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第10話『震え』
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ダリアの鉢の土は湿り、多肉植物の寄せ植えには、小さな水滴が付いている。
一体誰にお世話をしてもらったの?
心の中で、そう草花に問いかけるソフィア。
ソフィアは、専属庭師の作業服を見つけては、姿を確認し、ため息を吐くことを繰り返していた。
これはソフィアの無意識内での行動だ。
アダムに恋心を抱いてはならないと、強く誓ったのだから‥。
ソフィアが、今日もまた会えないのか、と肩を落とすと、後ろからトントンと肩を叩かれた。
振り返ったソフィアはその途端、嘘のように心が踊ってしまった。
「‥やあ」
クスッ、と笑うのはアダム。
アダムはどうしてこんなにも気配を消すのが上手いのだろう、ソフィアは前回アダムと会った時のことを振り返りながらそう思った。
アダムは、その無邪気さが残る綺麗な笑顔を、惜しげも無くソフィアに振り撒く。
ソフィアは、この時ばかりは声が出せなくて良かったと心の底から思った。だって、声が出せたなら、なんだかとんでもないことをベラベラと口に出してしまいそうだったから。
会いたかった、
貴方の笑顔はなんだか胸をくすぐられる、
貴方はどうしてそんなにかっこいいの?
とか、そんなとんでもないことをベラベラと。
王子様的なかっこよさで、上品さに溢れているうえ、国宝級イケメンと称されるガブリエル。
でも、ソフィアにとっての「かっこいい」はどうしたってアダムなのだ。クリッとした瞳はいたずらが好きそうな無邪気さが滲み出ていて、口角の上がった唇はなんだかとっても幸せそう。
きっとソフィアよりも年上だけど、なんだか母性をくすぐられるような、そんな可愛さもあって、だけどソフィアにとっては誰よりも頼りになると思える男らしさや聡明さもある。
まだアダムの素性はほぼ知らない。
そんな謎とギャップが多いアダムに、ソフィアは心をくすぐられて仕方なかったのだ。
「なんだか嬉しそうですね」
そんなアダムの言葉に、ハッとする。
ソフィアは緩んでいた頬を引き締め、一生懸命冷静さを保った。
「あれ?怒っちゃいました?」
そう言われると困る。
ソフィアは怒ってなんかいない。ただ、普通にしていると平常心が保てないから気合いを入れただけだ。
ブンブンと首を振り、意思を示すと、アダムは柔らかく笑った。
「‥あっち座りませんか?」
アダムの言葉に頷く。
この前のベンチに腰を掛けた。
2人の距離は近く、ソフィアの頬はなんとなく紅潮している。
アダムと会うとこうして、頬が赤く染まったり、表情や感情が豊かになる。ソフィアが人形ではなく生身の人間になれるわずかなひと時だ。
「‥ちゃんと練ってきましたよ」
アダムがそう言う。
ソフィアは普段、自分の思いを発信できないためあまり知られていないが、本来は割と察しのいいタイプだ。
アダムが何を練ってきてくれたのか、それはすぐに理解できた。
少し不安げな表情でアダムをじっと見据える。
再び言葉を話せるようになったら、誰になんと言おう。そんな前向きな未来図も、もうこの数年は考えることもなかった。でもアダムと出会って希望が生まれ、またそんなことを考えたりする。
それは、諦めきっていたソフィアにとって、むしろ少しむず痒くなるような、なんとも言い表しにくい感情だ。期待したって悲しくなるだけと思う一方、アダムが策を練ってくれるだけでも嬉しいことだと感じたり、もしかしたら一介の庭師のアダムがミラクルを起こしてくれるかもと思ったり、心は忙しない。
もしもやっぱり、声が戻るのが夢物語だとして叶わなかったとしても、これが意図的に封じられたものだと誰かが気付いてくれたというだけで、未来に希望も持てたりする。
「その日」のことをよく思い出せないソフィアは、彼女自身も犯人がわからない。
でも、断片的には覚えていて‥
誰かに何かをされた、その印象だけはある。
当事者ですらこんなに曖昧なのに、アダムは一体どんな策を練ってくれたというのか。
「恐らくですが‥ソフィア様の声が奪われた理由は、貴女が聖女だから」
アダムの言葉に、ソフィアも静かに頷いた。
何か理由があるとしたら‥
ソフィアが他の誰かと違う部分。
聖女だからか、レストール家の養子だからか、どちらかが原因になっているはずだ。
何が理由なのか、どうして封じられたのか、誰が封じたのか。何にも検討がつかないソフィアは、アダムの話を脳内に焼き付けようと真剣に話を聞いた。
「レストール家は非常に権力のある大貴族ですが‥ソフィア様の声を何年もの間封じる理由にはなりにくいと思うのです。
しかし、細かな理由は分かりませんが、聖女であることが理由ならば少し検討もつく」
ソフィアは、自分の手が震えていることに気がついた。
今まで漠然としすぎていて、何も検討がつかなくて、そして誰かに具体的にこうした話をされたことがなかったから考えてもいなかった。
もしかして、自分が聖女であるということを邪魔に思ってる人がいたのかな‥?
そう思った途端、どうしようもなく怖くなってしまったのだ。
レストール家の敷地内で守られて過ごしてきたからこそ、ソフィアは自分に向けられる悪意に関して深々と考える機会がなかった。
ソフィアはぎゅっと手を握り締め、その震えを収めようとした。
一体誰にお世話をしてもらったの?
心の中で、そう草花に問いかけるソフィア。
ソフィアは、専属庭師の作業服を見つけては、姿を確認し、ため息を吐くことを繰り返していた。
これはソフィアの無意識内での行動だ。
アダムに恋心を抱いてはならないと、強く誓ったのだから‥。
ソフィアが、今日もまた会えないのか、と肩を落とすと、後ろからトントンと肩を叩かれた。
振り返ったソフィアはその途端、嘘のように心が踊ってしまった。
「‥やあ」
クスッ、と笑うのはアダム。
アダムはどうしてこんなにも気配を消すのが上手いのだろう、ソフィアは前回アダムと会った時のことを振り返りながらそう思った。
アダムは、その無邪気さが残る綺麗な笑顔を、惜しげも無くソフィアに振り撒く。
ソフィアは、この時ばかりは声が出せなくて良かったと心の底から思った。だって、声が出せたなら、なんだかとんでもないことをベラベラと口に出してしまいそうだったから。
会いたかった、
貴方の笑顔はなんだか胸をくすぐられる、
貴方はどうしてそんなにかっこいいの?
とか、そんなとんでもないことをベラベラと。
王子様的なかっこよさで、上品さに溢れているうえ、国宝級イケメンと称されるガブリエル。
でも、ソフィアにとっての「かっこいい」はどうしたってアダムなのだ。クリッとした瞳はいたずらが好きそうな無邪気さが滲み出ていて、口角の上がった唇はなんだかとっても幸せそう。
きっとソフィアよりも年上だけど、なんだか母性をくすぐられるような、そんな可愛さもあって、だけどソフィアにとっては誰よりも頼りになると思える男らしさや聡明さもある。
まだアダムの素性はほぼ知らない。
そんな謎とギャップが多いアダムに、ソフィアは心をくすぐられて仕方なかったのだ。
「なんだか嬉しそうですね」
そんなアダムの言葉に、ハッとする。
ソフィアは緩んでいた頬を引き締め、一生懸命冷静さを保った。
「あれ?怒っちゃいました?」
そう言われると困る。
ソフィアは怒ってなんかいない。ただ、普通にしていると平常心が保てないから気合いを入れただけだ。
ブンブンと首を振り、意思を示すと、アダムは柔らかく笑った。
「‥あっち座りませんか?」
アダムの言葉に頷く。
この前のベンチに腰を掛けた。
2人の距離は近く、ソフィアの頬はなんとなく紅潮している。
アダムと会うとこうして、頬が赤く染まったり、表情や感情が豊かになる。ソフィアが人形ではなく生身の人間になれるわずかなひと時だ。
「‥ちゃんと練ってきましたよ」
アダムがそう言う。
ソフィアは普段、自分の思いを発信できないためあまり知られていないが、本来は割と察しのいいタイプだ。
アダムが何を練ってきてくれたのか、それはすぐに理解できた。
少し不安げな表情でアダムをじっと見据える。
再び言葉を話せるようになったら、誰になんと言おう。そんな前向きな未来図も、もうこの数年は考えることもなかった。でもアダムと出会って希望が生まれ、またそんなことを考えたりする。
それは、諦めきっていたソフィアにとって、むしろ少しむず痒くなるような、なんとも言い表しにくい感情だ。期待したって悲しくなるだけと思う一方、アダムが策を練ってくれるだけでも嬉しいことだと感じたり、もしかしたら一介の庭師のアダムがミラクルを起こしてくれるかもと思ったり、心は忙しない。
もしもやっぱり、声が戻るのが夢物語だとして叶わなかったとしても、これが意図的に封じられたものだと誰かが気付いてくれたというだけで、未来に希望も持てたりする。
「その日」のことをよく思い出せないソフィアは、彼女自身も犯人がわからない。
でも、断片的には覚えていて‥
誰かに何かをされた、その印象だけはある。
当事者ですらこんなに曖昧なのに、アダムは一体どんな策を練ってくれたというのか。
「恐らくですが‥ソフィア様の声が奪われた理由は、貴女が聖女だから」
アダムの言葉に、ソフィアも静かに頷いた。
何か理由があるとしたら‥
ソフィアが他の誰かと違う部分。
聖女だからか、レストール家の養子だからか、どちらかが原因になっているはずだ。
何が理由なのか、どうして封じられたのか、誰が封じたのか。何にも検討がつかないソフィアは、アダムの話を脳内に焼き付けようと真剣に話を聞いた。
「レストール家は非常に権力のある大貴族ですが‥ソフィア様の声を何年もの間封じる理由にはなりにくいと思うのです。
しかし、細かな理由は分かりませんが、聖女であることが理由ならば少し検討もつく」
ソフィアは、自分の手が震えていることに気がついた。
今まで漠然としすぎていて、何も検討がつかなくて、そして誰かに具体的にこうした話をされたことがなかったから考えてもいなかった。
もしかして、自分が聖女であるということを邪魔に思ってる人がいたのかな‥?
そう思った途端、どうしようもなく怖くなってしまったのだ。
レストール家の敷地内で守られて過ごしてきたからこそ、ソフィアは自分に向けられる悪意に関して深々と考える機会がなかった。
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