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第一章・美麺を制する者、世界を制す
見知らぬ異世界で、少年は漆黒の姫君となる
しおりを挟むーーーー漆黒のロココ調の壁に、様々なモノクロの絵画。真紅と金糸の絨毯が敷かれた幻想的な異空間。
すっきりした簡素なラインの黒いワンピースに、白いフリルのついた前掛けエプロンをした、典型的な西洋風のメイド少女達が、ずらりとその異質な回廊の端を並んでいた………。
皆、年齢は10代くらいで、どの子も色白で大変整った顔立ちをしている。一体、どのようにすればこれだけの美姫を集められるのだろうか…?
その服装は典型的なメイド服らしく、ドレッシーで可憐ではあったが、なぜか不思議な事に軍の制服を思わせた。服装の華美さに負けぬくらい、メイド達の仕草の一挙手一投足に真面目で規律に満ちた印象があったのだ。
同じ制服を纏ったメイド達が並ぶその姿は、回廊の漆黒の雰囲気と相まって荘厳そのものであった。
そう。ここは、豪華絢爛な帝国の城の中なのである………。
「姫様が通られる!道を開けよ!」
黒に金字の薔薇と蛇の旗を掲げた、メイドのひとり、金髪のツインテールの少女がいう。やはり、その容姿は美しい以外の何者でもなかった。
北欧の戦乙女や、フランスのジャンヌ・ダルクを連想させる革命家然としたその蒼い瞳の乙女の指示に従い、先刻まで回廊でバラバラに秩序なく動いていた少女達が、次々と道を開けていく。
まるで西洋版大奥のような、彩りの美姫達。
ーーーー回廊の一番奥、赤と黒の重厚な扉が開いた。
巨大な棺桶か、蝶の羽根のようなそれを、ふたりの白髪のショートカットの、小柄で華奢な双子の美姫がいともあっさりと開いた。
無機的な人形じみた双子が破った蝶の中央にいるのは、その美姫達の中でも、ひときわ眩く輝く、大輪の美貌の乙女であった。
年は、10歳くらいか。
すらりとした脚まで届く美しい銀髪。
深く燃えるような地獄の業火の赤い瞳はぎらぎらと煌めいている。
初雪の、踏み難い白無垢な肌は何者にも傷つけられぬという強い意思を放っている。
彼女…ここにいる百人の美姫達の中でも、圧倒的な薔薇の存在感を放つ幼き女王である彼女は、破れたボロボロな漆黒のドレスを身に纏っていた。
ほつれて乞食のような印象の、他の人が着ると下品で不格好なドレスだったが、なぜか彼女が着ていると、どんな豪華絢爛な布地よりも気高く、情に満ちて、ひたむきな感じがした。
「我らが君主、アデリナ様のお通りである!頭を垂れよ!!」
金髪ツインテールの革命家然としたメイドが高らかにいう。
その声に並んで、他の少女達が頭を垂れた。
「ははーーーーー!!!!」
まるで武士のような、可憐な容姿に似つかわしくない声を出す乙女達。
やはりメイドというより、完全に帝国の軍隊のそれである。
幼き女王閣下が一歩一歩踏み出す毎に、あたりは静謐な緊張に包まれた。
少女が歩く道はこの異空間にあって、さらに異質だった。
アデリナが歩む度に、彼女の銀の髪から発せられる薔薇の芳香が乙女達を陶酔させた。
この軍の頂点にいる彼女は、唐突に、にやり、と意味深な笑みを浮かべる。
その傾国の魔性の笑みは、毒の花束のようであったが、当の本人……。
(あ、ははは…)
つまり、アデリナの中にいる【俺】はそのあまりに華麗で威圧的な光景に呆気にとられていたのである。
思わず、苦笑が漏れてしまったのだ。
頭が爆発しそうなくらい、不安だった。
ど、どうしよう…………。
□
およそ、二ヶ月前。
俺は心の臓を高鳴らせながら、近所の銀行に向かった。
踏切を渡り、スーパーの横を通る。
その日はよく晴れていた。飛行機雲が白い線を引いている。
銀行に着くと係員に丁重に案内され、奥の部屋に入った。
過剰に興奮する俺の顔をみて、母親に連れられた小さな女の子がきょとんとした顔をしていたのを覚えている………。
こうして、俺は一度っきりの人生でおそらくもう二度とないであろう、神様からの贈り物である、宝くじの景品・100億円をゲットしたのである。
俺は小刻みに震える両手で迷わずそれを、今思えば愚かな事に両親含む親族らの反対を強引に押し切って、大好きなオンラインゲームであるスーパーソニック・ブレイドに課金したのであった。
すると、どうだろう。パソコンのデスクトップに奇妙なページが開いた。
「お、ステータス満点にできるんだ!最初からレベル999で進める!」
狭い市営住宅の、古びた畳の和室で俺は古本やアニメのDVDに囲まれながらひとり歓喜して、隣のリビングで泣く両親を尻目にいそいそとキャラクターメイキングをし、ゲームを開始しようとしたのだが……。
□
目が覚めると、俺は漆黒の麗しい棺桶のような天蓋付きベッドの上で仰向けになっていた。
寝台の横に飾られた赤い花弁の芳しい香りが鼻腔をくすぐる。寝ぼけ眼で起き上がり、これまた豪奢な黒いキラキラ~の鏡に体を映すと、見たこともないような白人の美少女が。
「な、な、な、なんだこりゃーーー」
俺は絶世の美姫に似つかわしくない酒場の親父のようなドス声を出して、絶叫した。
誰もみていなかったが、誰かがみていたらさぞ奇矯な人と思われたに違いない。
とりあえず精神状態を整え、自分の置かれた立場を考えた。それくらいの余裕はあった。
そこで、俺は気がついたのである。この外見はどうみても、さっきまで必死になって24時間かけてキャラメイクしていた自分の新しい主人公キャラクター・「アデリナ」であると。
俺は中世の城のような部屋に入ってきた麗しいメイド達に戸惑いながらも、冷静沈着に「少女王」アデリナとしてのキャラクターを演じるよう努めた…。
なぜなら、自分が理性を失い暴走することで、ニート部屋で丸一日かけて愛情込めて設定した自国の設定を零落させたくなかったからである………。
自分が女である事を嫌でも意識させられる、久遠の時を生きた九尾の尻尾のような銀の髪束や、アルビノを連想させる赤い瞳と白すぎる肌に狼狽しながらも、なんとか無事に、二ヶ月もの長く短い時を過ごしてきたが……。
「…はあ…」
俺は玉座の上で嘆息した。
流石に何も知らない状況から唐突に強烈キャラ「アデリナ」を演じる事は、日を追うごとに疲れてくる。
俺はもっと、ほのぼのと平穏に暮らしたいのに。
なぜなら俺は、平和的すぎるくらいの平和主義者なのだ。
なにせ、俺は、普通の高校生で、最近は不登校気味で、ひきこもりのゲームオタクで、ひ弱で、読書と妄想が趣味で、しかも男で。
確かに若干女に間違われる事はあったが、ホモではないし、オカマでもない。
いや、確かにネカマではあったが、それは、漫画のキャラクターとして可愛い幼女吸血鬼キャラクターが好きなだけであり、決して自分がそうなりたいなんて、思っていなかったのに。
………どうして、こうなった!?
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