追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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2章 魔法の国ルクレイシア

魔法特訓 2 :魔力の扱い (セイルクside)

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翌朝。

『лсыаетивийусрчк гудий』!

『飛行』を詠唱して、体が浮き始めて少しずつ地面と距離ができる。
成功した自分を思い浮かべる。
もっと上に、もっと自由に、歩いているみたいに自由に飛ぶ姿を想像する。

もっと高く飛びたい────。

俺が手を伸ばして数秒後。

「痛っ、た…………」

空が近づいたと思ったら、俺は背中に強い衝撃を受けていた。
飛べる日が来るのか不安になってきた。
俺が大の字になって地面に転がっていると、離れたところから見ていたクレアがやってきて手を差し伸べてきた。

「お疲れ様。昨日より少し高く飛んでいたよ。他にも直すところがあるけど、まずは第一歩だね」
「直すところってそんなにあるのか?」

俺はクレアの手を取って立ち上がり、服についた汚れを落としながら問う。
クレアは少し考える仕草をして答えてくれる。

「一番はやっぱり魔力のコントロールだね。今日も最初にやったけど、途中から雑になってた。
誰かを助けたいときに手のひらからしか魔力が渡せなかったらどうするの?
いつでも、どこでも、どんな状況でも、同じコントロールができるようにならないと、魔力は不安定になる。魔力が不安定になったら、魔法はもちろん不安定になる」

クレアはそこで一度言葉を切って木の棒を持ってきて、地面に人の絵を描く。
そして、人の周りに歪な丸を描いた。
上の部分がくびれて、下の部分が綺麗な曲線を描いている。

「これが『飛行』中の、セイルクの魔力のめぐり方。下の方を安定させようとしてそっちにばっかり意識が向いてる。
ほとんどの魔力を下に流しているせいで、上の方に魔力が足りてない。

さっき高く行こうとして落ちたのは、これが原因。
上に行くときに本来ある空気とセイルクが魔法で出した空気がぶつかって、負けてる感じ。

落ちるのは、左右に魔力が足りないから。
体を支える魔力が左右にちゃんとあれば、今日みたいに背中から落ちずに済むよ。そのまま浮いたままでいることだってできる。
ただ、今はこの絵みたいにくびれてるから、体が支えられないってこと」
「下にばっかり……か。あんまり考えてなかったな」

わかりやすく丁寧な解説に感心しながら、いつも魔法を使うときのことを思い出して呟くと、クレアは笑いながらまた答えてくれる。

「たぶん、癖だと思うな。もしかしたら何かを浮かせる───『浮遊』とかも同じように下を意識してるかもしれないね。
浮かせる、って考えると上へ上へのイメージが先行して、下から支えないといけないと思ってるのかもしれない。
そうだ、客観視するために、一旦やってみようか」

というわけで、『飛行』の訓練は一度休みにして、『浮遊』の訓練をすることになった。
いつもの俺の魔力の流れがわかるようにと、クレアは外から枯れ葉を拾ってきた。
枯れ葉の山頂に亜空間から出した可愛らしいくまのぬいぐるみを置くと、クレアは俺の隣に立った。

「よく見てて───『浮遊』」

クレアが一言放った途端、ぬいぐるみと枯れ葉が浮き出した。
さっきクレアが描いてくれた絵と同じように、ぬいぐるみの周りを舞う枯れ葉は下でぬいぐるみがいつ落ちても大丈夫なくらい溜まっている反面、上と左右の方はスカスカだった。

クレアが人差し指をくいっと上に持ち上げると、ぬいぐるみと枯れ葉はそれに応じて上昇しだした。
しかし、上がった瞬間に上の方にある枯れ葉は押し広げられるようにして上から下へと散っていき、ぬいぐるみがぐらりと揺れた。
そして、右に傾いたぬいぐるみは右側に溜まる少ない枯れ葉にダイブするが、枯れ葉が支えきれずぬいぐるみが枯れ葉の壁を貫通してぽとりと落ちた。

状況は全く同じだった。
あれがいつも俺が落ちるときの魔力のめぐり方だったのか、と視覚化して実感する。
上からの圧力に負けるなんて思ったことがなかった。
でもこうして見ると、魔力は固まらないと強くないとわかる。
俺が言葉を失っていると、クレアはもう一度枯れ葉を積んでぬいぐるみを置いた。

「今度は成功したビジョンを見せるよ。
───『浮遊』」

クレアはそれだけ言って、さっきみたいにぬいぐるみと枯れ葉を浮かせる。
ただひとつ違うのは、均等に枯れ葉がぬいぐるみを守るように上下左右に丸くなっていること。
クレアが人差し指を上げて、また上昇し始める。
上の部分が少しへこむのが見えたが、枯れ葉が十分にあるからか、ぬいぐるみは揺れていない。

そうして、さっきよりも遥かに高く、天井あたりまで上ったぬいぐるみはクレアの指の動きに合わせて空中を自在に回りだす。

右へ左へ、回って上がって。

枯れ葉を纏ったぬいぐるみは踊っているように空中を散歩して余裕を持って着地した。

「はい、おしまい。これができるように頑張ろうね。
それじゃあまずは『浮遊』をやってみよう」

クレアはそう言って俺にぬいぐるみを手渡した。













数時間して。

『арызгклм』

『浮遊』を詠唱すると、ぬいぐるみが浮き出した。

「………少し揺れてる。違うこと考えてない?」

腕を組んで俺の魔法を見てくれているクレアは、魔法で氷の粒を出すと、ぬいぐるみに当てる。
クレアみたいに枯れ葉と一緒に浮かせることができない俺は、クレアに魔力の偏りを教えてもらっている。
今ぬいぐるみに当たったということは、俺が綺麗に魔力で囲んでいるつもりのぬいぐるみに隙があるということ。
俺では気づけなかった微細な差も感じ取って、クレアはすぐに指摘する。

クレアからの攻撃に耐えられなくなったぬいぐるみがぽとりと落ちる。
俺はぬいぐるみを拾ってお腹をさすった。

ぐうぅぅ……

「昼、食べたいな………なんて」
「あ………」

俺の言葉でクレアは時計を見て、ようやく今が遅い昼時に差し掛かっていることに気づいた。
そういうわけで、俺たちは遅い昼食を摂ることになった。




「そういえば、ずっと気になってたんだけど」

俺は昼を食べながらクレアに話しかけた。
クレアは栄養が取れているか不安な簡易食を食べている。俺に話しかけられたクレアは簡易食をしまって俺のほうを向いた。

「何?」
「あぁ、いや……そんなにかしこまったことじゃなくて」

首を傾げるクレアに俺は食事の再開を促しながら気になってたことについて話す。

「クレアの授業って、すごく先生の授業と似てるから、魔法ができる人はみんな同じ世界が見えてて教えられるのかなって」
「あぁ………」

クレアは簡易食を片手に俺の話を聞いて納得したような顔をした。
しかし、口を開きかけて、言葉を選ぶように、長い間黙ってしまった。
答えに困るような質問だっただろうか。
でも気になっていた。
思い出して見ても、教えてくれる内容がほとんど同じ。

『まずは、セイルクさ……がどれだけ魔力の扱いができるかを見ようと思って』
《まずは、君がどれだけ魔力を使えるか教えてほしいな》

『セイルクは、できるできない以前の問題。
……最初からできないと思い込んで発動させても、成功するわけないよ。ちゃんと成功した自分を想像してみて』
《魔力は十分だけど、できないと思ってないかい?
最初からそれだと一生できないよ》

言葉はもちろん、教え方も。
最初に俺の魔力の扱いを見て、コントロールの練習を始める。
それで、少しずつ魔法の練習をする。
できないときは教える前に気づかせようとする。
盲点になっているときは、率直に教えてくれる。
掴めないことは視覚化してくれる。

いろんな点で、クレアの教え方は先生の教え方とにていた。

俺がクレアの様子を伺っていると、クレアはようやく口を開いた。

「みんなが同じってわけじゃないよ。私とハシュアさんだと経験の差も魔法の使い方も違う。
それでも同じに見えるのは多分……………ハシュアさんが『視える』人だからだと思う」
「………みえる?」

よく分からない回答に俺が首を傾げると、クレアは授業を始めた。

「魔力は『感じる』ことができるよね。圧をかけるためにわざと魔力を纏う人とかいるし」
「…………確かに、魔法理論の先生が威圧の授業でやってたな。圧の度合いによっては気絶してる生徒もいた気がする」
「そうそれ。鳥肌みたいな小さな圧から、心臓が縮むような大きな圧まで。
魔力は体の中をめぐるだけじゃなく、外にわざと出すだけでも効果があるけど、実際どんなふうに出ているか見たことはある?」

クレアの問いに俺はこれまでの授業内容や記憶を頼りにする。
魔力が外にどうやって出ているか、俺は見たことがない気がするし、授業でも簡単には見えないと言っていた。
俺が首を横に振ると、クレアは頷いた。

「見たことないのが正しいよ。それに、見えてたら簡単に『浮遊』や『飛行』も習得してるはずだし」

反論もできない。
俺が少しふてくされると、クレアはそのまま話を続けた。

「魔力は基本見えないのが正しいけど、稀に見える人がいる。それが私やハシュアさんのこと。
さっき、といっても数時間前だけど、ぬいぐるみの周りにどうやって魔力がめぐっているか、枯れ葉で教えたよね。
私たちにはあの枯れ葉の部分がずっと見えてるの。出した魔力がどんなふうになっているか、どこが足りないか、どれだけの魔力が出ているのか………いろいろなことが見えているんだよ。
だからずっとセイルクの魔力のめぐりや隙を『視る』ことができる。
視覚から見えていることは理解に結構重要だから、私もハシュアさんもきっと…………きっと、セイルクに目で見てわかってほしくて似たようなことをやってるのかもね」

先生は『視える』人なのだろうか。
でも、他に思い浮かぶことがないし、そうなのかもしれない。

「俺にもそれ、できるようになるのか?」

気になって聞いてみた俺を見て、クレアは立ち上がった。

「練習あるのみだよ」

とても曖昧な答えだった。
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