公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第27話『シンドラとネロ』

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ーーー数時間前、早朝


シンドラとネロは人里を目指し、馬に跨った。
正体を隠す為、シンドラは30代の男性旅人に扮している。


「どうして貴方と行動しなくてはいけないのですか」


シンドラは、レオ王子とソフィアに対し、心の中で忠誠を誓っている。
2人を守るためには、レオ王子が心を許すネロを受け入れなくてはならない。

それでも、ネロの緩くゲスい性分がどうしても気に食わなかった。


「仕方ないじゃないですか。
シンドラさん1人で行ってもうまく情報得られないでしょ?」


ネロはさらりと人の懐に入り情報を得るのが上手い。
それだけではなく、この生活の財布の紐を握るネロは、交渉術も上手だった。


「私1人でも余裕ですけど」


シンドラはその変身魔法を使い、幼い頃から成人女性を装って生きてきた。
けして簡単ではなかった今までの人生の経験から、同世代の女性よりは賢い世渡りができるはずだ。

シンシアとして生きている間は、親しみやすい中年メイドを演じ切っていたが、元々の彼女は冷静沈着で面倒見のいい女性だ。


それが、ネロへの苦手意識からか、どうしても彼には本調子ではいられなかった。
ネロのせいで冷静沈着になれない自分にも苛立ちを感じていたのである。



「まぁまぁそう言わずに」



澄ました顔でネロは馬を走らせる。
そんなネロの背中を睨みながら、シンドラも馬を走らせた。


レオ王子のこともソフィアのことも、忠誠を誓っているものの、28歳の彼女にとっては可愛い弟・妹のように感じることもあり、特にレオ王子のことは茶化すこともある。
だけど、それが何故かネロにはできない。
ネロの掴み所がないところが、シンドラにとっては信頼をおけない一番の要因なのかもしれない。



「‥貴方年齢は?」


「気になります?」


こんなやり取りでさえ、本来は軽く流せるはずなのに、どうしようもなく苛ついてしまう。
シンドラは、自分がよっぽどネロを嫌っているのだと気付いた。



「いえ、どうでもいいですが」


「ふふ、22歳ですよ」


「へぇ、まだまだお若いんですね」


嫌味を込めて、少し棘を含めて伝えると、ネロは振り返り微笑むだけだった。
シンドラにとって、そこで聞き返してこないところも嫌いな所の1つだ。
かといって、聞き返されたところで年齢を答えることはないけれど。



しばらくして人里にたどり着いた。
普段少しの日用品や食料を購入するならこの里だけで済むが、今日はレストール家の情報を掴むためにも、隣の港町まで向かう必要があった。


「シンドラさん、休憩しますか?」


「いいえ、結構です」


頑なに自分を嫌うシンドラに、ネロはむしろ面白さを感じていた。
ネロとしては、レオ王子とソフィアに尽くそうと努めるシンドラは信頼に値する人物として、マイナスイメージはなかったのだ。


「俺、強気な女性はわりと好きですよ」


「何ですか急に。興味ありません」


笑うネロと、不機嫌なシンドラはそのまま港町まで向かった。



山小屋から出発して2時間ほど経った。
この港町は、隣国との貿易が盛んでわりと栄えている。
レストール家の屋敷がある街からはだいぶ離れているものの、こうした港町には情報も舞い込む。


馬を降りた2人は、まずは市場に向かった。
キノが作った薬の売り込みを終え、日用品を購入しようと歩いている時だった。


ーーードンッ

突然、ガタイの良い男に突き飛ばされ、シンドラは尻餅をついた。
シンドラの前には、数人のゴロツキがいる。


「お前どこから来たんだ?
いい服着てるなぁ」


山小屋でも着回しているような適当な服を着ているネロと違い、シンドラは魔法で作り出した旅装束だ。レストール家や城との関わりが多かったシンドラが作った服は、旅装束と言えどもこの地域では少し高級品だったようだ。


ーーーしまった。
シンドラは自分の思慮の浅さを後悔した。
こんなヘマしている場合じゃないのに‥

騒ぎを大きくして目立つわけにはいかない。



でも、シンドラの魔法によって作り出された服は、魔法が消えるとその存在も消えてしまう。
シンドラが元の姿に戻った時になくなってしまうのだ。



魔法使いはそう多いわけではない。
少なくとも、ここら一体の田舎地方ではそうそういないだろう。


自分のせいで足がついてしまうのは避けたい‥。
シンドラは、ゆっくり立ち上がりながらこの場を切り抜けられる方法を考えつこうと必死だった。



「おい聞いてんのかよテメェ」


ゴロツキのうちの1人が、シンドラの胸ぐらを掴みかかった時だった。


「お兄さん達」


ネロが口を開く。
戦闘に向かない、筋肉が少ない華奢な体の彼を見て、男たちは笑った。


「なんだよそんなヒョロヒョロな体で。
俺たちとやろうってのか?」


「まさかぁ。とんでもない」


「じゃあなんだよ。いい話でもあんのか」


ネロは、にっこりと笑った。
白い肌に、長めの黒い髪。中性的な彼の笑みはなかなか絵になるものだ。


「この旅人さんは、これから魔女との取り引きがあるんです。なんでも魔女に気に入られてね」


「魔女と取り引きだぁ?そんな物騒なことするやつがいるのかよ」


「本当ですよぅ。まぁ僕は道案内してるだけなんだけど。
この旅装束も魔女からの貢ぎ物さ。だからこれ着ていかないと、気性の荒い魔女が怒り狂っちゃうんです」


「そんな話みすみす信じて逃すとでも思ったか」


ゴロツキ達は、この港町に住まう貧困層の男たちだ。
ネロはそれを察して、また余裕を見せて笑った。



「ほんの少しで申し訳ないですけど、皆さんが飲める分のお金はここにあります。
今回はこれで見逃してもらえませんかね」


ネロがそう言って懐から取り出したのは、先程キノの薬を売って手に入れたお金だ。
シンドラはネロを止めに入ったが、ネロはお金を簡単にゴロツキ達に手渡してしまった。


「なんだい兄ちゃん、話がわかるじゃねぇか」


ゴロツキ達は、ご機嫌そうにその場を去っていった。



シンドラは、ゴロツキ達の背中を睨んだ後、ネロに詰め寄った。


「どうするんですか?!あのお金は‥!」


ネロを責めようにも、元はと言えば自分の思慮の浅さが原因だ。シンドラは怒りをうまく抑えられず、混乱の中力なくため息をついた。


「まぁまぁ、一旦人目のつかないところに行きましょう。怪我はないですか?」


ネロの言葉に、シンドラは小さく頷いた。


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