公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第61話『遭遇』

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 人間の力など簡単に超越してしまう魔法使いの力。剣術や武術と違い、攻撃は単調ではない。

どんな魔法が、どんな風に仕掛けられてくるのかわからないため、次の手を読むのが難しいのだ。

もちろんユーリがいないとわかった今、レオ王子たちがわざわざそんな無謀な戦いを無理に行う必要はない。
幸いにも、ニッカはここまでの莫大な魔力の消費で体力の消耗が激しい。
これならうまく出し抜いて、逃げることができるかもしれない。


炎の壁を維持しながら何度も激しい炎の魔法を繰り出してきたニッカは、ゼイゼイと息を上げ、あからさまに疲れを見せていた。


幼い頃の、体力のないソフィアがガブリエルを回復させた際にしばらく走ることすらできなかったように、魔法には使える限度というものがある。



シンドラは背後にいるソフィアを気にしながら、螺旋階段の中腹部を見上げ続けていた。
角度的にたまたま全員が見える位置ではあるが、やはりどうしたって見にくい。

今もなお、塔の周りを炎の壁で覆っているニッカはついに膝をつき始めた。そんなニッカの様子を見て、とりあえず今後激しい炎の魔法を使うことはなさそうだと予想した。

ネロの水の鎧を解く。
なんせ、ここからの敵はニッカというよりもルージュだ。またこの間みたいにルージュを凍らせるなり、ここから攻撃を仕掛けてもいいけど、狙いを定めるのは容易ではない。


「皆さんにも当たってしまうかも‥」


絶えず動き回るターゲットと仲間たち。
シンドラが直接手を掛けるのは無謀だった。




響き続ける戦闘音に、ソフィアとシンドラは仲間の身を案じてただ顔を上げる。


その時、ニッカの呻き声が響いた。


少し埃臭く、石造りだった古い塔が一瞬にして熱を帯びる。息苦しさを覚えたのも束の間、その場にいる誰もがその一瞬で『死ぬ』と思うほどの灼熱。

窯の中にいるような感覚だ。



ニッカの力が暴走したのだろう。塔の真ん中に、地面から頂上までを貫く太い炎の柱。
ニッカの命を燃やしながら、炎の柱は勢いを増していく。


ここにシンドラがいなければ、間違いなく全滅だっただろう。


シンドラもまた、暴走して命を削るニッカに対抗するべく、自身も出したことのない巨大な水柱を生み出した。

たちまち塔内は混沌と化した。

行き場をなくす煙が立ち込め、炎と水の両極の柱が占拠し視界はまるでない。


シンドラが顔を歪ませながら、ニッカの炎の柱を打ち消そうと力を込める。

ニッカは白目を剥き、呻き苦しみながらも炎を緩めようとはしなかった。もう、意識はないのかもしれない。


ソフィアは視界がない中、塔の入り口を開けるべく動き出した。

ーー確かすぐ近くにあったはず‥




ソフィアがなんとか扉を開けると、そこは小さな小部屋のようだった。


ーー入り口じゃなかったか‥あれ?


小部屋の窓は全開で、耳を塞ぎながら外の景色を見つめる小さな少女が1人。


「‥‥」


まだあどけないその少女は、無言のままじっとソフィアを見つめた。


ーーーあ、あれ?どうしてここに子どもが?!
誘拐されてたのかな‥この子も助けないと‥!この部屋の窓から外に逃げれそう‥。‥どうしてこの子、窓から逃げようとしてないんだろう。


何せソフィアは言葉を話せない。
少女とどうすれば意思の疎通ができるのか、ソフィアは困り果てた。


少女はおもむろにソフィアに歩み寄ると、ぷつん、と唐突にソフィアの髪を一本奪った。


ーーー?!?!


ソフィアは目を丸くして、その奇行に驚く。


小部屋の中には、塔内に充満していた煙が逃げ場を求めてどっと入り込んでくる。

しかし、窓に勢いよく流れ出ていく為、煙を避けようと部屋の隅へと移動したソフィアとその少女に煙は当たることはなかった。


「はじめまして」


少女がニィッと笑う。


ーーーこの子は、一体‥‥


「ミルフィです」


ーーーミルフィ?
こんなに小さな子どもが、まさかあの魔法使い達と仲間な訳ないよね‥?


「協力してるんです。
あの人たちはわたしを守ってくれるから」


ミルフィは無邪気な笑顔を見せた。
意思の疎通が取れていると思ってしまうほどに、ミルフィの口から溢れる言葉はソフィアが心の中で問う質問の答えとなって出てくる。


ミルフィが心の魔法使いだと、誰が気付くだろうか。



むしろソフィアは、そんな魔法使いがいることすら知らないだろう。



ーーーえっと、ここは危険だからミルフィちゃんを連れて逃げないと‥!



「心配ないと思うよ?」


ーーーえ?


「ニッカさんの魂がもう消えかけてるし、時間の問題かな。
塔がどうにかなる前に、たぶんニッカさんは死ぬから」



平然と流れ出た台詞。

見た目はこうも幼いのに、言葉はあまりにも残酷だ。
仮にも仲間が死ぬことを受け止めて言葉にできるものなのか。

炎の魔法使いが命を燃やして最後の力を振り絞っていることは、ソフィアでも察せていたこと。
私たちを捕らえる為だけに、何故そこまで‥と慄き、同時にそれ程までに狙われている存在なのだと再確認させられた。



ーーー貴女は、心が読めるの?


ソフィアは心の中で訪ねてみた。
そうじゃないと辻褄が合わない程に、会話が成り立っている。


「そうだよ。
そして立場上はお姉さんの敵。話せないってことはターゲットのソフィアさんだよね?
私はお姉さんのこと逃せないし、お姉さんの心の声は筒抜けなんだよ。厄介でしょ?」


ミルフィがまたもや無邪気に笑った。



ーーーああ、この世界はなんて残酷なんだろう。



ソフィアが心の中でそう呟くと、ミルフィが一丁前に悪役風を吹かせてクスッと笑った。


ーーーこんなに無邪気に笑う子どもが、こんな台詞を吐かなくてはいけない世界。魔法は便利だけど、酷なものね。


「‥え?」


ーーー私は逃げたりしないから大丈夫よ。仲間を置いて逃げ出すことなんて出来ないし‥それに、きっと炎の柱が消えた途端、私を迎えに来てくれる。



そう確信してる。
だって、そういう人たち。


私が敵の手に渡れば、仲間の命も危険に晒してしまうし‥

それを差し引いても、純粋に私を助けようとしてくれる人たちだもの。




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