Star Guardians

千歌

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第1章 始まり

裏の世界

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 裏の世界。そんなものが本当に存在するなんて。そう考えると、この世界はまだまだ知らないことの方が多いのかもしれない。
 全てが反対になった世界のトワイライト学園の高校生の使う下駄箱の側にある鏡がパッと光って、中に2人の姿が現れ、すうっと出てきた。
 美羽は目の前の女子トイレの扉を見た。『nemoW』と書かれている。
「ここが裏の世界...?鏡の前から人がいなくなったり、現れたりってあなたがやっていたの?」
「学園七不思議のヤツか?まあ、大半は俺だろうけど、他にもいるぜ。いいか、このことは誰にも言うなよ。それより、お前は早くペガサスを探せ。」
「ペガサス?」
 獅雲羽と美羽は下駄箱のすぐ側の出口から外に出た。外は騒がしく、何かが暴れ回っているらしく、常にドーンドーンと大きな音が鳴り響いていた。
「コッチの世界には生きているものにも死人の霊も実体があるし、全部見えるし、触れる。ただ、表の世界と裏の世界の両方に同時に存在することはできない。ペガサスはお前の守護霊として常にお前を見守っている。お前がそいつと交渉すれば、守護霊は力を貸してくれる。先ずは、ペガサスに会いにいけ!」
頭が追いつかない。獅雲羽は指笛を鳴らすとライオンが空から舞い降りてきた。宙に浮いている。恐らく彼の守護霊なのだろう。しかし、ライオンは暖かなオーラを発しており、美羽は真夏の空の下にいるような暑さを感じた。
「お嬢さん、お前の第六感を信じるといい。我々は第六感が強くないと見えないはずなのだから。」
ライオンが聞き覚えのある声で言った。獅雲羽はライオンに乗ると、「じゃあな!」と清々しく残して行ってしまった。美羽はふと気づいた。表の世界で獅雲羽が石を通して会話をしていたレオというのはあのライオンだったのだ。
 それにしても、疑問が多すぎる。
「ペガサスに会えとか言われても...。どこを探したらいいの?」
まずこれだ。その上、守護霊が沢山見える世界ならば、ペガサスとはいえ、不特定多数いる可能性だってある。そして、出会えた先はどのように話を進めたら良いのか検討もつかない。夢だと思いたい。どうしてこんなことに巻き込まれているのか説明がほしかった。
 美羽は歩きながらひたすら辺りを見回した。地面を見るのを忘れて、段差に躓いた。コンクリートで手を切り、膝をしっかりと擦りむいてちゃんと痛みもある。全ては現実に起きている事だと認識するしかなかった。
 しかし、そのおかげで思い出したことがある。花壇だ。いつも自分を見守ってくれると言えば、花壇でよく耳にする優しげな声の主だ。手がかりがあるかもしれない。美羽は花壇に向かって走ろうとした。しかし、美羽の上空から、真っ白なペガサスが舞い降りてきた。美羽の鼓動が苦しくなるほど速くなった。
「君か、ペガサスのガーディアンは?」
ペガサスが言った。美羽は胸を抑えて
「ええ。」と応えた。
ペガサスは地面には足を付けず、宙に浮いたまま姿を変え、そこからはペガサスは消え、女が立っていた。
 その女は血のように真っ赤な長い髪をしており、黒いドレスを着ていた。
「誰?」
「私がペガサスよ。あなたに、力を貸してあげるわ。」
女は歩いて美羽に近づいた。近づくほどに美羽の心臓はドクドクと速くなり、寒気が増していった。
 この人は、ペガサスじゃない!
 美羽は駆け出した。花壇の方へ。
「あら?思ったほど頭が悪いわけじゃないみたいね。でも、無駄よ。」
女の赤い髪が伸びて、美羽の腕を掴んだ。
「あなたは私の守護霊じゃない。あなたは何者?」
「私はね、あなたの力がほしいの。ペガサスのガーディアンはね、同じガーディアンでも、敵も同然なのよ。」
「あらそうなの?」
「ペガサスのガーディアンは闇を操るのよ。だから...」
「どうでもいい。私はガーディアンになる気は殆ど無い。戦って死ねれば、それで本望。だから闇を操ることになろうがどうでもいいこと。私には生きる価値なんてない。」
「貴様...!その腕、もぎ取ってやる!」
美羽の腕は更に強い力で引っ張られた。美羽は自分の腕を掴んでいる髪を握って振り回した。ぐるぐると遠心力で勢いが増し、明後日の方向に飛ばしてやった。
額の汗を拭い、一息ついた。
 一体何者だったのだろう?考えても仕方がないので、花壇へ向かうことにした。花壇へ向かうには、どうやら普段と逆の方向に行かなくてはいけないらしかった。普段通りの方向に行けば、本来その場所と反対方向にある体育館に行き着いてしまった。流石は裏の世界だと思った。
 花壇に着くと、そこには真っ黒で綺麗な毛並みのペガサスが居り、雑草を食んでいた。美羽はペガサスそのものも見るのは初めてだったが、黒いペガサスは聞いたこともなかった。よく物語ではペガサスと言ったら純白なのだが、黒は黒でかっこいい。その上、不思議な感じがした。風変わりであるのは勿論だが、美羽にはそれはなぜだか、強い力を感じられた。
「あの...!」
美羽が声をかけると、黒いペガサスは雑草を食むのを止め、美羽を見た。
「ようやく来たか。美羽。待ちくたびれて、危うくここの雑草を食べ尽くすところだった。」
目は紫色でとても幻想的だった。
「私に力を貸してください。」
「唐突だね。君は。残念ながら、今の君に僕の力を貸すことはできない。」
「どうして?」
「君が心の底から戦うことを望んでいないからだ。君が望んでいるのは死そのものらしいが、それだけでは、ガーディアンにはなれない。」
「どうしたらいいの?」
「それは僕にも分からない。僕に乗るといい。この世界で起きていることを説明して差し上げよう。」
ペガサスは美羽の前にじっと座った。美羽はペガサスに触れた。滑らかな絹を触っているような本当に綺麗な毛並みだった。そして、ペガサスに跨った。
「たてがみに捕まるといい。くれぐれも落ちないように。」
美羽はそう言われてたてがみに捕まり、覚悟を決めた。ペガサスは翼を広げ、羽ばたいた。あっという間に空高く舞い上がり、学校の屋上を超え、中央の広場が見えた。そこに巨大な蠍が暴れていた。表の世界では姿が見えなかった。
「美羽、君が私と契約を交わせば、君は力を得る代わりに、ああいうスピリットモンスターと戦うことになる。君は戦って死ぬことを望んでいるが、ペガサスは重要なポジションだ。そう簡単に死んでもらう訳にはいかない。一度戦いの世界へ入れば、常に戦いと隣合わせで生きることになる。だからこそ、一時の覚悟で決めないで欲しい。例え、君に代われる存在がこの世に誰一人以内としても。」
美羽は戦いに目を落とした。
 獅雲羽が戦っているのが見え、その他にも三人ほど戦っているのが見えた。
 獅雲羽はレオに乗ったまま、炎を纏わせた剣で蠍の振り回すハサミを受け流していたが、尻尾の先がぶつかって以降、動きが鈍くなった。
 別の足の速い同い年くらいの少年のガーディアンが獅雲羽を庇いつつ、攻撃を受け流すようになったが、それも長くは続かず、獅雲羽ともども尻尾に当てられ、二人は飛ばされた。
 スキをついて、別の私服を着た男が「氷河の嵐グレイシアストーム!」と叫び、彼の手から吹雪が出た。その吹雪は蠍の足を凍らせたが、パワーが強く、すぐにひびが入った。
 別のポニーテールの同い年くらいの少女がスキを付いて背中に登り、
炎の鋏バーニングシーザー!」と叫びながら、炎を纏った前腕を使っての手刀を食らわせた。ダメージがあったのは確かだが、その反動で蠍の足は氷から解け、少女を振り落とした。その彼女を庇うべく、男は彼女の下敷きになった。
 皆苦戦していた。蠍が尾を振り回し、その尾に当たると、どうやら動けなくなるらしい。
「皆苦戦してる…?」
「そのようだね。本来、スピリットモンスターはガーディアン一人でも倒せる。しかし、相手が相手だ。あの蠍はただの蠍ではない。君たちと同じ、ガーディアンの守護霊がスピリットモンスターとなったものだ。」
「スピリットモンスターってなんなの?」
美羽が聞くと、ペガサスはまた説明を始めた。
「守護霊は本来、主を守護し、時に力を貸す。この裏の世界と表の世界は常にリンクしていて、主と守護霊も当然リンクしている。表の主の潜在意識に強い気持ちが生まれ、それを本人が制御することが出来れば、問題はさほどない。しかし、暴走したり、暴走させられると、あのように、守護霊がスピリットモンスターへと化してしまう。今回は後者のようだ。」
「暴走させられてるの?」
「ああ。非常に厄介なケースだ。」
「ねえ、私がガーディアンになったら、あの蠍は倒せる?」
「正確には邪気の浄化だが、君の属性は相性が良いだろう。ただ、さっきも言ったが、今後の戦いに身を投じていくことになる。その上、君が操るのは闇属性。他の属性に比べ、暴走する可能性は十二分だと思った方がいい。」
「構わないわ。私は誰かに必要とされたい。それが、私の本当の願いだから。」
「ならば、力を与えよう。」
ペガサスは校舎の屋上に降り、足を折って座った。降りろということなのだろう。美羽は背中から降りた。
「ペンダントを左手に乗せて。」
美羽はペンダントを首から外し、左手に置いて差し出した。同時に、なぜペンダントのことを知っているのか少し疑問に思った。
「我、主に力を与え、契約を結ばん。」
ペガサスは右前脚の蹄を美羽の左手に載せた。二者の手が触れ合った瞬間、一瞬強く光った。その瞬間、美羽は左腕の前腕に痛みを感じた。光は形を変え、左手首に結びついた。


名前 天野 美羽(あまの みう)
トワイライト学園高等部2年A組1番
・親は有名な殺し屋。
・小中と虐められてきた。
    (本人は基本的に無視) 
・勉強できる
・運動も実はできる
・感覚が元々過敏
・趣味は読書
・海外の大学進学を視野に入れている
・おばあちゃんの知恵が凄い
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