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第1章 始まり
存在価値
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お父さんとお母さんは犯罪に関与して亡くなった。私はおばあちゃんに育てられた。でも、おばあちゃんも弱っていった。
「美羽?」
最後の日、私はあるものを託された。
「なあに、おばあちゃん?」
「そこの箪笥の上に置いてある木箱を取っておくれ。」
不思議だと思った。小さい時から、この木箱にだけは触らないように言われていた。B5サイズの紙と同じくらいの大きさで、厚みは5センチくらいある。
「これ?」
「そう。」
私は木箱をそっとおばあちゃんの膝の上に置いた。おばあちゃんはゆっくりと年寄りらしい手つきでそれを開けた。中にはペンダントが厳重そうに入っていた。
「おばあちゃん、これは?」
「大事な物よ。美羽がペガサスとして空へ羽ばたけるようになるための御守りよ。いつも着けていてね。」
「分かった。」
おばあちゃんから受け取ったペンダントにはペガサス座が描いてあり、星の部分には綺麗な石が埋め込まれていた。その後、おばあちゃんはすぐに亡くなって、ペンダントはおばあちゃんの形見ともなった。私はおばあちゃん達の遺産で高校へ進学した。
ここはトワイライト学園。夕陽のような真っ赤なブレザーに女子は金色のリボンで男子はネクタイ、グレーのプリーツスカートとスラックス、グレーのソックス。幼稚園、小学校、中学校、高校、大学。更に普通科、特別進学科、芸能科まである。
敷地内には寮も有り、部室棟もあり、学園内で実際にお給料が貰えるバイトやボランティア活動もできる。敷地内は大きく6つのエリアに別れ、中央にあるみんなの広場(図書館、大ホール、公園、落し物センター、学生寮等がある。)、その北側にある幼稚園、東に中学校と高校、南には小学校、西に大学とある。先生はどこにでも出入り可能で、生徒は許可があれば他の学校に入ることができた。学園内は最早1つの街のようでもある。
そんな中、トワイライト学園には不思議な伝説が1つあった。学園内の廊下には鏡が幾つか設置されているが、たまに、人が鏡の前から消えたり、現れたりすることがあるのだという。
後はたまに幽霊が出ることがあると言われている。でも幽霊騒ぎは滅多に聞かない。鏡の前から人が現れたり消えたりすることの方が余程有名らしい。
4月、桜が咲いていた。きっと私以外の人間の心にも咲いているのだろう。
ジリリリリリリ...!
学園内の寮の309号室に部屋を借りている。目覚ましの音で今日も私は目覚めた。ある朝起きたら、自分が誰かから必要とされる人間になってないかと僅かな希望を持って起き上がり、携帯を見るが、特に変わりない。
今日もいつもと変わらない一日が始まるのだろうと思った。起き出して、ジャージに着替え、走りに行く。まだ暗い時間のランニングは誰とも顔を合わせなくて済む。ランニングは誰かに必要とされたくて始めたかな。広場のランニングトラックを十周もすれば、いい運動になる。部屋に戻って着替えて朝ごはんを食べた。
目玉焼きを載せたパンとサラダ。いつもの味に何となく飽きてきた気もする。用意を済ませてさっさと部屋を出て、学校に入った。
美羽は下駄箱で靴を履き替えて、教室へ向かった。その途中には鏡がある。覗き込んだが、パッとしない自分に嫌気がさした。
天野美羽10月24日生まれ。16歳、トワイライト学園高等部2年A組。嫌いなものは他人。理由は1人でいる方が楽だから。見た目は長い髪をお下げにして、眼鏡をかけている。典型的な地味子らしい地味子。母譲りの綺麗だった肌には傷や痣が少しある。お母さんは殺し屋をしていたとか。警察に捕まって勿論死刑。でも、かなりの美人だったらしい。お父さんもその関連の人で、身体能力はすごく高いと聞いていた。私はその両方の遺伝子を受け継いでいるせいか、運動もできた。でも、天狗にはなりたくなかった。天狗になったら、両親たちのようになる...と、そんな気がしていたからだ。成績は学年トップだけど、順位の明かされる定期テストでは敢えて本気は出さない。模擬試験では校内で一位、全国順位もそこそこ良い。先生はそんな私を見て、もっと本気を出せと言ってくる。私は目立ちたくなかった。幸せになれるはずもないと思っていた。幸せになんてなってはいけないと思っていた。むしろ、誰かから蔑まれるのが当然だと思っていた。人殺しの娘なんてそんなふうに扱われて当然だと思っていた。
ドンッ!
その日の休み時間、誰かがぶつかった。下を向いて歩いてた私も悪いけど、お陰で今月で眼鏡が曲がるのは3度目だった。
「あらあら、ごめんなさい!眼鏡がダサすぎたのね。そこにいるの気付かなかったわ。」
「はい、コレ資料室に運んどいてね。」
悪意の籠った笑顔で、蛇蠍良才が言い、彼女に従う家来みたいな女子2人がクスクスと笑っていた。
私は蛇蠍から押し付けられた重い箱の資料を資料室に運び始めた。イジメなんてもう慣れてしまった。なんとも思わない。悔しくもない。ただ、人間は醜いものだなって思うだけ。気に入らない人間がいるとすぐに虐めたり、意地悪をするんだから。そんなんだったら誰とも深い関わりなんて持ちたくなかった。
「やっぱり自分で運ぶわ。」
蛇蝎は急に私から重い箱を奪い返して行ってしまった。先の方で
「獅雲羽くぅーん!」
という蛇蠍達の甲高い声が聞こえた。耳にキーンと響いて不快だった。獅雲羽というのは私の後ろの席に座っている男の子で、イケメンで女子からの人気が高い。私は別に嫌いではなかったが、特別に好きでもなかった。スポーツができる割には勉強が苦手なタイプで、彼は、所謂脳筋というやつだった。勿論、そんなヤツとは関わりたくなかった。
なのに...。
「あのさ、俺、天野のこと好きだ。大人しくて、意外と何でもできて、すごい...かっこいいなって思ってる。」
獅雲羽力という女子からの人気ナンバーワンの男から放課後に校舎裏に来いって言われたと思えば、告白?人生初の告白に何となく嬉しい気もした。けれど、すぐにいつもの自分に戻った。
「それで?」
私は冷たく返した。
「それだけだよ。人はいつ死ぬか分からないから伝えておこうと思って。」
的外れの返答に度肝を抜かれた。まるで、余命がもう何日も無い病人の発言みたいだった。
「バカみたい。」
私はその場を立ち去った。早く教室へ戻ろうと思っていると、蛇蠍とすれ違った。私は蛇蠍からキッと睨まれた。私は無視して花壇の方へ行った。
この世界で唯一と言っていい。花達は私と一緒に笑ってくれる。
「花が好きなの?」
花壇で聞こえる不思議な声が今日も語りかけてくる。
「ええ。花は私を裏切らないから。醜い人間と違って美しいから。散りゆく姿でさえ儚くて美しいから。まるで...」
「まるで、君の心を癒してくれるみたい?」
誰かは分からない優しい声が言った。「どうして私の言おうと思ってることが分かるの?いつも思うけど、あなたは誰なの?」
「裏の世界へ来てくれれば、僕に会えるよ。僕はいつも君を見守っている。」
風が巻き起こって、花びらを空へ散らした。手のひらに白い薔薇の花びらが落ちた。夢の中にいるみたいだった。花壇の後ろにしゃがんで見る空は綺麗だった。何度か風が起こって花びらを散らした。
裏の世界ってなんなんだろう?あの声の主は一体どんな人なんだろう?私を必要としてくれるかしら?
そして遠くから悲鳴が聞こえた。しかも1つではなかった。ただ事ならぬ気配を感じた。花達はざわめいていた。
(どうしてアンタが...?)
まるで私に憎しみを向けているかのような、そんな声が聞こえた。花壇を見るとマリーゴールドが眩しく咲いていた。
(...どうして私じゃないの...?)
誰?頭が痛い!私は思わず耳を塞いだ。
しかし、私を憎む声は私の心に直接響いてきた。
「助けてー!」
校舎の方から聞こえてくる数々の悲鳴があった。グラグラと地面が揺れて、ドーンと何かが崩れ落ちた音がした。助けに行かなくちゃ。私はポケットから耳栓を取り出してつけた。
天野美羽は視覚や聴覚が過敏だった。耳栓は常にポケットに忍ばせており、ブルーライトカットの眼鏡や、サングラス、夏場は日傘も持ち歩いていた。
悲鳴のする方へ走っていくと、そこでは怪奇現象と呼ぶべき事態が起きていた。
空は闇色に。校舎は崩れ、生徒は散り散りに中央の広場の方へ駆けていく。
またドーンと音がして、美羽の上に校舎の角が崩れ落ちてきた。美羽は固まった。こんな状況に陥ったことはなかった。
「天野!」
獅雲羽がギリギリの所から救ってくれた。美羽は正気を取り戻した。
「危ないだろ!早く逃げろよ。」
「あ...、えと、ありがとう。」
「礼なんかいいから、早く...」
また巨大な瓦礫が降ってきた。
(どうして私じゃないのよ!)
また、声が頭の中に響いた。また獅雲羽が美羽を守った。獅雲羽は美羽を抱えて、物陰に隠れた。
「天野、しっかりしろ!...天野?お前それ...」
美羽はまた正気を取り戻した。目の前には獅雲羽力がいた。胸元のペンダントが熱かった。ペンダントを取り出すと、ペガサス座の軌跡に埋め込まれた石が光っていた。指先に触れているペンダントが暖かかった。
「お前、ガーディアンだったのかよ?」
「何?どういうこと?何が起きてるの?」
「もしかして、あのスピリットモンスター、見えてないのか?」
美羽は獅雲羽の指さした方向を見たが、確かに透明な何かが暴れているために、校舎が壊れているのは分かった。
「多分見えてない。何かが動いてるのは分かるけど。」
「なるほど、じゃ、裏の世界へ。」
「裏の世界?」
獅雲羽は左手首を口元に持っていき、こんなことを言い始めた。
「レオ!ここから1番近いゲートは?」
獅雲羽の左手首には金色の石が付いた腕時計が着いていた。
「1階下駄箱の近くの鏡だ。気をつけて来いよ、お嬢さんも!」
腕時計から低く、重みのある声で聞こえた。
「ちょっと待って、私も裏の世界に行くの?ガーディアンって何?スピリットモンスターって何?まさか、何かのモンスターと戦えなんて言うんじゃないでしょうね?」
美羽は立ち上がり、獅雲羽を拒絶するように離れた。対して獅雲羽は、はぁと溜息を着いたあと頭をかきながら立ち上がり、まっすぐ美羽を見た。
「お前が、必要なんだ。俺たちにとって、お前は居てもらわなくちゃ困る存在だ。だから...、頼む。」
獅雲羽は頭を下げた。
「命の保証は?」
「無い。けど、俺が絶対に守る。お前が好きだから。」
言葉から必死さが伝わってくる。
「...わかった。けど、私のことは守らなくていい。私は死にたいから。」
「は?生きろよ!」
パリンっとガラスにヒビが入るような音がまたした。私は涙を流していた。
「私には生きる価値なんてない!笑う価値もない!だったらせめて、誰かのために死んで、罪滅ぼししてやるんだから!」
「はぁ、お前面倒くさ。やっぱ嫌い。まあ、いいや。目的果たすまでは死ぬなよ。んじゃ行くぞ!」
獅雲羽は美羽の手を引いて下駄箱の近くの鏡の前に走った。そして左手首の金色の石を鏡に向けた。
「世界反転門、開門!」
獅雲羽は驚いている美羽を抱き上げて、鏡の中に入った。2人の体が鏡の中に入り切ると、鏡からは2人の姿は消えた。
1・2・3で、こんにちは!
千夏と書いてチカと読みます。この度はStar Guardiansをお読みいただきましてありがとうございます!
私は昔からファンタジー作品が大好きで様々な作品の影響を受けて育ちました。投稿は不定期ですが、少しでも多くの人に楽しい時間を感じられるように精進して参ります。
「美羽?」
最後の日、私はあるものを託された。
「なあに、おばあちゃん?」
「そこの箪笥の上に置いてある木箱を取っておくれ。」
不思議だと思った。小さい時から、この木箱にだけは触らないように言われていた。B5サイズの紙と同じくらいの大きさで、厚みは5センチくらいある。
「これ?」
「そう。」
私は木箱をそっとおばあちゃんの膝の上に置いた。おばあちゃんはゆっくりと年寄りらしい手つきでそれを開けた。中にはペンダントが厳重そうに入っていた。
「おばあちゃん、これは?」
「大事な物よ。美羽がペガサスとして空へ羽ばたけるようになるための御守りよ。いつも着けていてね。」
「分かった。」
おばあちゃんから受け取ったペンダントにはペガサス座が描いてあり、星の部分には綺麗な石が埋め込まれていた。その後、おばあちゃんはすぐに亡くなって、ペンダントはおばあちゃんの形見ともなった。私はおばあちゃん達の遺産で高校へ進学した。
ここはトワイライト学園。夕陽のような真っ赤なブレザーに女子は金色のリボンで男子はネクタイ、グレーのプリーツスカートとスラックス、グレーのソックス。幼稚園、小学校、中学校、高校、大学。更に普通科、特別進学科、芸能科まである。
敷地内には寮も有り、部室棟もあり、学園内で実際にお給料が貰えるバイトやボランティア活動もできる。敷地内は大きく6つのエリアに別れ、中央にあるみんなの広場(図書館、大ホール、公園、落し物センター、学生寮等がある。)、その北側にある幼稚園、東に中学校と高校、南には小学校、西に大学とある。先生はどこにでも出入り可能で、生徒は許可があれば他の学校に入ることができた。学園内は最早1つの街のようでもある。
そんな中、トワイライト学園には不思議な伝説が1つあった。学園内の廊下には鏡が幾つか設置されているが、たまに、人が鏡の前から消えたり、現れたりすることがあるのだという。
後はたまに幽霊が出ることがあると言われている。でも幽霊騒ぎは滅多に聞かない。鏡の前から人が現れたり消えたりすることの方が余程有名らしい。
4月、桜が咲いていた。きっと私以外の人間の心にも咲いているのだろう。
ジリリリリリリ...!
学園内の寮の309号室に部屋を借りている。目覚ましの音で今日も私は目覚めた。ある朝起きたら、自分が誰かから必要とされる人間になってないかと僅かな希望を持って起き上がり、携帯を見るが、特に変わりない。
今日もいつもと変わらない一日が始まるのだろうと思った。起き出して、ジャージに着替え、走りに行く。まだ暗い時間のランニングは誰とも顔を合わせなくて済む。ランニングは誰かに必要とされたくて始めたかな。広場のランニングトラックを十周もすれば、いい運動になる。部屋に戻って着替えて朝ごはんを食べた。
目玉焼きを載せたパンとサラダ。いつもの味に何となく飽きてきた気もする。用意を済ませてさっさと部屋を出て、学校に入った。
美羽は下駄箱で靴を履き替えて、教室へ向かった。その途中には鏡がある。覗き込んだが、パッとしない自分に嫌気がさした。
天野美羽10月24日生まれ。16歳、トワイライト学園高等部2年A組。嫌いなものは他人。理由は1人でいる方が楽だから。見た目は長い髪をお下げにして、眼鏡をかけている。典型的な地味子らしい地味子。母譲りの綺麗だった肌には傷や痣が少しある。お母さんは殺し屋をしていたとか。警察に捕まって勿論死刑。でも、かなりの美人だったらしい。お父さんもその関連の人で、身体能力はすごく高いと聞いていた。私はその両方の遺伝子を受け継いでいるせいか、運動もできた。でも、天狗にはなりたくなかった。天狗になったら、両親たちのようになる...と、そんな気がしていたからだ。成績は学年トップだけど、順位の明かされる定期テストでは敢えて本気は出さない。模擬試験では校内で一位、全国順位もそこそこ良い。先生はそんな私を見て、もっと本気を出せと言ってくる。私は目立ちたくなかった。幸せになれるはずもないと思っていた。幸せになんてなってはいけないと思っていた。むしろ、誰かから蔑まれるのが当然だと思っていた。人殺しの娘なんてそんなふうに扱われて当然だと思っていた。
ドンッ!
その日の休み時間、誰かがぶつかった。下を向いて歩いてた私も悪いけど、お陰で今月で眼鏡が曲がるのは3度目だった。
「あらあら、ごめんなさい!眼鏡がダサすぎたのね。そこにいるの気付かなかったわ。」
「はい、コレ資料室に運んどいてね。」
悪意の籠った笑顔で、蛇蠍良才が言い、彼女に従う家来みたいな女子2人がクスクスと笑っていた。
私は蛇蠍から押し付けられた重い箱の資料を資料室に運び始めた。イジメなんてもう慣れてしまった。なんとも思わない。悔しくもない。ただ、人間は醜いものだなって思うだけ。気に入らない人間がいるとすぐに虐めたり、意地悪をするんだから。そんなんだったら誰とも深い関わりなんて持ちたくなかった。
「やっぱり自分で運ぶわ。」
蛇蝎は急に私から重い箱を奪い返して行ってしまった。先の方で
「獅雲羽くぅーん!」
という蛇蠍達の甲高い声が聞こえた。耳にキーンと響いて不快だった。獅雲羽というのは私の後ろの席に座っている男の子で、イケメンで女子からの人気が高い。私は別に嫌いではなかったが、特別に好きでもなかった。スポーツができる割には勉強が苦手なタイプで、彼は、所謂脳筋というやつだった。勿論、そんなヤツとは関わりたくなかった。
なのに...。
「あのさ、俺、天野のこと好きだ。大人しくて、意外と何でもできて、すごい...かっこいいなって思ってる。」
獅雲羽力という女子からの人気ナンバーワンの男から放課後に校舎裏に来いって言われたと思えば、告白?人生初の告白に何となく嬉しい気もした。けれど、すぐにいつもの自分に戻った。
「それで?」
私は冷たく返した。
「それだけだよ。人はいつ死ぬか分からないから伝えておこうと思って。」
的外れの返答に度肝を抜かれた。まるで、余命がもう何日も無い病人の発言みたいだった。
「バカみたい。」
私はその場を立ち去った。早く教室へ戻ろうと思っていると、蛇蠍とすれ違った。私は蛇蠍からキッと睨まれた。私は無視して花壇の方へ行った。
この世界で唯一と言っていい。花達は私と一緒に笑ってくれる。
「花が好きなの?」
花壇で聞こえる不思議な声が今日も語りかけてくる。
「ええ。花は私を裏切らないから。醜い人間と違って美しいから。散りゆく姿でさえ儚くて美しいから。まるで...」
「まるで、君の心を癒してくれるみたい?」
誰かは分からない優しい声が言った。「どうして私の言おうと思ってることが分かるの?いつも思うけど、あなたは誰なの?」
「裏の世界へ来てくれれば、僕に会えるよ。僕はいつも君を見守っている。」
風が巻き起こって、花びらを空へ散らした。手のひらに白い薔薇の花びらが落ちた。夢の中にいるみたいだった。花壇の後ろにしゃがんで見る空は綺麗だった。何度か風が起こって花びらを散らした。
裏の世界ってなんなんだろう?あの声の主は一体どんな人なんだろう?私を必要としてくれるかしら?
そして遠くから悲鳴が聞こえた。しかも1つではなかった。ただ事ならぬ気配を感じた。花達はざわめいていた。
(どうしてアンタが...?)
まるで私に憎しみを向けているかのような、そんな声が聞こえた。花壇を見るとマリーゴールドが眩しく咲いていた。
(...どうして私じゃないの...?)
誰?頭が痛い!私は思わず耳を塞いだ。
しかし、私を憎む声は私の心に直接響いてきた。
「助けてー!」
校舎の方から聞こえてくる数々の悲鳴があった。グラグラと地面が揺れて、ドーンと何かが崩れ落ちた音がした。助けに行かなくちゃ。私はポケットから耳栓を取り出してつけた。
天野美羽は視覚や聴覚が過敏だった。耳栓は常にポケットに忍ばせており、ブルーライトカットの眼鏡や、サングラス、夏場は日傘も持ち歩いていた。
悲鳴のする方へ走っていくと、そこでは怪奇現象と呼ぶべき事態が起きていた。
空は闇色に。校舎は崩れ、生徒は散り散りに中央の広場の方へ駆けていく。
またドーンと音がして、美羽の上に校舎の角が崩れ落ちてきた。美羽は固まった。こんな状況に陥ったことはなかった。
「天野!」
獅雲羽がギリギリの所から救ってくれた。美羽は正気を取り戻した。
「危ないだろ!早く逃げろよ。」
「あ...、えと、ありがとう。」
「礼なんかいいから、早く...」
また巨大な瓦礫が降ってきた。
(どうして私じゃないのよ!)
また、声が頭の中に響いた。また獅雲羽が美羽を守った。獅雲羽は美羽を抱えて、物陰に隠れた。
「天野、しっかりしろ!...天野?お前それ...」
美羽はまた正気を取り戻した。目の前には獅雲羽力がいた。胸元のペンダントが熱かった。ペンダントを取り出すと、ペガサス座の軌跡に埋め込まれた石が光っていた。指先に触れているペンダントが暖かかった。
「お前、ガーディアンだったのかよ?」
「何?どういうこと?何が起きてるの?」
「もしかして、あのスピリットモンスター、見えてないのか?」
美羽は獅雲羽の指さした方向を見たが、確かに透明な何かが暴れているために、校舎が壊れているのは分かった。
「多分見えてない。何かが動いてるのは分かるけど。」
「なるほど、じゃ、裏の世界へ。」
「裏の世界?」
獅雲羽は左手首を口元に持っていき、こんなことを言い始めた。
「レオ!ここから1番近いゲートは?」
獅雲羽の左手首には金色の石が付いた腕時計が着いていた。
「1階下駄箱の近くの鏡だ。気をつけて来いよ、お嬢さんも!」
腕時計から低く、重みのある声で聞こえた。
「ちょっと待って、私も裏の世界に行くの?ガーディアンって何?スピリットモンスターって何?まさか、何かのモンスターと戦えなんて言うんじゃないでしょうね?」
美羽は立ち上がり、獅雲羽を拒絶するように離れた。対して獅雲羽は、はぁと溜息を着いたあと頭をかきながら立ち上がり、まっすぐ美羽を見た。
「お前が、必要なんだ。俺たちにとって、お前は居てもらわなくちゃ困る存在だ。だから...、頼む。」
獅雲羽は頭を下げた。
「命の保証は?」
「無い。けど、俺が絶対に守る。お前が好きだから。」
言葉から必死さが伝わってくる。
「...わかった。けど、私のことは守らなくていい。私は死にたいから。」
「は?生きろよ!」
パリンっとガラスにヒビが入るような音がまたした。私は涙を流していた。
「私には生きる価値なんてない!笑う価値もない!だったらせめて、誰かのために死んで、罪滅ぼししてやるんだから!」
「はぁ、お前面倒くさ。やっぱ嫌い。まあ、いいや。目的果たすまでは死ぬなよ。んじゃ行くぞ!」
獅雲羽は美羽の手を引いて下駄箱の近くの鏡の前に走った。そして左手首の金色の石を鏡に向けた。
「世界反転門、開門!」
獅雲羽は驚いている美羽を抱き上げて、鏡の中に入った。2人の体が鏡の中に入り切ると、鏡からは2人の姿は消えた。
1・2・3で、こんにちは!
千夏と書いてチカと読みます。この度はStar Guardiansをお読みいただきましてありがとうございます!
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