アレキサンドライトの憂鬱。

雪月海桜

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【後日譚】ルビーの異変の名残。

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「それで、フレイア様も……?」
「わたくしが居てはいけないんですの?」

 善は急げとばかりに、お茶会の日の夕方にはルビー侯爵家に会いに行く旨を手紙で連絡し、すぐに了承の手紙が来た。

 その三日後には現地入りしたのだが……ルビー侯爵領に向かう道すがら、すっかり見慣れてしまった霊柩車のような黒と金の映える皇族の馬車を見付けてしまい、今に至る。

「いえ……いけなくはないんですけど。……皇女様と聖女(光)と聖女(闇)の旅とか、なんかもう世界でも救いに行きそうなパーティー……」
「あら。ミアとなら魔王退治でも何でもやってやるわ!」
「……? 魔王ってなんですの?」

 せっかく合流したのだからと、フレイア様は目立つ皇族の馬車をあっさり乗り捨てて、わたしの馬車へと乗り込んでいた。
 それに続いてステラも同席したものだから、モルガナイトの小さめのフォルムの馬車はすっかり満員だ。

 わたしの向かいに座っていた護衛騎士のリヒトが、狭い馬車で三人の令嬢に囲まれる形になり、相変わらず無表情に近いながら何と無く居心地悪そうだった。

 そしてしばらく馬車に揺られて到着したのは、赤い屋根が可愛らしい印象の、東部の統治者ルビー侯爵家。
 けれど建物は赤レンガで造られて居り、何やら重厚な雰囲気だ。
 敷地内には産業である剣や大砲などが収納された武器庫が大量にあるのだという。

「わあ、久しぶりですね~」

 後続の馬車から降りて来た今回のお供のシャーロットは、相変わらずのんびりとした様子だ。
 彼女の半生も、モルガナイト家に来た経緯も、あれから聞ける範囲は聞いていた。

 あまり里帰りする気にはなれないだろうと考えていたものの、あのお茶会での話を聞いて、自ら同行に立候補して来たのだ。彼女の真意は、わからなかった。

「シャルロッテお姉様ー!」
「シャルロッテお嬢様っ!」

 不意に聞き慣れた声がして視線を向けると、バルコニーから身を乗り出すようにしてこちらを……否、シャーロットを見下ろし大きく手を振るルビー侯爵令嬢の姿が見えた。

 そして彼女が落ちないよう確り支えつつも、こちらもまた興奮を隠しきれない様子の、彼女の護衛のがっしりとした体格の赤毛の青年『ハーヴェイ・コーラル』の姿もそこにあった。二人は相変わらずなようだ。

「皇女たるわたくしや聖女達に目もくれず、真っ先に一介のメイドに挨拶なんて……これだからルビー家は……」
「あはは……これにはちょっと、色々ありまして」

 表に立つ機会が増えたことで地位確立に焦りが見えるフレイア様は、少し不服そうだった。
 それを宥めがてら軽く事情を説明し、わたし達は出迎えの使用人が案内してくれるまま、先程見えたバルコニーのある部屋へと通された。

「……首都の学校、ですか?」
「ああ、皇室が運営している『アレキサンドライトアカデミー』ですわね。確かお兄様達も、時折公務で視察に行っていましたわ」
「本来家庭教師で済ませる貴族の多い中、男女問わずより高度な知識や魔法を学ぶための学校……だったかしら」
「ええ、わたくし来年度の入学試験のために、受験勉強を開始していましたの」

 わたし達は案内された談話室で、ルビー侯爵令嬢の近況を聞く。通された部屋のソファーも壁紙も、ルビーの名の通り赤かった。少し落ち着かない。

 それにしても、あの傍若無人、唯我独尊、無礼千万だった彼女が、まさかの受験勉強。
 似合わない響きに思わずぽかんとしてしまうけれど、どうやら彼女なりの更正ルートをそこに見出だしたらしい。

「アレキサンドライトアカデミー……そういえば、お手紙でカイ様もそこを目指すって……。もう春だし、受かってたらそろそろ入学……?」
「わたくし、シャルロッテお姉様や……その、ミア様に会えなくて寂しかったですわ……なので、会いに来てくださって嬉しいです」

 わたしの独り言を無視して言葉を重ねるルビー侯爵令嬢は、勉強疲れかいつもの高圧的な空気感はまるでない。
 同席したシャーロットにべったりと甘える姿は、ある意味異変なのかもしれないけれど、まあ、特に実害はなさそうだ。
 
「ですが、べ、べつに、そこの騎士には会いたくなんて無かったのですけど!」
「……? 俺はミアお嬢様に追従するだけで、令嬢に会いに来た訳ではありません」
「な……っ! わ、わかってるわよ!」

 リヒトに対する様子は相変わらずではあったものの、何と無く悄気た様子の彼女は年相応に可愛らしかった。

「ところで……この二人は誰ですの?」
「えっ」

 不意にルビー侯爵令嬢が、わたしと並んで座るステラとフレイア様を見て首を傾げる。
 彼女は自分の興味のあることにしか目が向かなかったのだろう、初めから居たにも関わらず今更過ぎる問いである。

 しかし、あれだけ目の敵にしていた聖女と、幾ら最近まで公の場には出ていなかったとはいえ、義姉妹になるかもしれなかった皇女の顔を知らなかったとは。

 予想外の問いに何と答えて良いか思わず悩んでしまう。
 本当のことを伝えて険悪ムードになっても困るし、かといっていつか社交界に出れば分かるものを騙すのも躊躇われた。
 しかし二人がそんなわたしの憂鬱を理解するはずもなく……

「ご挨拶が遅れました。『光の聖女』の称号を賜りました、ステラ・ヘリオドールと申します」
「はっ……?」
「あら……わたくしのことも知りませんの? アレキサンドライト帝国第一皇女、フレイア・アレキサンドライトですわ」
「なっ……!?」
「以後お見知り置き下さいませね、ルビー侯爵令嬢」
「……は、はい……」

 ルビー侯爵令嬢は、その後しばらく可哀想なくらいぶるぶると震えていた。


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