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第21話
しおりを挟む私とギルさんは、チャーリーさんをどう退治するか話し合った。
それ相応のお返しがしてあげたい。かといって人を痛めつけたことがない私は、あまりにもグロテスクでおどろおどろしいような光景は耐えられる自信もない。
「悪いけど俺はチャーリーとの誓約書があるからチャーリーに直接手出しはできない」
「はい、そうですよね!」
それにチャーリーさんに恨みがあるのは、ギルさんじゃなくて私だし。
「そこで、作戦があるんだ。
良いストーリーだと思うんだけど」
ギルさんは爽やかな笑顔を見せた。でも恐らくいま彼の腹の中は間違いなくダークに染まっているはずだ。
作戦を聞いた私は心から笑った。笑いすぎて涙が出るほどだった。それ程、ギルさんの黒~い作戦は想像しただけでスカッとできるものだった。
早速今日、作戦を決行することにした。
誓約書もあるうえに、ただただ忠実に協力要請に従っている私たちに、チャーリーさんもだいぶ心を開いていた。その証拠に、ギルさんがレックスを見たいと言うと部屋に通してくれたのだ。
乳母さんに断りを入れてギルさんがレックスを抱き上げると、私は魔法陣を手に取った。そして願う。
ーーこの部屋以外、人々に避難の時間も与えながらも‥この屋敷を全て業火で焼き尽くして、と。
ご自慢の大きくて美しい屋敷も、金庫に眠る莫大な資金や宝石も、取引先との重要書類も、全て全て焼けてしまえ、と。
この部屋以外という願い通り、この部屋には何の異変も起きなかった。結界の中にいるような、そんなイメージっていうのかな。熱も音も遮断されて、ただレックスと触れ合う素敵な時間が流れていた。もちろん乳母も異変には気付いていない。まさかこの扉の外は全て炭と化しているなんて、知る由もないだろう。
1時間程して、乳母さんがメイドを呼ぼうと扉を開けると、部屋の外は見事に一面真っ黒だった。焼き尽くした後の灰と、ぷすぷす‥と音を立てて揺れる細い煙たち。どうやら必死の消火活動も無意味に終わったようだ。
チャーリーの屋敷は本邸、別邸とも、レックスの部屋を除く全てが焼失した。ざまぁみろだ。
ただ、勿論これで終わるわけがない。
「な、何故この部屋だけ?!?!
お前が燃やしたのか?!ギル!!!」
目を白黒させながら気を動転させたチャーリーさんが駆け寄ってきた。チャーリーさんや屋敷にいた他の人々は近くに避難できていたらしく、無事だったようだ。
「まさか。誓約書は破れないだろ。
アイナやレックスを守る為にも、この部屋に結界を張ってたんだよ。
むしろレックスを救ったんだ。感謝して欲しいくらいだ」
「そ、そうだな‥そうだったな‥。
あぁ、ありがとう‥ギル‥」
「咄嗟に結界を張ったらと提案してくれたのはアイナだ。
アイナにも感謝してくれよ」
「あぁ、そうか‥ありがとう、アイナ」
強面の鬼畜なマフィアのドンが、私に感謝を伝えている。
「いいえ、当然のことですから」
あぁ‥なんて滑稽なんだろう。ーーー燃やしたのは私なのに。
思わず上がりそうになった口角を手で隠した。
一方で後方にいた乳母はレックスをギルさんから受け取りながら、状況が分からずに狼狽えていた。
何故ならば私とギルさんは乳母さん同様、部屋の外の異変に気付いていない素振りをしていたからだ。
「あんたに伝えたらパニックになると思ったからな」
ギルさんが乳母さんにそう伝えると、乳母さんはやっと少し納得できたようだった。
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