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ネージュとブラン。
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「おはよう、よく眠れた?」
「……、……」
「ふふ、ぼんやりして……まだ眠たいのかしら」
朝目が覚めると、一番にシャルロットのキラキラとした金色の髪が目に入った。カーテンの隙間から差し込む光に照らされて、それは世界一美しいものに見えた。
これが綺麗というものだと、昨日聞いた言葉の意味を本能的に理解する。
「でもそろそろ起きなくちゃ……朝ごはんもたくさん食べてね」
「うん……」
夢などではなく、ぼくはこの光に導かれて温かな幸せの中に身を置いているのだと、改めて実感して無性に泣きたくなった。
「そうだわ。うちの子になるんだもの、この家でのあなたの名前を決めなくちゃね!」
「名前……?」
「名前は家族の最初の贈り物だもの。……ああ、そうだわ。あなた手足も白いし、雪の日に出会ったから『ネージュ』なんてどう?」
「ネージュ……?」
もともと名前のなかったぼくは、新しい名前に異論はない。
シャルロットに『ネージュ』と名付けられたぼくは、はじめてのぼくだけの名前に目を輝かせる。
ネージュは雪という意味らしく、雪の日に拾われたぼくにはぴったりの名前だ。
「あなたは今日からネージュよ。よろしくね」
「……! うん!」
彼女につけてもらった名前を忘れないよう繰り返し呟きながらシャルロットの部屋を出てリビングに向かうと、相変わらず暖炉の傍に居た大きな白い犬『ブラン』と目が合った。
また吠えられやしないかと、ぼくは警戒しながら視線を向ける。昨日の威嚇は正直かなり怖かった。
ぼくがじっとそちらを見つめていると、シャルロットが彼の名前である『ブラン』は白という意味なのだと教えてくれた。
なるほど、白い毛並みにぴったりだ。シャルロットの名付けはとてもわかりやすい。そして、ものの名前にはそれぞれ意味があるのだとなんとなく理解した。
朝食を用意してくると言って離れていったシャルロットを見送り、ぼくは恐る恐るブランに近付く。昨日盛大に吠えられた名残で、視界に入るだけでも少し緊張してしまう。
「……なんだ、おまえ。まだ居たのか」
「……!?」
「なんてな……大丈夫だ。この家の人たちは、拾ったのをわざわざ捨てたりしないさ」
「え、あ……」
「こんなでかくて邪魔にしかならない老いぼれの面倒だって、変わらず見てくれるしな……本当に、良い家に拾われたぜ、おまえ」
ブランはそう言って、彼女たちへと視線を向ける。もうあまりよく見えていないであろうその白っぽい瞳は、愛おしむように細められていた。
彼もまた、ぼくのように拾われてここに来たのだろう。
ぼくみたいな汚い捨て子に、ブランのような大きな犬。等しく大切にしてくれる愛情に出会えたぼくは、改めてこの身の幸福を理解した。
「そう、なんだ……うん、たしかに……あったかくて、いいひとたちだと思う」
「おお? 独り言のつもりだったんだが、おまえ、おれの言葉がわかるのか」
「うん……路地裏に居た時、犬とも何度か会ったから」
「ほう……? なら話し相手になってくれ、近頃散歩にも中々出られなくてな、退屈してたんだ」
「そうなの? えっと……ぼくでよければ」
ぼくが返事をするとブランは会話の成立に驚いたようにしていたけれど、ぼくにとっては路地裏仲間である犬の言葉の方が、罵りや暴言しか吐かない人間の言葉よりよっぽど馴染み深かった。
「……ぼくの名前はネージュ。さっきシャルロットがつけてくれたんだ。よろしくね、ブラン」
「そうか、いい名前をもらったな。……老い先短いじじいだが、こうして会えたのも何かの縁だ。よろしくな、ネージュ」
外がすっかり雪で白く染まった冬の朝、ぼくとブランは種族や年齢を越えて、すぐに古くからの友達みたいに仲良くなった。
「あら。目を離してる間にすっかり仲良くなって……ふふっ、ネージュ、ブラン、ごはんにしましょう」
「うん……!」
「はいよ。……たまには固いジャーキーでも食いたいもんだぜ」
「だめだよ、おじいちゃんなんだからそんなの噎せちゃう」
「昨日盛大に噎せてたガキには言われたくねぇな」
「今日はゆっくり食べるよ!」
「あら、なぁに。お話ししてるの? ふふ、本当に仲良くなったのね」
ぼくだけの名前、温かな家、優しい人たち、はじめての友達に、美味しいご飯に、シャルロットの笑顔。
すべての幸せがあるこの空間は、ぼくが初めて手にした宝物だった。
*******
「……、……」
「ふふ、ぼんやりして……まだ眠たいのかしら」
朝目が覚めると、一番にシャルロットのキラキラとした金色の髪が目に入った。カーテンの隙間から差し込む光に照らされて、それは世界一美しいものに見えた。
これが綺麗というものだと、昨日聞いた言葉の意味を本能的に理解する。
「でもそろそろ起きなくちゃ……朝ごはんもたくさん食べてね」
「うん……」
夢などではなく、ぼくはこの光に導かれて温かな幸せの中に身を置いているのだと、改めて実感して無性に泣きたくなった。
「そうだわ。うちの子になるんだもの、この家でのあなたの名前を決めなくちゃね!」
「名前……?」
「名前は家族の最初の贈り物だもの。……ああ、そうだわ。あなた手足も白いし、雪の日に出会ったから『ネージュ』なんてどう?」
「ネージュ……?」
もともと名前のなかったぼくは、新しい名前に異論はない。
シャルロットに『ネージュ』と名付けられたぼくは、はじめてのぼくだけの名前に目を輝かせる。
ネージュは雪という意味らしく、雪の日に拾われたぼくにはぴったりの名前だ。
「あなたは今日からネージュよ。よろしくね」
「……! うん!」
彼女につけてもらった名前を忘れないよう繰り返し呟きながらシャルロットの部屋を出てリビングに向かうと、相変わらず暖炉の傍に居た大きな白い犬『ブラン』と目が合った。
また吠えられやしないかと、ぼくは警戒しながら視線を向ける。昨日の威嚇は正直かなり怖かった。
ぼくがじっとそちらを見つめていると、シャルロットが彼の名前である『ブラン』は白という意味なのだと教えてくれた。
なるほど、白い毛並みにぴったりだ。シャルロットの名付けはとてもわかりやすい。そして、ものの名前にはそれぞれ意味があるのだとなんとなく理解した。
朝食を用意してくると言って離れていったシャルロットを見送り、ぼくは恐る恐るブランに近付く。昨日盛大に吠えられた名残で、視界に入るだけでも少し緊張してしまう。
「……なんだ、おまえ。まだ居たのか」
「……!?」
「なんてな……大丈夫だ。この家の人たちは、拾ったのをわざわざ捨てたりしないさ」
「え、あ……」
「こんなでかくて邪魔にしかならない老いぼれの面倒だって、変わらず見てくれるしな……本当に、良い家に拾われたぜ、おまえ」
ブランはそう言って、彼女たちへと視線を向ける。もうあまりよく見えていないであろうその白っぽい瞳は、愛おしむように細められていた。
彼もまた、ぼくのように拾われてここに来たのだろう。
ぼくみたいな汚い捨て子に、ブランのような大きな犬。等しく大切にしてくれる愛情に出会えたぼくは、改めてこの身の幸福を理解した。
「そう、なんだ……うん、たしかに……あったかくて、いいひとたちだと思う」
「おお? 独り言のつもりだったんだが、おまえ、おれの言葉がわかるのか」
「うん……路地裏に居た時、犬とも何度か会ったから」
「ほう……? なら話し相手になってくれ、近頃散歩にも中々出られなくてな、退屈してたんだ」
「そうなの? えっと……ぼくでよければ」
ぼくが返事をするとブランは会話の成立に驚いたようにしていたけれど、ぼくにとっては路地裏仲間である犬の言葉の方が、罵りや暴言しか吐かない人間の言葉よりよっぽど馴染み深かった。
「……ぼくの名前はネージュ。さっきシャルロットがつけてくれたんだ。よろしくね、ブラン」
「そうか、いい名前をもらったな。……老い先短いじじいだが、こうして会えたのも何かの縁だ。よろしくな、ネージュ」
外がすっかり雪で白く染まった冬の朝、ぼくとブランは種族や年齢を越えて、すぐに古くからの友達みたいに仲良くなった。
「あら。目を離してる間にすっかり仲良くなって……ふふっ、ネージュ、ブラン、ごはんにしましょう」
「うん……!」
「はいよ。……たまには固いジャーキーでも食いたいもんだぜ」
「だめだよ、おじいちゃんなんだからそんなの噎せちゃう」
「昨日盛大に噎せてたガキには言われたくねぇな」
「今日はゆっくり食べるよ!」
「あら、なぁに。お話ししてるの? ふふ、本当に仲良くなったのね」
ぼくだけの名前、温かな家、優しい人たち、はじめての友達に、美味しいご飯に、シャルロットの笑顔。
すべての幸せがあるこの空間は、ぼくが初めて手にした宝物だった。
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