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第二部 第一章 新しい出会いと新たな嵐の予感
23 静かに忍び寄る嵐 Ⅶ
しおりを挟む「ところでエヴァンジェリンさ――――」
「ふふ駄目ですわ。私はエヴァよ、ミドルトン公爵」
「これは大変失礼致しましたエヴァ様」
愛称で呼ばれたエヴァはにっこりと満足そうにアイザックへ微笑んで見せる。
その笑顔は可憐で愛らしい、穢れのない清楚で凛と咲く白百合の様な笑みで……。
「エヴァ様っ、それは反則ですわっっ。公爵よりもどうか私の為だけにその麗しい微笑みを〰〰〰〰っっ!!」
「あぁ愛しの君よ。私は貴女の為だけに何時でも貴女へ微笑んで見せるよ」
「あ゛?」
そう言ってアイザックはアナベルが動くよりも早く彼女の手を掬い取り、そっと口づけを落とす。
その一連の動作は何と優雅な所作であり、目の前で見ているエヴァは思わず心の中で呟いてしまった。
まあ、まるで物語に出てこられる王子様とヒロインの様ですわっっ。
感激するエヴァの瞳には何とも幻想的な恋人達に見えているのだが実際は思いっきり違うのである。
確かに甘く糖度の高い眼差しでアナベルを愛おしげに見つめるアイザックはまさにエヴァの脳内通りの王子様だろうが、ヒロインたるアナベルにしてみれば堪ったものじゃあない。
アナベルにとってこの十年もの間、この離宮での暮らしはエヴァを独占出来た唯一の天国そのものと言っても間違いではないだろう。
また当初より何かと小煩いラファエル達を心を病んでいるエヴァへこれ以上の負担を避けたい……と言うアナベルからの申し出を何の疑いもなく受け入れた事により、アナベルは毎夜抜け道を通りラファエルの執務室へと報告に行かねばならないと言う面倒臭い事はあれども、それもこれも全てはこの天国みたいな環境を思えば些末事に過ぎないのだ。
そう、紙切れ上とは言えエヴァとラファエルは十年前のあの日より正式な夫婦である故。
そうしてまだまだ稚くも大切なエヴァをラファエルの魔の手より護る為でもあるのだっっ。
なのにだっっ。
この離宮へはそう簡単に外部の者は入れない筈!!
そう、そのために造られた場所であるのにも拘らずっ、何故か今っ、どうして離宮の中に先日出くわした(アナベルにしてみれば) 二人が悠然といて、その内の一人であるアイザックが悪気等全くない様子でアナベルが拒否をする間も与えられずに二度目の口づけを簡単に許してしまった。
ライアーンでは姫将軍とまで恐れられ、いやいやここルガートにおいても決してラファエルヤマックスにも後れを取っている訳じゃあないっっ。
この十年もの間エヴァを必死に、そして率先して護ってきたのはアナベル・ルチアナ・ベイントンなのだと、出来る求められればしっかりと胸を張って彼女はしっかりとそうなのだと即答出来る……筈なのにどうしてなのだろうか、この二人を前にするとアナベルが一生懸命築き上げてきた全てが一気に瓦解してしまうような、どうしようもない不安と共にきっと彼らがいればこれまで以上にエヴァの守りは強固になると理解している自分もいるのである。
そうわかっている。
十分過ぎる程に理解はしている。
あの人間であって人間でないだろうシャロンのアーロンより、アナベルにとって自身の命よりも大切なエヴァを護りきるにはラファエル達だけでなくアイザックの力も必要不可欠であるという事を……。
ただ問題はアナベルの心の問題なのである。
先日以来今まで小さかったエヴァとアナベルだけの世界はもうだけの存在しないと言ってもいい。
診療所でマックスが介入してくるまでは許容範囲だったのだ。
しかし今エヴァの周りには彼女の紙切れ上でありながらもエヴァへ恋情を抱く恋情不届き者(あくまでもアナベルにとって)のラファエルや側近のチャーリーにラファエル直属の騎士団とアイザック達。
確実にエヴァの世界は少しずつではあるがは広がっているのだ。
止まっていた時間が動き出したかの様に……。
それが何とも寂しいとアナベルは感じてしまう。
本来ならばエヴァは王女として光溢れる道を進むべき存在なのだ。
そうこれは至極当然な流れなのかもしれない。
でも……それでも願ってしまう。
エヴァ命のアナベルにとって何時までもエヴァと共にありたいと。
それにしてもあのエロ公爵っ、大人しくエヴァ様へ仕えておればいいのに何故私を揶揄うのか全く理解が出来ない!!
私にとって一番大切なのはエヴァ様なのですっっ。
それ以上もそれ以外等今の私にはありませんっっ。
だからと言って私はエヴァ様以外の女性には全く興味はありませんし、全てが終わればきっと父の決めた相手との政略結婚が待っているのでしょう。
伯爵家の娘としてそれは十分過ぎる程理解してはいますが……でも、それはあくまで建前ですわっっ。
このアナベル・ルチアナ・ベイントンよりも弱い男の妻に等収まる心算等ありませんわよ!!
そして生涯エヴァ様のお傍で生きると決めたのです。
だからして夫となる相手もそれに準じなければ問題外――――ですわね。
ただし……絶対に目の前の男の妻だけは御免ですわっっ。
そう言う意味も言う思いっきり含めアナベルはアイザックを思いっきり睨めつけたのである。
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