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番外編
番外編 アイザックの苦い過去 15
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それから3日後クラウディアはアイザックの手で別邸にある薔薇園の中に埋葬された。
彼女の好きだった花でもある。
本来ならばミドルトン公爵家の妻として盛大に見送りたかったのだが事件はまだ何も解決してはいない。
それに今彼女の存在は誰にもまだ知られる訳にはいかないのだ。
彼女を、彼女の家そして彼女と血の繋がりのある叔父夫婦にその叔父の友人達の名誉も何もかも貶められたままだ。
貴族云々ではなく人間としての尊厳さえも奈落の底へと貶められた事に関してアイザックは苦々しく思うも今はまだ動くべき時ではない事を理解していた。
どんなに腹立たしくとも今は沈黙を守るしかないのだ。
彼女達の、引いては己の恨みを晴らす為にもここは我慢のしどころなのである。
だから彼らに何も覚られない様にクラウディアを埋葬した直後後ろ髪をたっぷりと引かれる思いでアイザックは別邸より去って行った。
立ち去るその瞬間までクラウディアの眠る薔薇園をを見つめたままで……。
それはまるで彼の少し銀色交じりの焦げ茶色の瞳にその光景を忘れない為に焼き付けているかのようであった。
そうして時は流れあっという間に約1年が経とうとしていた。
相変わらずアイザックは表の社交界では貴婦人達と軽い恋愛を愉しみ、その裏で極秘裏に調査を進めていたある日ヨルムよりクラウディアの眠る別邸へ来る様に言われアイザックはその場で転移をした。
「お待ちしておりました旦那様」
屋敷の玄関ホールに現れたアイザックを出迎えたのは勿論ヨルムだ。
然も随分と何時になく笑顔なのだ。
「――――その様子では上手くいったのかな?」
彼の顔を見てアイザックは何やら意味ありげな笑みを向けて言う。
だがヨルムはそんな主の詮索をモノともせず淡々と報告する。
「はい、全て裏も取れました。お話を聞かれますか?」
「あぁ、この日を随分と待っていたのだからね、何があっても私は聞いてみせるよ」
「では、こちらへどうぞ……」
アイザック達が向かったのはこの屋敷にあるサンルームだった。
そして彼らがサンルームへ入るとその中に1人の妙齢の女性が待っていた。
彼女の名はカリナ。
そう、彼女こそクラウディア達の中で唯一生き残った元シーウェル男爵家の侍女であった者だ。
そしてあの一件で唯一の生き証人とも言える存在。
クラウディアが亡くなった時彼女自身も危うかったのだが僅かなりとも奇跡が起こり今カリナはこうして回復したのだ。
彼女もまたクラウディア同様薬漬けにされその身体を幾人もの男に蹂躙されたのだが、生死の観点から言わせれば彼女の身体は完治したが、彼女自身の精神面においてはそれが幸いなのかはアイザックにとって今は謎である。
もしかしなくとも普通の娘が見る事のない生き地獄を彼女は十分過ぎる程味わってしまったのだ。
クラウディアとさして年齢も変わらない若い娘が、否女性が体験するにはおぞまし過ぎるだろう。
案の定カリナも最近まで心を病んでいたのだという。
それも仕方のない事なのだ。
普通ならば体験しなくてもいい事なのだから……。
アイザックは直接関わりがない者だとしても愛するクラウディアに何も出来なかっただけに彼女には金銭面やこれからの治療等出来る事は援助するつもりだと彼はそう考えていたし既に実行していた。
ただ彼女の心だけは救う事は出来ないのだ。
彼女には彼女を労わり護ろうとする愛が必要なのはわかっているがアイザックの心はもうこの世にはないのだ。
否、正確にいえば彼の心は今天に召された愛するクラウディアの許にあるのだ。
だからこの現世において彼の心はもう存在しない、だから彼女を労わり憐れむ気持ちはあっても愛する事は出来ないのだ。
だが何も出来ない訳ではない。
クラウディアは最期に伝えたのだ。
自分はイリーネと祖父……マリス侯爵に騙された――――と。
だからあの時イリーネは自分がクラウディア達の件に係わっていた事を暗に洩らしかけてしまったのだ。
マリス侯爵だけかと思っていたものだったが昔より傍近くにいた幼馴染が愛する者達を奈落の底へと突き落とした事に係わっていたかと思うと、アイザックの腸は煮えくり返るどころか灼熱の業火で燃え滾っていた。
何があろうと決して許さないっっ!!
マリス侯爵家、否、シャロンに連なる者全てを何時の日か根絶やしにしてやるっっ!!
どの様に時間が掛かってもクラウディア達が味わった倍以上の苦しみを味合わせてやる!!
彼女の好きだった花でもある。
本来ならばミドルトン公爵家の妻として盛大に見送りたかったのだが事件はまだ何も解決してはいない。
それに今彼女の存在は誰にもまだ知られる訳にはいかないのだ。
彼女を、彼女の家そして彼女と血の繋がりのある叔父夫婦にその叔父の友人達の名誉も何もかも貶められたままだ。
貴族云々ではなく人間としての尊厳さえも奈落の底へと貶められた事に関してアイザックは苦々しく思うも今はまだ動くべき時ではない事を理解していた。
どんなに腹立たしくとも今は沈黙を守るしかないのだ。
彼女達の、引いては己の恨みを晴らす為にもここは我慢のしどころなのである。
だから彼らに何も覚られない様にクラウディアを埋葬した直後後ろ髪をたっぷりと引かれる思いでアイザックは別邸より去って行った。
立ち去るその瞬間までクラウディアの眠る薔薇園をを見つめたままで……。
それはまるで彼の少し銀色交じりの焦げ茶色の瞳にその光景を忘れない為に焼き付けているかのようであった。
そうして時は流れあっという間に約1年が経とうとしていた。
相変わらずアイザックは表の社交界では貴婦人達と軽い恋愛を愉しみ、その裏で極秘裏に調査を進めていたある日ヨルムよりクラウディアの眠る別邸へ来る様に言われアイザックはその場で転移をした。
「お待ちしておりました旦那様」
屋敷の玄関ホールに現れたアイザックを出迎えたのは勿論ヨルムだ。
然も随分と何時になく笑顔なのだ。
「――――その様子では上手くいったのかな?」
彼の顔を見てアイザックは何やら意味ありげな笑みを向けて言う。
だがヨルムはそんな主の詮索をモノともせず淡々と報告する。
「はい、全て裏も取れました。お話を聞かれますか?」
「あぁ、この日を随分と待っていたのだからね、何があっても私は聞いてみせるよ」
「では、こちらへどうぞ……」
アイザック達が向かったのはこの屋敷にあるサンルームだった。
そして彼らがサンルームへ入るとその中に1人の妙齢の女性が待っていた。
彼女の名はカリナ。
そう、彼女こそクラウディア達の中で唯一生き残った元シーウェル男爵家の侍女であった者だ。
そしてあの一件で唯一の生き証人とも言える存在。
クラウディアが亡くなった時彼女自身も危うかったのだが僅かなりとも奇跡が起こり今カリナはこうして回復したのだ。
彼女もまたクラウディア同様薬漬けにされその身体を幾人もの男に蹂躙されたのだが、生死の観点から言わせれば彼女の身体は完治したが、彼女自身の精神面においてはそれが幸いなのかはアイザックにとって今は謎である。
もしかしなくとも普通の娘が見る事のない生き地獄を彼女は十分過ぎる程味わってしまったのだ。
クラウディアとさして年齢も変わらない若い娘が、否女性が体験するにはおぞまし過ぎるだろう。
案の定カリナも最近まで心を病んでいたのだという。
それも仕方のない事なのだ。
普通ならば体験しなくてもいい事なのだから……。
アイザックは直接関わりがない者だとしても愛するクラウディアに何も出来なかっただけに彼女には金銭面やこれからの治療等出来る事は援助するつもりだと彼はそう考えていたし既に実行していた。
ただ彼女の心だけは救う事は出来ないのだ。
彼女には彼女を労わり護ろうとする愛が必要なのはわかっているがアイザックの心はもうこの世にはないのだ。
否、正確にいえば彼の心は今天に召された愛するクラウディアの許にあるのだ。
だからこの現世において彼の心はもう存在しない、だから彼女を労わり憐れむ気持ちはあっても愛する事は出来ないのだ。
だが何も出来ない訳ではない。
クラウディアは最期に伝えたのだ。
自分はイリーネと祖父……マリス侯爵に騙された――――と。
だからあの時イリーネは自分がクラウディア達の件に係わっていた事を暗に洩らしかけてしまったのだ。
マリス侯爵だけかと思っていたものだったが昔より傍近くにいた幼馴染が愛する者達を奈落の底へと突き落とした事に係わっていたかと思うと、アイザックの腸は煮えくり返るどころか灼熱の業火で燃え滾っていた。
何があろうと決して許さないっっ!!
マリス侯爵家、否、シャロンに連なる者全てを何時の日か根絶やしにしてやるっっ!!
どの様に時間が掛かってもクラウディア達が味わった倍以上の苦しみを味合わせてやる!!
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