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第1章 幕開け
4 天然の処刑場
しおりを挟むZ地区での生活を苦だと思ったことはなかった。この生活が、私たちの当たり前だったから。
だけど、やっぱりここ以外のことも知りたい。
集落を抜けて2人で暮らしていた私たちは、特に挨拶をする人などもいない。
荷物を纏めるのにも然程時間が掛からずに、私たちは出発した。
関所は何度も見ていた。
高い壁の向こう側が気になって、何度も関所の近くに行ったことがあるからだ。
運が良かったなぁ‥。まさかこの関所を通るときが来ると思わなかった。
関所には、コクコクと頭を揺らす兵士が1人。
ほとんど仕事がないんだろう。兵士は腕を組んで椅子に座り、夢の世界へ誘われていた。
「これ、そのまま素通りできるんじゃない?」
私が思わずそう言うと、2人は首を横に振った。
「払うもんは払っておくべきだよ」
と、ブラウン。
「俺、更に追われる身になるの嫌だよ」
と、アキも言葉を落とした。2人とも真面目だ。
兵士を揺すっても起きなかったので、私たちは仕方なく通行金3コイン×3人分として9コインを関所に置いてきた。
ちなみにアキが持っていた古いカメラで、その証拠写真も撮った。これで後々面倒事になっても解決できるんだとか。
ブラウンはアキのカメラに興味津々で、頬を緩ませて嬉しそうな顔をしていた。
自分たちの知らない世界がこの先に待っている。この時のワクワク感はどうにも言い表せないものだった。
関所を通り過ぎてもしばらくは森の中の一本道が続いた。一見Z地区の野生っぷりと変わらないほどの野生っぷりだ。
木々は生い茂り、野鳥が鳴き、虫が飛ぶ。
温暖な気候に包まれたこの島国は、謂わば常夏。住み慣れたZ地区から一歩外に出たこのY地区の地理はまるでわからない。
とりあえずこの一本道を辿って歩いていくものの、水場や拠点を早く見つけておかないと。この亜熱帯の森の中で飲み水を見つけられないことは、命に関わる重大事項だ。
「‥まだアキさんを追っていた税金徴収員、近くにいるんじゃないですか?」
ブラウンがふとそんな疑問をぶつけた。
「俺がZ地区に向かった途端、追いかけて来なくなったんだよ。まるでそれを狙ってたかのように」
「‥‥なるほど」
頭の回転が早すぎるブラウンが、やけに納得したように言葉を落としたけど、私にとってはさっぱりわけがわからなかった。
「こんな下の下に住む俺らにとって、僅かでも有り金は大切なんだ。おかげで君たちと行動を共に出来ているしね」
「ご、ごめん‥!
事細かく説明してくれない?」
私が頭をぐじゃぐじゃと掻きながら懇願すると、2人とも優しく教えてくれた。
税金聴取所の本当の目的は、アキをZ地区に追いやることだった。
アキ曰く、それは罪を背負ったものを国の負担無しに『処分』できる方法。
そして、それはブラウンが予想していた方法でもあった。
「オッドさんのトータル数値がZだとは思えないだろ?」
「それは私も思ってた」
「きっとオッドさんも何らかの罪を背負ってた。オッドさん以外の人たちも、大多数はきっと。
つまり、俺らがいたZ地区は天然の処刑場みたいなもんなのさ」
私は珍しくショックを受けて、言葉がすぐに出てこなかった。
「今回はたまたまアキさんを助けられたけど、Z地区は広い。Z地区の住民以外の死体を発見することは割とあっただろ?きっと見つけられていない死体も、かなりの数あるはず」
「‥まぁ、確かに死体は多かったけど‥」
「野獣や魔物が、勝手に葬ってくれるのさ。罪人の食費も、更生費用もかからない。国としては『死刑』ではなく『罰』という名目でZ地区に送り込めるんだから、国民はさも平和な世の中だと錯覚できるしね」
「ブラウン君の言う通りだよ。
俺は悪足掻きで逃げたけど、税金未払いでさえこの扱いさ。最初から、俺が持つ微々たるコインなんか、奴らはどうでもいいんだよ。
そのあと俺を牢屋に入れて管理する手間と食費を考えたら、俺が自らZ地区に飛び込んだ方が都合がいいんだ」
全く知らなかったこの世界は、思いの外ダークだったようだった。
私が好きだったあの場所は、天然の処刑場とされていたなんて。
「だから、奴らは俺を待ち伏せしてもう一度追いかけて来ようなんて思ってないはずさ。俺がZ地区に向かうのを見て、きっと満足して帰っていったよ」
アキは苦笑いを見せていた。
結局Z地区に送り込まれる運命だったとしても、それでもこの国に対しての、アキなりの精一杯の抵抗だったんだろう。
「めんどくさい国なのね、ここは」
私がそう言うとアキは小さく笑った。
「一言で言うとそうだね。
上層部だけが潤って、それ以外の人権なんかないんだよ。‥だけど、きっと君たちといれば今までの暮らしより、随分と生きた心地を感じられる気がするんだ」
サイハテの地はZ地区だったはず。
いや、それは間違いない事実。
だけど、そんなZ地区よりも上の地区で暮らしていたアキがそんなことを言ってしまうんだ。
私は未来を悲観したことなど一度もなかった。狭くて広いZ地区の中で、ただ毎日を生きていたから。
この時初めて、見知らぬ世界がこんなにも広く、そして‥暗かったことを知ったのだ。
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