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第三章 愛するが故に (仮)
2 気付く想いと消えぬ悩みに訓練は捗らず 茉莉花Side
しおりを挟む「そうだ茉莉花、常に精神を一定に保つのだ」
「う、うん。心を平穏に保つ事が大切だものね」
「そうだ、精神を高め一定に保つ事でこの世界を覆う結界も隙間なく張れると言うものだ」
「そうね、これも日本へ帰る為と思えば――――うきゃあっっ!?」
最近の私はまだまだ覚えなければならない山となる勉強と礼儀作法、それから心ならずも契約上?
いやいや心身共になのか、それとも名実共になのか。
兎にも角にも正式なヴァルの正妃となったからには当然の事ながら王妃様としての公務もある訳で、勿論彼は最初から無理にこなさなくともいいとは言ってくれたのだけれどと言うか彼曰く――――。
『宰相にとって今の俺は傀儡の王だからな。その傀儡の王の正妃が率先して公務もなかろう』
とまあ笑いながら、その笑えない自虐ネタを言ってくれるのは当然の事ながら私を心配してくれているからのもの。
そんな彼の優しさが最近になって物凄く私の心へびしびしと伝わってくるの。
譬え契約上とは言え、私に対してヴァルは何処までも優しい。
でもその優しさが今の私にはちょっとだけ……重い。
結婚してから?
ううんきっと結婚する前からだよね。
もしかすると初めて声を聞いたあの瞬間――――は流石に無いか。
じゃあ何時からだろうヴァルの事を気になりだしたのは……。
そしてこれが、所謂この胸にずんと重く圧し掛かる想いと言うものが恋?
モヤモヤとしている様でそれなのに――――キャわわわっっ!?
「何処へ脳ミソを散歩させているのだ茉莉花。その様なな事では何時までも冷静に制御出来ないぞ」
「うわっ、ヴァルってばちょっとやぁっっ!?」
考え事をしていた私の耳元へ熱い吐息を絡ませながら、その溢れんばかりの艶っぽい色香を含ませた声で囁くのだけはやーめーてー!!
何もしていなくてもただでさえお色気駄々漏れなのにっ、態々それで攻撃をするのは如何なものでしょうかっっ。
それと無防備な私を不意を突く様に抱きしめるのもやめてね!!
これってかなり心臓に悪いから!!
「あ、ちょ、やめ、やめて……」
「ん、止めて欲しいのか。俺は茉莉花の好む事しかしないのだがな」
な、何を好むってっ、人の耳朶をはむはむと柔らかな唇で食まないで〰〰〰〰っっ。
それで以ってこれでどうすれば集中なんてものが出来るっていうのよっっ!!
そう今私達は神殿でもあり第六の塔の中にある幽玄の間と言う王族、然も直系の者しか入る事の許されないここは色々な意味で不思議な部屋。
何でもこの部屋では時間の流れが部屋の外よりも随分と遅いらしい。
おまけにここは広大な部屋と言うより最早空間。
私達以外何も存在しない無の空間なのだ。
まるで……そうね、某アニメのドラ○○ボールの修行の間――――みたいな。
そして私もただ今この部屋で同じく修業中。
先ず最初は深呼吸をする事でゆっくりと呼吸を整えていく。
徐々に精神を集中させ心の中で何も考えなくなった所で、そっと小さな丸い珠を連想させる。
ちゃんと連想できるようになれば、その珠を空中で揺らす事無く一定の高さで保つ。
しかしこれが案外と難しい。
最初心の中で連想させた珠は何時の間にか現実のものとなり、ふわふわと私の胸の辺りで浮いているのだが、ちょっとした心の変動で何処にでも珠の好きな場所へと飛んで行ってしまう。
いやいや正確には私の制御出来ないのが悪いのだけれどね。
まあ最初は想っていたモノよりも思いっきり大きな珠を出した私は、ヴァルより冷ややかな声でやり直し……と注意され、それから何回も遣り直す事十回は軽く超えているわね。
そうして今やっとOKの出たサイズはゴルフボールサイズなのだ。
何回も遣り直させるのならば最初からサイズを指定して欲しかったのだけれど、このサイズ調整も訓練だと言われれば私は何も言い返せない。
でも少しでも気を抜けばこの珠は見る間に大きく揺れながら、あちらこちらへと飛び回ってしまう。
そうして言われる言葉は――――。
「珠が安定しないのは茉莉花自身の精神が安定していないからだ」
等と至極真っ当な事をヴァルさんは言ってくれますが、だからと言って私の力が何とか安定したのを見計らう様に彼は先程より何度も背後よりぎゅっと私を抱きしめたり、無防備な耳朶を食んでくるのだ。
その度に私の珠は私の感情を代弁するかの様に、遠い彼方へと大きくバウンドをしながら飛んで行ってしまう。
「はぁ……またやり直しだぁ」
「まだ時間はたっぷりある。急がなくともゆっくり落ち着いてやるといい」
「あのね!! 私の背後霊みたく直ぐ後ろに構えて、隙あらば悪戯を何度も仕掛ける人に言われたくはない!!」
私は振り返ると同時に、ヴァルを恨みがましく睨めつける。
「心外だな我が愛する妃は……」
「そんな大仰な、傷ついた様な顔をしても駄目だよ」
「俺はそなたが放ってしまった珠が背後よりそなたへ襲い掛からないよう、こうして今も愛する妻を護っているのだがな」
その時だった!!
先程彼方へと飛んでいった珠が勢い良く私の、ヴァルの背後へぐんぐんとスピードを上げて近づいてくるっっ。
「ヴァルっ、危な――――っっ!?」
このままでは珠に激突されると思ってしまうのだが、ヴァルは冷静にその球の方向へ手を掲げ、何も持っていない筈なのに、そのままギュッと何かを握り潰すかの様な仕草をして見せる。
ぐわあぁシュウウゥゥゥ……。
それと同時に珠は空中で突如轟音と共にどんどん小さく縮小され、最終的にはポンと勝井音と共に消滅する。
そう、ヴァルはこうして私へ悪戯をしつつも、常に私の制御しそこなった珠を、何度となく始末してくれているのだ。
私の背後へ立っていてくれるのも、きっと私を護ってくれる為のものなのだろう……と少しは思う。
そうして護ってくれる度に私の心はじんわりと温かくなるのかと思えば、ふわりと頭に浮かぶ契約を思い出すと直ぐひんやりと、現実へ引き摺り戻される様に冷めていく。
本当に今私の心は複雑だ。
でも以前と比べて大分力を制御する事は出来てきたみたいなのだけれど、後一歩がどうしても難しい。
「次、もう一度やり直すとよい」
「うん、でももう悪戯しないでね」
「集中すれば何をされようが動じる事もないだろう」
「いやいやそれとこれは別物だよっっ」
誰もいないのを言い事にこれ以上好き勝手をされても困る!!
「では次で今日は最後にしよう。俺も執務室へそろそろ戻らねばならないからな」
「うんじゃあこれで最後ね」
「あぁ……」
そうして私は神経を集中させ、今度は上手く珠を安定させた。
でもこの時の私は全く気が付かなかったの。
何故なら私の珠を消す時の彼は、何時も直接珠に触れていなかったのだ。
だからその手に酷い火傷を負ったかの様に焼け爛れていたのを!!
この事実を知ったのはもっと後の事になるとも知らず、私は促されるまま暢気に練習を繰り返していた。
本当にっ、この時の自分を思いっきりブン殴りたい!!
*お久しぶりです。
少し加筆修正いたしました。
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素敵なお話ありがとうございます!!