Star Guardians

千歌

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第2章 仲間を探せ

悪魔

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 闇色の雷が巨大蠍を打った。巨大蠍は消え、気を失った蛇蝎良才がゆっくり逆さに落ちてきた。獅雲羽力は慌てて走って彼女を抱きとめに行った。どさりと音がして、振り返ると、美羽も倒れていた。
「...凄かったね...。」声のする方を見ると、5メートルほど獅雲羽の上空に小学生くらいの少年が浮いていた。ボサボサの暗い色の短い髪に黒いTシャツを着、ダメージジーンズを履いたその少年は目の下に子供らしからぬ真っ黒なクマができていた。「お前...、何者だ?」獅雲羽が声を荒らげて言った。
「...悪魔だよ...。...まだ...、...名前も無い...。」 
間を開けつつ応える悪魔少年はつまらなそうな表情だが、僅かな殺気を放っていた。
「お前が蛇蝎の魂を操ってたのか?」
獅雲羽が悪魔少年に尋ねた。
「...そうだよ...。...凄かったね。美味しかった...。強い魂から生まれるスピリットモンスター...。...ご馳走様。また来るね...。」
カッと一瞬黒光りした少年は白いコウモリのような羽を生やして飛んでってしまった。
「クソ。新しいのが生まれやがった。」
「でも、まだ、幼生の段階だった。」と爽が言った。
「なんで追わなかった?幼生の段階なら追撃して一発で倒せただろうに。」
いつの間にか氷河がいた。
「そんなこと言うなら氷河さんはどうして早く駆けつけてくれなかったんですか?私達は怪我をしてるんです。あなたが追いかければよかったでしょう?」
仁好が氷河に詰め寄った。
「...悪かったよ...。」
氷河はバツが悪そうにそっぽを向いた。
 「とりあえず、2人はいつものところに運びましょう。」
仁好は女の子を1人ずつ抱えた2人を誘導した。
 「ソイツ...ガーディアン続けさせるのか?」
氷河がまた言った。
「美羽ちゃんのこと?」
と、仁好が聞き返した。
「ああ。」
「本人も元々乗り気ってわけじゃなかったし、今日のも弱暴走じゃくぼうそうってところだもんな。まだ一発で収まったけど、もっと強い力で暴走したりする可能性高ぇんッスよね?」
と、獅雲羽。
「石を取り上げるの?」
爽が不安そうな顔で言った。
「その方が美羽ちゃんのためにも私達のためでもあるかもしれない、ってことよ。」
仁好も悲しそうな顔だった。
「闇属性のペガサスはとにかく厳しい訓練がいるって話だろ?辞めさせるのなら今のうちだ。」
3人とも黙ってしまったので、氷河は容赦なく美羽の腕時計に着いている黒い石を取り外した。
 それから約9時間後、美羽は保健室のベッドで目を覚ました。頭がガンガンと痛む。ぼんやりとした頭でここはどこだろうと考える。そのうちにまた眠くなって夢の中に落ちていった。彼女が次に目を覚ましたのは更に11時間後の午後2時。太陽の光がいい加減に起きろとでも言うように眩しく美羽の寝顔に照りつけた。鬱陶しく感じて目を覚ました。天井の模様を見て自室でないことに気づいた。ここはどこだろうと起き上がってみる。眼鏡がないため世界はぼんやりとして見える。
「起きた?」
ぼんやりと見える白衣を着た人影。顔ははっきりと見えないが、声からして男なのは間違いない。初めて聴く声だが、かなりのイケボと言っていいくらいの聞き心地だ。安心するような、柔らかく、深く、優しい声だ。「あの、眼鏡は?」美羽が尋ねると、「ああ、眼鏡ね。」と言い、手元に美羽の眼鏡を置いた。美羽は手探りで眼鏡をかけた。世界がとてもはっきりと見えた。そこは保健室だった。入ったことはなかった。美羽の寝ているベッドは1番窓が近いベッドで、横に感覚をあけてさらに4つのベッドが並んでおり、向かい側にも同じように並んであり、計10個のベッドがあった。今は美羽以外に病人はいないようだった。
「天野美羽さんで合ってるかな?」
小さい子供にするように優しく顔をのぞきこんできた。
「...はい。」
おずおずと返事をする。
「初めまして、養護教諭の射守矢いもりや一成かずなりです。よろしくね。体はどう?熱は...うん。下がったみたいだね。」
自分の額の温度と比べながら話している。
「...。...熱があったんですか?」
「うん。その上身体中かすり傷だらけで林の中に倒れてた。」
「そうなんですか。」
なぜ林の中に?と、美羽は思った。
「うん。熱は下がったみたいだけど、まだ軽いものの方がいいかな。」
そう言うと、病室を出ていき、1分しないうちに戻ってきた。
「はい、コレを食堂の受付に持って行って、食べておいで。」
射守矢が差し出したのは中身が決して見えないようになっているオレンジ色のファイルだった。噂程度に耳にしたことがある。保健室にお世話になっている間の食事は自分で食堂に食べに行くにしても養護教諭からの指示が出される。
「はい。」とだけ返事をして、靴を履いて保健室を出ていった。大抵の人間はこういう見たことのないものに好奇心を抱くだろうが、美羽は中を覗く気にはならなかった。
 なんだかぼうっとする。夢の中にいるような、不思議な気分だ。そんな中でなにか大事なことを忘れている気がした。
 人に優しくされたのなんていつぶりだっただろうか。おばあちゃんが死んでしまってから...。きっとそうだ。気丈に振る舞い続けていた。何でもなかったフリをして。きっと皆射守矢先生みたいに優しくしようとしていたかもしれない。それを冷たくあしらい続けた。何でもなかったフリをして。
 なんて考えていたら涙がホロリホロリと流れ出た。なんでこんなときに出るんだよ。別に出なくても良いのに。明日また星の基地スターベースに行ったら皆と話そう。そう思って左手首に触れた。
 そしてその時、美羽は初めて気づいた。腕時計と石が無くなっていたのだ。
「...どうしよう...、石が無い...!」
パニックに陥りそうな自分を何とか落ち着けようと深呼吸をする。しかし、息を吸った瞬間から獅雲羽達の吐き出されていく。山田氷河の凍りつくような白い目が浮かんで、深く吸おうにも中々吸えない。息苦しさが増していく。目が回る。だんだん足の力が抜けていった。気を失いかけたとき、誰かが美羽を抱きとめた。
「美羽ちゃん?」
息を切らしているその声はさっきまで聞いていた射守矢先生の声だった。優しく暖かな声音がすうっと心拍数を落ち着けていく。
「どうしたの?大丈夫?」
ハッと我に返り、射守矢先生の顔を見る。顔立ち自体は悪くない方だろう。
「...あの...えっと...、黒い石の着いた腕時計、知りませんか?」
「...。この体勢で聞くことかな、それ?」
眉だけを八の字に曲げて困ったような笑った顔をしていた。
「すみません。」
射守矢先生は倒れかけた身を起こしてやり、手を繋いだ。「美羽ちゃん、少し危なっかしいから、手、繋いでおくよ?」射守矢先生は少し馴れ馴れしいが、下心は感じられない。優しい人間なのは間違いなかった。
「それで、黒い石?の着いた腕時計?そんなのつけてなかったよ。」
「え?」美羽の顔は再び曇った。
「もしかして、かなり大事なものだったりする?」射守矢先生もそれとなくただ事でないのを悟ったようだった。
「はい。」美羽は再び息苦しくなりそうだった。
「そっか…。でも、まずはゆっくりお昼ごはん食べに行こうよ。腹が減っては戦はできぬって言うでしょ?」美羽はゆっくりご飯を食べたい気分ではなかった。でもどうしてだろうか。不思議と彼の声には何でも思わず「はい」と言いたくなるような暖かさを感じた。二人は食堂へと歩きだした。
 食堂まで五分とかからなかった。病院棟と大食堂は中央の図書館塔の東側と南側にある。大食堂は、朝早くからでも最低15人、混雑する昼時には20~30もの料理人がおり、夕食時も15人前後、深夜でも五人と、24時間料理人が居り、いつでも食事がとれるようになっている。
「さぁ、着いた。」食堂には私服の大学生がちらほら居た。調理場では昼食を取っている者と、皿洗いをしている者、料理を作っている者といた。二人は誰もいない受付カウンターの前に並んだ。すると、いつもの陽気な食堂の伯母さんが出てきた。
「あらあら、先生!あら、美羽ちゃんも一緒なの?具合悪いの?大丈夫?」
「あ...もう、平気です。」
「そう?それじゃ、それ、預かるよ。」
美羽の差し出したファイルを受けとりながら、
「先生は何になさいます?」
「僕は...きつねうどんで。」
「あいよ!」
気前のいい返事を残して、手の空いている料理人二人に指示を出してせっせと調理を始めた。
「ここで待ってられる?個室取って来ようと思うんだけど。」
「分かりました。」
射守矢先生は小走りでカウンターを後にした。そして、二分ほどで小走りで戻ってきた。「個室の14番、取ってきたからね。」
僅かに汗がキラキラとして見えた。走る必要なんてないのに、どうして走ったのだろう。変な人だ。でも、やっぱり悪い人じゃない。
「はい、お待ちどーさまー!」
伯母さんが美羽に粥と煮物を、射守矢先生にはきつねうどんをトレーに乗せて手渡した。礼を言って二人は14番の個室へと向かった。個室は入ろうと思えば10人くらい入れるような大して大きくない部屋ではあるが、食事だけでなく、教員と生徒の面談やクラブや委員会の集会でも多いに役立つ。射守矢先生は美羽に奥側の席へ座るように促した。
2人は席に着いて食事を始めた。
「それで...、黒い石の着いた腕時計?」
「はい。とても大事なもので...。」
「残念だけど、君を林の中で見つけたときから着けてなかったよ。」
美羽は黙り込んだ。どこかで落としたのだろうか。はたまた誰かが持ち去ったのではないか。色んな想像が頭に浮かんだ。
「そもそもさ、美羽ちゃんはどうして林の中に倒れてたの?あんな傷だらけでなんてもしかしてイジメ?」
「虐められてるのは事実ですけど、原因は違って...私もあまり覚えてなくて...。えっと...」
仁好や力達と巨大な蠍のスピリットモンスターと対峙していたところまでは覚えている。その後は闇色の閃光が走って、そこで記憶が途絶えているのである。
「誰にでも言いたくないことの1つや2つあるよね...。」
なぜだか憐れむような顔をされている。恐らく、射守矢先生と美羽の考えていることは違っている。「あの…多分違うと思います。」
美羽がボソッと呟いたが、聞こえていないらしく。大きくうなづいてうんうんと首を大きく縦に振っていた。美羽は何かを言おうとしてやめた。でも不思議とモヤモヤした感じはなかった。
 二人は話しながらのんびりと昼食を楽しみ、美羽は久しぶりに人間との温かな食事を楽しんだ。楽しんだ...。楽しかった...。楽しかったはずなのにツーと、涙が頬を伝って粥に落ちた。
「どうしたの、美羽ちゃん?」
「なんでもないです。ただ、人と一緒に食べるの、本当に久しぶりで、胸が温かくて。」
「そっか。僕で良かったら週末病棟にいるから、誘いに来てもいいよ。」
「ええ、きっと行きます。」
こういう先生と生徒同士の関係は普通の学校でなら白い目で見られてしまう。だが、トワイライト学園は先生と生徒の距離が元々近いため、特に何も思われはしない。
 美羽は昼食食べ終えた後、言われるがままに部屋に戻った。カードキーで扉を開け、制服から部屋着に着替えた。白湯を入れて本を手に取る。
 白湯を飲んで見るが、結局読む気になれず、パジャマに着替えて布団に寝転んだ。もう十分に眠ったが、何をする気にもなれず、ただ、落ち着く場所に居たかった。その後の事はよく覚えていない。布団を頭まで被ってとにかくシーツに雫を落とした。


こんにちは!千歌です!Star Guardians を読んでいただき、ありがとうございます!
大学は無事に第一志望に受かりました。が、中々続きが書けないまま、気づけば7月。やっと書ききりました。今後も頑張って書いていくので、応援宜しくお願いします。
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