公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

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第65話『小さな裏切り』

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キノが落ちた。


その事実を知らぬまま、レオ王子もまた塔の内部を凄い勢いで落とされていったのだった。




一方その頃、ソフィアとミルフィの2人だけの空間に突然新たなる登場人物が現れた。

血相を変えたシンドラが、ミルフィを見るなりその手を幼き少女に翳す。
シンドラの瞳は金色に煌き、手のひらは何の魔法だろうか赤色の光を纏っていた。


ソフィアが慌ててミルフィの前に立つ。
ミルフィを攻撃するつもりのシンドラを止めるように、その表情は真剣だ。


「ソ、ソフィア様ッ」


ミルフィを庇うソフィアに、シンドラは明らかに狼狽えた。


「シンドラ、お願い‥やめて。この子は確かに敵対する存在かもしれないけど‥この子に罪はないわ。
‥って言ってますよ?」


ソフィアの陰から無邪気に顔を出したミルフィの台詞に、シンドラは一瞬でミルフィが『心の魔法使い』であると察した。


「貴女、ルージュ達の仲間ですよね。
ソフィア様を人質にするつもりですか」


シンドラの瞳は黄金に輝いたままミルフィを捉えて離さない。


「人質っていうかさぁ‥。
このお姉さんが自分からこの部屋に入ってきたんだよ?まぁだからといって、逃がせるかって言ったら逃がせないんだけど」


「やはり敵でしかありませんね。
ソフィア様、幼子だからといって情けは無用ですよ。彼女も立派な魔法使いですから。ここで消えてもらいます」


ーーーミルフィちゃん、お願い、逃げて。


「心配してくれてありがとう、お姉さん」


シンドラの存在を事前に知っていたミルフィは、シンドラが本気であることを察して小窓から逃げることにした。

ソフィアが身を案じてくれたことが嬉しかったのか、小窓から身を乗り出したミルフィの表情は少しはにかんでいた。


しかし窓から外に出てすぐにとある事に気付く。




「ソフィア様、そこをどけて下さい」


小窓の前に立ち塞がるソフィアは、目をぎゅっと瞑り首を何度も横に振った。
殺さないでほしい、それだけを切に願い続ける。


シンドラは、困ったように溜息をついた。
幼子でも敵。そして、何より彼女は心が読める魔法使いなのだ。

本来なら、ソフィアを無理に押し退けてでも攻撃魔法を食らわせたいところ。

だが、気を抜くと膝が抜けてしまいそうな程に疲労しているシンドラも、この小部屋に入ってから何か只ならぬものを感じ続けている。


塔の中の、禍々しい魔力。
これはルージュのものではない。

つまり、ほかにも魔法使いがいる。
それもとてつもなく強烈な、魔法使い。

ソフィアを助けて、すぐにレオ王子の元に戻らなくてはならない。よって、シンドラはミルフィを追ってまで攻撃することを辞めたのだ。


ソフィアの手を引いて小部屋を出ようとしたシンドラを、ミルフィが大きな声で呼び止めた。


「ねぇ!お仲間さん、落ちちゃいそうだよ?!」


「えっ?」


シンドラが眉根を寄せて振り返る。
ミルフィは天を指差して、焦った様子を見せていた。

逃げれるはずだったミルフィがわざわざシンドラを呼び止めて、むしろ外に誘き出そうとしていることに、シンドラは違和感を感じてならなかった。

これは、罠だろうか。敵であるこの幼子が、私たちの仲間の身を案ずるわけがない。



だけど、もしも本当に仲間が落ちかけているのなら。


罠に嵌められるのは御免だが、その危険と仲間の命を天秤に掛けられる訳もない。


シンドラは窓から飛び出して天を見上げた。



「キノさんっ?!」



この幼子の言葉を信用して良かったと、この時シンドラは心から思った。
シンドラが窓の外に飛び出たのと、キノが蔦から解放されたのはほぼ同時だったのだ。

既に気を失っているキノが、地面に向かって猛スピードで落下してくる。

それは本当に間一髪のことだった。
地面すれすれのところで、シンドラは魔法でキノの体を浮かせた。

そしてそのまま地面にゆっくりと寝かせてキノの状態を確認する。


「‥酷い、手足が折れてます。
恐らく蔦に捕まったまま振り回されたんでしょう」


ぐったりとしたキノを見て、シンドラは唇を噛んだ。


ーーー私が白魔法を使えれば‥


ソフィアもまた、悲しげに眉を落とす。



「でも、呼吸はしてます。
早くレオ王子と合流して回復させましょう。
今は、すぐに中に戻らないと‥‥」


ソフィアを塔の中に再び連れて行くのは危険だが、ソフィアを逃せないと言っているミルフィの元に置いておくこともできなかった。

ただ‥


「助かりました。
ありがとうございます」


ミルフィのおかげでキノの命が救われたのは事実。
シンドラはソフィアの手を引きながらミルフィに礼を言った。


ミルフィはこくりと頷くだけ。
シンドラとソフィアの姿が見えなくなってから、キノの額の汗をそっと拭った。


「私、応急処置とか分からないから、ごめんね。
これくらいしかできないけど‥」



ミルフィが小さく溜息を吐く。


「お姉さんが仲間が大事で仕方ないみたいだったから‥。ちょっと情が移っちゃったよ。
これ、裏切りって言われちゃうかなぁ‥」


困ったなぁ、とミルフィは小さく呟いた。



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