追放された魔法使いの巻き込まれ旅

ゆり

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2章 魔法の国ルクレイシア

魔物討伐7 :嘘だと言ってくれ (セイルクside 有)

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ドゴォォォンッ!

「はぁ………まだ足掻きますか」

『ицыдраечь』

ドゴォォォンッ!

フードの男は面倒くさい様子で目の前の土壁を壊していく。
音と振動の強さから少しずつ土壁がなくなっていき、クレアとの距離が縮まっていることがわかる。
クレアは肩で息を切らしながら、土壁の表面に平行な大きさ、緻密さが十分にある魔法陣を展開する。

出会い頭を狙うようだ。

近づいてくる振動に体が痺れそうになる。
頭も酔ってしまいそうになる。
クレアは自分を奮い立たせて、男の来訪を待つ。



ドゴォォォンッ!


1回。


ドゴォォォォォォォンッッ!!!


……2回。

ブォン…………

魔法陣に魔力が込められ、色がつく。



ドゴォォンッッッッッ!!!!



3回目がやってきて、土壁が取り除かれた瞬間だった。



『凍閃光』


魔法陣は白く光り、クレアの一言で魔法陣の太さの冷えた閃光が男に向かって放たれた。
『凍閃光』は凍らせたい対象に放つ氷魔法の凍結分類の中では高威力の魔法である。
男は正面から浴びるようにこの魔法を受けているため、ほぼ即死だろう。

何もなければ。

それからほんの数瞬だった。


ビュンッ!!!!


突然、クレアと男のいた場所の間から強力な風が吹いた。
あまりの強さに、クレアは数メートル洞窟の奥へ転がされた。
辺りに少し霧が立ち込める。

「う、そだ………」

クレアは体を起こしながら小さく呟いた。
クレアにとって信じられないことが起きたのだから当然だ。

クレアの出した冷えた温度と同等の熱い温度がぶつかり合った結果、発生した風が洞窟内で壁にぶつかり合い、より強い風となったのだ。
つまりクレアの奇襲で凍るはずの男があの数瞬でクレアの魔法に対抗する熱を発したのだ。

今ので終わらせるつもりだったクレアには痛手でしかなかった。

「痛いなぁ……突然攻撃するなんて酷いですね」

霧の中で男のシルエットが立ち上がり、近づいてくるのが見える。
クレアも立ち上がろうとして、体に力を込めるが、重力がかかったように体が重く動かない。
お構いなく近づいてくるシルエットに、クレアは自分の体に『身体強化』をかけて立ち上がろうとする。

ポタ、ポタ………

なけなしの魔力で魔法を使ったせいで、体が限界を迎えている。
鼻から落ちてくる血を一度拭って、クレアは男の姿を捉える。
男はクレアの無理して立つ姿を見て大きくため息をついた。

「はぁ………こんなに血を流して。そこまでするのは国に戻ってからだよ?まったく……」

クレアを知ってのことか、そうでないのか。
どちらにせよ、その言葉はクレアを動揺させた。
ドクンとクレアの心臓がはねる。

(く、に………?)

クレアは自分の手の甲についた拭ったときについた血を眺める。
国で血を流した経験は、あの場所でしかなかった。

あのおぞましい部屋で、何度も、何度も。

やめてくださいと言っても、誰も聞いてくれない、味方してくれない。

あの場所で─────。


クレアは突然震え出し、その場にへたり込んだ。

「っ、はぁ、はっ………、はぁ………っ」

呼吸が整わず、目の前が霞む。
どうして怖いのだろう。
もう10年は経っているはずなのに。
この間夢見が悪かったからだろうか。
それとも、リュカオンの生存を知ったからだろうか。

クレアが顔面蒼白になって震え出すと、男は「おや」と意外そうな声を出した。

「これくらいでは驚かないと思っていたのですが………、まぁいい。
そんなあなたにサプライズですよ」
「さぷ、らい………ず?」

フードで顔は見えないが、とても嬉しく笑っていそうな声でクレアに対してそう言うと、男はクレアを魔法で洞窟の外まで出した。
されるがままが気に食わないと思いながらも、思うように自分の体を動かせないクレアは男の魔法に従うしかなかった。

そうして、洞窟のすぐ外に出されてへたり込んだクレアは目をみはった。

大量の死体の山だ。
全部で20くらいだろうか。

全員隠れるのに適した魔道具のローブを着ている。
ところどころ欠損した者や、瘴気に当てられて体が腐っている者、心臓や脳天を貫かれた者など、たくさんいる。

クレアは積もった雪を握り、男を見上げる。
男はクレアの視線に気づき、「ふふ」と笑った。

「驚きました?みんな、あなたを守るために死んだんですよ?」
「…………え?」

理解が追いつかないでいるクレアが呆然とした顔で聞き返すと、男は雪を踏み締めて、死体の山へ向かう。
そして、乱雑に1番上に積まれた死体の足を引っ張りローブを取り上げると、一部分を見せてきた。

そこには小さくではあるが、紋章が入っていた。

北部を代表するキタオオカミが吠えるシルエットに、剣と杖が交わり合っている特徴的な紋章。
ずっと見てきた1番知っている紋章。

「そ、れ…………」

クレアが震えた指で紋章を指すと、男は気づいてくれたことに喜んだような声を出した。


「はい!やっぱりわかりますよね!

────グラント公国の紋章ですよ!」



「…………………ぁ」

クレアはその答えに指していた方の手が力無く下がり、絶望の表情を浮かべた。

グラント公国でクレアによくしてくれた人たちが、頭の中を駆け巡る。
国民、騎士団の人、使用人に、公爵家の人々。

冷えていた体がふつふつと湧きあがる。
体中に血が巡る。


クレアはこの感覚を知っている。



ドォォォォォォォンッッッ!!!!!



次の瞬間、クレアの周りを囲むように激しい吹雪が発生し、地面から鋭利で巨大な氷柱がいくつも出てきて、洞窟の入り口を塞いでしまった。


男は体に炎を纏いながら、クレアを眺めて、面白そうに笑った。


「魔力が枯渇している中での魔力暴走………!」




















《セイルクside》


ザッザッザッ

洞窟内を進む俺たちの足音だけが響き渡る。
目の前を行くうさぎはこちらを一瞥もせずに、正しい方向へ進むことだけを考えているようだった。

俺たちがクレアに避難させられて少し経った。俺とミュゼの足はまだクレアに操られているようだ。
最初はあのフードの奴が起こす地響きが体に響いていたが、分かれ道を進んでいく中で響かなくなった。
本当にクレアと離れていっていることを実感した。

分かれ道に2、3回出会って、その度にうさぎが導く方向へ進まされ、今俺たちは4回目の分かれ道に出会っていた。

「セイルク……」

ミュゼが歯切れが悪そうに俺に話しかけてきた。
俺の少し後ろを歩くミュゼに視線だけを合わせて、俺は話を聞く意思を見せた。
目があったミュゼは怖気付いた顔をして俺から目を逸らすと、口を開いた。

「クレアさん、助かるよね………?」

その言葉に、俺は自分の意思で歩いていたら足を止めていたくらいに驚いた。
クレアと口論になったと聞いていたから、もう少し薄情になっていると思っていた。
それでもやはり、助からないことは望んでいないということだろうか。
ミュゼの不安そうな顔を崩そうと俺は少し明るい声を出した。

「クレアは俺よりも魔力があって、コントロールも上手い。俺に教えるくらいだし、実力もある。だから大丈夫だろ」
「ぁ………………」

本当は俺も不安だけど、クレアを信じるしかない。

俺が元気づけようとミュゼに言ったことは、ミュゼをもっと不安そうな顔にさせた。
いや、不安というより………後悔のようだ。
口論したままで謝らずに去ったことに後悔しているのだろうか。
それにしてはミュゼは深く後悔しているように見える。
一体何が─────


「えっ」



俺が不思議そうにミュゼを見ると、ミュゼは突然涙を流し始めた。



本当に突然のことで、俺は何も言えなかった。
元気付けたつもりなのにどうしてそんなふうに泣く?
ミュゼは泣きながら謝り始めた。
何が不安なんだ?
俺はどうすればいい?

泣き始めたミュゼを見て慌てる俺にミュゼは、嗚咽を漏らしながら絶え絶えに話し始める。

「わ、わたし………っ、わたしのせい、でっ、クレアさん……、クレアさんが死んじゃう、か、もって……思って」

両手で涙を雑に拭いながら話すミュゼが、喉をひくつかせる音が洞窟に響き出す。
足は進むのに、気持ちは後退している。
クレアが死ぬ?
どうして?

咄嗟に出た疑問は俺の口をついて出た。

「ミュゼのせい?どうしてここでミュゼのせいになるんだ?」

俺の質問にミュゼは肩を大きく震わせて、一層涙を流し出す。
嗚咽ばかりで、今のミュゼは話にならなかった。

無理に聞き出すのもよくないだろうかと、俺がミュゼに謝ろうとしたとき、唇を震わせながらミュゼが答えた。



「あの、フードのひと…………とっ、わたしで、クレアさんのこと、懲らしめようって……崖から、わたしがっ…………わたしが落としたの!うぅ………っ」
「……………は?」


頭を殴られたくらいの衝撃があった。

ミュゼがクレアを落とした─────?

あのフードの奴と結託してクレアを落とした。
ミュゼが…………?
なんで………。

今すぐつかみかかりたいのに、足は前に進むことしか出来ない。
顔を覆って涙を流し続けるミュゼに、俺はどうしようもなく憤りを感じている。

クレアは、ミュゼを助けたのに。
どうしてこんな非道なことをするんだ?
落とされたなら、クレアはミュゼが憎いはずなのに。
どうしてクレアはミュゼを逃したんだ?
どうして…………?


「ミュゼ、お前…………」

どうしてクレアを?と聞こうとしたときだった。



ドォォォォォォォン………………!
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……………………


来た道から大きな音が聞こえると、今までの比にならない地響きが起きた。
立っていられないほどの地響きに足が痺れ、洞窟の上から何度も土塊が降ってくる。
洞窟が崩れるかもしれない。
どうにかして外に出ないといけない。

ミュゼの手を取ろうとミュゼのもとへ寄って、俺は気づいた。


足が自由に動く。


クレアの魔法で制御されていたはずの足が自由に動く。
驚いて前にいたうさぎを見ると、うさぎは地面に横たわっていた。
氷でできているからか、弱っていくのに比例して少しずつ溶けていく。
うさぎは水たまりを残して消え、ミュゼは涙が止まるくらいに驚いていた。

魔法で繋ぎ止められていたうさぎの体と命がここで尽き果てた。
考えられるのはたくさんある。
でも、その中で思い当たるものがひとつある。

「「魔力暴走…………!!」」

俺とミュゼは顔を見合わせて一気に不安に襲われた。
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