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第51話『センチメンタル』
しおりを挟む大柄な男・ユーリ、スラリと背の高いネロ、赤い髪のセクシーな女性に扮するシンドラが夜の街を歩く。
道行く女性達は、男らしいユーリと中性的で整った顔立ちのネロに何やらアイコンタクトを送る。
ここは飲み屋街でも少し奥まった地域だ。ユーリは目を逸らして無視をし、ネロは愛想よく微笑む。女達は嬉しそうに声を上げ、ネロ達に近付いた。
途端、その一歩後ろを歩いていたシンドラが、わざわざ頭から被っていたマントをズラし、その“偽”のセクシーな美人面を曝け出す。
女達はシンドラを憎たらしそうに睨んで去っていった。シンドラも女達に負けじと目ヂカラが強い。
「おー、怖い」
そんなシンドラの様子を、ネロが面白そうに茶化した。
女達からも、何か得られる情報があったかもしれない。それでも、チヤホヤされて図に乗るネロを想像したら腹が立ったのだろう。
「‥ユーリさん、どこのお店にしますか?」
けろっとネロを無視して、シンドラはユーリに尋ねた。ユーリからすれば、シンドラも若い。ましてやネロに対してムキになってしまうシンドラは、真面目さに隠れた幼稚な一面が滲み出ていた。
だが、そんな裏表のないシンドラと、あえてシンドラを茶化し続けるネロとの掛け合いは、ユーリにとっても微笑ましいものだった。
ユーリは小さく笑い、辺りを見渡して目星を付け、「あそこでいいんじゃないか?」と指をさした。ショーも行なっている、ここらじゃ少し大きめの酒場だ。ネロとシンドラも同意し、頷く。
「今頃いいことしてるかなぁ、あの人たち」
そう言ってネロが笑みを見せると、シンドラは呆れたように言った。
「2人でいることイコールそういうことって、考えが極端すぎませんか?レオ王子だってソフィア様だって、ただ2人きりでいるだけでも十分幸せな時間を過ごせると思いますよ。つくづくスケベですね」
「シンドラさん、俺スケベなことだなんて言ってないですよ?え、俺の発言、スケベなこと言ってると思ったの?」
口元に手を当ててシンドラを面白がるネロに対し、シンドラは瞳を金色にして威嚇したあと、低い声で「‥席取ってきます」と言ってその場を去ってしまった。
「あーあ、怒っちゃった」
「‥あんまり茶化しすぎると嫌われるぞ」
ネロが子どもの頃から共に過ごしてきたユーリにとって、ネロがここまでシンドラを弄るのは少々意外だった。
たまにこうして街に出れば、来るもの拒まずなネロは女性とどこかに消えていくことはしょっちゅうあった。しかし、それは一夜限りの関係だ。
こうして女性と生活を共にしている中での、ネロの女性に対する日常的な絡みは初めて見るものだったのだ。
「もう嫌われてるよ」
そう言ってケラケラとネロは笑う。
「シンドラに対してだけ異常すぎないか」
「そうかもね」
そう言うネロの瞳は、少し伏せがちだった。
これは、ネロの心の弱い部分がほんの少し垣間見える時にだけ見せる表情だった。
ーー近付きすぎないようにしてるのか、
ユーリは、少々めんどくさい性質を持ったネロに同情した。
ネロの子どもの頃の“傷”を知っているユーリは、ネロの良き理解者だったのだ。
酒場に着くと、もう既に席を取って座っていたシンドラは、周りの男たちに囲まれていた。
今の姿は、赤くウェーブがかった長い髪をサイドで緩く一本にまとめ、目鼻立ちのくっきりしたセクシーな美女だ。こんな美人が1人でいるのだから、囲まれるのも当然だろう。
「姉ちゃんよぉ、無視すんなよぉ」
ガタイのいい男がそう言うと、シンドラは冷たくため息をついて視線を上げた。シンドラの視線の先にはユーリとネロがいる。
ショーは今のところ行われていないようだった。全体的に茶色っぽい店内は、やや薄暗い。
「‥遅いですよ」
「モテモテですね~」
ちんたらと酒場までやってきた2人をシンドラが一瞥すると、周りの男たちは「なんだよ男連れかよ」と興醒めしたような様子を見せた。酒の勢いでユーリとネロに絡んでもいいのだが、何せユーリの体付きはその場にいる誰よりも大きい。
「どっちの女なんだい?」
シンドラに絡んでいた男たちは、シンドラを口説き落とすことができないのだと諦め、今度は3人に対して話しかけた。
ここで「そういう関係じゃない」と、まともに返してはまた執拗に絡まれそうだ。ここはどちらかの女だと答えた方が場が簡単に収まるだろう。
そう考えたシンドラは、迷わずにユーリの腕を取った。
ネロを選んでは、また変に茶化されるだけだ。
「そっちの兄ちゃんかい。
まぁ似合ってんじゃねぇか」
男たちは、いよいよシンドラ達に興味をなくし、離れていった。作戦成功だ。
ユーリの腕から手を離し、シンドラはメニューを広げた。
「で、何飲みます?」
「シンドラさん、俺の方が近くにいたのに」
ネロが冗談半分でそう言うと、シンドラは今までのフラストレーションを発散するかのように、ネロに冷たい視線を送った。
「貴方の女になんて、冗談でも嫌です」
「あはは、辛辣~」
ネロは、いつも通り飄々としていた。
シンドラにどう思われてようと、然程気にしていないような様子だ。
ユーリは、そんな2人の様子に、やれやれと小さく苦笑いを浮かべていた。
「俺トイレ行ってきますね」
ネロがそう言ってその場を後にした。
これからお酒を頼む場面だというのに勝手だなぁ‥とシンドラは内心思っていたが、ユーリは特に気にすることもなく、先に2人で飲み始めるつもりのようだ。
店員を呼び酒を頼むと、シンドラに声を掛けた。
「あいつが嫌いか?」
そう直球で聞かれると、答えづらい。
なにせ仲間として行動を共にしているし、ユーリとネロの絆は深い。
そんな相手に「嫌い」だとは言いにくい。
それに、本気で嫌いかと言われれば、それは違う。
「‥‥むしろネロさん、嫌われたがってるように感じます」
重要な場面や、ふとした時はごく普通に接してくるし、むしろ空気を読むのがとてもうまく、人のことをよく観察している。
それなのに、必要以上にわざとシンドラを怒らせるのだ。
近づいたかと思えば離れる。
信頼関係ができたかと思えば壁がある。
そんな感じだ。
「なんだ、気付いてたのか」
ユーリが優しく微笑んだ。
この仲間達の中で、シンドラにとってユーリは唯一の年上だ。シンドラも、ユーリには年上の安心感を感じていた。
「‥‥むしろ私が弄られすぎてネロさんに嫌われてるのかって思うほどです。なのに、必要以上に何かと絡んできて、ちょっと何考えてるのか分からないんですよね。
わざと嫌がることを敢えてしてくるので」
子どもが好きな子を虐めるのとはまた違う。
ネロは、そういう不器用さを持った男ではないのだ。
「‥‥あいつは、ああ見えて繊細で寂しがり屋なんだよ」
シンドラと乾杯をしたあと、ユーリはグッと酒を飲んでそう言った。その表情はまるで年の離れた弟を想う『兄』だ。
一方シンドラは眉を顰め、ユーリを疑うような表情を見せていた。
「‥‥繊細?‥‥寂しがり屋?
え‥‥?誰がですか‥?」
シンドラがそう言うのも無理はない。
ネロがそんな一面を持ち合わせているなんて、誰が信じるというのだろう。
「くくっ‥でも、お前らと一緒なら大丈夫だ。
あいつ毎日楽しそうだからな」
そんな会話をしていると、ネロが女達に絡まれながら戻ってきた。
本心が見えない綺麗な笑顔を振りまいて、「うん、あとで行くからね」と訳の分からない約束までしている。
この男がねぇ‥
シンドラは酒をぐいっと飲みながらネロをまじまじと見るも、やはりどうしても信じられなかった。
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