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第二章 交差する想い
3 心の変化
しおりを挟むいやいやその様な筈はないだろうとシリルは頭を何度も左右に振っていた……と言うより、しっかりと振り切っている。
それもその筈。
何の身分もない平民であっても親の同意なしでの男女の関係、然も身籠る等決して容認されてはいないだろう。
それにアイリーンやパーシヴァルは平民ではなくれっきとした貴族である。
平民で容認されていないものを貴族社会がどうして受け入れてくれる?
いやまだ男性はそこまで非難されないだろう。
けれどもそれは決して褒められた行為ではない。
それに今迄全くないとは誰も言わないし、思わない。
ただあくまでも表舞台へ出てこないだけの事。
またそう言った場面で傷つくのは往々にして女性が多いのも現実だ。
まあ確かにそれが全てではない。
中には少年を好む大人の男女がいるのも事実だ。
だがそれは女性の被害と比べると圧倒的に少数派なのである。
パーシヴァルが世の男性の様な女性を弄んだ末、身籠った途端に打ち捨てるとはシリルには到底思えない。
でもシリルとは違い騎士ではないパーシヴァルは、社交シーズンともなれば頻繁に催される夜会やお茶会等へ出席し、上流貴族の紳士らしく貴族間の繋がりを深めているだろう。
パーシーの浮いた噂も聞かなくはないが、どれも社交辞令の様なものらしい。
それでなくともシリルと共に若く財や身分もあってのイケメン貴公子なのである。
彼へと想いを寄せる令嬢も決して少なくはない。
しかしモテ男と揶揄されるパーシヴァルに何時も女性の影はなく、もしかして男色に興味があるのかと邪推したシリルが、社交シーズンの頃に屋敷へやって来た彼へその当時に半分冗談、そして半分本気の口調で現在好意を寄せる女性はいないのかと訊いた事があった。
「そうだね、僕も君の様に何時か自由に……心から、そう心より愛していると声を出して叫べたらいいね」
「今はそう言う女性はいないのか?」
「……うーんどうだろうね。こればかりは思う様に儘ならないものだからね。ただ、正式に付き合いを申し込む様な相手はまだいない。それより早くアイリーンを安心させるといいよシリル。彼女は昔から君だけを好きだったからね」
そう言ったパーシヴァルの表情は笑顔なのに何処か憂いを帯びていた。
ただその時のシリルは残念ながら何も気付かなかった。
何故なら今より三年前、丁度シリルが第一騎士団の団長へと昇格し、これで漸く総騎士団長までの道のりにも少し目途がついた頃でもあったから……。
総騎士団長へ昇格した時に愛するアイリーンへ、正式に結婚を前提とした交際を申し込もうとずっと心に決めていたのだ。
我が道を順風満帆に邁進していたシリルには、パーシヴァルの隠された影の部分を気付く筈もない。
幼い頃より仲良し三人組として育ち、そうして変わらない友情を育んできた。
またシリルとアイリーンが相思相愛だったのを誰よりも、そう一番近く見ていたのがパーシヴァルである。
だからこそシリルは何も気付かなかった。
そして今アイリーンがパーシヴァルの子を身籠っていると言う事実をかなり驚きもしたのだが、何故か不思議にもすとんと腑に落ちた様に納得した。
ただしアイリーンの気持ちと行動だけは未だに理解が出来ないままである。
それと何故あんなにも好きだったアイリーンに裏切られたと言うのにも拘らず、自身がそれ程ショックを受けていない事にシリルは首を傾げるばかりである。
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