊瑚色のエプロンをつけて、出てきた様子は全くこの空間にそぐわなくって、先までのエイデンの庭にいるみたいだった。まるでその時からそのまま出てきたようなそんな感じなのだ。
ユウリをここに連れてきたような禍々しいなんてそんなものない、本当にただの人なのだ。
あろうことかその女性は子供たちを抱えるでもなくて、抱きしめた後にユウリのほうへ強く押すと、ジュリィ達には見えないように口をわずかに動かして、ニコッと笑う。
「…え?」
音の一つも立てなかった唇にユウリたちは表情を曇らせる。
ジュリィたちはそれには気づかなかったけれど、少し不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、母親に背中を押されたことに抗議する。
「そうですね、…いそぎましょうか。」
母親はその場から動かないで、じっとこっちを見つめたままで子供たちはますます不満を募らせる。
「ええー、おかーさんと一緒がいい。お兄ちゃんおろして。」
「…でも降りるのはだめだ。」
「君たちの母親はまだやることがあるようだな。ほらお嬢さん方一緒に来てくれますか?」
シュウの猫かぶったその声に子供たちは目をぱちくりさせると、嬉しそうに笑った。
————————
先ほどよりも少し落ち着いた場所でユウリは子供たちを下ろす。
「ここに、三人で並ぶ」
三人を横一列に並べる。
「じゃあ、いまから元の場所に戻すけれど、危ないからこのままでいて?」
ハルは首をかしげてから、バッと手をかざすと、淡い黄色い色を放った魔法陣が三人の足元に描かれた。弦のように光が動き始める。
首の傾げ方といい、相手に対して態度を正反対に変えるところと言い、この二人が兄弟だと知った後は本当に似ているとしか言いようがなかった。
「ねぇ、おばさんとお兄ちゃんたちは一緒に行かないの?」
ミリーがなんだか不安そうに足元の魔法陣を見て、ハルを見た。
「あとでそっちに行くからそれまで待っていてね」
ハルたちがいなくなる不安からか子供たちは少し表情を曇らせた。ハルは相変わらず優しそうな声で子供たちを慰めるし、今さっき合流したはずのシュウだって何も言わないで立っているものの、子供たちの態度に少し困ったように、頼られてうれしいように微笑んだ。
その表情にユウリはなんだか胸のあたりが何もなくなったみたいになって何もない胸に指先を伸ばした。そうして二人だった時に見えていたものの本当の姿に気づかされる。
——シュウはみんなに優しい。
友人がそう多くないユウリにとってシュウのように自分と長く一緒にいてくれる人は貴重だ。だからユウリにとって短かい時間でこんなに仲良くなったシュウは特別だった。でもシュウにとって自分は大勢の一人にすぎなかったんだなと分からされる。だからこんな場合でも、少し特別かもしれないと思っていた自分に鼻で笑いたくなった。
「用事が終わったらすぐに追いつくよ、だから心配しないで待っていて。」
「…ああ間違いない。」
その言葉に安心したのかずっと握り続けていた手を離す。
ユウリ達にはまだこの空間でやることが残っている。今ここで子供たちを元の場所へ帰したところで元凶がいなくなるわけではない。クピディダスの悪魔を見つけなければ、また同じことが繰り返されることになるのだ。
この子たちがどこから来ていて、いつからここにとらわれているのか戻った時にはすべて夢になっていればいいと思った。
淡い色を放っていたはずの光が一気に強くなると、あっという間に目の前が眩しい光に包まれる。ユウリがこの光景初めて見た時と同じようなそんな感じの光だ。
『行ってらっしゃい』
腕がもう人ではなかった。ユウリはあの時にクピディダスの空間の中が、人にとって危険という本当の意味が分かったような気がした。
———もしあれがこの世界に取り込まれた人のなりの果てだったら?
もともはクピディダスはただの空間魔法の領域だ。創造物を作る達人ならまだしも、魔法の中で魔法は融合し形を保つことは難しい。
魔法は時に愛を、時に忠誠を、時に破壊をあたえる。その意味は使い方によればそれは千にも万にも使いようがあって使い方を間違えれば、愛する人をも殺す凶器。
ハルの胸元にあったペンダントが魔法語で刻まれていたように、古くから人はそれを重要なものとして扱う。ユウリは自身に刻まれた紋章に指を這わせながら思った。ユウリの両親が残したものもユウリにはもうただの呪いでしかないのかもしれない。
ユウリが焦って大剣を押しとどめるその瞬間に、あろうことかジュリィが嬉しそうにその女性に笑いかけた。焦っていたことがまるで嘘みたいだ。腕の肘から先が泥のようになっていて、いかにももう人間ではないその人に屈託もなく笑う。ジュリィたちはもしかしたらそのことにでさえ気づいていないのかもしれない。
「——お母さんって彼女はジュリィのお母さんなの?」
ハルがそういうと、ジュリィは嬉しそうに頷いた。その女性は少しふっくらとしていて、茶色い髪と目元からジュリィの母親だということが伝わる。
淡い珊瑚色のエプロンをつけて、出てきた様子は全くこの空間にそぐわなくって、先までのエイデンの庭にいるみたいだった。まるでその時からそのまま出てきたようなそんな感じなのだ。
ユウリをここに連れてきたような禍々しいなんてそんなものない、本当にただの人なのだ。
あろうことかその女性は子供たちを抱えるでもなくて、抱きしめた後にユウリのほうへ強く押すと、ジュリィ達には見えないように口をわずかに動かして、ニコッと笑う。
「…え?」
音の一つも立てなかった唇にユウリたちは表情を曇らせる。
ジュリィたちはそれには気づかなかったけれど、少し不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、母親に背中を押されたことに抗議する。
「そうですね、…いそぎましょうか。」
母親はその場から動かないで、じっとこっちを見つめたままで子供たちはますます不満を募らせる。
「ええー、おかーさんと一緒がいい。お兄ちゃんおろして。」
「…でも降りるのはだめだ。」
「君たちの母親はまだやることがあるようだな。ほらお嬢さん方一緒に来てくれますか?」
シュウの猫かぶったその声に子供たちは目をぱちくりさせると、嬉しそうに笑った。
————————
先ほどよりも少し落ち着いた場所でユウリは子供たちを下ろす。
「ここに、三人で並ぶ」
三人を横一列に並べる。
「じゃあ、いまから元の場所に戻すけれど、危ないからこのままでいて?」
ハルは首をかしげてから、バッと手をかざすと、淡い黄色い色を放った魔法陣が三人の足元に描かれた。弦のように光が動き始める。
首の傾げ方といい、相手に対して態度を正反対に変えるところと言い、この二人が兄弟だと知った後は本当に似ているとしか言いようがなかった。
「ねぇ、おばさんとお兄ちゃんたちは一緒に行かないの?」
ミリーがなんだか不安そうに足元の魔法陣を見て、ハルを見た。
「あとでそっちに行くからそれまで待っていてね」
ハルたちがいなくなる不安からか子供たちは少し表情を曇らせた。ハルは相変わらず優しそうな声で子供たちを慰めるし、今さっき合流したはずのシュウだって何も言わないで立っているものの、子供たちの態度に少し困ったように、頼られてうれしいように微笑んだ。
その表情にユウリはなんだか胸のあたりが何もなくなったみたいになって何もない胸に指先を伸ばした。そうして二人だった時に見えていたものの本当の姿に気づかされる。
——シュウはみんなに優しい。
友人がそう多くないユウリにとってシュウのように自分と長く一緒にいてくれる人は貴重だ。だからユウリにとって短かい時間でこんなに仲良くなったシュウは特別だった。でもシュウにとって自分は大勢の一人にすぎなかったんだなと分からされる。だからこんな場合でも、少し特別かもしれないと思っていた自分に鼻で笑いたくなった。
「用事が終わったらすぐに追いつくよ、だから心配しないで待っていて。」
「…ああ間違いない。」
その言葉に安心したのかずっと握り続けていた手を離す。
ユウリ達にはまだこの空間でやることが残っている。今ここで子供たちを元の場所へ帰したところで元凶がいなくなるわけではない。クピディダスの悪魔を見つけなければ、また同じことが繰り返されることになるのだ。
この子たちがどこから来ていて、いつからここにとらわれているのか戻った時にはすべて夢になっていればいいと思った。
淡い色を放っていたはずの光が一気に強くなると、あっという間に目の前が眩しい光に包まれる。ユウリがこの光景初めて見た時と同じようなそんな感じの光だ。
『行ってらっしゃい』
腕がもう人ではなかった。ユウリはあの時にクピディダスの空間の中が、人にとって危険という本当の意味が分かったような気がした。
———もしあれがこの世界に取り込まれた人のなりの果てだったら?
もともはクピディダスはただの空間魔法の領域だ。創造物を作る達人ならまだしも、魔法の中で魔法は融合し形を保つことは難しい。
魔法は時に愛を、時に忠誠を、時に破壊をあたえる。その意味は使い方によればそれは千にも万にも使いようがあって使い方を間違えれば、愛する人をも殺す凶器。
ハルの胸元にあったペンダントが魔法語で刻まれていたように、古くから人はそれを重要なものとして扱う。ユウリは自身に刻まれた紋章に指を這わせながら思った。ユウリの両親が残したものもユウリにはもうただの呪いでしかないのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
分厚いメガネ令息の非日常
餅粉
BL
「こいつは俺の女だ。手を出したらどうなるかわかるよな」
「シノ様……素敵!」
おかしい。おかしすぎる!恥ずかしくないのか?高位貴族が平民の女学生に俺の女ってしかもお前は婚約者いるだろうが!!
その女学生の周りにはお慕いしているであろう貴族数名が立っていた。
「ジュリーが一番素敵だよ」
「そうだよ!ジュリーが一番可愛いし美人だし素敵だよ!!」
「……うん。ジュリーの方が…素敵」
ほんと何この状況、怖い!怖いすぎるぞ!あと妙にキモい
「先輩、私もおかしいと思います」
「だよな!」
これは真面目に学生生活を送ろうとする俺の日常のお話
※長くなりそうでしたら長編へ変更します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ヒーロー組織のサポートメンバーになりました!
はちのす
BL
朝起きたら、街はゾンビだらけ!生き残りたい俺は、敵に立ち向かうヒーロー組織<ビジランテ>に出逢った。
********
癖の強いヒーロー達の"心と胃の拠り所"になるストーリー!
※ちょっとイチャつきます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる