Star Guardians

千歌

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第1章 始まり

Star Guardians

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 「あっ!力!仁好さん!美羽さんも!来たんですね!僕とっても楽しみにしてましたよ!」爽は3人が部屋に入ってくるなり歓声をあげた。「昨日も言ったけど、あの子が羚羊かもしかそう君で、隣でパソコンとにらめっこしているのが山田やまだ氷河ひょうがさん。」仁好が美羽に言った。爽はくりくりとしたまだ少し幼さの残る目を輝かせていた。
 「で、話って?」氷河が表情を変えず、パソコンの方を向いたまま言った。
「美羽ちゃんにガーディアンズの説明も兼ねて歓迎会をしようと思って。」仁好がにこやかに言うが遮るように、氷河が言った。
「コトの迎え行ってきていいか?」
「ええ。勿論良いんですけど、帰りに何かお菓子買ってきてもらえませんか?」仁好はにこやかに言う。
「コトに選ばせるからな。」
「コト?」美羽が聞き返す。
「娘さんの琴音ことねちゃんよ。」
仁好が説明していると、氷河が「おい、仁好!」とキッと睨んで言った。4人はまるで体を凍らされたかのように動けなくなった。恐怖による沈黙の中で氷河は1人でてきぱきとテーブルの上を片付け、黙ってすぐに部屋を出ていった。それでも、凍てついた空気はすぐには戻らなかった。
「ひょ…、氷河さん…ね、奥さんがいたんだけど、訳あって死んじゃって、琴音ちゃんを大事に育ててるの。琴音ちゃんも魚座のガーディアンなんだけど、まだ保育園児でね。戦うには早すぎるし、危険も多いからまだ戦いには巻き込まないようにしているの。」
だから先程氷河が仁好を睨んだのだと美羽は納得した。それでも、キッと睨む彼の表情は中々脳裏から離れなかった。
「琴音ちゃんはガーディアンのこととか知ってるんですか?」
美羽は固まった表情のまま言った。
「どうだろうな。この部屋には何度か来ているけど、氷河さんがどこまで話しているのかは俺達も把握してない。けど、氷河さんは話したくないんだろうな。」と、力。
「実際、愛さんは前の戦いで怪物に殺されているんだもの。それも、琴音ちゃんには多分話してない。」と、仁好。
「怪物?」美羽は聞き返した。
「僕たちが戦うのはスピリットモンスターだけじゃないんです。」と、爽が言った。
「私達は、スター・ガーディアンズと呼ばれる、神々が守り神として力を与えた人間たちの子孫。神話の中で起こったことは度々繰り返され、現代に至る。そして、今度の事の発端は牡牛座のガーディアンにゼウスが恋をしたこと。1700年代の日本のとある遊郭にその店の当時の花魁よりも一際美しい牡牛座生まれの禿がいた。ゼウスは彼女に惚れて連れ去るも、ヘラーに見つかり、怒り狂ったヘラーによってゼウスは封印され、それによってゼウスが抑えていた悪魔や邪神が今は自由にあちらこちらに散らばっているのよ。」
「悪魔や邪神?」
「ええ、その他にも彼らによって蘇らせられた怪物とかもいて、1年くらい前に、テュポンっていう怪物と皆戦ったけど…」
「テュポン?…って確かゼウスが唯一負けたっていう伝説の怪物ですよね?」
「ああ。実際に、そん時死んだのは愛さんだけじゃ無いねぇんだ。」
美羽は仁好と爽が顔を見合わせて俯いたのを見た。
「双子座のガーディアンで、双葉ふたばほむら君って言うのだけど彼は妹のすいちゃんをテュポンの攻撃から庇って亡くなったの。水ちゃんもそれからずっと元気がないみたいで。」
仁好が言った。双葉炎と双葉水はトワイライト学園でも有名な双子で美羽と同い年だ。去年の夏頃に1ヶ月ほど2人とも来なかった時期かある。そして、しばらくして水だけを見かけたことは何度かある。
「あの...、双子座のガーディアンって2人で1人とかですか?」
「石は1個分が2つに分かれてる。だから、1人でも2人でもアイツらは戦えた。まあ、好戦的な炎と対して心優しい水じゃ、実力も戦い方も差があったけどな。炎は、水を庇って死んだんだ。あんなかっけぇ兄貴は他に居ねぇよ。」
力は後ろを向いていた。その姿はどこか寂しげだった。
「あの、他のガーディアンってどこにいるんですか?」
美羽は気まずく思いつつ、話題を変えた。
「おうし座は現在進行形でヘラーに捕まってて、おとめ座とてんびん座は分かってないし、さそり座は昨日の子で、射手座は…居場所は分かるのだけど、テュポンとの戦い以来会ってないわね。水瓶座も分からない、山羊座と魚座は氷河さんと琴音ちゃんで、へびつかい座もデュポンとの戦い以来会ってないわね。」
「でも、どこかにいるんですよね?」
「そうだよ。僕達ガーディアンの力は血で受け継がれるんだ。だから、跡継ぎができるまで現役のガーディアンは死ぬことも老いることもできないようにこの石が守ってくれる。美羽さんも家族の誰かからペンダント貰いませんでした?」
「はい。祖母から受け取りました。大事な物だって、『私がペガサスとして空へ羽ばたけるようになるための御守り』だって言われて。ってことは、おばあちゃんもガーディアンだったのかしら?」
「おじいさんの可能性もあると思うけどね。」
 室内の空気がだんだん暖かくなってきた。しかし、それに水を刺すようにテーブルの中央に埋め込まれている鏡が赤く光った。
 美羽はさっと3人の視線が草むらから獲物を見つけた肉食獣のようにそちらに向いたのを感じた。少し殺気だった視線だ。
 鏡には見覚えのある大きな蠍が暴れていた。そして、周りにちらちらと人間が映っていた。
「は?昨日の今日でアイツまたか!?」一番最初にそう言ったのは獅雲羽だった。
「これ、手下にロックオンされてません?」と、爽。
「二手に分かれて行った方が良さそうね。」と、仁好。
「氷河さんは?」と、美羽が訊く。
「後から加勢してくれるはずよ。」
と、仁好が厳しげな顔で言った。
「行くぞ天野!」
「う...うん。」
4人は部屋を出て階段を駆け上がり、霊の交錯する図書館内を上手くすり抜けた。
「ここから、現場までどう行くんですか?」仁好の方に尋ねる。
「決まっているでしょ。飛ぶのよ。」
ふと、いつの間にか黒いペガサス、金色のライオンのレオ、そして、赤い羊と白く巨大な蟹がいた。蟹は人が1人寝られるソファ程の大きさだ。4人はそれぞれのパートナー、つまり、獅雲羽はライオンに、仁好は蟹に、爽は羊に、美羽はペガサスに乗った。4匹とも空を飛び、学校のフェンスを飛び越すと、現場はすぐそこだった。昨日と同じ大きな蠍がいた。美羽は不思議に思って後ろを見た。学校のフェンスの延長線上には透明なゼリーのような膜が見えた。
「わァたァしィだァァァってェ、きらわれたァいィわァけェじゃないィのォにィィー!」
耳をつんざくような、蛇蝎の声だった。美羽は耳が痛かった。それと同時に腹が立った。
「なんか、昨日よりデカいし、暴れてね?」
獅雲羽が言った。
「あれって、蛇蝎さんの本音とかですか?」
美羽が尋ねた。
「そう。蠍と蛇は人が忌み嫌うものだからね。どういう経緯で周りに嫌われてるのか知らないけど。」
仁好が言った。
「とりあえず、アイツ止めねぇと、民間人に被害が出るぞ。天野、昨日のヤツ頼む。」
封印の鎖シーリングチェーン!」
美羽は手に出した鎖を操り、蠍の体の自由を封じた。けれど、それは10秒も経たないうちに、切れてしまった。
「みんなァそうやってェわたしをォみくだすんだァァー!」
蛇蝎の声が胸にも頭にも響く。美羽は思わず目を瞑り、耳を塞いだ。そのため、前から巨大蠍の尾が来るのに気づかず、美羽はペガサス共々遠くへ飛ばされた。他の3人は散り散りに避けたので平気ではあった。
「美羽ちゃん!」仁好が美羽の方を見ると、彼女もまた、尾に叩かれて飛ばされた。
「油断するなよ、爽!」
「はい!荒嵐バイオレント・ストーム!」
獅子吼グローリング・レオ!」
2人の必殺技を受けても尚巨大蠍は自由に動いている。
「...おいおい、マジかよ...。昨日とはレベチじゃんか。」
「どうします?」
「油断するな。天野と仁好が持ち直すまで俺たちも気をつけつつ、モンスターにダメージを与える。2人が戻ったら...、二手に分かれて手下とモンスターと同時進行だ。」
2人は蠍の尻尾ブンブン攻撃を避けながら、大声で会話をした。
 教室内が騒がしいのでトイレの個室で単語帳を見ていたとき、上からバケツ1杯の冷たい水をかけられた。直後に蛇蝎とその取り巻きである由衣、もえ、真由美、遥が高笑いしているのが聞こえた。
 定期試験で学年1位を取った時、カンニングをしたと彼女達に言いがかりをつけられて結局それは私が実力で取った順位だと先生には分かって貰えた。しかし、その後、彼女達には放課後のトイレで蹴られまくった。そんなことがあって以降、私は定期試験では本気を出さなくなった。
 何があったかは知らない。けど、普段から行いが悪い人は周りに嫌われて当然で、日頃の行いがいい人は周りから好かれるよって、誰かが見てくれているよって。おばあちゃんはいつも言っていた。
 だから……。
 「美羽ちゃん!」
仁好先輩がずっと声をかけてくれていたようだ。ドーンと大きな音が聞こえ、気を失う前のことを思い出した。目を開け、ゆっくり身を起こす。ペガサスもキャンサーもそばにいた。
「大丈夫か、美羽?すまない。僕の力の及ばないばかりに君を傷つけてしまった。」
「良いのよ、ペガサス。私はあなたには腹を立ててないから。」
「美羽ちゃん、大丈夫?頭怪我してるわ。」
仁好がハンカチを頭に当ててくれていた。仁好は身体中に擦り傷ができていた。その手からハンカチを受け取り、少し離すと、赤い血に染まっていた。地面に酷く頭を打ったらしい。立ち上がるとふらふらした。
 と、そこに、蠍についに尾で叩かれた獅雲羽と爽が2人のそばに打ち付けられた。
「力!爽!」
 氷河がいたらなにか変わるだろうか。何があって嫌われてるのか知らない。けど……。
 美羽はだんだん腹が立ってきていたのが、蛇蝎の本音を聞く度に増していき、遂に沸点に至った。これ以降、美羽は何をしたかを覚えていない。美羽はスっと立ち上がり、スタスタと歩き始めた。
「美羽ちゃん!危ないわよ!」
仁好が止めるのも聞こえていなかった。美羽の足はだんだん速く動き出し、蠍の正面に向かって拳を振り上げて走っていた。そして蠍を思い切り殴った。おかしなことに、蠍は美羽の1発の拳に同じように飛ばされた。美羽は止まっていなかった。
「アンタ...、いい加減に...しなさいよっ!」美羽は今度は蠍に蹴りを入れた。 そしてまた蠍は飛ばされた。
「だれにもォわたしのォきもちなんてェ分からないわァァー!」
「ええ!分からないわよ!アンタがどうして嫌われてるのかなんて知らないわよ!世の中には不幸だと言われる人なんて星の数ほど多くいるわ。でも、人より不幸だからって私をいじめていい理由にも、アンタが暴れていい理由にもならないのよ!」
蠍の動きがピタリと止まった。
「今だ美羽!君の底力を解放するんだ!」ペガサスが左手の石を介して言った。美羽は胸の内の熱い感覚をより強く感じた。「闇の雷ダークネス・サンダー」そう叫びながら、右手に思い切り力を込めて蠍を殴った。その間、美羽は右手が電気に痺れているのを感じた。




お知らせ
Star Guardiansをご覧の皆様!
いつもありがとうございます。千夏です!しばらく投稿をお休みし、受験勉強に専念しようと思います。
遅くとも来年の三月末には1話更新出来たらなと思っています。
感想等、お待ちしております!
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