見世物少女、反乱します!《完》

茶歩

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第69話

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 アイナは一点を見つめていた。
誰とも結婚しない‥それはアイナの本心だった。

「誰とも結婚しない‥‥?」

 驚いたようにそう言葉を落としたヴィンスに、アイナは力強く頷いた。

「どうして“結婚”が当たり前なのよ」

 そう言われるとヴィンスもすぐには答えが出てこない。世間一般的には、いまこの国では年頃になれば結婚するのが当然といった風潮がある。だからこそ、そんな環境で結婚しない宣言ができるアイナはある意味凄いのだが‥‥。

「‥結婚しないという理由はなんだ」

 一肌脱いでやろうとわざわざこんな面倒な演技をしているというのに‥とヴィンスは少し苛立ちを見せている。その証拠に既に跪くのをやめて立ち上がり、腕を組んでいた。いつも通りの高圧的なヴィンスに早戻りである。

「り、理由なんてどうでもいいでしょ!」

「どうでもよくない。少なくとも、俺はお前にプロポーズしてるんだから理由を聞く権利はあるだろ」

「‥‥‥」

 アイナが眉を顰め、口を噤んだ。

「‥‥アイナはどこかへ旅立つつもりなのか?」

 ギルが不安げに尋ねた。そう思うのは至極当然だった。
どこかに定住する気がないから結婚をしないのかもしれないと、ギルは思ったのだった。
 アイナがどう思っているかはさておき、当初の“恩返し”などアイナの功績を見れば疾うに終わっている。ギルにとっては、アイナがいつ自分の元から離れてしまってもおかしくないと思っていた。

「旅立つわけないじゃないですか!」

 アイナのその言葉に、ヴィンスはやっとアイナの本心が分かった。

「あー、お前、あれだろ。
ギルさんと一生一緒にいたいから、誰とも結婚しないんだろ」

「っ!」

「‥‥え?」

 意地悪そうな顔のヴィンスに、必死な顔のアイナ、きょとん顔のギル‥。

「ギルさんが誰かを公妃に迎えても、宮廷魔道士の肩書きがあればずっとギルさんの側にいれるしな。お前ほんっとギルさんのこと好きだよな」

「な、なにを!」

 顔を真っ赤にして怒るアイナを見て、ヴィンスはニタニタと笑みを浮かべる。

「‥忠誠とか、恩返しとか抜きに?」

 ギルの心からの疑問が口を衝いて出た。
アイナが怒りやら恥ずかしさやらで目に薄っすらと涙を浮かべてギルを睨むと、ギルはそれが答えなのだと受け止めた。

「‥‥なんだ、それなら遠慮しなくていいじゃないか」

 そうしてアイナの手首を掴み上げて椅子から立ち上がらせると、アイナの体をそのまま抱き留めた。
 この2人が手を取る以上のスキンシップをしたのはこの時が初めてだった。

 アイナがギルを好いているのは勿論ギルも分かっていた。だけどアイナはいつも自分の心を理性でガチガチに固めていた為、あくまでも人として好かれているだけだと思っていたのだ。

 それが、アイナも自分を異性として好いてくれてたなんて‥と、嬉しさからぎゅうっと強く抱き締める。
ーーーそして気がついた。

「あ‥‥悪い、ヴィンス‥‥‥ん?」

 ヴィンスのプロポーズ中だったのに‥とヴィンスを見ると、ヴィンスは何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。

「全部演技だよ。俺いい仕事しただろ??
褒美が欲しいんだが」

「「え、演技‥?」」

 思わずギルとアイナの声が被った。
ギルとしては万々歳な結果だが、アイナは閉じ込めていた恋心を曝け出されたのに‥と怒りが再び込み上がってくる。

「あぁ」

「‥褒美って、どんな‥?」

「ローレンと結婚したいから、なんとかしてくれ」

 ギルとアイナは目を見開いた。
2人がいつのまにかそんな仲だったなんて、と驚きを隠せなかった。

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