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第9話『幼き日(2)』
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ガブリエルは、ハッと思い出したかのように「大人を呼んでくるね」と駆け出し、穴に残されている2人は見つめ合った。
呑気だったソフィアが急に眉を下げで目を潤ませる。
ガブリエルが居なくなったことで、不安になったようだ。まだソフィアは3歳。泣いてしまうのも無理はない。
レオがそんなソフィアの様子に気付き、ゲッと顔を顰める。
「お、おい泣くなよ」
ソフィアの大きな瞳からは、涙が零れ落ちそうになっていた。
「出してやるから泣くなって!」
「兄たん‥」
「ガブリエルもすぐ戻ってくるから‥っ、痛‥」
ここに来て、レオも全身がジンジンと痛み出した。
フッと力が抜けた途端、レオも我に返ったのだろう。
「レオたん痛い?血、出てる」
「‥うん、痛い」
「ソフィア治してあげる」
「治さなくていいよ」
溺れたガブリエルをソフィアが白魔法で救った際、その小さな体は莫大な魔力の放出により、しばらく走ることもできなかった。
そんなソフィアの話を聞いたあとだ。レオは首を横に振った。
瀕死のガブリエルを救った時に比べ、使う魔力は少ないだろうが、レオはそれでもソフィアの魔法に頼りたくはなかった。
ソフィアは目をゴシゴシと袖で拭い、ニコッと笑った。
「な、なんで笑うんだよ」
眉を顰めるレオの耳に、優しい歌声が聞こえてきた。
白魔法が使われる所を見たことがないレオは、それが白魔法だと気付かない。
「な、なんで歌ってんの?!」
ソフィアの歌声は、心にスッと入るような、まるで可愛らしい天使の歌声。
口を開けたままだったレオは、その歌声に引き寄せられるように気付けば口を閉じてソフィアをジッと見つめていた。
とりあえず泣かないならいいか、そんなことを思っていたレオは、体がじわりじわりと優しい温かさに包まれているのに気付いた。不思議と痛みも引いていく。
「え?え、え?!おいソフィア!まさかこれ‥」
ソフィアは歌い終えると、またニコニコと微笑む。
気付けば血を流していたはずの傷口も癒え、アザも消えていた。
白魔法を実際にかけられたレオは、その力をとても信じることができなかった。
ただ言葉を失い、目をパチパチと瞬かせる。
「レオたん、痛くない?」
「う‥うん」
「よかった」
そう言ってソフィアがまた笑った。
レオは、ぎゅっと口を一文字に結ぶと、ソフィアに背を向けた。
「ほら、おんぶしてやる」
その言葉にソフィアは目を輝かせ、レオの背中に飛びついた。
「絶対手離すなよ!」
「うん!」
もう痛みはない。
それどころか、力が漲っているとさえ感じる。
出っ張った土や石に手を掛ける。
あっという間に、簡単に登ることができた。
先ほどまではまともに腕も上がらなかった。起き上がるのも辛かった。でも痛みが消えたらなんてことのない穴だった。
「‥ちっちぇー穴」
ソフィアを背中におぶったまま、穴を見下ろす。
「大きいよー!あなー!」
ソフィアが楽しそうにはしゃぐ。
ソフィアの髪やら息やらが首にかかって、くすぐったい。
でも、レオはソフィアを降ろそうとしなかった。
「次はもっとでっかい穴掘ってやるんだ」
「レオたんもう落ちない?」
「落ちるわけないだろ!」
「きゃははっ、レオたんすごーい!!」
さっきまで泣きそうだったくせに、なんでこんなにはしゃいでるんだ‥そう思いながらも、ガブリエルが妹のソフィアにデレデレになる気持ちが理解できた。
「ありがとな、ソフィア」
「レオたんもありがと!出れたね!」
「うん」
しばらくすると、ガブリエルに先導され大人たちが血相を変えて駆け寄ってきた。
「王子!大丈夫ですか!!」
「見たら分かるでしょ!余裕!」
「ちょ、レオ!ソフィア降ろして!」
「やだねー」
ソフィアはその日、しばらくレオにおんぶされたまま過ごした。レオの背中で眠ってしまったせいだ。
怪我を治す程度の魔力は、いつもより余分に眠るだけで回復できたようだった。
後日それを知ったレオは、ずっと心配してたらしい。ホッと胸を撫で下ろしてポツリと呟く。
「俺、ソフィアと結婚しようかな!」
一方その頃、レオにおんぶされたのがよほど楽しかったらしいソフィアは、屋敷でレオの話ばかりしていた。そんなソフィアの様子に頬を膨らませたガブリエルは、レオの元に遊びにいく際にソフィアを連れて行くのをやめたのである。
とは言っても、レオが遊びに来たり、パーティなどで顔を合わせることはあったが‥
「ねー、ソフィアは?」
「レオたん嫌だって言ってたよー」
ガブリエルが白々しく嘘をつく。
「嘘言うんじゃねー!シスコン!」
「レオたん、くちゃーいって言ってたよー」
「え、嘘でしょ?嘘だよね?!」
そんな3人の幸せな日々が、音を立てて少しずつ狂っていくことを、この時3人はまだ知らない。
呑気だったソフィアが急に眉を下げで目を潤ませる。
ガブリエルが居なくなったことで、不安になったようだ。まだソフィアは3歳。泣いてしまうのも無理はない。
レオがそんなソフィアの様子に気付き、ゲッと顔を顰める。
「お、おい泣くなよ」
ソフィアの大きな瞳からは、涙が零れ落ちそうになっていた。
「出してやるから泣くなって!」
「兄たん‥」
「ガブリエルもすぐ戻ってくるから‥っ、痛‥」
ここに来て、レオも全身がジンジンと痛み出した。
フッと力が抜けた途端、レオも我に返ったのだろう。
「レオたん痛い?血、出てる」
「‥うん、痛い」
「ソフィア治してあげる」
「治さなくていいよ」
溺れたガブリエルをソフィアが白魔法で救った際、その小さな体は莫大な魔力の放出により、しばらく走ることもできなかった。
そんなソフィアの話を聞いたあとだ。レオは首を横に振った。
瀕死のガブリエルを救った時に比べ、使う魔力は少ないだろうが、レオはそれでもソフィアの魔法に頼りたくはなかった。
ソフィアは目をゴシゴシと袖で拭い、ニコッと笑った。
「な、なんで笑うんだよ」
眉を顰めるレオの耳に、優しい歌声が聞こえてきた。
白魔法が使われる所を見たことがないレオは、それが白魔法だと気付かない。
「な、なんで歌ってんの?!」
ソフィアの歌声は、心にスッと入るような、まるで可愛らしい天使の歌声。
口を開けたままだったレオは、その歌声に引き寄せられるように気付けば口を閉じてソフィアをジッと見つめていた。
とりあえず泣かないならいいか、そんなことを思っていたレオは、体がじわりじわりと優しい温かさに包まれているのに気付いた。不思議と痛みも引いていく。
「え?え、え?!おいソフィア!まさかこれ‥」
ソフィアは歌い終えると、またニコニコと微笑む。
気付けば血を流していたはずの傷口も癒え、アザも消えていた。
白魔法を実際にかけられたレオは、その力をとても信じることができなかった。
ただ言葉を失い、目をパチパチと瞬かせる。
「レオたん、痛くない?」
「う‥うん」
「よかった」
そう言ってソフィアがまた笑った。
レオは、ぎゅっと口を一文字に結ぶと、ソフィアに背を向けた。
「ほら、おんぶしてやる」
その言葉にソフィアは目を輝かせ、レオの背中に飛びついた。
「絶対手離すなよ!」
「うん!」
もう痛みはない。
それどころか、力が漲っているとさえ感じる。
出っ張った土や石に手を掛ける。
あっという間に、簡単に登ることができた。
先ほどまではまともに腕も上がらなかった。起き上がるのも辛かった。でも痛みが消えたらなんてことのない穴だった。
「‥ちっちぇー穴」
ソフィアを背中におぶったまま、穴を見下ろす。
「大きいよー!あなー!」
ソフィアが楽しそうにはしゃぐ。
ソフィアの髪やら息やらが首にかかって、くすぐったい。
でも、レオはソフィアを降ろそうとしなかった。
「次はもっとでっかい穴掘ってやるんだ」
「レオたんもう落ちない?」
「落ちるわけないだろ!」
「きゃははっ、レオたんすごーい!!」
さっきまで泣きそうだったくせに、なんでこんなにはしゃいでるんだ‥そう思いながらも、ガブリエルが妹のソフィアにデレデレになる気持ちが理解できた。
「ありがとな、ソフィア」
「レオたんもありがと!出れたね!」
「うん」
しばらくすると、ガブリエルに先導され大人たちが血相を変えて駆け寄ってきた。
「王子!大丈夫ですか!!」
「見たら分かるでしょ!余裕!」
「ちょ、レオ!ソフィア降ろして!」
「やだねー」
ソフィアはその日、しばらくレオにおんぶされたまま過ごした。レオの背中で眠ってしまったせいだ。
怪我を治す程度の魔力は、いつもより余分に眠るだけで回復できたようだった。
後日それを知ったレオは、ずっと心配してたらしい。ホッと胸を撫で下ろしてポツリと呟く。
「俺、ソフィアと結婚しようかな!」
一方その頃、レオにおんぶされたのがよほど楽しかったらしいソフィアは、屋敷でレオの話ばかりしていた。そんなソフィアの様子に頬を膨らませたガブリエルは、レオの元に遊びにいく際にソフィアを連れて行くのをやめたのである。
とは言っても、レオが遊びに来たり、パーティなどで顔を合わせることはあったが‥
「ねー、ソフィアは?」
「レオたん嫌だって言ってたよー」
ガブリエルが白々しく嘘をつく。
「嘘言うんじゃねー!シスコン!」
「レオたん、くちゃーいって言ってたよー」
「え、嘘でしょ?嘘だよね?!」
そんな3人の幸せな日々が、音を立てて少しずつ狂っていくことを、この時3人はまだ知らない。
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