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番外編2-2
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普段ならこんな失敗はそうそうしないのに一日後に二回も体勢を崩すなんて、これはかわいいですませるようなものじゃない、どんくさいの一言に限ると頭の隅でそんなことを思う。
空中で体をよじってうまく着地しようと視線を後ろに向けると、そこに驚いた顔のシュウがたっていた。
「んなっ!」
しかし心臓のあたりがヒヤッとするのと同時にどういうわけかシュウがとっさに引っ張ってユウリを抱え込んだ。一瞬何も聞こえないような感覚に陥った後に家の中では聞かないような大きな音が響いた。
ゴンッ
あろうことかかばってくれたシュウの頭がベッドのふちに当たってしまった。
「いっ・・・。」
よほど痛かったのかその先の言葉が言葉になっていないが、俺を抱え込んだ腕が強くなったので痛さをこらえていることは間違いない。
「シュウ!!ごめん、こんどはどこを怪我した?」
自分のせいでまたケガさせてしまった。とにかく腕の中から抜ける。
「大丈夫だ」と強がって見せるシュウを結局ベッドにうつ伏せに寝かせ、頭も今日つけた背中の傷もどちらも確認しようと服をめくる。かなり強く打ち付けていたことがわかるように頭はどこかたんこぶが出来ているような気がする。
本当に申し訳ないことをした。
いくらか軟膏を手に取ってぶつけたところへ塗る。
塗ることに集中しすぎて気づけなかったが、いい筋肉の付き方だ。声にならない感嘆をあげる。純粋に同じ男としてうらやましい。
初めて会った時はとにかく植物魔法がすごくて上級魔法使いなんだとわかった。でもこの体を見ると剣術もいけそうで、ますますどこの人だろうかと疑問が浮かんだ。
魔法使いってのはひょろひょろなはずなのに。
ユウリが内心そんなことを考えているとも知らず、シュウはされるがままだ。ふとシュウの後頭部に目を向けた。そこにはさきほど打ち付けた頭が目に入って、思わず見つめた。しかし、申し訳なさよりも今はシュウの銀髪と切れ長の瞳にたんこぶというどう考えてもおかしい組み合わせにじわじわと笑いが込み上げてきた。
「お前なんで笑ってんだ?」
「いや、だって…ははっ!」
性に合わず声が出てしまうが一度出た声は止められるわけがなくて薬を塗る手も震えだした。シュウがあっけにとられたように顔をこちらに向けて、うれしいような嬉しくないような微妙な表情をした。
そうしてシュウが目をそらすものだからユウリは瞬時に思った。
理想の体だと思って触りすぎたかもしれない。ここまで塗ってから恥ずかしそうにするなんてどこの乙女なんだ。と、ユウリはシュウの反応を面白がるともっと面白いものが見たい気がして、……今さっきケガさせたことも忘れて、いたずらしたくなったのはしょうがないと思ってほしい。
恥ずかしがっている人に手を出したくなるのは人の性ってものだ。
ひとまず塗るふりをして首筋あたりから指先でくすぐる。それにくすぐったさを感じたのか背中が反応する。ははは。これは面白い。
「おい、おまえなんか遊んでないか?」
「なに言ってる?まじめにやってる。動くな、塗りにくいだろうが…。」
口元が緩まないように意識しながらまじめにやる。
そっと手を伸ばしたはずだが、やっぱり遊んでいたこと分かったのか、勢いよく振り向くとそのまま手をつかんで引っ張られた。
「塗り終わったら遊ぶな、くすぐったいだろ?」
少し顔を顰めてそういうと布団をかぶってしまう、俺の手を握ったまま。
「もういいのか?」
「これ以上遊び道具にするんじゃねぇ…。」
やっぱりバレていたのかと片手に持っていた薬瓶をベッド横の机に置く。シュウがベッドに入ることを観念したみたいだからユウリはこれを機にソファーに移動しようとシュウの手を離そうとした。
「…手を放せ。これだと戻れない」
そのままベッドを使ってくれるという気になったのはいいものの、かたく握る手はユウリの行動を遮る。シュウは握力も強いらしい。
「もういいだろ、どうせベッドを俺に譲るってんだったら一緒に寝てくれても…おまえがいたずらした罰だよ。残念だったな。寝ろ。」
そうやって狭いベッドから落ちないようにユウリの手を離す代わりに腕の中に入れる。
「おい、話を聞け。」
しかしシュウはいかにも眠そうモード全開でさらに抱え込む。
ユウリの手元からはシュウに塗った薬のにおいが充満していてせめて手を洗わせてほしかった。しかし目を離した途端に気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
シュウとは野宿などしたことがなかったうえにシュウのほうが早起きだったから寝顔なんて見たことがなかったのだ。
初めて見るその顔につい見とれた。本当にこうしているとまるで陶器人形みたいだ。
(いや、いやお前は寝やすくっても俺は寝にくいんだけど。)
人の眠気はこちらも眠くする。
(まだやることがあるのに。しょうがねえなあ。…そういえば、本当はあんなにくちが悪いんだな。)
なんだか肌寒くて目を覚ました。
いつの間にか隣で寝ていたはずの人はもうすでに起床済みだったみたいで、なんとなくさみしさを覚える。手で名残惜しそうにさわってみるとほのかに暖かさが残っていてなんだかうれしくて頭を布団にこすりつける。なんだかまた眠くなってきた。
(ああ、そうか。そうしよう。)
ユウリはまだ眠たい頭で考えた。———起こされるまで寝ていることにしよう。
番外編2終わり
_________________________________________
お付き合いしてくださった皆様ありがとうございました。
続きは書き終え次第更新しますので、次更新するときに読んでくださるとうれしいです。
次回はかなり時間が空いてしまうかと思いますが生温かい目で見ておいてください…。
空中で体をよじってうまく着地しようと視線を後ろに向けると、そこに驚いた顔のシュウがたっていた。
「んなっ!」
しかし心臓のあたりがヒヤッとするのと同時にどういうわけかシュウがとっさに引っ張ってユウリを抱え込んだ。一瞬何も聞こえないような感覚に陥った後に家の中では聞かないような大きな音が響いた。
ゴンッ
あろうことかかばってくれたシュウの頭がベッドのふちに当たってしまった。
「いっ・・・。」
よほど痛かったのかその先の言葉が言葉になっていないが、俺を抱え込んだ腕が強くなったので痛さをこらえていることは間違いない。
「シュウ!!ごめん、こんどはどこを怪我した?」
自分のせいでまたケガさせてしまった。とにかく腕の中から抜ける。
「大丈夫だ」と強がって見せるシュウを結局ベッドにうつ伏せに寝かせ、頭も今日つけた背中の傷もどちらも確認しようと服をめくる。かなり強く打ち付けていたことがわかるように頭はどこかたんこぶが出来ているような気がする。
本当に申し訳ないことをした。
いくらか軟膏を手に取ってぶつけたところへ塗る。
塗ることに集中しすぎて気づけなかったが、いい筋肉の付き方だ。声にならない感嘆をあげる。純粋に同じ男としてうらやましい。
初めて会った時はとにかく植物魔法がすごくて上級魔法使いなんだとわかった。でもこの体を見ると剣術もいけそうで、ますますどこの人だろうかと疑問が浮かんだ。
魔法使いってのはひょろひょろなはずなのに。
ユウリが内心そんなことを考えているとも知らず、シュウはされるがままだ。ふとシュウの後頭部に目を向けた。そこにはさきほど打ち付けた頭が目に入って、思わず見つめた。しかし、申し訳なさよりも今はシュウの銀髪と切れ長の瞳にたんこぶというどう考えてもおかしい組み合わせにじわじわと笑いが込み上げてきた。
「お前なんで笑ってんだ?」
「いや、だって…ははっ!」
性に合わず声が出てしまうが一度出た声は止められるわけがなくて薬を塗る手も震えだした。シュウがあっけにとられたように顔をこちらに向けて、うれしいような嬉しくないような微妙な表情をした。
そうしてシュウが目をそらすものだからユウリは瞬時に思った。
理想の体だと思って触りすぎたかもしれない。ここまで塗ってから恥ずかしそうにするなんてどこの乙女なんだ。と、ユウリはシュウの反応を面白がるともっと面白いものが見たい気がして、……今さっきケガさせたことも忘れて、いたずらしたくなったのはしょうがないと思ってほしい。
恥ずかしがっている人に手を出したくなるのは人の性ってものだ。
ひとまず塗るふりをして首筋あたりから指先でくすぐる。それにくすぐったさを感じたのか背中が反応する。ははは。これは面白い。
「おい、おまえなんか遊んでないか?」
「なに言ってる?まじめにやってる。動くな、塗りにくいだろうが…。」
口元が緩まないように意識しながらまじめにやる。
そっと手を伸ばしたはずだが、やっぱり遊んでいたこと分かったのか、勢いよく振り向くとそのまま手をつかんで引っ張られた。
「塗り終わったら遊ぶな、くすぐったいだろ?」
少し顔を顰めてそういうと布団をかぶってしまう、俺の手を握ったまま。
「もういいのか?」
「これ以上遊び道具にするんじゃねぇ…。」
やっぱりバレていたのかと片手に持っていた薬瓶をベッド横の机に置く。シュウがベッドに入ることを観念したみたいだからユウリはこれを機にソファーに移動しようとシュウの手を離そうとした。
「…手を放せ。これだと戻れない」
そのままベッドを使ってくれるという気になったのはいいものの、かたく握る手はユウリの行動を遮る。シュウは握力も強いらしい。
「もういいだろ、どうせベッドを俺に譲るってんだったら一緒に寝てくれても…おまえがいたずらした罰だよ。残念だったな。寝ろ。」
そうやって狭いベッドから落ちないようにユウリの手を離す代わりに腕の中に入れる。
「おい、話を聞け。」
しかしシュウはいかにも眠そうモード全開でさらに抱え込む。
ユウリの手元からはシュウに塗った薬のにおいが充満していてせめて手を洗わせてほしかった。しかし目を離した途端に気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
シュウとは野宿などしたことがなかったうえにシュウのほうが早起きだったから寝顔なんて見たことがなかったのだ。
初めて見るその顔につい見とれた。本当にこうしているとまるで陶器人形みたいだ。
(いや、いやお前は寝やすくっても俺は寝にくいんだけど。)
人の眠気はこちらも眠くする。
(まだやることがあるのに。しょうがねえなあ。…そういえば、本当はあんなにくちが悪いんだな。)
なんだか肌寒くて目を覚ました。
いつの間にか隣で寝ていたはずの人はもうすでに起床済みだったみたいで、なんとなくさみしさを覚える。手で名残惜しそうにさわってみるとほのかに暖かさが残っていてなんだかうれしくて頭を布団にこすりつける。なんだかまた眠くなってきた。
(ああ、そうか。そうしよう。)
ユウリはまだ眠たい頭で考えた。———起こされるまで寝ていることにしよう。
番外編2終わり
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お付き合いしてくださった皆様ありがとうございました。
続きは書き終え次第更新しますので、次更新するときに読んでくださるとうれしいです。
次回はかなり時間が空いてしまうかと思いますが生温かい目で見ておいてください…。
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