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第11話『囚われの身』
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ソフィアは8歳の頃からずっとレストール家の敷地内で暮らしている。
世間の様子をよく知らない彼女にとって、レストール家の外の世界を想像するのは容易ではなかった。
たまたま運悪く声を失ったのかもしれない、
声を失った「その日」のことをそんな風に考えていた。たまにレストール家だから、聖女だから、そんな風に思うこともあったけど、でもやはり漠然としていたのだ。
どこか怯えた様子を見せるソフィアを見て、アダムは眉を下げた。
「‥人が誰かに悪事を働く理由はいくつかあります。例えば、その悪事自体を行うことに快感を持っている愉快犯だったり、恨みや妬みを晴らすためであったり、その悪事を行うことで自分に好都合になったり‥」
ソフィアは淡々と話すアダムの言葉を、ただ聞き続けた。
「言葉を失ったり、筆も自由に動かせなくなったり、という症状は、魔法によるものです。10年間もその魔法をかけ続けられる魔法使いはそうそういません」
聖女として白魔法の使い手であるソフィア。彼女の白魔法の力は計り知れないが、その他の魔法の力はない。
ましてや、幼い頃からずっとこの屋敷内に居続けるソフィアにとって、他の魔法使いの存在や、白魔法以外の魔法を見る機会なんてなかった。
「ソフィア様もご存知かもしれませんが、この世にはソフィア様と正反対の存在である、黒魔法に特化した『魔女』と呼ばれる人たちがいます。聖女とは違い‥魔女は複数人おりますが‥。10年間魔法をかけ続けられるのはその魔女たちくらいしかいません」
つまり、ソフィアは魔女によって伝える手段を封印されたのだ。
ソフィアはゴクリと唾を飲み込んだ。
魔女とは正反対の、聖女という立場だから‥?
そんな考えが、ソフィアの脳裏をよぎる。
「そして、魔女は皆強欲です。
おそらくですが‥魔女の意思ではなく、魔女に依頼をしている誰かがいるはず」
ソフィアの考えは、このアダムの言葉により簡単に覆った。
魔女自身の意思ではなく、他の誰かの意思ーーー。
全く検討がつかない。
「ーーーまぁあくまでも僕の予想ですが。
それを確かめられる方法があります」
アダムの言葉に顔を上げたソフィア。
貴方は、誰が依頼しているのか検討がついてるの?そう聞きたくて仕方がない。
まさかアダムがこんなにも核心に迫ることができる人だとは、ソフィアは正直思っていなかった。
だってアダムは、ただの庭師‥。期待はもちろんしていたけれど、せいぜい呪いを解くおまじないを調べてくるとか、そんな程度だと‥。
魔女という存在がいて、魔女たちは皆強欲で、その欲の為に動くーーー
それは、もしかしたら世間の人たちも知っていることなのかもしれない。でも、その世間から離れて過ごしているソフィアにとって、アダムから聞かされる話は初めて知ることばかりだったのだ。
よって、ソフィアは改めてアダムが聡明で博学な人なのだという認識を強めることになった。
「その為には、貴方はここから出なくてはいけない」
アダムは真剣な目をしていた。
でもそれは、ソフィアにとってあまりにも難題だ。
レストール家、そしてガブリエルがそれを許すはずがない。
顔を上げてアダムの話を聞いていたはずのソフィアは、花が萎れたかのようにその頭を下げた。
「もちろん、この家に許してもらえないでしょう。
だから、逃げ出すのです。ここから、一緒に」
チラリ、アダムを見る。
ソフィアにとって困難極まりない難題だというのに、アダムはこれからバカンスにでも行くのではないかというほどの笑顔だ。
いたずらっ子のようなその表情に、ソフィアは更に困惑し、ぶんぶんと首を横に振った。
ガブリエルは今や婚約者。
そして、レストール家には今日この日までお世話になった恩がある。
ガブリエルとの結婚でやっとその恩を返せるのに、アダムと逃げ出すことなんてできない‥。
ましてや、庭師と逃げ出した令嬢を、王家が許すはずがない。養子の話もなくなってしまうかもしれない。
とにかく、何が何でも逃げ出せない‥。
「1ヶ月程度で戻ってこれますよ。
それに、こんな機会は二度とありません。確かめるなら、今しかないのです」
もうアダムの顔を見れなかった。
とにかく、ぎゅっと目を瞑りまた首を横に振る。
アダムは小さくため息を吐いた後、言いにくそうに話し始めた。
「‥‥貴女は、ここで守られていると思っていましたか?」
予期せぬ言葉に、ソフィアは目を開けた。
どういう意味なのか考える暇もなく、アダムの言葉は続く。
「もし‥貴女を逃がさぬ為だったとしたら、貴女の考えは変わりますか?」
ソフィアは、しばらく息をするのを忘れていた。
それほど強い衝撃だったのだ。
まさか、そんな‥
呼吸を忘れていたことに気付き、ソフィアは荒めに空気を取り込んだ。
アダムはもう笑ってなどいなかった。
ただただ、真剣な表情を浮かべているだけだ。
「でもそれすらも僕の仮説に過ぎない‥
それを調べる為にも、ここから出る必要があるのです。
その後のことは心配しないでください。訳を話せば、皆理解してくれますから」
アダムを信じて全て投げ出してしまっても、いいのだろうか‥。
でも、レストール家への疑いが出てしまった以上、ソフィアの心はひたすらに沈むばかりだ。
ましてや婚約が決まった今、一生レストール家に捕らえられたまま‥。
ソフィアは、アダムを見据えて、静かに頷いた。
世間の様子をよく知らない彼女にとって、レストール家の外の世界を想像するのは容易ではなかった。
たまたま運悪く声を失ったのかもしれない、
声を失った「その日」のことをそんな風に考えていた。たまにレストール家だから、聖女だから、そんな風に思うこともあったけど、でもやはり漠然としていたのだ。
どこか怯えた様子を見せるソフィアを見て、アダムは眉を下げた。
「‥人が誰かに悪事を働く理由はいくつかあります。例えば、その悪事自体を行うことに快感を持っている愉快犯だったり、恨みや妬みを晴らすためであったり、その悪事を行うことで自分に好都合になったり‥」
ソフィアは淡々と話すアダムの言葉を、ただ聞き続けた。
「言葉を失ったり、筆も自由に動かせなくなったり、という症状は、魔法によるものです。10年間もその魔法をかけ続けられる魔法使いはそうそういません」
聖女として白魔法の使い手であるソフィア。彼女の白魔法の力は計り知れないが、その他の魔法の力はない。
ましてや、幼い頃からずっとこの屋敷内に居続けるソフィアにとって、他の魔法使いの存在や、白魔法以外の魔法を見る機会なんてなかった。
「ソフィア様もご存知かもしれませんが、この世にはソフィア様と正反対の存在である、黒魔法に特化した『魔女』と呼ばれる人たちがいます。聖女とは違い‥魔女は複数人おりますが‥。10年間魔法をかけ続けられるのはその魔女たちくらいしかいません」
つまり、ソフィアは魔女によって伝える手段を封印されたのだ。
ソフィアはゴクリと唾を飲み込んだ。
魔女とは正反対の、聖女という立場だから‥?
そんな考えが、ソフィアの脳裏をよぎる。
「そして、魔女は皆強欲です。
おそらくですが‥魔女の意思ではなく、魔女に依頼をしている誰かがいるはず」
ソフィアの考えは、このアダムの言葉により簡単に覆った。
魔女自身の意思ではなく、他の誰かの意思ーーー。
全く検討がつかない。
「ーーーまぁあくまでも僕の予想ですが。
それを確かめられる方法があります」
アダムの言葉に顔を上げたソフィア。
貴方は、誰が依頼しているのか検討がついてるの?そう聞きたくて仕方がない。
まさかアダムがこんなにも核心に迫ることができる人だとは、ソフィアは正直思っていなかった。
だってアダムは、ただの庭師‥。期待はもちろんしていたけれど、せいぜい呪いを解くおまじないを調べてくるとか、そんな程度だと‥。
魔女という存在がいて、魔女たちは皆強欲で、その欲の為に動くーーー
それは、もしかしたら世間の人たちも知っていることなのかもしれない。でも、その世間から離れて過ごしているソフィアにとって、アダムから聞かされる話は初めて知ることばかりだったのだ。
よって、ソフィアは改めてアダムが聡明で博学な人なのだという認識を強めることになった。
「その為には、貴方はここから出なくてはいけない」
アダムは真剣な目をしていた。
でもそれは、ソフィアにとってあまりにも難題だ。
レストール家、そしてガブリエルがそれを許すはずがない。
顔を上げてアダムの話を聞いていたはずのソフィアは、花が萎れたかのようにその頭を下げた。
「もちろん、この家に許してもらえないでしょう。
だから、逃げ出すのです。ここから、一緒に」
チラリ、アダムを見る。
ソフィアにとって困難極まりない難題だというのに、アダムはこれからバカンスにでも行くのではないかというほどの笑顔だ。
いたずらっ子のようなその表情に、ソフィアは更に困惑し、ぶんぶんと首を横に振った。
ガブリエルは今や婚約者。
そして、レストール家には今日この日までお世話になった恩がある。
ガブリエルとの結婚でやっとその恩を返せるのに、アダムと逃げ出すことなんてできない‥。
ましてや、庭師と逃げ出した令嬢を、王家が許すはずがない。養子の話もなくなってしまうかもしれない。
とにかく、何が何でも逃げ出せない‥。
「1ヶ月程度で戻ってこれますよ。
それに、こんな機会は二度とありません。確かめるなら、今しかないのです」
もうアダムの顔を見れなかった。
とにかく、ぎゅっと目を瞑りまた首を横に振る。
アダムは小さくため息を吐いた後、言いにくそうに話し始めた。
「‥‥貴女は、ここで守られていると思っていましたか?」
予期せぬ言葉に、ソフィアは目を開けた。
どういう意味なのか考える暇もなく、アダムの言葉は続く。
「もし‥貴女を逃がさぬ為だったとしたら、貴女の考えは変わりますか?」
ソフィアは、しばらく息をするのを忘れていた。
それほど強い衝撃だったのだ。
まさか、そんな‥
呼吸を忘れていたことに気付き、ソフィアは荒めに空気を取り込んだ。
アダムはもう笑ってなどいなかった。
ただただ、真剣な表情を浮かべているだけだ。
「でもそれすらも僕の仮説に過ぎない‥
それを調べる為にも、ここから出る必要があるのです。
その後のことは心配しないでください。訳を話せば、皆理解してくれますから」
アダムを信じて全て投げ出してしまっても、いいのだろうか‥。
でも、レストール家への疑いが出てしまった以上、ソフィアの心はひたすらに沈むばかりだ。
ましてや婚約が決まった今、一生レストール家に捕らえられたまま‥。
ソフィアは、アダムを見据えて、静かに頷いた。
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