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第19話
しおりを挟む後日談になるけど、レックスとの取引で渡す筈だった金額はおよそ1000万ルーンだった。
※ルーン‥この国における金の単位
上級魔法使いであることを考慮すれば、本来もっと高額であるべきだけど‥噂を聞きつけた賊がレックスを拐おうと頻繁に襲撃しにきていたらしく、その度にプテラスの人々が傷付いてもまともな治療すら施せない状況だったそうだ。
また、レックスを渡せばチャーリーさんが定期的に大量の小麦をプテラスに送るという口約束もしていたらしい。もちろん取引相手を殺せと言っていたチャーリーさんは、はなっから送る気はなかったのだけど。
結局のところ、旱魃で食べるものすら自足することができなかったり、感染症が蔓延していたプテラスの人々にとって、レックスを売ることは苦肉の策だった。
私の魔法で旱魃は解消され、緑豊かな地で食べるものも自給することができ、感染症の新規感染者もいなくなった。
他の地域との取引も行えるようになるだろうし、働き先のなかった人々も農業などを通して仕事をすることができる。1000万ルーンが手に入らずとも、プテラス全体の経済が循環されるようになる為、プテラスの人々にとってかなりの価値のある結果となった。
そして5日が経った今日、私たちの耳にプテラスについての新たな情報が届いた。
セブラ公国の南に位置するプテラスはこの地や王都から遠く離れており、突然緑溢れる土地になったということはじわじわと時間をかけて知れ渡った。
プテラスの変化を聞いて現地調査に向かった王族や軍の人々は、あまりの変貌ぶりに腰を抜かしたという。
その際にあの1番の大木に成っていた橙色の実が王宮に持ち帰られると、あまりの美味とその貴重さから、貴族達の間で瞬く間に噂が広がったという。
プテラスの人々はその実を【ギライナ】と名付け、地域の特産品である高級フルーツとして売り出すことができるようになったそうだ。
「‥どういうことだ?!
まさかギル、おまえ魔法でプテラスを豊かにしたのか?!」
チャーリーさんが興奮気味にギルさんに問う。
「‥まさか。上級魔法使いでもそんな神のようなことができる人はいないだろ」
「じゃあどうしてプテラスは突然潤ったんだ?!」
「知らないね。神サマのおかげじゃない?」
「いや、そんなわけないだろう!何故だ?!地下に大量のマナが埋まっていたのか‥?!いや、そんな話聞いたこともない‥!あの乾いた地に緑が増えたということは大量の雨が降った筈なんだ!だが天候を左右できる人間などいるわけもない!!」
チャーリーさんはぶつぶつ呟きながら、思考回路を懸命に働かせていた。きっとセブラ公国内の誰もが、プテラスの話を聞いてチャーリーさんと同じような反応を見せていただろう。
部屋に戻り、私たちは【ギライナ】について話した。
「ギルさん‥ギライナって‥」
「あぁ‥ギルとアイナから名付けられてるだろうな」
「ですよね‥」
私は名乗ってなかったけど、きっとこの紅い目で“アイナ”だと分かったんだろう。分かったうえで、“アイナ”という名を使ってくれた。
私はこの日、ギルさん以外の人から初めて認めてもらえたような気がして、嬉しくてなかなか寝付けなかった。
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