2 / 24
第1章 幕開け
2 よそ者のもやしっ子
しおりを挟む13年前にウォングバッドが新たな召喚士となり、法によって住み分けがされる更に10年前から、既に差別化はあった。
それはとある科学者が人をステータス化できるクライテリアという道具を作ったことが原因だった。
つまり、13年前の法制定後にこの地に移った人、更に前から差別化により移った人、そして私やブラウンのようにその地で生まれてしまった人の3パターンの人たちがここで生活を送っている。
ブラウンは目を輝かせながらZ地区以外を知る年長者から話を聞いていたけど、ここは野獣や魔物たちが蔓延る原始的な場所ーーー当然、命を落とす人も多くいて、私たちを唯一気にかけて色々なことを教えてくれていたオッドさんというおじさんも、4年程前に亡くなってしまった。
ブラウンは、新たな知識に飢えていた。
だからこそ、私たちは極たまにギルドに所属する冒険者がこの地に現れたりすると、積極的に接触を図る。
「うわぁぁあ」
裏返り気味の悲鳴を上げながら、見たことのない細めの男が拓けた草っ原でゴブリンから逃げている。
私たちは傾斜のある森の中からその様子を見ていた。
「行こうか」
「あぁ」
草木を潜り抜けながら勢いよく走り出した。住み慣れた森は、私のテリトリーでしかない。障害物はあってないようなものだった。
拓けた草っ原に降り立ち、石ころを拾い上げる。
逃げている男は見るからに戦闘力は無さそうだけど、足だけは速いらしい。
いつまでゴブリンから逃げられるのか観戦しているのも見ものだけど、それではいずれ男が死んでしまう。
私は、男とゴブリンの走っていく方向を見定めて、思いっきり腕を振り投げた。
「ギィィイイ!!」
ゴブリンは後頭部から血を出しながら悲鳴を上げている。よし、命中。私のコントロール力は今日も良い。
ゴブリンは逃げるようにしてその場を去っていった。
「へ?!」
ゴブリンの様子に驚いて振り返った男は、ようやくその視界に私たちを入れた。
赤色のシャツにベージュのチノパン。冒険者の服装ではないことは確かだ。
「私はカラー、こっちはブラウン。
君は誰??」
「お、俺はアキ!」
アキの茶色い天然パーマがふさふさと風に揺れている。白い肌に、そばかすが少し目立つ素朴な人だ。
「冒険者ではないよね?
なんでZ地区に来たの?」
原始的な生活をしているけど、私たちは一応服は着ている。冒険者から恵んでもらったり、海岸に打ち上げられた布を活用したり、亡くなった人から頂戴したり‥。
だけどどうしたって、ここで生活していれば薄汚れてしまうものだ。
アキの服は汚れてはいるものの、汚れ具合は私たちとはまるで違う。ここに来たばかり、というのはすぐにわかった。
「W地区から逃げてきたんだ!
税金が払えなくなったから。
でも奴らどこまでも付いてきて、ついにZ地区に来ちゃったんだよ‥。Z地区に来た途端、ぴたりと追っ手は消えたけどな‥」
「税金‥」
私たちには聞き覚えのないワードだった。
ハッ!と気が付いてブラウンを見ると、案の定目を輝かせていた。
「‥税金っていくら払うんですか?
一回払えなかっただけじゃここまで追われないですよね?」
ブラウンが流暢な敬語で尋ねると、アキは頷いて口を開いた。
「‥W地区は1年間で10コインだよ。
俺んちは食堂を営んでたんだけど、もうここ何年間か赤字で、ついに店を辞めたんだ。
5年前ぐらいから税金は払えてないよ。逃げなくたってどうせ有り金全部取られてこの地に放り込まれてたのかもしれないけどね」
「へぇー、上の地区も大変なんだね~
どこの地区から税金あるの?」
「W地区からだよ。所謂、野生地区外から税金は始まるんだ」
野生地区、それはつまりここZ地区を含めてY地区・X地区のことを指す。
と言っても、Z地区の野生っぷりは他の2地区と比べられない程らしいんだけど。
「そうなんだ。
関所での通行金だけでも相当なのに」
「この国は上層部だけが潤う仕組みだからね。
まぁ、仕方ないよ。俺みたいな取り柄のないやつは元々のステータスも低いし」
ステータス‥。
アキは、税金が払えなくても、戦闘力がなくても。
それでも生まれてから一度もZ地区から出たことのない私たちよりは、断然上の世界を生きていたわけで‥。
ほんの少し落ち込んでしまった私たちに気付き、アキは「あ!いや!!」と慌てて声を発した。
「俺は、生まれたところがX地区だっただけ。君たちは年齢的にも、この地で生まれたんだろう?
きっとステータスは俺よりか全然上だよ!そうだ、測ってみるかい?!」
そう言って、アキががさごそと鞄の中を探り始めた。
「クライテリアを持っているんですか?」
ブラウンがやや食い気味で問いかける。
「クライテリアって言っても、初期のものでかなりのオンボロなんだよ。正常に働くかどうかも正直不安なくらい」
そう言って、アキは鞄から虫眼鏡のような青いレンズの物体を取り出した。
クライテリア本体を見たのは初めてではなかった。冒険者が首から下げているのを見たことがあるからだ。
でもその時は、興味本位で頼み込んでみたものの、シッシッとあしらわれて終わってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
やりません。やれないんです。
朝山みどり
恋愛
国の制度変更により、薬の調合・販売には免許が必要となり、長年村で薬師をしてきた祖母は年齢制限のため資格を取得できず、薬師を名乗れなくなった。経験や評判は評価されず、「紙(免許)」がすべてになった。
ダイアナは祖母の店を再開するため、講習と試験を受け、町のポイード薬局で半年間の住み込み見習いを始める。講習では祖母の経験が理論として体系化されていることを学び、学問と実践の両立を実感する。
同室となったマリアと協力しながら、厳格な規格・衛生管理のもとで調薬を学ぶ日々。祖母の知恵と新しい制度の知識を胸に、半年後に胸を張って帰ることを楽しみ過ごしていたが……
他のサイトでも公開しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる