追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

文字の大きさ
125 / 125
3章 依存国ツィーシャ

思惑

しおりを挟む
クレアが作った抜け穴からアルンが駆け出して行って半刻。

「…………」

クレアは帰りの遅さから、子どもに行かせる距離ではなかったのではないかと考えだしていた。

外の様子は叫び声だけだった。
アルンが抜け出すために作った抜け穴から絶えず流れてくる。
ここは叫び声の上がる場所から遠いのか、多くの人が逃げ惑う声がかすかに聞こえるだけだった。

何もできずもどかしく思っていると、また誰かの足音が聞こえてきた。
さっきとは違う少し重みのある足音だった。

「へぇ……君が『銀の魔女』?」

背が高く、低い声で話しかけられてクレアが黙っていると、相手はクレアを舐め回すように見た。

いや、『視た』。

クレアの直感がそう告げた。
少し身じろぐと、相手はクレアを鼻で笑った。

「いいもの持って産まれてきたんだね。
せいぜい貢献してよ」
「………何をするつもり?」
「えぇ?聞いてないの?」

初めてクレアが口をきいたことが嬉しかったのか、声色を弾ませて問われる。
愉しまれている。
ただ、情報を聞き出すには必要なことだった。

クレアがまた黙ったのを肯定ととったのか、相手は乾いた笑いをしてから教えてくる。

「俺は君のこと、そこまで詳しくないんだけどさぁ……俺の上司が君を欲しがっててさ。
たしか、結界の魔力とあとは……なんて言ってたかな……」

少し考えるそぶりをしてから、大げさに手を叩いて思い出したように声を上げる。

「あっそうそう!『実験』の続きだって」
「…………っ」

クレアはその言葉が嫌いだった。
脳裏を掠める地獄の日々の思い出。
それを刺激するには十分な言葉だった。


「………ヒュッ、はぁっはぁ、ぁ…」
「ありゃ。これ以上なんかしちゃったら怒られちゃうか。
ま、とりあえず。君のお得意なことらしいから頑張って貢献してねー?
んじゃ、ごゆっくり」


過呼吸になりかけているクレアを置いて、相手はけたけたと笑いながらその場を後にした。

対してクレアは相手が帰ったことすら気づかないほど、頭の中で響く声に悩まされていた。




『まだ出せるでしょう?ほら、全部出し切って』

『あ、ぁ、────!いたいっ、いたいよぉ!』

『いい?あれはあなたの糧になる出来損ない……』

『あぁぁぁぁぁぁっっ!!────!返して!かえしてよ!私の魔力!』

『この子はすごい……。多くの犠牲の上にこの子が完成するんだ………っ!』

『なんでっ!?なんで───なんだよ!』

『も、ぅ、まりょく、ない、よ………』

『────、こっち来ないでよ!』

『バケモノ!』

『裏切者!!』

『死んで!死んでよっ!』





「ゲホッ、、はぁっ、、ケホッ、、ヒュー……コホッ、、はぁっ……はぁ……ゔっ、、ヒュー」



よくあることだったが、最近は起きていなかった。
体が過剰に反応して震え出す。
結局弱いまま。

自分の体を抱きしめようとしたところで、背中に違う人の温もりを感じて、クレアは大きく肩を震わせた。

「………っ、あ…」

見ると、隅に縮まっていた子どもたちがクレアを囲んで落ち着けてくれていた。
子ども特有の温かさと、背中や手を優しく撫でられて、少しずつ緊張が解けていく。
自分たちも怖いはずなのに、クレアを心から心配する目で見ている。

この中で一番歳上で、一番戦えるのはクレアだろう。
小さな子に慰められたことが、励ましになり、クレアは息を整えて子どもたちの頭を撫で返した。

「ありがとう。優しいね」

クレアの純粋な気持ちに、子どもたちは何か高揚とした気分が浮上した気がした。

さっき来た者の言葉を信じるのなら、ここに集められた子どもたちは、昔のクレアと同じ目に遭うことになる。
それだけは阻止しなければならない。


「あの……わたしたち、どうなるんですか?」


撫でていた子どもたちの中で、年長くらいの女の子がクレアに静かに聞いてきた。
他の子たちに聞かれないように配慮をしているようだ。

全部教えてあげるべきか。

一瞬の考えを打ち消して、クレアは少し悩んでからみんなに聞こえるように答えた。

「………ここにいると、今より酷いことをされると思う。だから、ここから出ていかないといけない」

クレアはそこで一度言葉を切ってみる。
全員に聞こえていたようで、青ざめたり震えたりしている子がいる。
その子どもたちの背中をゆっくりさすりながら、クレアは言葉を続けた。

「私はみんなと一緒にここから逃げ出したいと思っているんだけど……みんなはついてくる?」

クレアの声かけに、みんなは黙りこんだ。
すぐに「いいよ」と言わないことは予想がついていた。
クレアが知らない人ということを除いて、一番信頼できる存在が頭をよぎるのだろう。

「お、おとうさんが……おむかえに、……くるって、い、……いってたよ?」
「わ、たしも……ママが……」
「ぼくも……」

案の定の答えにクレアはため息が出そうになった。
子どもは売られるとわかっていないから、迎えに行くと言えば簡単に離れてくれたのだろう。

つまり、アルンも─────。

あの父親の視線は自分の子どもを『商品』として見る目だったというわけだ。
呆れてものも言えない。

ただ、迎えにくることを信じているのはまだ小さな子たちだけで、7歳くらいより上の子たちはなんとなく迎えが来ないことを察しているようだった。
純粋に信じている子どもたちに問い返されて難しそうな顔をしている。

クレアもどう説得しようか少し悩んだが、すぐに笑ってみせた。

「……それじゃあ、私たちでお父さんたちを迎えに行って驚かせよう?」

苦し紛れだが、子どもたちを動かすには十分な言葉だった。
驚かせる、という好奇心をくすぐる言葉に子どもたちは目を輝かせた。
きっと、頭の中で再会した親の顔を浮かべているのだろう。

「………やりたい!」
「わたしも……」
「……あい、たい……な」

「………うん。それじゃあ、一緒に逃げよう」


クレアは申し訳ない顔をして子どもたちの頭をなでた。


(ごめんね……きっと会えないから)


心の中で呟いた言葉は誰にも知られないだろう。

アルンには帰ってきたらリュカオンに頼んで地鳴りを起こすように言ってある。
それを決行の合図にして動くのだ。

きっと、上手くいく。

クレアはアルンが帰ってくるのを待つことにした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】 https://ncode.syosetu.com/n9071il/ 異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。 貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。 イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。 このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん? 別にいっか! 聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね! 重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!

ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——?

ルーシャオ
恋愛
ソロキャンする武装系女子ですが婚約破棄されたので傷心の旅に出たら——? モーリン子爵家令嬢イグレーヌは、双子の姉アヴリーヌにおねだりされて婚約者を譲り渡す羽目に。すっかり姉と婚約者、それに父親に呆れてイグレーヌは別荘で静養中の母のもとへ一人旅をすることにした。ところが途中、武器を受け取りに立ち寄った騎士領で騎士ブルックナーから騎士見習い二人を同行させて欲しいと頼まれる。 そのころ、イグレーヌの従姉妹であり友人のド・ベレト公女マリアンはイグレーヌの扱いに憤慨し、アヴリーヌと婚約者へとある謀略を仕掛ける。そして、宮廷舞踏会でしっかりと謀略の種は花開くことに——。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~

島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!! 神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!? これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

処理中です...