Star Guardians

千歌

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第1章 始まり

図書館塔の秘密

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 昨日の放課後に起こった不思議な出来事は全てが夢であったような気がした。しかし、左手首に怪しく煌めく黒い石が全てが現実に起こったということを物語っている。
 昨日は仁好先輩に連れられて表の世界に戻ってきた。不思議なことにその時は蛇蝎の守護霊が暴れ出す前の時間だった。校舎はどこも崩れておらず、仁好先輩になぜ何も壊れていないのかと聞こうと思ったが、既にいなくなっていた。力はやることがあるからと言って少し裏の世界に残っていた。
 そして私が今日、校内で2人とすれ違う度に、何か物言いたげな顔をしても、力は元から鈍感故に期待はしていなかったが、仁好はにっこりと普段の笑顔を返すだけで何も言わなかった。放課後になって図書館塔に行った時に教えてくれるとは思ったが、それでも気になった。
 そして1人で休み時間に単語帳を開いていると「ねえ、ちょっと?」
と、いつもよりかは意地悪そうに聞こえない蛇蝎良才の声がした。珍しく1人で美羽の前にいる。美羽は自分に声をかけられているのかそうでないのか確かめるため、後ろを振り返った。誰も蛇蝎に反応している様子はない。声をかけられているのが自分自身だと分かると、「何か用?」と冷たく返した。力や仁好に蛇蝎をガーディアンに勧誘しろとは言われていない。それを踏まえると、何事も無かったように普段と変わらない態度で話すのが良い。勿論、昨日の1件があったことも現在蛇蝎を相手に緊張している理由の1つだが、下手に何かを言ってしまわないためには普段通りに話すのが1番良い。
「その手首につけてる腕時計、どうしたの?」
「え?」
「獅雲羽君とお揃いのでしょ?どこに売ってるの?」
「これは…、質屋で見つけただけの物だから。」
「ふぅん。嘘つくんだ。」
え?あなたも嘘をついたりするのに?
「昨日獅雲羽君から告白されてたよね。私知ってるのよ。付き合ってるの?」
クラス中の視線がこちらに向いたのを感じた。背中が痒い。
「付き合ってないけど?」
私は真顔で答えた。
「嘘ついてんじゃねーよ。天野の分際で調子に乗るな。その腕時計もよこしなさい。あなたなんかより私の方が似合うんだから。」蛇蝎は手を出してきた。美羽は腕時計を外そうとして簡単には外れないようになっているのを思い出すと、腕時計を手で覆った。
「別にいいけど、もしあなたが今私の腕時計を手に入れても、獅雲羽力はあなたにはしっぽを一振もしないでしょうね。しばらく待てば、もっと獅雲羽力に近づくチャンスがあるかもしれないけど。」
美羽は単語帳をパタンと閉じて席を立った。「よく考えるといいわ。」
そう言い残して、単語帳を持って廊下に出た。
 教室の中の空気が凍りついたのは言うまでもない。普段から美羽は蛇蝎に対して逆らうことはしない。面倒事を避けているため、黙って従うようにしているのだが、なぜ今日に限って言い返したのかは美羽にも分かっていなかった。
 蛇蝎から逃げるためだけに廊下に出たが、行くあてがなかった。力に助けを求めようかと思ったが、蛇蝎や他の女子が睨んでくるのは明白だった。羚羊爽の所へ行くにしても、教室がどこだか分からない。そうなると、一番怪しまれないのは仁好のいる高3の教室だった。高3の教室は勉強に集中しやすいように広場の反対側に寄せられている。夏休みを過ぎると、1年生や2年生がこちら側へ行くことは滅多にないが、まだ4月だ。それなりに下級生はウロウロしている。3年A組の教室を覗くと、仁好は教室内にはいなかった。これでは仕方がないと美羽は花壇の方へ向かった。
 花壇の前のベンチに座ると、さぁーっと花達が風に吹かれて揺れた。そして美羽に微笑むかのように全ての花が美羽の方を向いたように見えた。美羽は心の奥が温かくなるのを感じた。
 しばらくぼうっとしていると、予鈴が鳴った。(戻らなくちゃ。)
 結局、単語帳は進まなかったが、美羽の心は久方ぶりに清々しく澄み渡っていた。午前中は昨日の出来事について考えてばかりいて集中出来ていなかったのが嘘のように午後は集中出来ていて、先生に当てられても、後ろの席の獅雲羽が椅子を軽く蹴ってくるまで教科書の文字をずっと追っていた。
 放課後、蛇蝎達に押し付けられた掃除をやっていると、仁好と獅雲羽が教室に現れた。
 「あら?美羽ちゃんまさか押し付けられたの?」
美羽は目を泳がせながら「…まあ…。」と小さく言った。すると、仁好は「ちょっと、力!あなたね、なんで美羽ちゃん助けないの?」と獅雲羽!耳を引っ張って言った。
「…ちょっ…、…仁好…、…ギブギブ…!」仁好は溜息をつきながら手を放した。すると、獅雲羽は頭をかき、目を逸らしつつ、「お前は助けて欲しいのかよ?」と言った。
「慣れてるので気にしてません…。」
美羽は答えた。仁好は困ったような、美羽の回答を悲しむような顔をした。
 「…とりあえず、手伝いましょう、力。待ってたら日が暮れてしまうわ。」仁好は笑って言い、黒板へ向かい、黒板消しをクリーナーにかけに行った。美羽は申し訳なく思い、仁好に蛇蝎達の対処法について聞くべきか悩んだ。「俺は…、雑巾かけてやる。雑巾濡らしてくるまでに履き終わっとけよ?」雑巾干しに掛かっている雑巾を一枚取り、水道へ濡らしに行った。美羽は箒で床を履いた。サッサっと履きながら申し訳なく思い、履くスピードを上げた。獅雲羽は持ち前の筋力と体力でスイスイと雑巾をかけていった。仁好は綺麗になった黒板消しで黒板を綺麗にした。やはり3人でやると早い。普段は美羽1人で30分はかかるのだが、3人だと10分で終わった。
 「さあ、図書館へ行きましょう。」3人は人のいない女子トイレの全身鏡の前に来た。
世界ワールド反転ターンゲート開門オーバー!」
鏡に向かって仁好が叫ぶと、鏡が一瞬パッと光った。美羽はびっくりして無意識のうちに獅雲羽の腕に捕まっていた。「怖いか?」そう言いながらサラッと手を握ってくれた。仁好はにやにやしながら鏡へ入っていった。「大丈夫さ。」獅雲羽に手を引かれて鏡の中へ入っていった。3人の体が鏡の中に入り切ると鏡の中に3人の姿は消えた。
 美羽はそっと目を開けた。そして、反対側の鏡に出てきていた。本当に不思議な感覚だった。大きな輪にできたシャボンの膜を通り抜けるかのようだった。
 3人は女子トイレを出た。
「放課後はやっぱり霊が少ないわね。」仁好が口を開いた。
そういえば、こちらの世界では守護霊などの霊体は実体を持てるが故に霊感の有無に関わらず霊が見えるのだと獅雲羽が前に言っていた。
「でも、昨日はそれほど多くはなかったと思いますけど。なんでですか?」美羽が尋ねた。
「蛇蝎の守護霊が暴れてたからな。皆人間と一緒に逃げてたんだろ?」獅雲羽が答えた。
「あー、守護霊って人間を守るのが役目だから近くにいないといけないのか。…私たちの守護霊は?」
美羽がまた聞いた。
「校舎の外にいるんじゃないか?ペガサスとレオはまだ入れるけど、キャンサーがなぁ。な、仁好?」
「ええ、あの子は大きいのよね。」いくら霊と言えど、裏の世界ではどんなものにも実体がある。「守護霊は基本的に主のいる場所の裏側にいる。だが、俺たちが裏の世界にいる間、守護霊は主と同じ場所にいることを強制されないからどっか行くんだよな。まあ、大体は図書館にいるだろうが。」
3人は話しながら校舎を出た。そして、みんなの広場へと繋がる道を歩き、中央に位置する図書館塔に向かった。「図書館には何があるんですか?」美羽が尋ねると、2人は口を揃えて「着いてからのお楽しみ。」だと言い張った。
 他にも美羽は獅雲羽と仁好の関係について尋ねた。二人は家が近所の幼なじみで、親同士の仲も良いそうだ。故に獅雲羽は仁好に敬語を使わず、互いに呼び捨てあっているのだと言う。昔から姉弟のように育ってきたため、喧嘩や憎まれ口を叩き合うのも普通のことでお互い嫌いあってはいなかった。
 仁好は7人兄弟の1番上のお姉さんで、一番下の妹は数ヶ月前に生まれたばかりの赤ん坊なのだそうだ。
 両親は学園のみんなの広場にある美容院兼服屋を営んでいて、仁好は休みの日は仕事を手伝ったり兄妹の面倒を見たりと忙しいが、両親のつてで学園寮には普通より安い料金で住まわせてもらっている。
 対して、力は一人っ子で、共働きの両親であるため、同級生の友達と遊ばない日は両親が帰るまで仁好の家で兄弟と遊んでやったり、仁好に勉強を教わったりしていた。わんぱくな子供5人の相手をこなすのだから身体能力が人並外れて高いのも納得がいく。しかしその分勉強はてんでダメで毎回のテストで仁好に勉強を教えてもらうが、赤点をギリギリ回避するのが精一杯で、赤点を取るとそれはそれで仁好にこっぴどく叱られているのだと聞いた。
 美羽はそんな何気ない日常の会話を聞いて羨ましく思いつつ、3人で図書館へと向かった。みんなの広場に出ると、実体化した霊が沢山いた。
皆主と同じ動きをしている。霊は人間の霊だけではなかった。動物の霊もいた。
「霊とはぶつかるな。んで話しかけるなよ?」急に獅雲羽が美羽を振り返って見た。
「え?」
「霊達は基本的に主を守るようにしているから、みんなが皆そうじゃないけど、たまに攻撃してくる霊もいるし、勘のいい人は表の世界で勘づくことがあるわ。」仁好が説明を加えた。
「分かりました。」
3人はみんなの広場に足を踏み入れた。特に変わった気配はしない。ただただ美羽にはその光景が異様に見えた。
 数人で歩きながら話しているであろう人間の霊や動物の霊、ベンチに座って1人でぼうっと空を眺めている霊、友達同士で追いかけっこをしているであろう霊なんかがいる。
主がじっとしている守護霊の回避は全く問題ないのだが、主が動き回っている霊は次の動きの予測ができないため回避が大変だった。例えば、ずっと本を読み続けている霊や動物の霊だ。生前よほど本を読むのが好きだったのだろうか。主は走り回っている男の子だろう。本を開いたまま目を走らせている霊がスーっと犬の霊を追いかけているのだ。その走る軌跡とスピードからして幼稚園児同士だろう。
 なんとか霊を避けてやっと人気の少ない図書館塔の入口へと来られた。この図書館塔はこのトワイライト学園全体のシンボルであり、いちばん高い建物で、最上階には展望台が着いている。シーズン毎に天体観測が行われたり、理科や地学の勉強のために使われる。
 正面の扉を開けて中に入る。特に変わった様子もなくそこにも守護霊達が沢山いた。受付のカウンターに座っている霊、自習スペースの椅子に腰掛けている霊。本棚の前にいる霊ももちろんいる。しかし、読書をしている霊はそれほどいない。
 美羽がその異様な光景に見とれていると、獅雲羽が手を引いた。「行くぞ。」先程よりも真面目な面持ちであるので、美羽も気を引き締めた。仁好の後に獅雲羽が続き、美羽も手を引かれてついて行く。動く霊を避けながら。
 3人が向かったのは階段だ。階段と言っても図書館塔には上り階段しかないはずだ。しかし、ここ裏の世界の図書館塔には上り階段の横に真っ暗な地下へと続く下り階段があった。それを見て、美羽は獅雲羽の腕にギュッと捕まった。
「怖いのか?」
「お化けとか苦手で…。」
「あー…。表の世界に無いはずの下り階段がこっちにはあるからね。大丈夫よ。ここだけ特別に魔法がかかってるだけなの。行きましょう。力にくっついてていいから。」
3人はまた仁好を先頭に真っ暗な階段を降りていった。一番下まで降りると、そこには大きな扉があった。仁好がその扉を開けた。
 中には部屋が続いていた。壁も床も石造りの部屋で、正面の壁にはいくつもの玉座が並んでおり、部屋の中央には大きな四角い石のテーブルと椅子があり、そのテーブルの中央には丸い鏡が埋め込まれていた。部屋の右側の壁には本棚があり、数冊の本が収まっていた。そして、テーブルでは爽と氷河が勉強をしていた。
 「俺たちの基地、星くずの大地スターベースだ。」獅雲羽が美羽を見ながら言った。石造りだが、どこか温かみのある部屋だ。美羽はなぜだかこの部屋を一目で気に入った。
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