サイハテの召喚士

茶歩

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第1章 幕開け

2 よそ者のもやしっ子

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 13年前にウォングバッドが新たな召喚士となり、法によって住み分けがされる更に10年前から、既に差別化はあった。
 それはとある科学者が人をステータス化できるクライテリアという道具を作ったことが原因だった。

 つまり、13年前の法制定後にこの地に移った人、更に前から差別化により移った人、そして私やブラウンのようにその地で生まれてしまった人の3パターンの人たちがここで生活を送っている。

 ブラウンは目を輝かせながらZ地区以外を知る年長者から話を聞いていたけど、ここは野獣や魔物たちが蔓延る原始的な場所ーーー当然、命を落とす人も多くいて、私たちを唯一気にかけて色々なことを教えてくれていたオッドさんというおじさんも、4年程前に亡くなってしまった。

 ブラウンは、新たな知識に飢えていた。
だからこそ、私たちは極たまにギルドに所属する冒険者がこの地に現れたりすると、積極的に接触を図る。







「うわぁぁあ」


 裏返り気味の悲鳴を上げながら、見たことのない細めの男が拓けた草っ原でゴブリンから逃げている。

 私たちは傾斜のある森の中からその様子を見ていた。


「行こうか」


「あぁ」


 草木を潜り抜けながら勢いよく走り出した。住み慣れた森は、私のテリトリーでしかない。障害物はあってないようなものだった。
 拓けた草っ原に降り立ち、石ころを拾い上げる。

 逃げている男は見るからに戦闘力は無さそうだけど、足だけは速いらしい。
 いつまでゴブリンから逃げられるのか観戦しているのも見ものだけど、それではいずれ男が死んでしまう。

 私は、男とゴブリンの走っていく方向を見定めて、思いっきり腕を振り投げた。



「ギィィイイ!!」


 ゴブリンは後頭部から血を出しながら悲鳴を上げている。よし、命中。私のコントロール力は今日も良い。
 ゴブリンは逃げるようにしてその場を去っていった。


「へ?!」


 ゴブリンの様子に驚いて振り返った男は、ようやくその視界に私たちを入れた。

 赤色のシャツにベージュのチノパン。冒険者の服装ではないことは確かだ。

 

「私はカラー、こっちはブラウン。
君は誰??」


「お、俺はアキ!」


 アキの茶色い天然パーマがふさふさと風に揺れている。白い肌に、そばかすが少し目立つ素朴な人だ。


「冒険者ではないよね?
なんでZ地区に来たの?」


 原始的な生活をしているけど、私たちは一応服は着ている。冒険者から恵んでもらったり、海岸に打ち上げられた布を活用したり、亡くなった人から頂戴したり‥。
 だけどどうしたって、ここで生活していれば薄汚れてしまうものだ。

 アキの服は汚れてはいるものの、汚れ具合は私たちとはまるで違う。ここに来たばかり、というのはすぐにわかった。


「W地区から逃げてきたんだ!
税金が払えなくなったから。
でも奴らどこまでも付いてきて、ついにZ地区に来ちゃったんだよ‥。Z地区に来た途端、ぴたりと追っ手は消えたけどな‥」


「税金‥」


 私たちには聞き覚えのないワードだった。

 ハッ!と気が付いてブラウンを見ると、案の定目を輝かせていた。


「‥税金っていくら払うんですか?
一回払えなかっただけじゃここまで追われないですよね?」

 ブラウンが流暢な敬語で尋ねると、アキは頷いて口を開いた。

「‥W地区は1年間で10コインだよ。
俺んちは食堂を営んでたんだけど、もうここ何年間か赤字で、ついに店を辞めたんだ。
5年前ぐらいから税金は払えてないよ。逃げなくたってどうせ有り金全部取られてこの地に放り込まれてたのかもしれないけどね」

「へぇー、上の地区も大変なんだね~
どこの地区から税金あるの?」

「W地区からだよ。所謂、野生地区外から税金は始まるんだ」


 野生地区、それはつまりここZ地区を含めてY地区・X地区のことを指す。
 と言っても、Z地区の野生っぷりは他の2地区と比べられない程らしいんだけど。


「そうなんだ。
関所での通行金だけでも相当なのに」


「この国は上層部だけが潤う仕組みだからね。
まぁ、仕方ないよ。俺みたいな取り柄のないやつは元々のステータスも低いし」


 ステータス‥。
アキは、税金が払えなくても、戦闘力がなくても。

 それでも生まれてから一度もZ地区から出たことのない私たちよりは、断然上の世界を生きていたわけで‥。

 ほんの少し落ち込んでしまった私たちに気付き、アキは「あ!いや!!」と慌てて声を発した。


「俺は、生まれたところがX地区だっただけ。君たちは年齢的にも、この地で生まれたんだろう?
きっとステータスは俺よりか全然上だよ!そうだ、測ってみるかい?!」


 そう言って、アキががさごそと鞄の中を探り始めた。


「クライテリアを持っているんですか?」


 ブラウンがやや食い気味で問いかける。


「クライテリアって言っても、初期のものでかなりのオンボロなんだよ。正常に働くかどうかも正直不安なくらい」


 そう言って、アキは鞄から虫眼鏡のような青いレンズの物体を取り出した。


 クライテリア本体を見たのは初めてではなかった。冒険者が首から下げているのを見たことがあるからだ。

 でもその時は、興味本位で頼み込んでみたものの、シッシッとあしらわれて終わってしまった。



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