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第7話『笑み』
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数日後の夜‥
酒場には、若くて露出の多い女と、フードを被った男がいた。
若い女は、必要以上に男の腕に自分の腕を絡ませている。
「‥交渉決裂だって言ってるだろ」
フードの男は、呆れたように呟くが、若い女がその言葉で態度を改める様子はない。
「なによぅ。今までだって散々協力してあげたじゃないの」
「それには感謝してるから、対価は渡してただろ。
今回はお前が情報を寄越さないんだから、俺が金を渡す筋合いはねーよ」
「ふーんだ。そんな意地悪言うならアンタの悪い噂パパラッチに売っちゃうよぉー?」
けらけら、と笑みを浮かべる女。
どうやら正真正銘の悪女である。
「もう散々でっち上げてパパラッチから金巻き上げてんじゃねーかよ」
「あははっ!バレてた?」
「とっくにバレてるっつーの。
そのせいで自体が悪い方向に向かってんだよ」
「あのだんまりちゃんね」
「‥おい」
先ほどまであっけらかんとしていたフードの男が、突如不機嫌な様子を見せた。どうやら彼にとってそのワードはタブーだったようである。
「あーごめんて!怒らないでー」
若い女はグラスを置き、両手を合わせて謝った。
フードの男は、呆れたように溜息をつくと、少し考え込むようにして黙り込んだ。
若い女は、そんな様子を見せるフードの男を見て、小さく笑う。
「さすがに身内の極秘ネタは教えらんないけどー‥
倍の額でそれに近い情報、売ってあげようか?」
フードの男は、間髪入れずに頷いた。
ーーーーーーーーーー
時同じくして、ソフィアの寝室。
アダムと出会い、人間らしい一面を見せていたはずの彼女は、またすぐに人形のような少女に逆戻りしていた。
アダムと出会い、ガブリエルからキスされたあの衝撃の日‥ガブリエルはその日の夜から隣町のパーティーに参加していて不在だった。ガブリエルと顔を合わせたくないソフィアにとって、それは好都合だったが‥
ついにこの日、ガブリエルはソフィアの前に顔を出したのである。
「ソフィア‥会いたかった」
ガブリエルはソフィアを見てすぐにそう呟く。
気持ちが対象でない男女にとって、それは重荷になってしまうものだ。
ソフィアは決してガブリエルを嫌っているわけではない。ガブリエルが自分のことを、兄弟愛ではなく本気で異性として愛しているんだと気付くまでは、むしろ兄として普通に慕っていたのだ。
気付いてしまってからは、それはもうソフィアの気持ちに翳りを落としていく一方だった。
血は繋がってはいないとはいえ、ソフィアにとってガブリエルは兄でしかなかった。ガブリエルに抵抗したくても、それを伝えることはできない。
手振り身振りの拒絶だけでは、ガブリエルに伝わらなかったのだ。
いつしか、ソフィアはガブリエルの熱い想いをソーッと心の中で受け流すことが得意になっていた。
自分に溺愛している部分を除けば、人として、兄として、これ以上尊敬できる人はいないはずだった。そんな自慢の兄は、素晴らしい人と出会って、素敵な恋愛をして、幸せになってほしい。
そんな風に思っていたのに‥。
ガブリエルはソフィアの髪をすくい上げ、匂いを嗅ぐように自分の鼻元へと近付けた。幸せそうに、深く一呼吸すると、髪束を解放して柔らかく微笑む。
「敷地内に教会を建てよう。そこで毎日愛を誓って、2人の幸せを願おう」
微笑むガブリエル。ソフィアは伏し目がちのまま、ガブリエルの愛の言葉を聞いていた。
「‥ソフィアは嫌かい‥‥?」
ふと、ガブリエルが不安げに呟く。
ソフィアがその視線を上げた。
目があったまま、どう反応していいのか戸惑い、ソフィアの視線が泳ぐ。今まではあくまでも一方的だったガブリエルが、ソフィアの気持ちを探ろうとしているのだ。
これまでそんな様子を見せたことはなかったのに。
「‥困らせてしまったね」
ガブリエルが、その整った顔を少しだけ悲しそうに歪めて呟いた。
それから、金髪のサラサラの髪をくしゃくしゃと掻いて困ったように笑う。
「ずっとね、今まではこの夢を叶えるために無我夢中だったんだけど‥
いざ叶ってしまうと、君はそれが嫌だったんじゃないかって不安になってしまって‥」
ソフィアは、ただジッとガブリエルを見つめ返すことしかできなかった。どう反応していいのか分からなかったのだ。
「僕は君の笑顔が見たいよ‥ソフィア」
そう言われてソフィアは気が付いた。
もう何年も、ガブリエルに笑顔を向けていないことに。
眉を落としたままのガブリエルは、また少し悲しそうな笑みを浮かべていた。
酒場には、若くて露出の多い女と、フードを被った男がいた。
若い女は、必要以上に男の腕に自分の腕を絡ませている。
「‥交渉決裂だって言ってるだろ」
フードの男は、呆れたように呟くが、若い女がその言葉で態度を改める様子はない。
「なによぅ。今までだって散々協力してあげたじゃないの」
「それには感謝してるから、対価は渡してただろ。
今回はお前が情報を寄越さないんだから、俺が金を渡す筋合いはねーよ」
「ふーんだ。そんな意地悪言うならアンタの悪い噂パパラッチに売っちゃうよぉー?」
けらけら、と笑みを浮かべる女。
どうやら正真正銘の悪女である。
「もう散々でっち上げてパパラッチから金巻き上げてんじゃねーかよ」
「あははっ!バレてた?」
「とっくにバレてるっつーの。
そのせいで自体が悪い方向に向かってんだよ」
「あのだんまりちゃんね」
「‥おい」
先ほどまであっけらかんとしていたフードの男が、突如不機嫌な様子を見せた。どうやら彼にとってそのワードはタブーだったようである。
「あーごめんて!怒らないでー」
若い女はグラスを置き、両手を合わせて謝った。
フードの男は、呆れたように溜息をつくと、少し考え込むようにして黙り込んだ。
若い女は、そんな様子を見せるフードの男を見て、小さく笑う。
「さすがに身内の極秘ネタは教えらんないけどー‥
倍の額でそれに近い情報、売ってあげようか?」
フードの男は、間髪入れずに頷いた。
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時同じくして、ソフィアの寝室。
アダムと出会い、人間らしい一面を見せていたはずの彼女は、またすぐに人形のような少女に逆戻りしていた。
アダムと出会い、ガブリエルからキスされたあの衝撃の日‥ガブリエルはその日の夜から隣町のパーティーに参加していて不在だった。ガブリエルと顔を合わせたくないソフィアにとって、それは好都合だったが‥
ついにこの日、ガブリエルはソフィアの前に顔を出したのである。
「ソフィア‥会いたかった」
ガブリエルはソフィアを見てすぐにそう呟く。
気持ちが対象でない男女にとって、それは重荷になってしまうものだ。
ソフィアは決してガブリエルを嫌っているわけではない。ガブリエルが自分のことを、兄弟愛ではなく本気で異性として愛しているんだと気付くまでは、むしろ兄として普通に慕っていたのだ。
気付いてしまってからは、それはもうソフィアの気持ちに翳りを落としていく一方だった。
血は繋がってはいないとはいえ、ソフィアにとってガブリエルは兄でしかなかった。ガブリエルに抵抗したくても、それを伝えることはできない。
手振り身振りの拒絶だけでは、ガブリエルに伝わらなかったのだ。
いつしか、ソフィアはガブリエルの熱い想いをソーッと心の中で受け流すことが得意になっていた。
自分に溺愛している部分を除けば、人として、兄として、これ以上尊敬できる人はいないはずだった。そんな自慢の兄は、素晴らしい人と出会って、素敵な恋愛をして、幸せになってほしい。
そんな風に思っていたのに‥。
ガブリエルはソフィアの髪をすくい上げ、匂いを嗅ぐように自分の鼻元へと近付けた。幸せそうに、深く一呼吸すると、髪束を解放して柔らかく微笑む。
「敷地内に教会を建てよう。そこで毎日愛を誓って、2人の幸せを願おう」
微笑むガブリエル。ソフィアは伏し目がちのまま、ガブリエルの愛の言葉を聞いていた。
「‥ソフィアは嫌かい‥‥?」
ふと、ガブリエルが不安げに呟く。
ソフィアがその視線を上げた。
目があったまま、どう反応していいのか戸惑い、ソフィアの視線が泳ぐ。今まではあくまでも一方的だったガブリエルが、ソフィアの気持ちを探ろうとしているのだ。
これまでそんな様子を見せたことはなかったのに。
「‥困らせてしまったね」
ガブリエルが、その整った顔を少しだけ悲しそうに歪めて呟いた。
それから、金髪のサラサラの髪をくしゃくしゃと掻いて困ったように笑う。
「ずっとね、今まではこの夢を叶えるために無我夢中だったんだけど‥
いざ叶ってしまうと、君はそれが嫌だったんじゃないかって不安になってしまって‥」
ソフィアは、ただジッとガブリエルを見つめ返すことしかできなかった。どう反応していいのか分からなかったのだ。
「僕は君の笑顔が見たいよ‥ソフィア」
そう言われてソフィアは気が付いた。
もう何年も、ガブリエルに笑顔を向けていないことに。
眉を落としたままのガブリエルは、また少し悲しそうな笑みを浮かべていた。
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