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3章 依存国ツィーシャ
知らなくていいこと、知っているはずのこと (リュカオンside)
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お互い満足するまで涙を流して、落ち着いてくると、長い沈黙が訪れた。
「……私、お茶淹れる」
沈黙が居た堪れなくなったのか、もう机にお茶は置いてあるのに『ちびっ子』が立ち上がってキッチンに立つ。
頑張って淹れてくれる姿を見ながら、ふと僕は気になったことを聞いた。
「嫌なら答えなくていいんだけどさ、『ちびっ子』は大魔協に連れてかれた後……聖属性が使えるってバレた?」
「複数属性なのはバレたけど、聖属性は気づかれなかったよ。それがどうかしたの?」
唐突な質問に、思わずこちらを向いた『ちびっ子』は不思議そうに僕を見てくる。
本当に何も知らなさそうだ。
そうじゃないと、ここにいないかもしれないのだから安心するべきだ。
もしかしたら『クレア』が大魔協の奴らを一掃したのは、『ちびっ子』の最悪の事態に備えてだったのかもしれない。
僕はふっと小さく笑って『ちびっ子』には平静を装った。
また、かくしごとになるけれど。
「いや、ちょっと気になっただけ。
………今はそれよりも『ちびっ子』が淹れたお茶の味が気になるな」
僕の様子に『ちびっ子』は気づいたのか、そうでもないのか。
少し口を尖らせて、ポットを持った。
「………下手でもいいでしょ」
「もちろん」
そうやって淹れてもらったお茶は、少し苦みがあったけどとてもおいしかった。
『ちびっ子』のお茶を堪能した僕は、そろそろ薬草が切れることを思い出して外に出る支度を始めた。
暖かいハイネックセーターに袖を通して、認識阻害と外見変化を付与したフードを着る。
姿見で自分の姿を見て動きを止めた。
明るい茶髪に緑色の瞳に変わった自分の見た目を眺めて、一度外見変化の付与を外した。
黒髪に金色の瞳の元の自分が現れる。
「………やっぱり変えたほうがいいか」
昨日、本来のこの見た目ではバレなかったとはいえ、いつも外に出ているときの姿は見られてしまった。
どんなに警戒してても、見た目を変えなかったら何かあったときにすぐ気づかれそうだし。
変えたほうがいいかと思うまでは簡単だけど、と僕はため息をついた。
正直言って、僕に色を合わせるセンスはない。
今までの茶髪に緑色の瞳は僕が考えたのだが、ルフトに腹を抱えて「似合わなさすぎる」と笑われたことがある。
結構自信があったけど、客観的に見たら似合ってなかったのなら仕方がない。
いい機会………と言ったら悪いけど、この際違う色にしたほうがいいと思った。
とはいえ、また僕がやったらルフトに笑われるだろうし……。
僕はローブを脱いで『ちびっ子』の部屋に行った。
『ちびっ子』は部屋の中で『旅のお供に読める本』という、批判がひどかった本を楽しそうに読んでいた。
僕が入ってきたのを見て本に栞を挟んだ『ちびっ子』は、部屋の入り口まで来てくれた。
「どうしたの?」
『ちびっ子』はさっきまで泣いていたとは思えないくらい元気になっていて、僕は少し安心した。
そして、僕は自分の腕にかけたローブを見せて事情を話した。
「このローブには認識阻害と外見変化の付与をしてあるんだけど、昨日のこともあったから見た目の色を変えようと思ってさ。
僕はセンスがないから、『ちびっ子』に頼もうと思って」
僕がそう話すと、『ちびっ子』は疑いの目を向けてきた。
さすがにからかいすぎたかな。
「………私もセンスないかもしれないのに?」
やっぱり意地悪だと受け止められたみたいだ。
普通に頼むつもりだったけど仕方がない。
僕は『ちびっ子』に乗っかるようにして意地悪くしてやった。
「まあ………そこはご愛嬌ってやつで」
「えぇ………」
少し嫌そうな顔をした『ちびっ子』だったけど、僕の腕からローブを受け取って、ローブと僕を交互に見始めた。
意地悪しなかったらそんなに悩むことなくやってくれたんだろうな、と思いながら『ちびっ子』がやってくれるのを待つ。
「んー…………」
「えっ、そんなに悩む?」
かれこれ数分経って、僕はついに痺れを切らしてしまった。
何度も交互に見られるだけのこっちからしたら、合う色がないのかと少し残念に思ってしまう。
僕が思わず聞くと、『ちびっ子』は交互に見るのをやめて僕の顔を見て話してくれた。
「私が考えた色で文句言われるのが嫌なのもそうなんだけど……それよりも、私は元のリュークの色が好きだから思いつかなくて」
「─────え、元の色……?」
かなり焦って、声にもそれが漏れてる気がした。
でも『ちびっ子』は気づいていないみたいで、頷きながら答えてくれる。
「うん。リュークの黒髪に金色の瞳。夜空に浮かぶ月みたいで綺麗だから好きなんだよね」
「あ……黒髪のことか」
「うん、そうでしょ?」
「そうだね………」
一瞬気づいたのかと思った。
心臓の音がずっと響いている。
耳にずっと聞こえてくる。
大丈夫、この反応は『ちびっ子』は何も知らない。
さっき聞いたときも、大魔協に酷いことはされていないみたいだった。
知るはずがない。
この髪色が好きだなんて、『ちびっ子』は軽く言ってるだろうけど、勘違いされてもおかしくない。
ずっと嫌いな色だ。
でも、『ちびっ子』は知らないし、これからも知らなくていいことに関係するから、言わない。
「………それで、何の色にするか決めた?」
「えっ、ちょっと待ってまだ考える……!」
できるだけいつも通りに装っているはずだ。
大丈夫。気づかれない。
「………はい、できた」
それからもう数分して、『ちびっ子』はやっとローブを返してくれた。
そんなにこだわらなくてもよかったのに……。
受け取ったローブを見て、しっかりと『ちびっ子』の付与の印が見えた。
『ちびっ子』は一般人とは魔法の使い方が違うから、すぐにわかる。
僕がつけた認識阻害の付与式と見比べると一目瞭然で、僕のものは魔法文字であらゆる制約を書き連ねてあるだけの文字の羅列。それに対して『ちびっ子』のものは、魔法文字はひとつもなく、緻密な線が張り巡らされてひとつの模様を創り上げている。
ここまでくると芸術だなと思ってしまう。
僕はお礼を言ってその場で着てみる。
「どう?」
「どうって言われても、僕にセンスはないからなぁ…………でも、気に入った。ありがとう」
僕はもう一度『ちびっ子』に礼を言った。
姿見には薄花桜色の髪に鼠色の瞳の僕が映っていた。
黒髪に金色の瞳とはずいぶんかけ離れていて、頑張って考えてくれたのだと思った。
これで心置きなく出られる。
僕は部屋を出る前に『ちびっ子』のほうを見た。
………そういえば、『ちびっ子』は『クレア』で名を通してきたと言っていた。
大魔協の奴らが聞いたら、今度は『ちびっ子』が危ない目に遭うかもしれない。
今まではよかったかもしれないけれど、民衆にまで伸びてきた大魔協にいつ出会うかわからないし、備えることに越したことはないだろう。
「『ちびっ子』は、外に出るとき『クレア』じゃない名前を名乗ったほうがいいかもしれない。その………今日話してくれたことみたいになったらいけないし」
本当はすぐこの国から出してあげればいいんだろうけど、越冬までここは酷い雪に見舞われるから誰も国外に出さない冬籠もりの時期と被ったせいで当分は出してあげられない。
少し歯切れ悪く言ってしまうと、『ちびっ子』は心なしか残念そうな顔を見せたが、すぐに納得してくれた。
「そうだよね……。杖を託された分、名前も一旦預かったっていう体でずっと行きたかったけど、危ないだろうし……」
「名乗らなくなっても消えるわけじゃないから………胸に留めてほしい」
「うん、わかってるよ。この名前は、私がちゃんと『クレア』のもとに返しに行く」
僕は返事ができなかった。
死んでまで会いに来られたら、『クレア』が泣きそうだ。
もしかしたら、もう泣いてるかもしれない。
必死に止めてるけど、止まってくれない『ちびっ子』にどうしようと思ってるかもしれない。
────やっぱり旅はやめない?
なんて、口が裂けても言えない。
それに、言ったところで僕も止められそうにない。
沈黙が流れて、僕は気を取り直すようにクレアに問いかける。
「じゃあ、どんな偽名にする?」
僕が聞くと、『ちびっ子』はそう悩まずにすぐに答えてくれた。
「─────『シャルア』」
答えた『ちびっ子』の微笑み方からして、何か思い入れのある名前なのかもしれない。
『シャルア』は、北方の単語で「銀色」を表す単語だった気がする。
そこまで考えて、僕は『ちびっ子』がグラントにいたことを思い出した。
……グラントにいたときも危険と隣り合わせだったみたいだし、グラントではずっと名乗っていたのかもしれない。
憶測だけれど、それなら思い入れもあるだろう。
………アナスタシアにいたころに呼んでいた名前は、『クレア』を思い出すから避けたのだろうか。
「いい名前だね」
僕は『ちびっ子』、もとい『シャルア』の頭を撫でて部屋を後にした。
「……私、お茶淹れる」
沈黙が居た堪れなくなったのか、もう机にお茶は置いてあるのに『ちびっ子』が立ち上がってキッチンに立つ。
頑張って淹れてくれる姿を見ながら、ふと僕は気になったことを聞いた。
「嫌なら答えなくていいんだけどさ、『ちびっ子』は大魔協に連れてかれた後……聖属性が使えるってバレた?」
「複数属性なのはバレたけど、聖属性は気づかれなかったよ。それがどうかしたの?」
唐突な質問に、思わずこちらを向いた『ちびっ子』は不思議そうに僕を見てくる。
本当に何も知らなさそうだ。
そうじゃないと、ここにいないかもしれないのだから安心するべきだ。
もしかしたら『クレア』が大魔協の奴らを一掃したのは、『ちびっ子』の最悪の事態に備えてだったのかもしれない。
僕はふっと小さく笑って『ちびっ子』には平静を装った。
また、かくしごとになるけれど。
「いや、ちょっと気になっただけ。
………今はそれよりも『ちびっ子』が淹れたお茶の味が気になるな」
僕の様子に『ちびっ子』は気づいたのか、そうでもないのか。
少し口を尖らせて、ポットを持った。
「………下手でもいいでしょ」
「もちろん」
そうやって淹れてもらったお茶は、少し苦みがあったけどとてもおいしかった。
『ちびっ子』のお茶を堪能した僕は、そろそろ薬草が切れることを思い出して外に出る支度を始めた。
暖かいハイネックセーターに袖を通して、認識阻害と外見変化を付与したフードを着る。
姿見で自分の姿を見て動きを止めた。
明るい茶髪に緑色の瞳に変わった自分の見た目を眺めて、一度外見変化の付与を外した。
黒髪に金色の瞳の元の自分が現れる。
「………やっぱり変えたほうがいいか」
昨日、本来のこの見た目ではバレなかったとはいえ、いつも外に出ているときの姿は見られてしまった。
どんなに警戒してても、見た目を変えなかったら何かあったときにすぐ気づかれそうだし。
変えたほうがいいかと思うまでは簡単だけど、と僕はため息をついた。
正直言って、僕に色を合わせるセンスはない。
今までの茶髪に緑色の瞳は僕が考えたのだが、ルフトに腹を抱えて「似合わなさすぎる」と笑われたことがある。
結構自信があったけど、客観的に見たら似合ってなかったのなら仕方がない。
いい機会………と言ったら悪いけど、この際違う色にしたほうがいいと思った。
とはいえ、また僕がやったらルフトに笑われるだろうし……。
僕はローブを脱いで『ちびっ子』の部屋に行った。
『ちびっ子』は部屋の中で『旅のお供に読める本』という、批判がひどかった本を楽しそうに読んでいた。
僕が入ってきたのを見て本に栞を挟んだ『ちびっ子』は、部屋の入り口まで来てくれた。
「どうしたの?」
『ちびっ子』はさっきまで泣いていたとは思えないくらい元気になっていて、僕は少し安心した。
そして、僕は自分の腕にかけたローブを見せて事情を話した。
「このローブには認識阻害と外見変化の付与をしてあるんだけど、昨日のこともあったから見た目の色を変えようと思ってさ。
僕はセンスがないから、『ちびっ子』に頼もうと思って」
僕がそう話すと、『ちびっ子』は疑いの目を向けてきた。
さすがにからかいすぎたかな。
「………私もセンスないかもしれないのに?」
やっぱり意地悪だと受け止められたみたいだ。
普通に頼むつもりだったけど仕方がない。
僕は『ちびっ子』に乗っかるようにして意地悪くしてやった。
「まあ………そこはご愛嬌ってやつで」
「えぇ………」
少し嫌そうな顔をした『ちびっ子』だったけど、僕の腕からローブを受け取って、ローブと僕を交互に見始めた。
意地悪しなかったらそんなに悩むことなくやってくれたんだろうな、と思いながら『ちびっ子』がやってくれるのを待つ。
「んー…………」
「えっ、そんなに悩む?」
かれこれ数分経って、僕はついに痺れを切らしてしまった。
何度も交互に見られるだけのこっちからしたら、合う色がないのかと少し残念に思ってしまう。
僕が思わず聞くと、『ちびっ子』は交互に見るのをやめて僕の顔を見て話してくれた。
「私が考えた色で文句言われるのが嫌なのもそうなんだけど……それよりも、私は元のリュークの色が好きだから思いつかなくて」
「─────え、元の色……?」
かなり焦って、声にもそれが漏れてる気がした。
でも『ちびっ子』は気づいていないみたいで、頷きながら答えてくれる。
「うん。リュークの黒髪に金色の瞳。夜空に浮かぶ月みたいで綺麗だから好きなんだよね」
「あ……黒髪のことか」
「うん、そうでしょ?」
「そうだね………」
一瞬気づいたのかと思った。
心臓の音がずっと響いている。
耳にずっと聞こえてくる。
大丈夫、この反応は『ちびっ子』は何も知らない。
さっき聞いたときも、大魔協に酷いことはされていないみたいだった。
知るはずがない。
この髪色が好きだなんて、『ちびっ子』は軽く言ってるだろうけど、勘違いされてもおかしくない。
ずっと嫌いな色だ。
でも、『ちびっ子』は知らないし、これからも知らなくていいことに関係するから、言わない。
「………それで、何の色にするか決めた?」
「えっ、ちょっと待ってまだ考える……!」
できるだけいつも通りに装っているはずだ。
大丈夫。気づかれない。
「………はい、できた」
それからもう数分して、『ちびっ子』はやっとローブを返してくれた。
そんなにこだわらなくてもよかったのに……。
受け取ったローブを見て、しっかりと『ちびっ子』の付与の印が見えた。
『ちびっ子』は一般人とは魔法の使い方が違うから、すぐにわかる。
僕がつけた認識阻害の付与式と見比べると一目瞭然で、僕のものは魔法文字であらゆる制約を書き連ねてあるだけの文字の羅列。それに対して『ちびっ子』のものは、魔法文字はひとつもなく、緻密な線が張り巡らされてひとつの模様を創り上げている。
ここまでくると芸術だなと思ってしまう。
僕はお礼を言ってその場で着てみる。
「どう?」
「どうって言われても、僕にセンスはないからなぁ…………でも、気に入った。ありがとう」
僕はもう一度『ちびっ子』に礼を言った。
姿見には薄花桜色の髪に鼠色の瞳の僕が映っていた。
黒髪に金色の瞳とはずいぶんかけ離れていて、頑張って考えてくれたのだと思った。
これで心置きなく出られる。
僕は部屋を出る前に『ちびっ子』のほうを見た。
………そういえば、『ちびっ子』は『クレア』で名を通してきたと言っていた。
大魔協の奴らが聞いたら、今度は『ちびっ子』が危ない目に遭うかもしれない。
今まではよかったかもしれないけれど、民衆にまで伸びてきた大魔協にいつ出会うかわからないし、備えることに越したことはないだろう。
「『ちびっ子』は、外に出るとき『クレア』じゃない名前を名乗ったほうがいいかもしれない。その………今日話してくれたことみたいになったらいけないし」
本当はすぐこの国から出してあげればいいんだろうけど、越冬までここは酷い雪に見舞われるから誰も国外に出さない冬籠もりの時期と被ったせいで当分は出してあげられない。
少し歯切れ悪く言ってしまうと、『ちびっ子』は心なしか残念そうな顔を見せたが、すぐに納得してくれた。
「そうだよね……。杖を託された分、名前も一旦預かったっていう体でずっと行きたかったけど、危ないだろうし……」
「名乗らなくなっても消えるわけじゃないから………胸に留めてほしい」
「うん、わかってるよ。この名前は、私がちゃんと『クレア』のもとに返しに行く」
僕は返事ができなかった。
死んでまで会いに来られたら、『クレア』が泣きそうだ。
もしかしたら、もう泣いてるかもしれない。
必死に止めてるけど、止まってくれない『ちびっ子』にどうしようと思ってるかもしれない。
────やっぱり旅はやめない?
なんて、口が裂けても言えない。
それに、言ったところで僕も止められそうにない。
沈黙が流れて、僕は気を取り直すようにクレアに問いかける。
「じゃあ、どんな偽名にする?」
僕が聞くと、『ちびっ子』はそう悩まずにすぐに答えてくれた。
「─────『シャルア』」
答えた『ちびっ子』の微笑み方からして、何か思い入れのある名前なのかもしれない。
『シャルア』は、北方の単語で「銀色」を表す単語だった気がする。
そこまで考えて、僕は『ちびっ子』がグラントにいたことを思い出した。
……グラントにいたときも危険と隣り合わせだったみたいだし、グラントではずっと名乗っていたのかもしれない。
憶測だけれど、それなら思い入れもあるだろう。
………アナスタシアにいたころに呼んでいた名前は、『クレア』を思い出すから避けたのだろうか。
「いい名前だね」
僕は『ちびっ子』、もとい『シャルア』の頭を撫でて部屋を後にした。
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