妖器伝

茶歩

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第5話 伝説の大妖怪

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きっともう深夜。
月明かりに照らされながら、手当てされた足裏をポーッと眺める。


陽さんはいつのまにか横になったまま眠ってしまったし、二千翔さんも縁側に座り込んだまま寝てしまった様子。


私はといえば、もちろん眠れるわけなんてなく‥。
ただでさえ興奮状態だったうえに、千郷も該当者だったなんて聞いてしまうと更に興奮してしまうわけで。


「はぁ‥千郷‥」


このわけのわからない島で、突然言い渡された政府の仕事。
全てを失ったと思っていたけど‥千郷が隣にいてくれるのなら。


早く会いたいよ‥


きっと私と同じで、いまは神社の側にある長屋のどこかにいるのかな。


足裏はまだ痛むけど‥でも、もう大丈夫。
千郷に会えるなら、大丈夫‥。




『おやまぁ上物の器が随分と無防備よのぉ』


突然聞こえた女性の声。
驚いて周囲を見回すけど、ここには陽さんと二千翔さんと私以外はいない。


『こぉこぉじゃ、そなたの目の前におる』


え‥


目の前に現れたのは、半透明の美女。
見るからに豪華な着物を纏った、息を飲むほどの美女だ。


「だ、だれ‥?
あなたも先輩‥ですか?」


『儂は玉藻前たまものまえじゃ』


どや!と言わんばかりに、扇をパチンと鳴らした美女。


「た‥まものまえ?」


なんじゃそりゃ。聞いたことないけど。


『なんと!知らんと申すか。
全く最近の若者は‥‥。別の名は‥妲己だっきじゃ』


またもや扇をパチンと鳴らす美女。


「たまものまえ?だっき?」


全然知らないんですけど‥。

※玉藻前‥美女に化けた九尾。
※妲己‥中国において王を虜にし酒池肉林の生活を楽しんだ九尾。中国から逃れ日本において玉藻前として生きていたという説がある。(諸説あり)


『はぁー‥なんという‥‥』


玉藻前さん、いや‥妲己さんはなんとも残念そう。
有名な人なのかな?
それにしても、憑依させると半透明になることもできるのかな。すごいな‥


「あの!何とお呼びすればいいですか?」


『好きに呼べ、好きに』


はぁ、と何とも色っぽい溜息を吐く玉藻前さん。
うーん。玉藻前さんって長ったらしいし、妲己さんっていうのもなんか日本語っぽくないし。


「‥玉さん、は??」


私がそう言うと、玉藻前さんは大きな目を丸くさせ、笑い出した。


『儂をそう呼ぶか。面白い。
儂の器に相応しいなぁお主』


「へ?器‥?」


玉さんの周りが途端に青白い光に包まれ始めた。
ぽんぽんぽんっと、その背後からは尻尾のようなものが現れ出す。


いち、にい、さん‥え、9本?
なんか尻尾が見えるんですけど。え?


『儂程の美しい妖怪はそうおるまい。
空の器のままじゃお主は襲われ続ける身。
どうじゃ?儂をその身にいれてみては』


え‥妖怪なの?玉さん。まじで?


「ま、待って、私、まだ‥」


いくら玉さんがめちゃくちゃド級に美人でも。
尻尾が生えてる以外は人間っぽくっても。

憑依とかそんなの‥


『まぁ、お主の意見などいらぬ』


玉さんはフッと笑うと、姿を消した。
目を見開いて辺りを見渡した私は、体に何かが入り込む感覚を感じたのと同時に意識を失った。


目が覚めたのは早朝のこと。



ーー遡ること数時間前、深夜。


「起きろ二千翔」


二千翔の体に蹴りを入れたのは陽。


「んあっ!助かった‥
金縛り状態で動けなかったよ」


そう言って起き上がった二千翔は、陽と同様に小春を見た。
甘栗色のショートヘアだったはずの小春の髪は、腰よりも長く伸びている。

縁側に座り月を眺める小春の後ろ姿。


「‥やばいのが入ってるぞ」


陽の言葉に二千翔も頷いた。


「僕もそう思う。
‥八重様呼んでくる。陽は時間稼ぎしてて」


二千翔が部屋を飛び出すと、小春はゆっくりと振り返った。
小春は先程までとは打って変わって、男を惹きつけるような妖艶な雰囲気を醸し出している。


「おい。その女から出てけ」


間違い無く、憑依させてやってるのではなく、


陽がそう言うと、小春は扇を口元で隠して目を細めた。


「ほぅ。良い男じゃ。
寝顔も愛いかったがの」


「‥‥その女を乗っ取るつもりか」


「そうだとしたらどうする?」


くっくっ、と笑う小春。


「その女ごと叩き切る」


「おお怖い」


陽は小春を睨んだ後、数歩下がってその身に黒い霧を纏わせた。


「お前がなんの妖怪かは知らねぇけど、こっちは本気だ」


月明かりに照らされた陽の影には八つの尾。


「ほぅ、大蛇オロチか」


陽と二千翔に簡単に金縛りを掛けた程の妖怪。
小春が纏う気からも恐らく大妖怪と呼べるはずだ。

少なくとも、この中央区は巫女のご加護があって、妖怪はそう簡単に入り込めないはずなのだから。


殺気を纏う陽に対し、落ち着け、と小春は笑う。


「悪いようにはせん。
妖なんぞ片っ端から殺してやる」


「‥何を求めてその女の体に入ったんだ」


「なぁに、久々に男の体を味わいたくなっただけじゃ。
儂を満足させてくれれば、玉藻前の力が手に入るのじゃ。悪い話ではないだろう」


「玉藻前‥?!」


陽は言葉を失った。
陽がその身に宿す八岐大蛇同様、玉藻前は伝説の大妖怪。

この女がそれほどまでの器だったと喜ぶべきか、大妖怪に目をつけられてしまったことを悲しむべきか。


動揺の色が見える陽を見て、小春は「愛いのぅ」とまたもや笑った。


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