エイデン~一度死んだ俺はもう一度世界を旅する~

咲夜

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「あ、おかーさん!」

ユウリが焦って大剣を押しとどめるその瞬間に、あろうことかジュリィが嬉しそうにその女性に笑いかけた。焦っていたことがまるで嘘みたいだ。腕の肘から先が泥のようになっていて、いかにももう人間ではないその人に屈託もなく笑う。ジュリィたちはもしかしたらそのことにでさえ気づいていないのかもしれない。

「——お母さんって彼女はジュリィのお母さんなの?」

ハルがそういうと、ジュリィは嬉しそうに頷いた。その女性は少しふっくらとしていて、茶色い髪と目元からジュリィの母親だということが伝わる。
淡い珊瑚色のエプロンをつけて、出てきた様子は全くこの空間にそぐわなくって、先までのエイデンの庭にいるみたいだった。まるでその時からそのまま出てきたようなそんな感じなのだ。

ユウリをここに連れてきたような禍々しいなんてそんなものない、本当にただの人なのだ。
あろうことかその女性は子供たちを抱えるでもなくて、抱きしめた後にユウリのほうへ強く押すと、ジュリィ達には見えないように口をわずかに動かして、ニコッと笑う。

「…え?」

音の一つも立てなかった唇にユウリたちは表情を曇らせる。
ジュリィたちはそれには気づかなかったけれど、少し不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、母親に背中を押されたことに抗議する。

「そうですね、…いそぎましょうか。」

母親はその場から動かないで、じっとこっちを見つめたままで子供たちはますます不満を募らせる。

「ええー、おかーさんと一緒がいい。お兄ちゃんおろして。」

「…でも降りるのはだめだ。」

「君たちの母親はまだやることがあるようだな。ほらお嬢さん方一緒に来てくれますか?」

シュウの猫かぶったその声に子供たちは目をぱちくりさせると、嬉しそうに笑った。

————————

先ほどよりも少し落ち着いた場所でユウリは子供たちを下ろす。

「ここに、三人で並ぶ」

三人を横一列に並べる。

「じゃあ、いまから元の場所に戻すけれど、危ないからこのままでいて?」

ハルは首をかしげてから、バッと手をかざすと、淡い黄色い色を放った魔法陣が三人の足元に描かれた。弦のように光が動き始める。
首の傾げ方といい、相手に対して態度を正反対に変えるところと言い、この二人が兄弟だと知った後は本当に似ているとしか言いようがなかった。

「ねぇ、おばさんとお兄ちゃんたちは一緒に行かないの?」

ミリーがなんだか不安そうに足元の魔法陣を見て、ハルを見た。

「あとでそっちに行くからそれまで待っていてね」

ハルたちがいなくなる不安からか子供たちは少し表情を曇らせた。ハルは相変わらず優しそうな声で子供たちを慰めるし、今さっき合流したはずのシュウだって何も言わないで立っているものの、子供たちの態度に少し困ったように、頼られてうれしいように微笑んだ。

その表情にユウリはなんだか胸のあたりが何もなくなったみたいになって何もない胸に指先を伸ばした。そうして二人だった時に見えていたものの本当の姿に気づかされる。


——シュウはみんなに優しい。


友人がそう多くないユウリにとってシュウのように自分と長く一緒にいてくれる人は貴重だ。だからユウリにとって短かい時間でこんなに仲良くなったシュウは特別だった。でもシュウにとって自分は大勢の一人にすぎなかったんだなと分からされる。だからこんな場合でも、少し特別かもしれないと思っていた自分に鼻で笑いたくなった。

「用事が終わったらすぐに追いつくよ、だから心配しないで待っていて。」

「…ああ間違いない。」

その言葉に安心したのかずっと握り続けていた手を離す。

ユウリ達にはまだこの空間でやることが残っている。今ここで子供たちを元の場所へ帰したところで元凶がいなくなるわけではない。クピディダスの悪魔を見つけなければ、また同じことが繰り返されることになるのだ。
この子たちがどこから来ていて、いつからここにとらわれているのか戻った時にはすべて夢になっていればいいと思った。


淡い色を放っていたはずの光が一気に強くなると、あっという間に目の前が眩しい光に包まれる。ユウリがこの光景初めて見た時と同じようなそんな感じの光だ。

『行ってらっしゃい』


腕がもう人ではなかった。ユウリはあの時にクピディダスの空間の中が、人にとって危険という本当の意味が分かったような気がした。

———もしあれがこの世界に取り込まれた人のなりの果てだったら?

もともはクピディダスはただの空間魔法の領域だ。創造物を作る達人ならまだしも、魔法の中で魔法は融合し形を保つことは難しい。

魔法は時に愛を、時に忠誠を、時に破壊をあたえる。その意味は使い方によればそれは千にも万にも使いようがあって使い方を間違えれば、愛する人をも殺す凶器。

ハルの胸元にあったペンダントが魔法語で刻まれていたように、古くから人はそれを重要なものとして扱う。ユウリは自身に刻まれた紋章に指を這わせながら思った。ユウリの両親が残したものもユウリにはもうただの呪いでしかないのかもしれない。
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