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運命の番って何?
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とある店にて──。
「運命の番? そんなものあるのかしら?」
友人のエリッサの言葉にマージョリーは頷くが、
「まあ、普通はそう思うわよね」
「マージョリー?」
折角目の前に美味しそうな焼き菓子が並んでいるというのに、ため息を漏らす友人にエリッサが訝しげな視線を向けた時、店外からドタドタドタッ、と重い音が聞こえてきた。
店のドアが開き、一人の男性が入って来た。
この店はどちらかと言えば女性向けで、店内の壁紙は淡い色で纏められ、スプーンの意匠を見ても女性が手に取ることを意識して作られている。
そのため店内のテーブルについている客の殆ど──いや全てだろう──が女性であり、その男性に一気に視線が集まった。
男性を一目見たエリッサが固まった。
「……え」
この国は人族も獣人も比較的差別的なことはない。
そういう風に法整備がされていた。
入って来たのは、恐らく鹿の獣人だと思われた。
何故『恐らく』なのかというと、とてつもなくふくよかだったからだ。
限りなく真円に近い体躯に、吹き出物で一杯の顔、ボサボサの髪にある角らしいもので、鹿の獣人か、と推測されたのだ。
その鹿の獣人らしい獣人は、真っ直ぐマージョリー達のテーブルに来ると、
「マージョリーッ!!」
無遠慮な叫び声が店内に響き渡る。
「探したよ。君の家に行っても誰も教えてくれなくて。酷いよね。僕と君は運命の番なのに」
「──は?」
マージョリーの低い声がした。
あ、これ関わったらいけないやつだ。エリッサはそっと距離を取った。
「私と貴方が運命の番? 有り得ませんが。その前に私は人族です。そういったモノは獣人同士のモノでしょう?」
「ああ。うん。僕もそう思っていたんだけどね。本能が君を求めているんだ」
どうやらキメ顔を作っているようだが、元々がふくよかな顔立ちである。
肉にすっかり埋まった目鼻でこちらを見られても、どれがどれやらサッパリ分からなかった。
マージョリーはすぅ、と息を吸い込むと決定的な一言を告げた。
「生理的に無理」
思ったよりもその一言は響いたようで、店内がシン……と静まり返った。
「そんな、僕は──」
「無理なものは無理です。これ以上というのでしたら警ら中の騎士様をお呼びしますよ」
マージョリーがキッパリと告げると漸く鹿の獣人はすごすごと店を出て行った。
暫く経って店内のざわめきが戻ってきた頃、エリッサは勇気を振り絞って聞いてみた。
「さっきのって──」
「ああ。あれ。自称運命のなんちゃらよ」
マージョリーの答えはそっけない。
「なんちゃら、ってそこまで言わなくても──」
「は? 合意もなく閨事に引き込もうとするし、いつの間にか尾行されてたみたいで、少し話しただけの相手を浮気だとか? その前に付き合ってませんけど? それから──」
エリッサは即座に謝罪した。
「ごめんなさい。そこまでとは思わなかったわ」
ふう、とマージョリーが息をついた。
「こちらこそごめんなさい。ここのところ悩まされていたから。私、人族のせいかこういった感覚がサッパリなのよね。あんな風に来られても気味が悪いだけで」
「……そうね」
せめてもう少しイケメ……そこは言ってはいけない、と呑み込んだために返答が遅れたエリッサだった。
その後、鹿の獣人セドリックは、番を得られなかった獣人が送られるという矯正施設へ送られたようだが、その後の行方は定かではない。
マージョリーはその後、父親の薦めで見合いをし、その相手と結婚後、一男一女をもうけ幸せに暮らした。
「運命の番? そんなもの作り話でしょう? それよりもカール、よく聞きなさい。好きな女性を射止めたかったら、絶対に相手の話をよく聞くのよ。勝手に相手の意思を決め付けてはダメよ。後、身だしなみも大事ですからね」
~ 完 ~
「運命の番? そんなものあるのかしら?」
友人のエリッサの言葉にマージョリーは頷くが、
「まあ、普通はそう思うわよね」
「マージョリー?」
折角目の前に美味しそうな焼き菓子が並んでいるというのに、ため息を漏らす友人にエリッサが訝しげな視線を向けた時、店外からドタドタドタッ、と重い音が聞こえてきた。
店のドアが開き、一人の男性が入って来た。
この店はどちらかと言えば女性向けで、店内の壁紙は淡い色で纏められ、スプーンの意匠を見ても女性が手に取ることを意識して作られている。
そのため店内のテーブルについている客の殆ど──いや全てだろう──が女性であり、その男性に一気に視線が集まった。
男性を一目見たエリッサが固まった。
「……え」
この国は人族も獣人も比較的差別的なことはない。
そういう風に法整備がされていた。
入って来たのは、恐らく鹿の獣人だと思われた。
何故『恐らく』なのかというと、とてつもなくふくよかだったからだ。
限りなく真円に近い体躯に、吹き出物で一杯の顔、ボサボサの髪にある角らしいもので、鹿の獣人か、と推測されたのだ。
その鹿の獣人らしい獣人は、真っ直ぐマージョリー達のテーブルに来ると、
「マージョリーッ!!」
無遠慮な叫び声が店内に響き渡る。
「探したよ。君の家に行っても誰も教えてくれなくて。酷いよね。僕と君は運命の番なのに」
「──は?」
マージョリーの低い声がした。
あ、これ関わったらいけないやつだ。エリッサはそっと距離を取った。
「私と貴方が運命の番? 有り得ませんが。その前に私は人族です。そういったモノは獣人同士のモノでしょう?」
「ああ。うん。僕もそう思っていたんだけどね。本能が君を求めているんだ」
どうやらキメ顔を作っているようだが、元々がふくよかな顔立ちである。
肉にすっかり埋まった目鼻でこちらを見られても、どれがどれやらサッパリ分からなかった。
マージョリーはすぅ、と息を吸い込むと決定的な一言を告げた。
「生理的に無理」
思ったよりもその一言は響いたようで、店内がシン……と静まり返った。
「そんな、僕は──」
「無理なものは無理です。これ以上というのでしたら警ら中の騎士様をお呼びしますよ」
マージョリーがキッパリと告げると漸く鹿の獣人はすごすごと店を出て行った。
暫く経って店内のざわめきが戻ってきた頃、エリッサは勇気を振り絞って聞いてみた。
「さっきのって──」
「ああ。あれ。自称運命のなんちゃらよ」
マージョリーの答えはそっけない。
「なんちゃら、ってそこまで言わなくても──」
「は? 合意もなく閨事に引き込もうとするし、いつの間にか尾行されてたみたいで、少し話しただけの相手を浮気だとか? その前に付き合ってませんけど? それから──」
エリッサは即座に謝罪した。
「ごめんなさい。そこまでとは思わなかったわ」
ふう、とマージョリーが息をついた。
「こちらこそごめんなさい。ここのところ悩まされていたから。私、人族のせいかこういった感覚がサッパリなのよね。あんな風に来られても気味が悪いだけで」
「……そうね」
せめてもう少しイケメ……そこは言ってはいけない、と呑み込んだために返答が遅れたエリッサだった。
その後、鹿の獣人セドリックは、番を得られなかった獣人が送られるという矯正施設へ送られたようだが、その後の行方は定かではない。
マージョリーはその後、父親の薦めで見合いをし、その相手と結婚後、一男一女をもうけ幸せに暮らした。
「運命の番? そんなもの作り話でしょう? それよりもカール、よく聞きなさい。好きな女性を射止めたかったら、絶対に相手の話をよく聞くのよ。勝手に相手の意思を決め付けてはダメよ。後、身だしなみも大事ですからね」
~ 完 ~
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