公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第60話『参戦』

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ユーリの捜索のため、『レオ王子・ソフィア・シンドラ』チームと、『ネロ・キノ』チームに分かれていたのだが、ルージュによる特大な薔薇の打ち上げ花火のおかげで、両チームとも塔に集結した。

タイミング的には到着こそネロたちの方が早かったが、ネロが死闘コントを繰り広げている最中、レオ王子達も塔に到着したのだ。


「まさかこの炎を無理矢理突破して敵陣に乗り込むなんて、無謀にも程がありますよ‥。」


シンドラが信じられない、と言った様子で呟きながら、炎の壁の一部を氷の魔法で抑え込んだ。


「俺も止めたんだけど行っちまったんだよ」


「ったく、あの馬鹿!」


レオ王子がソフィアの手を取りながら炎の壁の内側へ入った。続けて、シンドラ、キノがいく。

どうやらこの炎の壁は、形状記憶されているらしい。
全員が入り込んだのと同時、氷が溶けると炎の壁はまた塔の周りをぐるりと一瞬で囲んだ。
まるで尻尾のように後ろに流れているキノのマントの先っぽが、復活した炎によって焼けてしまった。
危なくキノ自身も焼けるところだったと、キノはゴクリと唾を飲んだ。


敵が何人いるのかはわからない。
だが少なくとも、ルージュの他に『炎』の魔法が使える魔法使いがこの塔にいることは間違いない。


ユーリが捕らえられている可能性があるうえ、ネロまで無謀に特攻してしまった。
一同は焦りながら、月の肖像が施された塔の扉を開けた。

その瞬間、先頭を走っていたレオ王子が振り返り、左手でソフィアの肩を後ろに押し、右手に握られていた剣で“何か”を弾いた。
後ろに押されたことでよろめいたソフィアを、ちょうど塔の中へ入ったシンドラが支えるという連携プレーを終えたところで、一同は皆顔を上げ、その惨事を目の当たりにした。


「な、なんだこりゃ」


先に口を開いたのはキノだ。


レオ王子が弾いたのは、激しい戦いにより落ちてきたと思われる、螺旋階段の手すりの一部だった。
塔の中腹部では炎が巻き起こり、壁は剥がれ落ち、今この瞬間にも何かが爆発しているような音まで響いている。


「ネロ!!無事か!!」


レオ王子がそう叫び、走って階段を駆け上り始めるのと同時。
ネロはひょこっと下を覗き込むようにして顔を出した。


無事だったのか、と一同が安堵する。


ーーーネロにとって、この螺旋階段は非常に好都合な戦場だった。
戦闘員が邪魔で、当初ニッカは魔法を使うことができず、走ってネロを追いかけている戦闘員達も周囲に味方がいるため思うように剣を振れない。
一方のネロは、キノお手製の煙幕や焙烙玉を遠慮なしにばかすかと投げつけていた。

なんやかんやで戦闘員が戦闘不能になる頃、ニッカはこのもどかしすぎる戦いに苛立ち、大きく渦巻く炎の魔法を繰り出した。

手すりから器用に螺旋階段の下層部に飛び移り、間一髪で炎を避けたネロは、ふう、と額の汗を拭った。


既に倒れ込んでいた戦闘員たちは容赦なく炎に包まれている。


「味方まで燃やしちゃうんですね」


頬を煤で黒くしたネロが、ニッカを見上げてそう言うと、炎の魔法使いに相応しく燃え滾るようにブチ切れながらも、彼女は笑った。


「使えない奴らなんて初めからこうすれば良かったわ!お陰で無駄に時間食ったぜ。今すぐ、燃やしてやるよ!この猿が!!」


ひぃ、マジギレだぁとネロは苦笑いを浮かべ、またニッカの手から繰り出された灼熱の炎を間一髪避けたところで、レオ王子達が現れたのである。


「聖女様もお出ましかい」


ニッカはニヤッと笑みを浮かべた。

ひょいひょい逃げるだけで、まともに応戦しないネロに対し、ニッカの怒りは優に沸点を超えていた。
済ましたように見える色男のくせに、なかなかこれがすばしっこい。

元々キリス達一行にとっては、追いつこうにも追いつけないレオ王子達の尻尾をこの街で捕らえたい、という賭けのような状況だった。
その賭けに勝てたというのに、あっという間に去ろうとしている。
不甲斐ないルージュと違うというところを見せつけないと、上にはあのキリスがいるのだ。馬鹿な猿1匹にこんなに時間がかかっては、何を言われるかわからない。

だが、有難いことにレオ王子達がこの場に現れてくれた。
聖女をとっ捕まえてキリスの元へ連れて行けば、一気にこの遅れを取り戻せるのだ。


「レオ様~!退散退散!ここにはいないよ!」


仲間たちにそう呼びかけるネロに対し、ニッカが今度は口から火炎放射を吹き出した。
ニッカの魔法は、大きなエネルギーを使うようなものばかり。その見た目の派手さと威力の大きさに比例して、魔法が発動するまでに少しのゆとりがあった。
しかし、この口からの火炎放射は先ほどまでの大きな炎に比べて、いささか小ぶりである。ニッカの息に合わせて吹き出てくるためだろう。
ただ、その分先ほどまでよりも動作が速い。


おかげで、ネロは逃げ遅れてしまった。   


「やべっ」


咄嗟に両腕を顔の前でクロスさせ身を守る。ぎゅっと目を瞑って、呼吸器が焼かれないように息も止めた。ただで済むわけはないが、被害は出来るだけ少ないほうがいい。でも、こりゃあ焼け焦げて死ぬかも‥。



ブシューッと猛烈な音がして、同時に体が冷んやりとした何かに包まれたのを感じた。
ネロが恐る恐る目を開けると、10㎝程の厚みのある水がぷよぷよと体の周りを覆っている。


ーーシンドラさんだ。


下を見れば、シンドラが変身を解いてあの金の髪を靡かせ、必死さも伺えるような表情をしている。


ネロはとある事情から、シンドラには複雑な感情を抱いている。ひと言では言い切れず、また、その感情は一色ではなく、様々な色を混ぜ合わせたような複雑なものだ。昨日のマチルダの件もあり、その複雑さは更に増してしまった。


「あんま乱さないで欲しいんだけどな」


誰にも聞かれないようにボソッと呟いたあと、ネロはいつのまにかすぐ目の前まで迫っていたニッカに向き直った。


「良い鎧着てるじゃねぇか」


「そうそう。もう俺のこと燃やせないけどどうします?」


「お前に仲間がいるように、こっちにもいるんだよ」



ニッカがそう言って不敵に笑いながら指を鳴らすと、塔の上の方から耳障りとも言える甲高い声が響いた。


「やっと魔法解いたかドアホ!!
何やってんねん!!!」


怒り狂っていたのはルージュだった。
どうやら、邪魔が入らないように屋上の扉あたりを炎の魔法で塞いでいたらしい。
どうりで敵が増員しなかったわけだ。


ルージュはその手から蔦を生み出し、瞬時にニッカやネロの元まで降りてきた。それと同じようなタイミングで、ネロの元へレオ王子とキノが駆け付ける。

レオ王子御一行で、一番強いのはもちろん全知の魔女であるシンドラだ。シンドラをソフィアの側に置き、離れたところから援護してもらうのが、最善の策であった。



「会いたかったでシンドラ~。
この男ら殺したらそっち行くからなぁ」


シンドラを見下ろしながら、待ってましたと言わんばかりに、ルージュは嫌な笑みを浮かべた。


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