公爵家のだんまり令嬢(聖女)は溺愛されておりまして

茶歩

文字の大きさ
84 / 87

第82話『燃ゆる炎を心の中に』

しおりを挟む




目を覚ましたレオの第一声は「何日経った?」とう台詞だった。

窓の外には湖。
4人しか居ない特別な空間。

最小限の荷物しか持っていなかった私たちは、生活感のない部屋の中を彩れるほどの物を持ち合わせていない。

床の上にはシンドラのバッグ。
壁際にはネロさんの弓矢が立て掛けられている。

そう、ユーリさんとキノさんの物は何1つない。


「‥あの戦いから一週間ほどです」


シンドラがそう言うと、レオは上半身を起こした。
頭を抱えるようにして、恐る恐る確かめるように言う。


「‥なにが、どうなったんだ」


絶対的不利だったあの戦い。
途中で意識を失ったレオ。


それからどうなったのか。
シンドラが言葉を選びながら丁寧に伝えていくと、レオは小さく息を飲んだ。
毛布の上で握り締められた傷の癒えていないその手には、ぼたぼたと涙が零れ落ちていく。


「‥ご自身を責めないでくださいね」


ネロさんがそう声を掛ける。
まるで石のように固まったレオ。涙だけがレオが目を覚ました証明となり、次々と零れ落ちていく。

‥きっと、責めている。心の中で、自分を。


「‥‥俺だって死ぬほど辛いです。
ユーリが最後に見せた優しい笑顔を思い出すと、あいつにユーリを取られたっていう悔しさもあるし、弟を抱きしめて満足そうだったユーリを想うと良かったねって‥葛藤しかないよ」


ネロさんの中世的な顔立ちが切なそうに歪む。
ユーリさんの死は永遠に私たちの心に、影を落としていくのだろう。


「‥戦いの最中、キリスさんの言葉から感じたことですが‥」


そのシンドラの言い振りからして、きっとキリスさんのことは敵として話をしていない。
ノートリアムに騙された彼を、責めれる人はここにはいなかった。


「恐らく、ノートリアムとレストール家の繋がりは長いかと」


シンドラの言葉に、レオの拳が更に強く握り締められた。
そんなレオを見ながら、シンドラの言葉は続いていく。


「ノートリアム程の魔女と長く付き合いを持ちながら、他の魔女とも取り引きを続けることは容易ではありません。
つまり‥ソフィア様の声を奪い続けているのも、ノートリアムの可能性が濃厚かと」


ゾクリと背中を悪寒が襲う。
幼いキリスさんを騙し、結果ユーリさんの命を奪い‥
私の声を奪い続けている張本人‥


「ふっ」


ネロさんが自傷気味に笑みをこぼした。
その瞳はどこか冷たく冷え切ったもの。


「有難い話だね。
ターゲットである魔女が、仇でもあるなんて」


ネロさんの言葉に、ようやくレオも生き返ったように頷いた。
まるで生きる希望を見つけたかのように、その表情には生気が宿る。


「‥シーグリットがポスラにいるうちに、早く行かないとな」


そう言って、レオがベッドから立ち上がった。
シーグリットって誰だろう‥?あ、シンドラの先生のことか。


一体どんな魔女なんだろう。
シンドラは全く欲を見せないけど、本来魔女や魔法使いは欲深いんでしょう‥?ポスラに行ったところで協力してくれるのかな‥


「お待ちください、レオ王子。
1つご報告があります」


「なんだ?」


「数日前、レストール家に潜入してきました」


「‥‥そうか」


「ガブリエル様は被害者です」


「‥やっぱりか。敵はハロルドとノートリアム。
明確化されたな」


少しホッとしたかのように、レオは笑う。
シンドラがレストール家から戻ってくるなり話を聞いていた私は、同意するかのように頷いた。

被害者がこうも多くて泣けてくる。
レオも、ガブリエルも、私も、ユーリさんもキリスさんも。
みんな人生を弄ばれてる。


きっと私たちが知らないだけで、この世界には他にも犠牲にされてきた被害者が多くいるんだろうな。



目覚めたばかりのレオの体を気遣いながら、私たちは荷造りをした。とは言っても、荷物はとても少ない。



ほんのり冷える、澄んだ空気。
空はどこまで涼やかな淡い水色が広がって、鳥の囀りがぴちぴちと響く。

こんなに爽やかな自然の中で、4人の心には怒りの炎がゆらゆらと灯っている。


早朝、私たちは湖から旅立った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

ハズレスキル『自動販売機』を授かって婚約破棄されましたが、 実は回復薬も魔力食も出せる最強スキルでした

暖夢 由
ファンタジー
十八歳の成人儀式で授かったのは、誰も聞いたことのない《自動販売機スキル》。 役立たずと嘲られ、婚約者レオンには即座に婚約を破棄され、人生が崩れ落ちたように思えた。 だがそのスキルには、食べ物を作り、摂取すれば魔力を増やし、さらに“治癒効果”を付与できるという隠された力があった。 倒れた母を救い、王都の名門・ヴァルセイン伯爵夫人を救ったことで、カミーラは“呪詛”という闇の存在を知る。伯爵邸で出会った炎の力を持つ公爵家次男レグナスとの出会いが、彼女の運命を大きく変えていく。 やがて王都全体に“謎の病”が蔓延。カミーラは治癒スープの炊き出しを行い、人々を次々と回復へ導く。 一方、病の裏で糸を引いていたのは………。 “無価値”と嘲られたスキルが、いま世界を癒し、未来を照らす光となる――。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...