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第67話『独断』
しおりを挟む一種の妨害系魔法に、相手を混乱状態にできる魔法が数種類ある。だが単に混乱させてしまえば、相手に魔法を暴発させかねない。
そこで、空間を幻想の世界にできる魔法というのも存在する。現実には存在するものが、術者が作る幻想によって隠されるというもの。
この空間全てを魔法で幻想の世界に誘ってしまうか‥
それなら手負いの仲間たちを幻想で隠しながら逃すことができるかもしれない。
いや、でも相手はノートリアムと契約を結んだ男と花の魔法使いルージュ。
闇雲に魔法を放たれ、万が一仲間に当たれば死んでしまうだろう。
敵の目には映らなくとも、そこに本来存在するものは変わらず存在しているのだから。
歩けないレオ王子とキノを抱えながら、運良く逃げ切れるとも思えない‥。
それに、あの闇の男に幻想の魔法が通用するのか‥。
水や炎などの物理的な攻撃は闇の男に効かないうえ、例えルージュを仕留めることができても仲間たちにも被害が及ぶ可能性がある。
移動系の魔法‥つまり、ワープは同時に2人しか飛ばせない。基本は術者を含め2人だが、シンドラはこの際レオ王子とソフィアだけでも飛ばしてしまおうか、と考えた。
ただ、飛ばした先の状況がわからない。
瀕死のレオ王子と、言葉を話せないソフィア。ソフィアを守れる人がいないのに飛ばしてしまって大丈夫なのか。
「随分と難しい顔をしているな」
闇の男がシンドラに言う。
シンドラは小さく笑った。
「‥この状況を覆せる方法が無いんです」
少しでも時間を稼いで、脳みそをフル回転させようとするシンドラ。そんな心情を見越してか、闇の男は表情を少し柔らかくした。
「そうか。なら、もう終わりにしてやる」
闇の男がそう言って天に手を翳した。
男の手のひらの上に生まれた黒い玉が、大きく膨らんでいく。
シンドラはすぐさま応戦するかのように男に対し手をかざした。
シンドラの手から飛び出したものは、男が出した球体とは違い薄く大きな魔法陣だった。銀に輝くそれは、どこまでも大きくなっていく男の球体と同様に、ぐんぐんと広がっていく。
「無駄な抵抗は、苦しみが増えるだけだぞ」
男はそう言って、闇の魔法を放った。
シンドラは男に魔法陣をかざしたまま、未だにこの状況を打破できる方法を捜し続けている。
大きな黒い玉は、空間を切り裂きながらレオ王子達に襲い掛かろうとしたが、やがて進路を変えた。
引き込まれるようにして、シンドラの方へと進んでいく。
シンドラの魔法陣は銀の光を放ったまま歯車のように回り始め、その黒い玉を徐々に吸収していった。
「‥‥便利な魔法だな」
男が少し驚いた表情を見せた。
シンドラが出した魔法は、吸収の魔法。文字通りこの魔法陣に相手が放った魔法が吸収される。相手の魔法のみに反応するブラックホールのようなものだ。
ただ、もちろん大きな威力の魔法を吸収しようとすれば魔力の消費も激しい。
相手の攻撃を吸収できても、こちらが攻撃できるわけではないし、殴る蹴るの攻撃に対してはこの吸収の魔法は使えない。
「詰んでますけどね‥」
シンドラは、目を瞑り小さく息を吐いた。
運なんてものに頼りたくないけど、もうこの状況ではそれに頼らざる負えない。
レオ王子とソフィアの元へ行き、2人に手のひらを当てた。
顔を上げたソフィアに対し、シンドラは少し悔しそうに視線を下ろした。
「どうか、生き延びてください‥。
一か八かですが‥」
レオ王子が、自力で意識が回復するかはわからない。
最悪の場合‥レオ王子は死に、そして敵の手にソフィアが渡ってしまうかもしれない。
シンドラの賭けは、それほど危険なものだった。
だけど、ここにいたら全員が死ぬかもしれない。
ソフィアは大きな瞳を揺らしながら頷いた。
「さようなら、レオ王子‥ソフィア様‥」
シンドラがそう告げたのと同時、レオ王子とソフィアの姿はその場から消えた。
吸収の魔法をいつまでも無限に使い続けることはできない。
苦渋の決断だった。
(きっとここで、私とネロさんとキノさんは死ぬ。)
シンドラは再び男を睨み上げた。
「‥どこへ飛ばした」
「言うわけないじゃないですか」
「はぁ‥手間が増えたな」
塔上部は大きく壊れ、夜空が顔を出している。
(ユーリさんは無事なんだろうか。
レオ王子達は遠くに飛び、私たちはここで死ぬ。
突然1人にさせてしまうなんて)
シンドラがぐっと唇を噛むと、聞き慣れた飄々とした声が落ちてきた。
「さて、悪足掻きといきましょうか。シンドラさん」
ぼろぼろな体をしたネロが、上の方から飛び降りてきた。シンドラの隣に着地すると、へらりと笑顔を見せる。
「‥‥独断ですみません」
どうやらネロは一部始終を見ていたようだ。
レオ王子やソフィアに対しての言葉はない。
「いや、それしか希望はなかったでしょう。
俺らはこいつらがまた2人を襲わないように、出来るだけやっつける。それだけですよ」
「‥そうですね」
「まぁ、最後にユーリに会いたかったけどね」
いつも通りの軽い口調だが、それはネロの本心でしかなかった。
せめて最後に、ユーリが無事だったのかくらいは知りたかった。そして、笑顔を見せるネロもまた、ユーリを1人残してしまうことに心を酷く痛めていた。
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